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2016/08/21

ギル・エヴァンスにもうちょっと商売っ気があれば・・・

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確か昨2015年だったかな、村井康司さんの解説付で日本盤CDがリイシューされたギル・エヴァンスのライヴ・アルバム『プリースティス』。あの時Twitterで村井さんに買いますよ!と言ったにもかかわらず、いまだに買っていない僕^^;。だってCDでも一度目のリイシューで持っているからなあ。

 

 

輸入盤(おそらくは米盤)であるその一度目のリイシューが何年のものなのか、手持のパッケージのどこにも書いてないので、ちょっと分らない。と思ってネットで調べてみたら1985年だという Discogs のデータが出てきて、しかもそれは日本でだと書いてある。これは明らかにオカシイ。

 

 

僕が持っている『プリースティス』はどこからどう見ても日本盤ではない。日本語はどこにも一文字もないし、ジャケ裏に “Printed in the USA” と書いてあるけどなあ。しかも1985年ではなくもうちょっと後、90年代に入ってから買ったような記憶があるんだけどなあ。

 

 

ってことは、僕の持っている『プリースティス』のリイシューCDは一度目のものではなく、何度目かにアメリカで出たものだったってことか?それでやはり一度目のCDリイシューは1985年に日本でだってってことか?う〜ん、そのあたりまで突っ込んで調べようとしたら、今度はなんのデータも出ないぞ。

 

 

そんなことはいいや。とにかくギル・エヴァンスの『プリースティス』は1977年ニューヨーク・シティでのライヴ録音。しかしこれがアナログ・レコードでリリースされたのは、僕の記憶では80年代に入ってからのことで、大学四年の時だったように記憶しているので83年だなあ。この記憶は間違いないと思うんだけどね。

 

 

そのアナログLPで1983年に『プリースティス』がリリースされた頃は、僕は既にギルの虜だったので迷わず即買い。その二年前に80年のニューヨークでのライヴ録音盤『ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』が出ている。これは素晴しい内容。

 

 

 

リンクを貼った先で書いてあるように、1980年のこのライヴ・アルバムがギルの最高傑作だと信じている僕。『プリースティス』はその三年も前にライヴ収録されているのに、どうして83年まで出なかったのかのかはほぼ推測がつく。ギルはそこそこ人気が出た最晩年を含め、どのレーベルとも専属契約したことがない。

 

 

つまりギルは生涯のほぼ全てフリーランスで、ビッグ・バンド・アレンジャーだったのに常設のバンドを持ったこともなければ、1940年代のクロード・ソーンヒル楽団在籍時を除き、どの楽団にも専属的に在籍したことも全くなく、スタジオ録音でもライヴ録音でもその都度有志メンバーを募るというような具合だった。

 

 

そんでもって全然売れっ子でもなく、その正反対に音楽的な面白さでしか人を惹き付けない人だから全然売れもせず、だからどのレコード会社も専属契約なんかオファーしなかったのだ。だからスタジオ作でもライヴ作でも、それらは全て一つ一つ出してくれる会社を見つけているというような具合。

 

 

ただ単にテープに録音しておくだけならある時期以後は難しくなくなったので、それで1970年代半ば以後はギルも結構な数のライヴ録音テープを残しているらしいのだが、話を持ち掛けてもどのレコード会社も首を縦に振らないもんだから、公式リリースされているものは全録音のごく一部に過ぎない。

 

 

僕は別にギルが商業主義とは無縁の純粋指向の芸術家だったとか、そんな事実をもってして彼を賛美する気はサラサラない。音楽家だってプロは商売でやっているんだし、第一ポピュラー・ミュージックはなるべく多くの人の耳に届いて=売れてこそ値打ちのある世界だ。売れないから素晴しいみたいな価値観はオカシイ。

 

 

だからギルの作品だって売れていればもっといろいろと調子良く物事が進んでいたはずなんだけど、ホント商売っ気のない音楽家だったので、食べていけるだけの最低限の収入だけ確保できさえすれば、あとは部屋に鍵をかけて奧さんにも入るなと厳命した上で、ひたすらピアノのある部屋で譜面に向っているような人物だった。

 

 

ジャズだってポップ・エンターテイメントに他ならず、ってことはもっと大勢の聴衆にアピールできるようなことをやった方がよかったんじゃないか(その点、本人は真逆の内容を発言しているがマイルス・デイヴィスはトップ・エンターテイナーだった)とも思うんだが、まあいろんな音楽家がいるよね。

 

 

なんというか大勢に好まれそうな表現をするならば「赤貧の孤高の天才芸術音楽家」ギル・エヴァンス。だから『プリースティス』になった1977年はニューヨークでのライヴ録音も、その六年後にようやくアンティルズというアイランド系のレーベルからレコードになって発売されたというわけだ。

 

 

しかしこの『プリースティス』、中身は最高に素晴しい。特にA面いっぱいを占める20分近いタイトル曲は圧巻の一言。こんな凄い内容の音楽をライヴで展開していたのに、すぐにリリースできない(いまだにできていない、あるいはLPでは出たがCDにはなっていないものが多い)なんて可哀想だったなあ。

 

 

A面いっぱいを占める「プリースティス」はギルの自作曲ではなく、ギルのバンド用にと一時期バンドによく参加しギルに協力していたテナー・サックス奏者ビリー・ハーパーの書いたオリジナル・ナンバー。何年が初演なのか僕は知らないが、僕の持っている最も早い録音は1972年東京でのセッションだ。

 

 

それは『菊地雅章+ギル・エヴァンス・オーケストラ』というアルバムで、CD化もされている名盤。この1972年がギルの初来日(その後88年に亡くなるまで計三回来日)で、しかも70年代末〜80年代初頭にギルとかなり密接な関係にありバンドにも参加し録音もある菊地雅章との初顔合せだったのかもしれない。

