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2016/08/20

ジョアナ・アメンドエイラはこんなにも凄い歌手だったのか!

Unknown










昨年前半のドルサフ・ハムダーニ、後半のレー・クエンに続く女性ヴォーカルもののヘヴィー・ローテイション・アルバムが登場した。ポルトガルのファド歌手ジョアナ・アメンドエイラの新作『ムイト・ジポイス』だ。届いて以来ほぼ毎日聴いている。僕がお金持ちなら100枚くらい買ってみんなにタダで配って廻りたい。

100枚買ってみんなに配りたいなんてそんな気分になったのは久しぶり。というのは僕の場合はウソで、僕はちょっとでもこりゃいいねと思った音楽アルバムは、すぐにみんなで共有したい、そのためにタダでみんなに配りたいという気分になってしまう人間。実際似たようなことをやってきたのというのが事実。

非流通品とかブートレグならともかく正規商品をコピーして人にあげちゃイカンだろう、違法だろうと言われそうだけど、お金をもらっているわけじゃないから大目にみてほしい。それに音楽ファンなら、お金のない10代の頃、みんな友人からレコードを借りてカセットテープにダビングしたりしたことがあるだろう。それと同じようなもんだ。

レコードやCDの貸借りをして持っていないものをダビングしたり、もらったりなどしたことが全くない音楽ファンというのが存在するとはちょっと考えにくい。そんなのは音楽ファンじゃないぞなんて言う気はサラサラないけれど、ごくごく日常的な当り前の行為だ。今でも僕はマイ・ベスト・コンピレイションCD-Rをたくさん作って、いろんな友人にプレゼントしている。

ともかくそんな「たくさん買って聴いていないみんなにタダで配りたい」という気分に、たった一回聴いただけでなってしまったジョアナ・アメンドエイラの今年2016年の新作『ムイト・ジポイス』。こりゃとんでもないお化けアルバムだ。なんなんだろうか、この迫力と凄みに満ち満ちた歌声は。

ジョアナのこの新作について、荻原和也さんがブログ記事で「第一声で撃沈」と書いてらしたけれども、僕も全く同じだった。一曲目の出だし、ほんの一秒で完全にハートを鷲掴みにされてしまったよ。いきなりアカペラで歌いはじめる一曲目「コン・ペナサ・ジ・テルヌラ」では、しかし直後にウッド・ベースの音が入る。

だからジョアナがアカペラで歌いはじめると言っても、それは一秒か、あるいは一秒もないような非常に短い瞬時のことで、即、次の瞬間にコントラバイショ(コントラバス、すなわちアップ・ライト型のウッド・ベース)の音が入る。しかしそのほんの瞬時のアカペラ部分でのジョアナの声が異常に素晴しい。

これはおそらくヴォーカル好きの音楽リスナーならジャンルを問わずほぼ全員心を奪われてしまうであろうような、そんな歌いっぷりなのだ。荻原和也さんが「第一声で撃沈」され僕もそうだったのは、ジョアナの歌声のあまりの迫力と壮絶さに惚れ惚れさせられてしまったってことだ。

一曲目では、最初瞬時にアカペラ・ヴォーカル、次いでコントラバイショが入り、しばらくこの二人のデュオで進む。一分も経たないうちにヴィオーラ(はギターのこと)が、そしてその後ギターラ(はギターの意だが、楽器としてはギターではない)の音が聞えはじめる。その一分ないデュオ部分が極上品。聴けば誰だってノックアウトされるはず。

ちなみにファンならみなさんご存知のことだけれど、一応書いておくと、ギターではないと書いたギターラは、ギターラ・ポルトゥゲーザ(訳せばポルトガル・ギターになってしまうが)といって、これはいわゆる通常のギターとは起源の異なるもので、リュート族の弦楽器。

いわゆる通常のクラシック・ギター(あるいはスパニッシュ・ギター)をヴィオーラと呼ぶ。ヴァイオリン族のいわゆるヴィオラではなく、通常の六弦クラシック・ギターのことなのだ。ギターラがギターではなく、ギターはヴィオーラだなんて、なんだかちょっと紛らわしいよねえ。

ジョアナの新作『ムイト・ジポイス』でもギターラとヴィオーラ奏者の二人が伴奏の中心になっているという、伝統的なファドの伴奏スタイル。ギターラの担当がジョアナのお兄さんペドロ・アメンドエイラで、ヴィオーラの担当がロジェーリオ・フェレイラ。ジョアナのアルバムではお馴染みの二人。

ジョアナのヴォーカル・スタイルも伝統的ファド歌手のそれだ。はっきり言えばアマリア・ロドリゲス直系。しかしこのジョアナというフェディスタ、僕はデビュー三作目の2003年作『ジョアナ・アメンドエイラ』で知って、それ以来ずっと買っているんだけど、アマリアまでは遠いなあと思っていた。

