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2016/08/04

エロいブルーズ

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ラテン音楽の方が官能的かもなと思うものの、ブルーズもかなりエロいよなあ。それこそがこの音楽の最大の魅力じゃないかと僕は思う。歌詞が恋愛や肉体関係について歌ったものばかりだというのもあるけれど、それ以上にブルーズのコード進行やブルーズ・スケールがエッチに響くような気がするんだなあ。

 

 

歌詞が露骨にセックスやそれ関連のものを扱った具体例を挙げろとか言われても、そんなのばっかりなわけだからちょっと困ってしまうけれど、一番有名なアメリカ人黒人ブルーズマンであるロバート・ジョンスンでちょっと挙げておこうか。例えば「カム・オン・オン・イン・キッチン」なんかもそうだよ。

 

 

 

これは別テイクの方だけど、冒頭のスライド・ギターがマスター・テイクよりもエロいと思うのでこっちを貼っておく。曲名と歌詞に出てくる「キッチンにおいでよ」というのは、要するにセックスしようよという意味の隠喩に他ならない。

 

 

同じサン・アントニオ録音から「フォノグラフ・ブルーズ」。この曲も同1936年録音の「テラプレイン・ブルーズ」「デッド・シュリンプ・ブルーズ」同様セックス関係の歌詞だ。はっきり言えば男性の性的不能に言及している。

 

 

 

ロバート・ジョンスンの全録音中もっとも露骨にセックスを歌っているのは、翌37年ダラス録音の「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルーズ」だよね。このなかには「ジュースが足を伝って垂れるまでオレのレモンを搾ってくれ」という歌詞が出てくるから、隠喩とはいえそのまんまだ。

 

 

 

この部分の歌詞を一般に有名にしたのはロバート・ジョンスン本人というよりレッド・ツェッペリンだったのかもしれない。1969年の『レッド・ツェッペリン II』A面三曲目「ザ・レモン・ソング」がそれ。

 

 

 

お聴きになれば分る通り、ロバート・プラントの歌う歌詞は様々なアメリカ黒人ブルーズの歌詞のコラージュ。コラージュというより剽窃しまくったのを繋ぎ合せているような感じだよね。ジミー・ペイジの弾くギターも同じく剽窃のコラージュだ。このあたり、ペイジさんといいプラントさんといい、いつになったらはっきりさせてくれるんだろう?

 

 

ツェッペリンはパクリまくり、剽窃しまくりで、それは先行するアメリカ黒人ブルーズからだけではなく同時代のUKロッカーからもどんんどんパクっていて、例えばファースト・アルバムA面ラストの「幻惑されて」はジェイク・ホームズの1967年ソロ・アルバム収録の同名曲からのパクリだ。

 

 

アメリカ黒人ブルーズ関連と違ってあまり知られていないかもしれないのでちょっと音源を貼っておく。ジェイク・ホームズ→ https://www.youtube.com/watch?v=pTsvs-pAGDc  レッド・ツェッペリン→ https://www.youtube.com/watch?v=hdcsR0YaOE8  下降するベースのパターンもそのまんまじゃないの。

 

 

また同じファースト・アルバムにある「ブラック・マウンテン・サイド」→ https://www.youtube.com/watch?v=5G3tN6Qte3U  これだってバート・ヤンシュの1966年「ブラック・ウォーターサイド」のギター・パターンをそのままパクったものだ→ https://www.youtube.com/watch?v=f5Gcu0Sv6lk

 

 

もちろん「ブラック・ウォーターサイド」はバート・ヤンシュのオリジナル曲ではなく、英国の伝承民謡なんだけど、このギター・パターンを考案し使ったのはバート・ヤンシュの独創。そこから歌詞だけ抜いてギターをコピーしタブラを入れただけの話。それで自作としてクレジットしてしまうジミー・ペイジの面の皮の厚さは素晴しい。

 

 

まあホントこれ、ツェッペリンのパクリ・剽窃関連の話はキリがない。彼らがちゃんとクレジットしてくれなかったがゆえに、熱心なツェッペリン・ファンの間でこそむしろ問題化してきているものだよね。ジミー・ペイジは死ぬまえに一度そういうもの全部をきちんとしておくべきだと僕は強く願っている。

 

 

これはツェッペリンを口撃しているわけではないつもり。ツェッペリンの音楽を愛しているからこそ、これを切望しているのだ。以前「そんなのはいいんだ、オリジナルよりツェッペリンのヴァージョンの方がカッコいいんだからクレジットする必要はない」などと発言するファンがいた。神経を疑っちゃうね。

 

 

パクリ元であるオリジナル・ヴァージョンの曲名・作曲家名・作詞家名を明記しておいたところで、それでツェッペリン・ヴァージョンの値打ちは一文たりとも下がらないんだぞ。よくぞここまでアダプトし解釈し直してツェッペリン独自の音楽に仕立て上げたもんだと、むしろ一層評価が上がるはずだ。

 

 

