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2016/08/01

コクがあってまろやかにころがる石達

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音楽ブログをはじめた以上はやはり一度はまとまった文章を書いておきたいアルバム。今まで散発的に書いてはいるけれど、ローリング・ストーンズで一番好きなのが1972年の『メイン・ストリートのならず者』で、最高傑作だとも思っている。中村とうようさんもどこかで同じことを書いていたなあ。なんだっけ?

 

 

今では『メイン・ストリートのならず者』がストーンズの最高傑作であるという評価は定着しているんじゃないだろうか。しかし1972年のリリース当時の評判は必ずしも芳しくなかったらしい。もちろん当時のことをリアルタイムでは知らない僕だけど、そんなことを書いてある文章によく出くわすもん。

 

 

それはLP二枚組だったというのも大きな理由の一つだったんじゃないかなあ。何度か書いているようにアナログLPが流通する音楽メディアの主流だった時代の僕は二枚組偏愛主義者で、だからストーンズの『メイン・ストリートのならず者』も昔から大好きなんだけど、どうやらそういうリスナーは少数派らしい。

 

 

あともう一つ、1968年の『ベガーズ・バンケット』から72年の『メイン・ストリートのならず者』あたりまでのストーンズはどうもとっつきにくいというか、素晴しい音楽だと実感はするものの、本音の部分でイマイチ好きじゃなく頻繁には聴かないというロック・リスナーが多いような気がする。

 

 

ストーンズが聴きやすくとっつきやすい音楽性のバンドになるのは、ミック・テイラーが抜けて代ってロン・ウッドが加入する1976年の『ブラック・アンド・ブルー』かその次作78年の『女たち』からなんじゃないかというのは僕も理解できないでもない。後者は僕も大の愛聴盤。

 

 

実際そういうことをおっしゃる年上の古参ロック・ファンの方々に何人も出会ってきた。そういう方々は1960年代半ばか遅くとも70年代初めにはストーンズやロックを聴きはじめていたはずだから、(『スティッキー・フィンガーズ』や)『メイン・ストリートのならず者』もリアルタイムで経験していたはず。

 

 

僕の場合はこれも以前書いた通りストーンズ初体験が、ジャズ・サックス界の巨人ソニー・ロリンズが参加していると聞いたという、ただその一点のみが理由で大学生の時に買った1981年の『刺青の男』で、だからそれ以前のストーンズのアルバムは(60年代のものを除き)ほぼ全部同じように並べていたのだった。

 

 

そういうわけなので、1968〜74年頃のストーンズとその後ロン・ウッドが加入してからのストーンズの区別は大してついていなかった。68年以前のものはなんだかちょっと違うなあと感じていたけれど、『ベガーズ・バンケット』以後はだいたい似たような音楽だろうとしか聞えていなかったのだ。

 

 

そういえば日本においてストーンズを最もよく聴いている一人である『レコード・コレクターズ』前編集長の寺田正典さんは僕とピッタリ同い年なんだけど、そのあたりはどうなんだろう?寺田さんから何年頃のストーンズから聴きはじめたという種類の話は伺ったことがないが、間違いなく僕よりはずっと早い。

 

 

同い年で、そして僕とは違ってあるいは小学生の頃から寺田さんはロックをお聴きだったと推測すると、1960年代末か遅くても70年代初めにはストーンズもお聴きだったんだろうなあ。そうなると72年の『メイン・ストリートのならず者』だって違う捉え方だったかもなあ。

 

 

まあ寺田さんみたいな日本におけるストーンズ・リスナーの第一人者と僕を比較するのはおこがましいにもほどがあるのでやめておく。とにかく僕の場合は大学生以後に、ストーンズ初体験である1981年の『刺青の男』以前の1970年代のアルバムもポツポツと買って少しずつ聴いていった。

 

 

そうすると『メイン・ストリートのならず者』は僕にとっては1980年代前半に最初に買って聴いた時から、既にこれがひょっとして僕が聴いたなかでのストーンズのベスト・アルバムだろうと感じていた。繰返すが二枚組LP偏愛だったのも理由の一つに違いない。いろいろあってゴッタ煮みたいで楽しいもん。

 

 

ゴッタ煮といえば『メイン・ストリートのならず者』にはいろんな感じの曲がたくさん入っていて、ちょっと聴いた感じではアルバムの統一性とか一貫性みたいなものを感じにくいかもしれないよね。それも発売当時に評判が悪かった理由の一つなのかも。実はそんなことはなく、このアルバムを貫いているものはある。

 

 

それが僕の言うブルーズ・フィーリングというものだと思っていて、曲形式としては12小節3コードのブルーズは必ずしも多くないもののの、その他多くの曲がフィーリングとしてはブルーズで、また『メイン・ストリートのならず者』は一種の<ブルーズ・アルバム>のようなものだと僕は思っている。

 

 

『メイン・ストリートのならず者』がブルーズ・アルバムだというのはジャケットにも非常に端的に表れている。レイアウト・デザインはジョン・ヴァン・ハマーズヴェルドとノーマン・シーフだが、ジャケットに使われている写真はロバート・フランクによるもので、アメリカ世界の猥雑さを表現しているもの。

 

 

