« ブルーズを歌う女たち | トップページ | 100年経っても瑞々しいイリニウの古典ショーロ »

2016/09/09

4ビートのファンク・ミュージック

Davispangaea










1975/2/1、大阪は中之島フェスティヴァル・ホールでの昼夜二回公演を(ほぼ)ノーカット・無編集で収録したマイルス・デイヴィスの『アガルタ』『パンゲア』。好みだけなら断然『アガルタ』の一枚目(二枚目はまあまあ)になるんだけど、音楽的にどっちが凄いかとなると『パンゲア』だよなあ。

 

 

そういう意見の人が多いし僕も異論は全くない。間違いないように思う。もちろん『アガルタ』だって充分凄いし、そもそも1975年のリアルタイム・リリースでは『アガルタの凱歌』(というタイトルだったのだ、最初は)だけが出て、しばらく経ってから『パンゲアの刻印』(だった)は姉妹作みたいにして出た。

 

 

だからリアルタイムでは『アガルタ』の方が評価が高く、当時買っていたファンも『アガルタ』こそが本命で、『パンゲア』はいわばオマケのような捉え方だったらしい。しかしCDリイシューされた頃からこの評価は逆転し、今では『パンゲア』の方を上に人が多く、僕もその一人。

 

 

夜の部の公演を収録した『パンゲア』は、しかしながら一枚目の前半はあんまり面白くないように僕は思う。ブラック・ミュージックとしてはどうにもノリが軽すぎる。オープニングがお馴染み「ターナラウンドフレイズ」だが、冒頭のアル・フォスターの叩き方からしてなんだこりゃ、走りすぎだろう。

 

 

これじゃあロックだよなあ。実際『パンゲア』の一枚目はブラック・ロックとして聴くファンが多いんだそうだ。しかしこの「ターナラウンドフレイズ」、1973年からライヴのオープニングで使われるようになったものだけど、74年まではこんな感じではなくファンクなのになあ。

 

 

ファンクな「ターナラウンドフレイズ」では、1974/3/30、ニュー・ヨークのカーネギー・ホールでのライヴ『ダーク・メイガス』のが一番凄い。重心が低くダークでヘヴィーで重たいファンク・ミュージック。しかもエムトゥーメのコンガの音が妙に目立つミックスで、それもいい感じに聞える。

 

 

1973年ヴァージョンの「ターナラウンドフレイズ」となると、もっとこう爽快で軽やかでまるで風が吹抜けるかのようなファンク。しかし長年73年ヴァージョンは公式盤収録がなかった。昨2015年に公式盤四枚組『アット・ニューポート 1955-1975』が出て、73年ベルリンでのヴァージョンが公式化した。

 

 

しかしそのベルリンの「ターナラウンドフレイズ」も1973年ヴァージョンにしてはやや重い。軽快さ、 爽快さが一番分りやすいのは同年6/19の東京公演だ。こんなに軽やかで爽やかなファンク・ミュージックというのもなかなかない。そしてグルーヴィーだ。

 

 

 

公式盤で「ターナラウンドフレイズ」が聴けるのは、以上73年『アット・ニューポート 1955-1975』、74年『ダーク・メイガス』、75年『パンゲア』の三つで全部だが、73年から75年までほぼ全てのライヴ・ステージでのオープニング・ナバーなので、ブートだとかなりの数が存在する。

 

 

そんなのをいろいろと聴くと、『パンゲア』の「ターナラウンドフレイズ」はどうしてこんなに軽すぎるノリになっているのか、僕みたいな素人には理由が分らない。ピート・コージーのソロが終ると、そのまま引続き「チューン・イン・5」になる。1973年以後この二つは必ず連続演奏で例外がない。

 

 

『パンゲア』の一枚目が面白くなるのはその「チューン・イン・5」も終る21:50から。この時期のマイルスのライヴにしては珍しくほんの一瞬だけ演奏全体が止って、21:51からマイルスが三つの音で構成される簡単なモチーフを何度が繰返し吹くところからまた別の「曲」になっていく。

 

 

そこからの約20分間がかなり面白い。これだけはいまだにタイトルが分らないもので、そもそも先行するスタジオ録音などもおそらく存在しない(少なくとも2016年現在までリリースされていない)もので、その場で瞬時にマイルスが思い付いて即興で吹いたものなんじゃないかなあ。

 

 

マイルスが吹くその三音のモチーフをすぐにベースのマイケル・ヘンダースンがなぞってリフとして弾きはじめ、続いてレジー・ルーカスがギター・カッティングで空間を刻み彩って、それでマイルスのソロに入っていく。そのマイルスのソロが絶品だ。その時期の写真などで見るかなり低い姿勢で吹いているんだろう。

