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2016/08/30

ポップでファンキーになっていったウェザー・リポート

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Unknown










ジャズはシリアスな音芸術だと思っていてポップになったりファンキーになったりするのを嫌うのは、日本人ファンだけではない。アメリカにもそして世界中に結構たくさんいる。といっても僕がネット上やネット外で話をしたりして、そういう意見を直接聞いた機会は必ずしも多くはないのだが。

 

 

しかしまあ言ってみれば一を聞いて十を知るとでもいうか、他は推して知るべしとでもいうか、だいたいの傾向みたいなものがあるようだなあ。前々から実感していたこの事実をごく最近も再確認した。ほんの一ヶ月ほど前、スウェーデン在住のスウェーデン人ジャズ・ファンの方と話をしていてのこと。

 

 

そのスウェーデン人ジャズ・ファンの方は僕が YouTube にたくさんアップロードしている音楽を聴いて僕にメールしてきて、「どうやらあなたと僕は音楽の好みが似ているかもしれない」「それでマイルス・デイヴィス関係のブートレグ音源をコピーしてもらえないだろうか?」と言ってきたのだった。

 

 

10年くらい前までは日本国内外のいろんなマイルス・ファンとの間でブートレグ音源や映像のトレードを僕もやっていた。かなり珍しいものをコレクトしている方もいるからねえ。以前はいつもフィジカルでトレードしていたのだが、今回は音源のデータだけをやり取り。

 

 

僕の方はCD−Rなど物体でもらえた方がいいので、一円もかからず容易でもあるデータ交換に比べたらお金もかかるし面倒くさいだろうから申し訳ないと言ってスウェーデンから送ってもらったけれども、あちらはデータだけで充分だと言うので、音源データだけ上げてダウンロードしてもらった。

 

 

そのスウェーデン人ジャズ・ファンの方が望んだものは、マイルス1969年のいわゆるロスト・クインテットのライヴ音源。そのうち一つはストックホルム公演分(笑)。それとトレードできるものがあるかどうか分らないけれど、ウェザー・リポートのライヴ・ショウはたくさん集めているからいくつか選んで送りましょうと言ってくださった。

 

 

僕が「1970年代中期〜80年代初期のウェザー・リポートを持っているのならほしい」と言うと、「ゴメン、僕がコレクトしているのはもうちょっと前、ミロスラフ・ヴィトウスがいた71〜72年頃のものなんだ。僕の考えではその後のザヴィヌルはシンセサイザーの使いすぎだ」ということらしい。

 

 

それならそれでいいやと思って1970年代前半期のウェザー・リポートのブート・ライヴ音源を二つほど送ってもらった。そのスウェーデン人ジャズ・ファンの方に言わせればウェザー・リポートは最初の三枚まで。それら三枚は時代を超越したものがあるが、その後はイマイチだと。

 

 

ヴィトウスが退団して後のウェザー・リポートではザヴィヌルがシンセサイザーを使いすぎているせいで、バンドのサウンドは今聴くと古くさく時代遅れであまり面白くないんだとそのスウェーデン人ジャズ・ファンの方はハッキリと言っていた。う〜ん、こりゃどうなんだろう?やはりこういう方が多いんだろうか?

 

 

その方の言うことが僕も理解できないわけではないんだけれど、僕の考えは正反対でヴィトウスが辞めアルフォンソ・ジョンスンがベースを弾くようになり、ザヴィヌルがたくさんシンセサイザーを弾くようになって以後のウェザー・リポートの方が圧倒的に “pleasing” (その方の表現)だなあ。

 

 

聴き返してみると、確かに最初の三枚ではザヴィヌルはあまりシンセサイザーを使っていない。使ってはいるがごくごく控目なものでしかない。そもそも1971年のデビュー・アルバム『ウェザー・リポート』ではアクースティック・ピアノとフェンダー・ローズだけでシンセサイザーは全くなし。

 

 

その次の1972年『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』でもやはりアクースティック・ピアノとフェンダー・ローズ中心。一応 ARP 2600 シンセサイザーを使っているとの情報があるんだけど、こりゃいったいどこにその音があるのか聴いても分らない。

 

 

しかもそれは『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』A面だけの話で、B面は1972/1/13の東京ライヴからの抜粋・編集音源で、100%フェンダー・ローズとピアノだけなのだ。そのライヴはフル収録されたものが同年にまず日本でだけ『ライヴ・イン・トーキョー』としてリリースされた。

 

 

三作目『スウィートナイター』でもシンセサイザーを使ってはいて、これでははっきり聞えるけどもやはり控目な味付けのスパイス程度のものでしかなく、メインはやはりフェンダー・ローズ、そしてアクースティック・ピアノ。そんでもってここまでの最初の三枚ではアクースティック・ピアノの音もさほど目立たない。

 

 

つまり『ウェザー・リポート』『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』『スウィートナイター』の三枚では、ザヴィヌルが弾く楽器はあくまでフェンダー・ローズが中心で、その音ばかりがクッキリと目立っている。それに加えヴィトウスのベースとウェイン・ショーターのサックスを中心に音を組立てている。

 

 

ただし三作目の『スウィートナイター』からはやや音の傾向が変化しはじめている。リズムにファンキーさみたいなものが聴取れるようになっているもんね。特に快活なリズムを持つ一曲目の「ブギ・ウギ・ワルツ」にそれが顕著だ。この曲はその後もこのバンドのライヴでの定番曲となって繰返し演奏された。

 

 

それはそうと「ブギ・ウギ・ワルツ」、どうしてこんな曲名なんだろう?リズムは三拍子ではないし、ブギ・ウギ的な要素ももんのすご〜くかすかにしか聴取れない。後年と比較したらまだまだだけど、まあでもこの当時のウェザー・リポートにしてはリズムとサウンドにはファンキーさがありはする。

 

 

だからかのスウェーデン人ジャズ・ファンの方は「最初の三枚」と言うけれど、確かにシンセサイザーの使い方はかなり控目(というかどこで弾いているのか?)だけど、僕の耳にはまあまあファンキー要素も聴取れるように思う『スウィートナイター』を、その方はこれ以前の二枚と比べてどう聴いているんだろう?