このアルバムのジャケットについて語りはじめるとこりゃまた長くなってしまうのでやめておくけれど、ご覧になれば、その独特の異様で猥雑な世界観は誰でも感じることができるはず。こういうゴチャゴチャした下世話な世界こそがアメリカ黒人のブルーズ・ミュージック・ワールドに他ならない。

 

 

だから『メイン・ストリートのならず者』は僕にとっては<ブルーズ・ロック>のアルバムですらない。完全なるブルーズ・アルバムであって、英国白人が手がけたもののなかでは間違いなく最高のブルーズ作品だということになる。ブルーズというものを曲の形式だとしか捉えていないとこれは分らない。

 

 

もちろん楽曲形式としてのブルーズも『メイン・ストリートのならず者』には数曲かある。なんたってアメリカ黒人ブルーズマンのカヴァーが二曲あるもんね。一枚目A面にあるスリム・ハーポの「シェイク・ユア・ヒップス」、二枚目B面にあるロバート・ジョンスンの「ストップ・ブレイキング・ダウン」だ。

 

 

『メイン・ストリートのならず者』のなかでストーンズのオリジナルではないものはそれら二曲だけ。しかもそれら二曲はなかなか面白い。「シェイク・ユア・ヒップス」はスリム・ハーポのエクセロ録音オリジナルにほぼ忠実なブギウギ・カヴァーだ。

 

 

 

ところでスリム・ハーポというブルーズマン。「イナタい」という表現がこれほど似合う音楽家も少ないんじゃないかと思うような持味の人で、それもそのはずルイジアナ出身で同州バトン・ルージュで活動をはじめたスワンプ・ブルーズの人なのだ。CD四枚組のエクセロ録音完全集は本当に楽しいよ。

 

 

そんなスワンプ・ブルーズマンを採り上げたというところにも、『メイン・ストリートのならず者』の音楽性が端的に表れているように思う。そういえばスリム・ハーポの「シェイク・ユア・ヒップス」は、あのセイクリッド・スティールのロバート・ランドルフも『ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ』でカヴァーしている。

 

 

ロバート・ランドルフはともかく、スリム・ハーポが<スワンプ>・ブルーズマンであることと『メイン・ストリートのならず者』は密接に結びついているように思う。というのはこのアルバムには大勢のいわゆるLAスワンプ系人脈が参加している、UKスワンプ・ロック名盤でもあるからだ。これはよく言われることだよね。

 

 

ボビー・キーズとジム・プライスの二人のホーン奏者もLAスワンプ人脈なら、多くの曲で女性バック・コーラスを担当するクライディ・キングやヴァネッタもそうだし、一曲だけ(鍵盤楽器ではなく)バック・コーラスで参加のマック・レベナック(というクレジットになっているが、もちろんドクター・ジョン)もそうだ。

 

 

そういうスワンピーな女性バック・コーラスの、その持味がアルバム中最もよく分るのがA面ラストの「ダイスをころがせ」だよなあ。冒頭から鳴るキースの弾くギター・リフもラフでルーズでスワンピーで、すぐに女性コーラスが入ってくるあたりなんか最高だ。

 

 

 

なんなんだろうなあ、この「ダイスをころがせ」(”Tumbling Dice” だから本当は「ころがるダイス」)の、まるで上等なブランデーかモルト・ウィスキーみたいな(いや、僕は下戸なんだけど^^;;)まろやかでコクのある味わいは。こんな感じのロック・ナンバーって他にあるのか?

 

 

『メイン・ストリートのならず者』にも他のストーンズのアルバムにもないし、あるいは僕の聴いた数少ない全ロック・アルバムのなかにもこんな味わいのロック・ナンバーはない。こんな「ダイスをころがせ」みたいなフィーリングって、こりゃロックというよりやっぱりブルーズだよなとしか思えない。

 

 

「ダイスをころがせ」はストーンズのベスト楽曲にして、全ロック・ソング中でも最高傑作なんじゃないかと僕は思っている。単に個人的に好きでたまらないというだけではなく、エッジの効いたハードでギンギンのロックじゃない、まろやかに「ころがる」ようなドライヴ感のロックが他にはないと思うのだ。

 

 

う〜ん今日の文章もまた長い。カッコよくて面白く楽しい曲ばっかりな『メイン・ストリートのならず者』だからキリがないんだなあ。ロバート・ジョンスン・カヴァーについても書こうと思っていたのに。僕のこのアルバムに対する熱愛を一回だけで表現し切ることなんて不可能だ。書きたいことはいっぱいあるので、もう一回稿を改めて書こう。

 

 

ただ最後に一つだけ書いておく。「ならず者」という邦題はなんとかしてほしい。"Exile On Main St." とは、当時の英国のとんでもない重税(収入の90%以上!)から逃れるために、ミックとキースが国外脱出してフランスに住みはじめそこでレコーディングがはじまったという、いわばタックス・エクサイル(発音は「エグザイル」ではない)のこと。

 

 

そんな税金亡命者は本来なら日陰の存在なはずなのに、それが(明るい)表通り(Main St.)に立って歩いているという、当時のストーンズ一流の皮肉を込めたアルバム・タイトルなのだ。「ならず者」は1972年当時のストーンズ連中のイメージをよく表しているとは思うけれど。

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