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2016/08/27

ひょっとしてティナリウェンを超えた?

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いわゆる砂漠のブルーズの典型的なサウンドを出す新人バンド、イマルハンのデビュー・アルバム『イマルハン』。僕は今年2016年5月に知って買って聴いて以来の大ファンで、ヘヴィー・ローテイション・アルバム。こりゃひょっとしたらティナリウェンより好きかもしれないなあ、このバンド。

 

 

アルバムのジャケ写もそうなら、出てくるサウンドも非常にティピカルな砂漠のブルーズであるイマルハン。デビュー・アルバム『イマルハン』について知りたいと思うと、英語ではオフィシャル・ホーム・ページがあったり(http://www.imarhan.com)、その他いくつか記事がある。

 

 

しかし日本語で書かれてある文章はネット上にまだ二つしか出てこない。そのうち一つがやっぱり荻原和也さんのブログ記事(http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-05-16)だ。もう一つは非常に短いシンプルな紹介程度のもの(http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/11498)でしかなく参考にならない。

 

 

荻原さんのブログ記事が今年五月、もう一つが七月という日付になっている。僕が買った『イマルハン』の附属ブックレット末尾には英語で “January 2016” と記載があるので、それが海外(ってどこの国でのリリースがオリジナルか知らないけれども)でリリースされた日付なんだろう。

 

 

ってことはこのイマルハンというバンドは日本で話題にする人がまだかなり少ないんだろうなあ。最高にカッコイイのに。それで荻原さんの前掲記事だけで充分だと思いはするものの、僕もなにかちょっと書いておこうと思い立ったという次第。砂漠のブルーズ(という言葉は荻原さんは全く使わない)が好きな人なら間違いなく好きになる。

 

 

イマルハンのサウンドはティナリウェンに非常によく似ている。ドラマーはおらず、打楽器系はシンプルなパーカッションか手拍子だけ。あるいはなにも入っていないかだ。それで複数のギターのサウンドとベースを中心に組立てられていて、その上にヴォーカルのコール&リスポンスが乗っているというもの。

 

 

そんでもってヴォーカルの歌詞の響き(意味はサッパリ分らない、音だけ)がティナリウェンのそれにソックリだから、ってことはイマルハンのリード・ヴォーカリスト、サダムもタマシェク語(トゥアレグ語の一つ)で歌っているってことだろうか?そのあたり、お分りの方に教えていただきたいと思います。

 

 

附属ブックレットには全部アルファベット表記で歌詞が記載されてあるものの、それを見ても僕には暗号でしかないもんなあ。タマシェク語で歌っているのかどうかってことは、砂漠のブルーズの場合とても重要だと思うので知りたいわけだ。ティナリウェンでもそうだけど、あの独特の言葉の響きがね。

 

 

イマルハンのヴォーカリスト、サダムの歌い方は、なんだかちょっとうつむいてボソボソつぶやくような感じのもの。それが独自のグルーヴ感を生み出している。そのグルーヴ感はティナリウェンのヴォーカリスト、イブラヒムの出すそれに非常に近い。音の響きも同じだから、何語なのか知りたいんだよね。

 

 

複数のギターはエレキとアクースティックを一曲ごとに使い分けている。このあたりもティナリウェンに似ている。もっとも僕がティナリウェンにハマったのは、間違いなく複数のエレキ・ギターの絡み合いで創り出すあのカラフルなサウンドでだった。だからアクースティック・サウンドはイマイチなのだ。

 

 

ティナリウェンのアルバムを聴いても、最初の頃からアクースティック・ギターも使っているし、その後も継続的に同じだけど、ちょっと飛ばして聴くこともあったくらいだもんなあ。そういうわけだから2011年の『タッシリ』は、中身の素晴しさには共感するものの、個人的な好みだけならそうでもないんだよなあ。

 

 

『イマルハン』の場合、一曲目がいきなりアクースティック・ギターのサウンドだから、最初に聴いた時は「大丈夫かな、これ?」と心配しちゃったくらい。それくらい「砂漠のブルーズ=エレキ・ギター」のイメージが僕には強い。でもその一曲目のヘヴィーに沈み込むグルーヴ感はなかなかいい。

 

 

そう思っていると二曲目でエレキ・ギターがカラフルに絡み合ってグルーヴしはじめるので、こりゃいいね!ってなったのだ。打楽器(正確になにを叩いているのかは分らない、ブックレットにも「パーカッション」としか記載がない)の音も強く聞え、サダムのヴォーカルと女声のヨヨョ〜っていう例のやつ。

 

 