熱くなって話が逸れちゃった。話を戻してツェッペリンのドスケベな「ザ・レモン・ソング」。上で貼った音源をお聴きになれば分る通り「ジュースが足を垂れるまでオレを搾ってくれ」とか「お前がオレのレモンを搾るとオレはベッドから落ちそうだ」とか、そんな歌詞がそのまま出てくるよね。

 

 

そういう歌詞はもちろんエロいんだけど、僕がそれ以上にエロいと思うのは「ザ・レモン・ソング」全編を通してのジョン・ポール・ジョーンズのエレベだ。上で貼った音源をベースに注目して聴直していただきたい。エロくてカッコよくて、そして凄く上手いね。特に演奏が静かになった中盤以後で目立つ。

 

 

「ザ・レモン・ソング」では1:26〜2:25までいったんテンポ・アップして3コーラスのギター・ソロが入るんだけど、それが終るとリズムが再び元通りになり、しかもその直後プラントが「ちょっとペースを落すよ、ジミー」と言うと、全体的にバンドの演奏が静かになってほぼベースだけの伴奏みたいになる。

 

 

そのほぼジョン・ポール・ジョーンズのエレベ伴奏だけみたいな部分(ジョン・ボーナムのドラミングもおとなしく、ジミー・ペイジもスパイス程度にしかオブリガートを弾かない)、2:59〜5:05までの部分こそ、僕にとっては「ザ・レモン・ソング」の聴き物なんだよね。超絶的にエロい歌詞もそこで出てくる。

 

 

その部分のジョン・ポール・ジョーンズの弾くエレベの魅力的なことと言ったらないね。これはレッド・ツェッペリンでの彼のエレベ演奏の最高傑作だ。まるで歌っているみたいじゃないか。特に “squeeze me babe, until the juice run down my leg” の背後で弾くラインがいい。

 

 

しかもプラントがそう歌ったあとジミー・ペイジの二回目のギター・ソロになる(4:37〜5:05)んだけど、たったのワン・コーラスだけとはいえ、このソロはかなりいいね。直前の歌詞のエロさをそのまま引継いだみたいなエロいギター・プレイで、ペイジにしては珍しく旨味を感じるソロだ。

 

 

なおツェッペリンは1969年に「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルーズ」という、ロバート・ジョンスンの曲名そのまんまの曲を録音していて、その当時はライヴでも披露していたみたいだけど、シングル盤でも出ずアルバムにも一切収録されず、初めてリリースされたのが例の1990年の四枚組ボックス・セットでのことだった。

 

 

その後現在ではツェッペリンのラスト・アルバム『コーダ』のボーナス・トラックとして収録されている「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルーズ」には特にエロいところはない。ロバート・ジョンスン・トリビュート的な内容の歌で、ジミー・ペイジがギターをスライドで弾くという内容。一応「オレのレモンを搾ってくれ」という歌詞は出てくるけれど、サウンドがエロくないから、歌詞もそう聞えない。

 

 

だからロバート・ジョンスンの原曲のエロさを継承・表現しているのは、ツェッペリンの場合同名曲の方ではなくやはり「ザ・レモン・ソング」の方なんだなあ。僕は彼らがとてもたくさんやったブルーズ形式のナンバーのなかでもこれが一番好きなんだよね。しかし最初に聴いた高校生の頃はそうでもなかった。

 

 

だいたい男子高校生の頭の中なんてのは毎日24時間ずっとエロいことばっかりで埋め尽されているのであって、僕も妄想だけは激しかったんだけど経験はゼロだったので(当時インターネットもなく、河原でエロ本を拾ってくる程度)、ツェッペリンの「ザ・レモン・ソング」もエレベがカッコよく歌っているなあと思って聴いていただけだった。

 

 

だから「ザ・レモン・ソング」の面白さが分るようになったのはもっと後の話だったのだ。どんどんエロく聞えるようになってしまったんだなあ。そうするとツェッペリンだけでなく、例えばデューク・エリントン楽団の「クリオール・ラヴ・コール」なんかも、リード楽器セクションのアンサンブルが女性のよがり声にしか聞えなくなっちゃった。

 

 

最後にその「クリオール・ラヴ・コール」を貼っておこう。この1927年ヴィクター録音の初演(歌手はアデレイド・ホール)ヴァージョンが一番エロい。彼女の歌がではなく、楽器アンサンブルがね。その後戦後の再演ヴァージョンなどではこういうエロいフィーリングは消え失せているのが残念。

 

 

 

エリントン楽団にはその他にもいろいろとエロい曲がたくさんあるように思う。例えば「ソフィスティケイティド・レディ」("lady" は本当は「レィディ」)なんかもエロいよね。そもそも曲名が意味深じゃないのさ。

大学生の頃は "sophisticated"の意味をしっかりとは知らず、単に「お洒落な女性」くらいの意味だろうとしか思っていなかったけれどね。エリントン楽団のエロさについては、また稿を改めてじっくり書いてみたい。

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