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2016/08/07

僕にとっての猫ジャケはこれだ

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ジャズ・アルバムのジャケットに猫が描かれていることが多いのは、"cat" がジャズマンのことだから(男性だけで、女性は "chick")。そして知っている人は知っているが僕は大の猫好きなのだ。これはジャズ好きとは全く無関係。僕の人生は音楽とサッカーと猫とコーヒー、この四つだけで成立っている。

 

 

そんなジャズ好きで猫も好きという僕にとって、言うことない最高のものが<エピック・イン・ジャズ>のシリーズ。と言ってもビバップ以前の古いジャズに興味のある人しか知らないかも。ジャズ・アルバムにおける猫ジャケも、普通は例えばジミー・スミスの『ザ・キャット』とかを思い浮べる人が多いだろう。

 

 

しかし僕にとってのジャズにおける猫ジャケ・アルバムはエピック・イン・ジャズのシリーズをおいて他にない。このシリーズは全部で六枚。『ザ・デュークス・メン』『チュー』『レスター・リープス・イン』『ホッジ・ポッジ』『テイク・イット、バニー!』『ザ・ハケット・ホーン』。

 

 

これらのタイトルだけで古いジャズのファンなら誰名義のアルバムなのかは全部分るはずだけど、念のために書いておくと、『ザ・デュークス・メン』はエリントン楽団のピックアップ・メンバー四人、『チュー』はレオン・チュー・ベリー、『レスター・リープス・イン』はレスター・ヤング、『ホッジ・ポッジ』はジョニー・ホッジズ、『テイク・イット・バニー!』はバニー・ベリガン、『ザ・ハケット・ホーン』はボビー・ハケット。

 

 

つまり要するに全員戦前が活躍の中心だったディキシーランド〜スウィング・ジャズ・スタイルの人達ばかりで、六枚とも録音は1930年代後半〜40年代初頭だから、やはりビバップ勃興前なのだ。そのあたりのジャズが大好きな僕だからね。

 

 

それら六枚のエピック・イン・ジャズ・シリーズのジャケット全てに、ちょっとやんちゃではすっぱな雰囲気の黒猫が描かれていて、それを含めた漫画イラストを手がけたのは雑誌『ザ・ニュー・ヨーカー』にも描いていた漫画家・イラストレイターのウィリアム・スタイグ。フルート奏者ジェレミー・スタイグのお父さんと言えば通りがいいかも。

 

 

ジェレミー・スタイグはビル・エヴァンスとの共演盤もあったりするので、モダン・ジャズ・ファンにはよく知られたフルート奏者だろう。ジェレミーは自分で絵も描いたりしていたが、それも父親譲りだったようだ。共作もある。残念ながら今年2016年に亡くなってしまった。僕はジェレミーの熱心なファンではなかった。

 

 

僕にとっては、おそらく多くのジャズ・ファンとは逆に、ジェレミーはウィリアム・スタイグの息子だという認識だったなあ。彼がエピック・イン・ジャズ・シリーズの猫ジャケを描いたのがいつ頃なのかは分らない。『ザ・ニュー・ヨーカー』に描きはじめたのが1930年だから、その後だろうとしか推測できない。

 

 

またエピック・イン・ジャズの六枚がいつ頃リリースされたものなのかもはっきりしないんだなあ。アルバムなんだから間違いなく戦後ではある。それにこのシリーズを出しているコロンビア系の会社エピック・レコードの設立は1953年だからその後だ。すなわち録音は全て戦前のSP時代だけど、六枚ともコンピレイション盤だってこと。

 

 

だから1953年以後、おそらくは50年代に12インチLPレコード六枚にそれらの音源がコンパイルされてリリースされたってことなんだろうなあ。ウィリアム・スタイグもその時にこれらの猫ジャケを描いたはず。オリジナルLPのリリース年を知りたいと思って調べても、僕はデータを見つけられなかった。

 

 

現在僕が持っているエピック・イン・ジャズのシリーズは全て日本のエピック・ソニーがリイシューしたCD。アナログ盤時代から現物は見ていたが、自分では買ったことがない。僕がジャズに興味を持ち始めた頃には既に入手困難だった。だから全てジャズ喫茶で見たり聴いたりしていただけだった。

 

 

六枚のうち僕にとって最も思い出深いのはレオン・チュー・ベリーの『チュー』だ。なぜかというと僕が頻繁に話に出す戦前ジャズしかかけなかった松山のジャズ喫茶ケリーのマッチ箱デザインが、これのアルバム・ジャケットだったからだ。大学生当時の僕はとんでもないヘヴィー・スモーカーだったもんね。

 

 

といっても実際に煙草に火を点けるためにマッチを使うことは滅多になくいつもライターだったけれど、デザインの優れたジャズ喫茶のマッチ箱はそれだけ収集している人もいるくらい趣味の対象だったからなあ。僕だって松山以外の土地へ行くと現地のジャズ喫茶を探して入り、必ずマッチ箱を持って帰っていた。

 

 

そんなわけで戦前ジャズしかかけない松山のジャズ喫茶ケリーのマッチ箱デザインに使われていた『チュー』のアルバム・ジャケットは、そのイラストを忘れようにも死ぬまで忘れられないものだ。中身の音楽も店でよくかけてもらって聴いていた。なかでも「ア・ゴースト・オヴ・ア・チャンス」は名演。

 

 

チュー・ベリーはベン・ウェブスターと並び、1930年代後半のアメリカで最も人気のあったテナー・サックス奏者で、1935〜38年頃の活躍は目覚ましい。それはなぜかと言うと、この楽器のパイオニアであるコールマン・ホーキンスがこの時期はヨーロッパに渡って同地で活動していたからだ。