そりゃいくらなんでもアマリアと比較することはできないね、まだまだ距離があるねと思いながら、しかしジョアナもその衣鉢を継ぐファド歌手として、アマリアが1999年に亡くなって以後はこの人なんだろうというのを、2003年のアルバムを聴いた時に感じて、その後はずっと愛聴してきた。

しかし距離がある、遠いと思い続けてきたアマリアのその境地に、ジョアナの今年2016年の新作『ムイト・ジポイス』ではかなり接近しているんじゃないかと僕は思う。到達したなどとは決して言えないが、相当いいところまで来ているのは間違いないように思う。それくらいこの新作は素晴しすぎる。

『ムイト・ジポイス』に収録されているのは全16曲。と言ってもジャケ裏の記載では最後の二曲はボーナス・トラックとなっている。しかし僕が買ったのは日本盤ではなくCNM(Companhia Nacional de Musica)盤だ。オリジナルじゃないの?それでボーナス・トラック入りって、まあ最近はよくある。 

書いたように全16曲、ギターラ奏者とヴォオーラ奏者中心の伴奏だけど、三曲だけピアノが入る。特に五曲目「オ・アヴェッソ・ド・デスティノ」ではピアノ一台だけの伴奏で歌っている。これはトラディショナルなファドではちょっと珍しいんじゃないろうか?モダンなフィーリングがあるように聞える。

その他12曲目「セ・エウ・ペディール・オ・ソル、16曲目「ファド・ド・エンバロ」でもピアノが入っている。前者では二台の弦楽器も鳴っていて、アンサンブルのなかの一員という感じでピアノの音は控目だけど、アルバム・ラストの後者では、五曲目同様ピアノ一台だけが伴奏をやっている。

つまりアマリア直系の伝統的ファド歌手としてやりながら、そこに現代風味も足しているというわけだ。四曲目「リスボン・ダ・マドルガーダ」ではギターラ・クラーシカという楽器名もクレジットされているが、これはおそらく通常のナイロン弦クラシック・ギターなんだろう。つまり弦楽器三本の伴奏になっている。

その四曲目での三人のギター・アンサンブルはなかなかカラフルでチャーミング。それに乗って歌うジョアナも軽快なスウィング感を出す。間奏で短いソロをいわゆる通常のギターの音(ヴィオーラかギターラ・クラシーカか、僕の耳では分らない)で弾くが、それはどうってことない。だいたいアルバムを通し楽器のソロはほぼない。ファドではだいたいそうだよね。

九曲目「エ・ア・オラ」ではいきなり口笛の音が聞え、それも明るく軽い感じだからファドでは珍しいなあと思って聴いていると。男性ヴォーカルが聞えはじめる。パウロ・ジ・カルヴァーリョとなっている。1970年代から活動している男性ファド歌手らしいが、僕はちゃんと知っているわけではない。

その一曲以外は全て歌うのはジョアナ一人。パウロ・ジ・カルヴァーリョがゲスト参加で歌う一曲もいいんだけど、書いたようにアルバム一曲目出だしにおけるジョアナの声のいきなり一秒(未満)で、たったそれだけで脳天カチ割られてしまった僕としては、歌うのはジョアナ一人で充分だったような気がしてしまう。

そう思ってしまうくらい新作『ムイト・ジポイス』でのジョアナのヴォーカルにはとんでもない凄みがある。こんなにまでも凄みに満ち満ちた歌手になってしまうなんて。今まで聴いていた五枚のアルバム(うち一枚はライヴ盤)も大変素晴しかったけれど、新作はこりゃもう全然別次元の宇宙に行ってしまっているなあ。

こんなに凄いヴォーカル・ミュージックって久しぶりに聴いたような気がする。良い歌手なんだぞと一部界隈では大変に評価の高いヴェトナム人歌手レー・クエンも本当に素晴しいんだけど、ジョアナはまた違った持味だよね。どっちがより凄いかなんてことは軽々しく言えない。味が違うんだからそんな比較は無意味だ。

しかし日本ではおそらくエル・スールでしか買えない(んだろう?)レー・クエンその他とは違って、ジョアナはワールド・ミュージック専門店でなくても、普通にアマゾンなどでも簡単に買える。新作『ムイト・ジポイス』だってライスから日本盤も出た模様だから、通常の路面店でも楽に買えるはずだ。

そういうわけだから、あるいはひょっとしてまだジョアナ・アメンドエイラというファド歌手をご存知ない方は、是非新作『ムイト・ジポイス』を買って聴いてみていただきたい。ここまで磨き上げられた高みに到達した歌手ってそうそういないし、こんなにも凄みに満ちたヴォーカル・アルバムも滅多にないよ。

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