 

 

以前も一度指摘したけれど『スウィートナイター』は1973年2月の録音で、前72年10月にリリースされているマイルス・デイヴィスの『オン・ザ・コーナー』の影響がある。露骨な影響というよりも抽象化された痕跡みたいなものだけど、これは間違いない。「ブギ・ウギ・ワルツ」みたいな曲はこれ以前に全くないもんね。

 

 

その後、ヴィトウスとアルフォンソ・ジョンスンの交代期に録音された次作1974年の『ミステリアス・トラヴェラー』を経て75年の『幻想夜話』からはポップでファンキーな側面を強く全面的に打出すようになるザヴィヌル。その傾向が次の『ブラック・マーケット』『ヘヴィ・ウェザー』で開花する。

 

 

フェンダー・ローズなどよりもシンセサイザーを中心にサウンドを組立てていくようになるのも1974年の『ミステリアス・トラヴェラー』からだ。一般的にはここからがウェザー・リポートのリズム&ブルーズ〜ファンク・オリエンティッドなグルーヴ重視型バンド時代のはじまりということになるだろう。

 

 

いつもいつも何度も繰返し書いているように、僕はポップで明快でファンキーかつ強靱なビートが効いた音楽の方が、西洋白人的なアブストラクトな音楽よりも断然好みだという人間なもんだから、ウェザー・リポートでも昔から最初の三枚はあまり好きではなく、そうそう何度も繰返しては聴いていないのだ。

 

 

1974年の『ミステリアス・トラヴェラー』ですら僕にはイマイチで、まだまだファンキーさやポップさが足りないと感じてしまう。やっぱり僕にとってのウェザー・リポートは1976年の『ブラック・マーケット』からなんだよね。そしてこの作品以後アフリカ音楽や中南米音楽の影だって聴取れるようになる。

 

 

そしてザヴィヌルもその頃からシンセサイザーの「使いすぎ」(笑)。そのおかげでバンドのサウンドがはっきりポップで分りやすくなって、色彩感も豊かになる。そしてこれは強調しておかなくちゃいけないと思うけれど、アクースティック・ピアノの使い方が効果的になっているのも面白い事実だ。

 

 

1977年の『ヘヴィ・ウェザー』一曲目に収録されているウェザー・リポート最大のヒット曲にして代表曲の「バードランド」。シンセサイザーで出す低音からはじまっているが、直後にジャコ・パストリアスの(ハーモニクス奏法による)ベースが入ってくると同時にザヴィヌルがアクースティック・ピアノを弾いているじゃないか。

 

 

その後も「バードランド」全体を通しアクースティック・ピアノの音が一番目立つ。リフというかアンサンブル部分はポリフォニック・シンセサイザー(とショーターのテナー・サックスとの合奏)で、終盤やはりフェンダー・ローズとシンセサイザーでソロを弾くものの、それ以外はアクースティック・ピアノがかなり目立つ。

 

 

ザヴィヌルがシンセサイザーを「使いすぎ」るようになるとほぼ同時にアクースティック・ピアノも効果的に入れるようになるのはちょっと面白い事実じゃないだろうか。お前はなにを言っているんだ?ウェザー・リポートでも生ピアノを最初から使っているじゃないかと言われそうだ。確かにそうだけどさ。

 

 

がしかし『ミステリアス・トラヴェラー』以前の三枚ではアクースティック・ピアノも弾いてはいるものの強くは目立たないし、しかも音を加工処理してあったりする場合もあったりして、ちょっと分りにくいんだよね。それが1975年頃からそのままの明快な音でアクースティック・ピアノのサウンドを入れている。

 

 

シンセサイザーの多用(スウェーデン人ジャズ・ファンの方に言わせれば “overuse”)をはじめ、それがウェザー・リポートのサウンド・カラーを支配するようになると同時にアクースティック・ピアノも復活するというのがなんの理由もない偶然みたいなものだったとは僕には思えないんだなあ。

 

 

同じ鍵盤楽器でもフェンダー・ローズやシンセサイザーと違って、アクースティック・ピアノは強く叩きつければ叩きつけるほど強い音が出るという構造の楽器。フェンダー・ローズも金属片を叩いて音を出す仕組だからそれができるけれど、アクースティック・ピアノほどのアタック音は出しにくい。

 

 

1975年頃からのウェザー・リポートでのザヴィヌルが弾くアクースティック・ピアノも、やはり固まりのようなものを叩きつけるように弾くといういわば打楽器奏法なのだ。要するにアフリカ的。これは間違いなくあの時代のザヴィヌルの音楽的指向であってリズムのファンク化と軌を一にしていた。

 

 

そう考えてくると、件のスウェーデン人ジャズ・ファンの方が言う「シンセサイザーの使いすぎで今聴くと面白くない」1970年代半ば以後のザヴィヌルとウェザー・リポートがいったいどういう音楽的方向性を持っていたのか、もはやこれ以上説明する必要はないだろう。ポップでファンキーなものこそ最高じゃないだろうか。

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