 

 

だから1935〜38年頃の多くの黒人スウィング・セッションでチュー・ベリーの名前を見出すことができる。あまりに頻繁なのでかなりの売れっ子だったことが分る。僕も何度か話をしているテディ・ウィルスンのブランズウィック録音とライオネル・ハンプトンのヴィクター録音の両方にもチューがいる。

 

 

それら二つの数年にわたる一連の録音セッションは、ビッグ・バンドものではないスモール・コンボものとしては、スウィング期のジャズでは至高の遺産なのだが、それらの多くにチュー・ベリーが参加しテナー名演を聴かせてくれている。エピック盤『チュー』にもテディ・ウィルスンのブランズウィック録音から一曲を収録。

 

 

テディ・ウィルスンの方はブランズウィック録音でコロンビア系なのでエピック盤に収録できるというわけ。収録されているのは「ウォーミン・アップ」。これもいいし、あるいは「ブルーズ・イン・C・シャープ・マイナー」(味も素っ気もない曲名だ)でのチューも名演。

 

 

 

エピック盤『チュー』には当然収録できないヴィクター録音のライオネル・ハンプトン名義のセッションでもチューはいい。例えばハンプのヴィクター録音におけるチュー・ベリー関係ではおそらく一番有名な「スウィートハーツ・オン・パレード」におけるテナー・ソロも名演だなあ。

 

 

 

チューの話が長くなった。エピック・イン・ジャズの六枚のうちで僕が一番好きで音楽的にも一番優れているだろうと思うのが『ザ・デュークス・メン』。この最愛聴盤については以前書いたので、繰返すのはよしておく。でもいろいろと言いたいことがいっぱいある。

 

 

 

その時書かなかったことを一つ書いておくと、『ザ・デュークス・メン』二曲目の「レイジー・マンズ・シャッフル」。レックス・スチュワート名義の1936年録音だが、完全にハワイアン・スタイルなスティール・ギターが聞える。弾くのはシール・バークという人。

 

 

 

そのハワイアンなスティール・ギターが、曲名通り怠惰な雰囲気を醸し出しているのだが、普通のジャズでこういう完全なハワイアン・スタイルのスティール・ギターはなかなか聴けない。かなり珍しいよね。シール・バークというよく知らないギタリストは同日録音のもう一曲にも参加しているが、そっちではよく聞えない。

 

 

さてさて他の四枚について詳しく書く余裕が少なくなってきたので駆足で。エピック・イン・ジャズのシリーズ六枚で僕が最も楽しい気分になるのが、白人コルネット奏者ボビー・ハケットの『ザ・ハケット・ホーン』。収録曲は全て1920年代のディキシーランド・ジャズ・スタイルで演奏されている。

 

 

主役のボビー・ハケットは完全なるビックス・バイダーベック・フォロワーで、音色もフレイジングも吹き方がまさしくビックス・スタイルそのまんま。完全コピーだ。これは悪口ではない。こういうビックス・スタイルのストレートでノン・ヴィブラートな吹き方が好きなんだよね、僕は。マイルス・デイヴィスがそうだもん。

 

 

『ザ・ハケット・ホーン』のなかにはビックスのレパートリーが二つある。「アット・ザ・ジャズ・バンド・ボール」と「シンギン・ザ・ブルーズ」の二曲。どっちもビックス・ヴァージョンに似すぎているくらい似ている。特に「シンギン・ザ・ブルーズ」の方はバンドのアレンジもコルネット・ソロも完全コピー。

 

 

『ザ・ハケット・ホーン』には「ア・ゴースト・オヴ・ア・チャンス」がある。同じエピック・イン・ジャズのシリーズでは、前述の通りチュー・ベリーの『チュー』にも収録されているので、楽器が違うけれども聴き比べると面白い。朗々たるチューのに対し、ボビー・ハケットのはかなり淡々としている。

 

 

いやホント長くなってきている。バニー・ベリガンの『テイク・イット、バニー!』一曲目は「アイ・キャント・ゲット・スターティッド」(邦題「言いだしかねて」はかなりオカシイ)。しかしこれは1936年録音だから、同じ人による翌37年ヴィクター録音の名高い名演ヴァージョンではない。でも36年ヴァージョンもかなりいいよ。

 

 

レスター・ヤングの『レスター・リープス・イン』は全12曲が1930年代後半の録音で、多くがカウント・ベイシー楽団での録音。この時期ベイシー楽団はオーケーに録音しはじめていた。アルバム・タイトル曲でのレスターのソロは有名だけど、僕は「シュー・シャイン・ボーイ」でのソロの方が出来がいいように思う。

 

 

 

これは1936年のジョーンズ〜スミス名義の録音(当時ベイシーはデッカとの契約がまだ残っていたので、リーダーとして名前を出せなかっただけ)。エピック盤『レスター・リープス・イン』には同日録音からジミー・ラッシングの歌う「ブギ・ウギ」も収録されている。

 

 

ジョニー・ホッジズの『ホッジ・ポッジ』。これも収録の全16曲に当時のボス、デューク・エリントンはもちろん、クーティ・ウィリアムズ、ハリー・カーニー、ソニー・グリーアなどが参加し、ほぼ全てエリトニアンで占められたエリントン的作風の録音集。だから『ザ・デュークス・メン』の姉妹作みたいなものだ。

 

 

エピック・イン・ジャズのこれら六枚。中身の音楽もいいし、それを猫ジャケを眺めながら聴いているとあっと言う間に時間が経ってしまう。古いものは新しいものに流れ込んでいるんだから新しい音楽(だけ?)を聴けばいいという人もいるんだけれど、流れ込まずに失われてしまったままのフィーリングがやっぱりかなりあるなあ。

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