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2016/09/12

裏トーキング・ヘッズな1980年代ロックの傑作

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Talkingheadsremaininlight










ロックやロック畑出身の音楽家の創るアルバムで1980年代にリリースされたものにはいいものが少なかったように思う。80年代だけでなく、その後現在までずっとそうなのかもしれないなあ。これが巷で言ういわゆる「ロックは死んだ」ということなのかどうかは分らない。

 

 

そんな簡単に死んだり終ったりしないだろうとは思うんだけど、1980年代以後のロック(系音楽)には面白いものが少ないという実感が僕にはある。90年代以後21世紀に入ってから、いわゆるクラシック・ロックのスタイルでやる若い音楽家、例えばデレク・トラックスなども人気はあるけれど。

 

 

まあしかしデレク・トラックスその他ああいった若いロッカーが1960〜70年代のスタイルでやるのを好んで買い応援しているのは、やはりその時代をリアルタイムで体験して思い入れがあるか、そうでなくともそういう音楽をこそ愛するファンたちだけなんじゃないかという風に僕には見えている。

 

 

ともかくそんな「ロックがダメになった」のかどうかは全然分らないが、ロック系の音楽で1980年代にリリースされた最高傑作はひょっとしたらブライアン・イーノ&デイヴッド・バーンの共作『マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オヴ・ゴースツ』じゃないだろうか?

 

 

1980年代ロックの一位は普通トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』になるんだろう。実際ある時の『レコード・コレクターズ』誌が、正確なタイトルは忘れちゃったけれど<80年代ベスト100アルバム>みたいな特集をやった時も『リメイン・イン・ライト』が一位だったような記憶がある。

 

 

僕にとっての1980年代ベスト・アルバムは、キング・サニー・アデの『シンクロ・システム』(1983)かサリフ・ケイタの『ソロ』(1987)になる。この時代にワールド・ミュージックにハマった思い入れを抜きにしてもそうなるんだなあ。でもこれはジャンルを限定しないで選んだ場合の話だ。

 

 

アメリカ人音楽家に話を限れば1980年代最高の存在だったのはプリンスに間違いないんだけど、僕のなかではロックの人じゃなくて 、ファンクの人だからなあ。デビュー当時から死ぬまで一貫してポップ〜ロック風な部分も強い人ではあったけれどね。

 

 

だからロックかそれに類する音楽から選ぶとした場合の1980年代ベスト・アルバムは、僕の場合(他の方も?)トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』か、あるいはブライアン・イーノ&デイヴッド・バーンの『マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オヴ・ゴースツ』ということになる。

 

 

それら二枚のアルバムはみなさんご存知の通り姉妹作。いわば一枚のコインの表と裏のようなもので、実質的には同じ音楽家が同じような音楽を創ったというようなものだ。トーキング・ヘッズはギター&ヴォーカルのデイヴッド・バーンをフロントマンとする四人組バンドで1974年活動開始。

 

 

しかしトーキング・ヘッズがいろんな意味で大成功したのは、ブライアン・イーノがプロデュースをやった1978〜80年のことだよなあ。その間二枚のスタジオ・アルバムを残している。もう一つライヴ盤があるけれど、それはイーノのプロデュースではなく、しかもちょっとややこしい事情のあるものだ。

 

 

だからその二枚組ライヴ盤『ザ・ネーム・オヴ・ザ・バンド・イズ・トーキング・ヘッズ』は除外して、イーノ・プロデュースのスタジオ作二枚『フィア・オブ・ミュージック』『リメイン・イン・ライト』こそがこのバンドのピークだったと見てまず間違いないだろう。どっちもアフロ・ロックみたいな感じだ。

 

 

アフロ・「ファンク」だとする記述もあるんだけど、僕の耳にはちょっとそうは聞えにくい。当時流行していたらしい言葉で言えばエスノ・ロックだとかまあそんなもんかな。この時期ピーター・ゲイブリエルもアフリカ音楽に興味を示していて、同傾向の作品を創っているよね。だから一種のブームだったのかも。

 

 

ゲイブリエルの話はともかくトーキング・ヘッズがアフリカ音楽に接近するようになったのは、もっぱらリーダーのデイヴッド・バーンの嗜好だったらしい。それが理由でブライアン・イーノにプロデュースを依頼したのかどうかは知らないんだけど、1970年代末にこの二人は密接な関係にあったようだ。

 

 

それでデイヴィッド・バーンとブライアン・イーノの共同作業で、実はトーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』よりも先に『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』の方の制作がはじまっていたらしい。完成もしていたんだそうだ。しかし『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』は理由があってリリースが遅れたのだ。

 

 

というのは『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』は今で言うサンプリングを多用したアルバムで、世界中のいろんな音や声を挿入して使ってあるために、そのうちの一つについて使用許諾が降りず、それで創り直さなければならなくなった。それで後から制作がはじまったトーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』の方が先に出たのだ。

 

 