その二曲目のグルーヴ感で、一聴、これは凄いバンドだ!と直感したのだった。ティナリウェンによく似ているけれども、ティナリウェンにはない一種の軽みがある。ちょっぴりアメリカ産のファンクっぽいノリも感じる。ドラマーがいないので、アメリカ産ファンクのリスナーにはやっぱりイマイチだろうけどね。

 

 

そんなイマルハンのファンク・グルーヴ、言ってみれば砂漠のブルーズじゃなくて砂漠のファンクだとでも呼びたくなるような、彼らにしかない独特のノリが一番はっきり分るのがアルバム六曲目。これは曲名がバンド名と同じなので、代表曲ってことなんだろう。

 

 

 

どうだろう?これ、最高に素晴しいじゃないか。僕は一回目に『イマルハン』CDを聴いていて、この六曲目に来た時には「こりゃ、ティナリウェンを超えたバンドが出現したぞ!」と思ってしまったくらいだ。あとになって冷静に聴き返し考え直すと、ティナリウェンより上ってのはオカシイね。

 

 

でも六曲目のこの「イマルハン」は、アルバムのなかでも群を抜いて異常に素晴しい。これ一曲だけのためにこのCDを買っても損はしないと断言したい。それくらいカッコイイぞ。しかもお聴きになればお分りの通り、この曲ではカルカベが使われている。マグレブ音楽では恒例のあの金属製カスタネット。僕はカルカベが好きすぎて現物をネット通販で買って持っているくらいなのだ。

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以前ティナリウェンについて書いた際、彼らに一曲だけカルカベが入る曲があると指摘した(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-b8ea.html)。リンクを貼ったこの記事にその「タマタント・ティレイ」の音源も貼ってあるので、ご存知ない方はちょっと聴いてみてほしい。グルーヴィーでカッコイイんだ。

 

 

そんでもって上で貼った「イマルハン」という曲でカルカベが入っているのと聴き比べてほしい。非常によく似ているよね。音の創り方が瓜二つだ。僕はこんなノリの砂漠のブルーズをもう一曲知っている。それはタミクレストのアルバム『シャトマ』の五曲目「Djanegh Etoumast」だ。

 

 

 

曲のグルーヴ感とかノリが前掲イマルハンの一曲とティナリウェンの一曲に非常に近いと僕は思うんだよね。もちろんこういうのはいわゆる砂漠のブルーズというもの全般に共通するようなものではあるんだけどさ。でもここまでグルーヴィーなものは少ないよね。

 

 

ただしタミクレストのこれでは、お聴きになればお分りの通りドラム・セットの音が聞える。ドラマーがそれで強いビート感を出してはいる。イマルハンとティナリウェンにそれはないという違いはある。砂漠のブルーズでドラマーが部分的にでも入っているというのはちょっと珍しいんじゃないだろうか。

 

 

いわゆる砂漠のブルーズのなかではティナリウェンこそがトップ・ランナーだというのはほぼ全員に共通する認識なんだろう。そんでもってひょっとしたら二番手がタミクレストになるという位置づけなのかもしれない。僕はタミクレストをそこまでは評価していない。好きなバンドではあるんだけど。

 

 

っていうかいわゆる砂漠のブルーズのなかではティナリウェンが唯一無二の存在で、それに次ぐバンドは一つもないんだというのが僕の正直な気持。今年一月に買って聴いた新作『ライヴ・イン・パリ』を聴いたら、一層その思いが強くなった。それと比較したらたとえどんなバンドであっても・・・。

 

 

タミクレストの評価をあまり高くしないというのはそういう意味であって、決してこのバンドを低く見ているということではない。だからいろんな方がおっしゃるようにタミクレストが二位でいいんだろう。しかしながらイマルハンのデビュー・アルバムを繰返し聴くうちに、ちょっと認識が変ってきたのだ。

 

 

僕にとってはイマルハンがティナリウェンに次ぐ砂漠のブルーズ二番手になったのだ。少なくとも好みだけならそうなる。ティナリウェンやタミクレストでしっかり聴けるディープなフィーリング、ブルージーなものはまだやや薄いイマルハンなんだけど、これがデビュー作だと思うと末恐ろしいね。

 

 

なお『イマルハン』附属ブックレットの最後のページを見ると、二人いるプロデューサーのうち一名はティナリウェンのベーシスト、エヤドゥだ。ティナリウェンのサウンドに似ているのはそのせいもあるんだろう。荻原さんの前掲ブログ記事によれば、エヤドゥとイマルハンのリーダー、サダムは従兄弟関係だそうだ。オフィシャル・サイトにもそう(英語で)書いてある。道理でね。

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