 

 

『菊地雅章+ギル・エヴァンス・オーケストラ』には「プリースティス」を書いたビリー・ハーパーが演奏でも参加している。この1972年の来日時のギルはハーパーとハンニバル・マーヴィン・ピータースンの二人だけを連れてやってきて、他は全員日本人ミュージシャンで録音したものだった。

 

 

といってもご存知の通りギルはジャズでは通常あまり使われない楽器、特に管楽器を頻用するので、日本人ジャズメンだけではギルの要求を満たすことができず、クラシック音楽の管楽器奏者をNHK交響楽団からピックアップして参加させている。1972年当時としては画期的な録音セッションだった。

 

 

1972年録音の『菊地雅章+ギル・エヴァンス・オーケストラ』収録ヴァージョンの「プリースティス」を、77年ライヴ録音の『プリースティス』収録ヴァージョンと聴き比べると、各人のソロ内容など全体的には後者の方がはるかに活気に満ちてずっと躍動感があるけれど、管楽器アレンジの細部は前者が上かも。

 

 

音楽はとにかく聴いてもらわなくちゃね。幸いにして両方とも YouTube に上がっているので貼っておく。

 

 

1972年菊地雅章との共演ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=hE6qqD675AA

 

1977年ニューヨークでのライヴ録音→ https://www.youtube.com/watch?v=eTrLU88HCNE

 

 

どうだろう?1972年ヴァージョンの「プリースティス」では最初のテーマ演奏の際サビで複数のフルートがヒュルルル〜と鳴る音が入るあたりの絶妙さは見事だし、それ以外の部分でもホーン群のアンサンブルの彩りが鮮やかだ。それに対し77年ヴァ−ジョンでのアンサンブルはやや一本調子な感じがする。

 

 

しかしながら各人のソロ内容は1977年ヴァージョンの方がはるかに素晴しいように僕には聞える。1972年ヴァージョンではテナー・サックスのビリー・ハーパー、フェンダー・ローズの菊地雅章とソロが続き、その次のテナー・サックス・ソロはおそらく峰厚介が吹いているんだろう(クレジットはない)。

 

 

それら三人のソロの背後で入る管楽器リフ、特に木管の響きは素晴しい。しかしソロ内容そのものは僕はそんなに特筆すべき内容だとも思わない。それに対し1977年ヴァージョンでは、アルト・サックスのデイヴィッド・サンボーン、トランペットのルー・ソロフ、アルト・サックスのアーサー・ブライスの順で出る。

 

 

1977年の「プリースティス」ではその三人のソロ内容が傑出しているじゃないか。特に一番手のデイヴッド・サンボーンは、僕がこれを初めて聴いた1983年当時とんでもない衝撃だった。ここまで吹けるサックス奏者のイメージは失礼ながら全く持っていなかったので、同じ人なのか?と疑いたくなったほど。

 

 

サンボーンのアルト・ソロは音色もしっとりと濡れていて艶がある。それだけならこの人は前からそうだったが、「プリースティス」ではかなりハードで激しい内容のブロウで、フレイジングもいいしリズム感も抜群、言うことのない文句なしの内容だ。いやあ、この人、こんな凄いサックス奏者だったのか。

 

 

こんなアルト・サックス・ソロが一番手で出るわけだからそれだけで降参してしまうが、これまた見事な二番手のルー・ソロフ(ここで彼が吹くのはピッコロ・トランペット)を挟み、三番手で出るこれまたアルト・サックスのアーサー・ブライスのソロが見事なんていう言葉では到底表現できない極上の内容。

 

 

アーサー・ブライスはお聴きになれば分る通り、ちょっとエリック・ドルフィー的なフリーキー・トーンを鳴らす瞬間も何度かあるけれど、やはりドルフィーと同じくフリー・ジャズなスタイルの人ではなく、ちょっぴりアヴァンギャルドな感じに聞えるだけの守旧派、ポスト・ビバッパーというような人だ。

 

 

しかし1977年の「プリースティス」でのブライスはかなり自由に吹いている。しかも彼のソロ・パートに来るとなぜか伴奏がおとなしくなって、リズム・セクションの音も控目というか、バックではほぼ誰も演奏していないというに近いような無伴奏アルト・サックス・ソロみたいになっている。これはギルのアレンジなんだろう。

 

 

ブライスはこういう無伴奏演奏が得意なサックス奏者なのだ。「プリースティス」では伸び伸びと自由に(すなわり言葉本来の意味で「フリー」・ジャズなスタイルで)吹いている。途中エレキ・ギターの一瞬のフレーズに触発されて中近東風のメロディを奏でるあたりも僕は大学生の頃から好き。

 

 

こんな凄いソロ内容が続く『プリースティス』A面いっぱいを占めるタイトル曲を聴いちゃったら、B面はオマケだとしか聞えない。昔から僕はA面ばかり聴いていて、B面はイマイチに聞えるのでその後はあまり聴いていないという有様。こんな抜群の内容の1977年ギルのライヴ盤。村井さんの解説付で日本盤CDも出て良かったよなあ。

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コメント

初CD化が85年の日本盤というのは、正解。
CDプレイヤーの購入をためらっていた時期で、このアルバムを溺愛していたから、記憶は確かです。
ちなみに海外では88年のUKアンティルス・ニュー・ディレクションズ盤が初で、ぼくもこれを即買いました。

bunboniさん、ありがとうございます。じゃあ僕の持っているのも88年リイシューなんでしょう。しかしどこ見ても、それ書いてないなあ。それにしてもこれを溺愛とは嬉しい限りです。

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