主要メンバーも制作手法もできあがった音楽もほぼ同じようなものであろう『リメイン・イン・ライト』と『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』は完成もほぼ同じような時期で、リリースは前者の方が一年だけ早くなったけれど、後者も翌年にリリースされたわけだから、事実上の音楽的双子なのだ。

 

 

トーキング・ヘッズの方は一応四人編成のバンドという形式を採っていて演奏もして歌ってもいるわけだから、『リメイン・ン・ライト』だって、なんというか「生の」バンド感みたいなものがある作品だと言えるだろう。それに対し『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』はイーノとバーン二人だけの共同作業によるユニット。

 

 

というとちょっと誤解を招くよね。『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』の方でも何人か楽器奏者が参加して演奏している。一番名が知れているのはロバート・フリップとビル・ラズウェルだろう。しかし「アメリカ・イズ・ウェイティング」でベースを弾くラズウェルに対し、フリップの方はちょっと楽器なのかなんなのか。

 

 

ロバート・フリップが『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』に参加しているのは「レジメント」だけで、それもギターなどではなくフリッパートロニクス(Frippertronics)とクレジットされている。これは通常のいわゆる楽器ではなく、テープ・ルーピング技術の一種なのだ。僕は詳しいことは知らない。

 

 

『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』現行CDでは三曲目のロバート・フリップが参加している「レジメント」。しかしこれを聴いても、フリップがどこでそのフリッパートロニクスというテープ・ルーピングを使ってどんな音を加えているのか、僕にはちょっと分らないんだなあ。僕の耳がヘボだってことだろう。

 

 

それより「レジメント」はアルバム『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』のなかで今では一番好きな曲なんだけど、それはどうしてかというと、冒頭から鳴っているエレベ音(弾くのはバーン?)のヒプノティックな反復グルーヴに乗って、アラブ歌謡風の女性ヴォーカルがサンプリングされてあるからなのだ。

 

 

そのアラブ歌謡風の女性ヴォーカルはダンヤ・ユニスというレバノン人シンガーのものらしい。それを『ザ・ヒューマン・ヴォイス・イン・ザ・ワールド・オヴ・イスラム』というレコードから流用してあるんだそうだ。イーノかバーンかどっちかがそれを見つけてきたってことなんだろう。

 

 

そのレバノン人女性歌手のものだとされているヴォーカルには歌詞はなく、もっぱらスキャット(とも言いにくいが)音だけを詠唱しているもの。それが反復されるグルーヴィーなエレベ・サウンドとドラムスに乗り、あとエレキ・ギターかシンセサイザーか分らないがエフェクト的に入っている。

 

 

そんな「レジメント」こそが、アラブ歌謡好きでグルーヴ重視型の耳の僕だからなのか、すんごくチャーミングな感じに聞えるんだなあ。ホルガー・シューカイの「ペルシアン・ラヴ」が1979年にリリースされているけれど、それも大好きな僕。そして音楽制作手法としても似たようなものだよね。

 

 

世界各地の様々な声や音をサンプリングして挿入しそれをループさせることで独特のグルーヴ感を生み出すというお馴染みの手法は、いまやヒップホップの普及によって一般的なものになった。音楽制作手法としてはその最も早いものがイーノ&バーンの『ブッシュ・オヴ・ゴースツ』だったのかもしれない。

 

 

なおバーンはともかくイーノはこういう音楽の創り方を、ひょっとしたらテオ・マセロがテープ編集をやりまくっているマイルス・デイヴィスの二作『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチズ・ブルー』からヒントを得て思い付いた可能性がある。イーノ自身の言及があるのかどうかは全く知らないが。

 

 

マイルスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチズ・ブルー』にサンプリング音源などもちろんない。全てが参加ミュージシャンの生演奏によるもの。しかしテオがその生演奏音源テープから部分的に短い一定箇所を抜出して反復(ループ)し、それで独特のグルーヴ感を出すのに成功しているよね。

 

 

随所で聴けるけれど、一番はっきりと分るのが『ビッチズ・ブルー』一枚目B面のアルバム・タイトル曲。そこでは2:51からしばらくの間、ハーヴィー・ブルックスのエレベとベニー・モウピンのバス・クラリネットの二人が演奏する短いパターンを抜出してテープ編集によって何度もループしている。

 

 

それに徐々にエレキ・ギターや二台のドラムス、そして三人参加しているフェンダー・ローズ奏者の音が入りはじめ、3:54にマイルスのソロが入ってくるまでずっと同じそのテープ・ループが使われているのだ。そしてその反復によって生み出されたグルーヴが「ビッチズ・ブルー」という曲の肝になっているんだよね。

 

 

『ブッシュ・オブ・ゴースツ』で聴けるイーノ&バーンの手法と本質的にはほぼ同じと言って過言ではないかも。イーノのいわゆるあのアンビエント・ミュージックだって、そのルーツを辿るとマイルスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』のあの独特のスタティックなサウンドにあるんじゃないのかなあ?

 

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