 

 

1975年来日時のインタヴューでマイルスは、床スレスレくらいまで姿勢を低くして吹くとバンドの音がまた違って聞えるし、自分の吹くトランペットの音も床に反響して(ホントか?)面白い響きになるんだ、だから時々やっていると語っている。現場を観たことのない僕だけど、あのソロはそんな音に聞える。

 

 

特にマイルスが音量を下げて、従ってバンドの音もそれに合わせて小さくなって、全体的に低くくぐもったような感じのサウンドになる部分でのマイルスのソロは相当な聴き物。実際素晴しいのでその部分でバンド・メンバーの誰か(おそらくエムトゥーメ)が思わず叫び声をあげているもんね。

 

 

マイルスのソロが終るとソニー・フォーチュンのソプラノ・サックス・ソロになるが、なんなんだこのダサさは?あまりにツマランのでなにも書かず割愛する。続いて珍しいレジー・ルーカスの単音弾きソロ。この時期のマイルス・バンドのツイン・ギター体制では、ソロを弾くのはいつもピート・コージーだから。

 

 

この二人はほぼ100%完全分業体制なもんだから、レジー・ルーカスのソロが聴けるのはなかなかレアなのだ。これまた1975年来日時のインタヴューでマイルスは、レジーだってソロを弾きたい時がある、そういう時はなにか言いたいことがあるってことだから、自由にやらせていると語っている。

 

 

レジー・ルーカスがギター・ソロを弾くというのは『アガルタ』『パンゲア』全四枚を通じ、他は『アガルタ』二枚目で一回出てくるだけ。しかしそれといい今言及している『パンゲア』一枚目後半でのソロといい、ソロを弾く時のレジーはブルージーかつファンキーなピート・コージーとは違って、普通のロック・ギターだ。

 

 

レジーのソロが終り、またしばらくマイルスが小さく吹き、その終盤で最初に吹いた三音のモチーフをもう一回吹いてしばらくすると、バンド全体の演奏本編は終了するが、その後プツッという(シールドをアンプから抜くような)音に続く、ピート・コージー、レジー・ルーカス、エムトゥーメの三人が居残っての約三分も面白い。

 

 

レジーはギター、ピート・コージーはおそらく親指ピアノとその他小物、エムトゥーメがコンガなどパーカッションで、約三分間即興演奏を繰広げる。その途中エムトゥーメがコンガの表面を指でこするヒュ〜っという音に触発されて、誰かが(ホント誰?)ハミングで歌いはじめる。そこがチャーミングなのだ。

 

 

『パンゲア』一枚目はそのまるでアフリカのサヴァナを吹抜ける風のような歌声で終りを告げるのだ。ホント誰が歌っているんだろうなあ?その歌声に合わせ打楽器系の小物が鳴っているが、エムトゥーメなのかピート・コージーなのか分らない。完全に演奏が終ると観客の拍手が遠くに聞えるよね。

 

 

観客の存在感がほぼ完全にゼロで、そうじゃなくたってバンドのサウンドにもライヴの空気感みたいなものが希薄な『アガルタ』『パンゲア』の二つ全体を通じ、これが観客のいるライヴ録音なのだと実感するのが唯一のその瞬間だけなのだ。あれがなかったら聴いた感じライヴ演奏なのかも分らないかもしれない。

 

 

さて一枚目はいいとして問題は『パンゲア』の二枚目。これの艶っぽさを聴いたら一枚目や先立つ昼公演の『アガルタ』は助奏に過ぎないと思えてくるほど。『パンゲア』二枚目は「イフェ」と「フォー・デイヴ」の二つだけで構成されている。変り目は18:39から入るマイルスの弾くオルガンによるインタールード。

 

 

そのマイルスの弾くオルガン・インタールードの間にピート・コージーがその直前までクリーン・トーンに近い音で弾いていたギターにまたしても例によって深いファズをかけ、一音ギュンと小さく鳴らしてファズがかかったのを確認した後ソロを弾き始めるのだが、その部分のセクシーさがタマランよなあ。

 

 

その部分はいい時のカルロス・サンタナに似ている。どうにも最高すぎて昔からそこばっかりリピートして聴いちゃうもんね。しかしそのピート・コージーのセクシーなギター・ソロもまだまだ助奏なのだ。長めのオルガン演奏に続く28:11からのマイルスのソロこそが最大の山場。

 

 

そのマイルスのトランペット・ソロは35:52まで五分間近く続くのだが、この時期のマイルスが五分間も続けてソロを吹くなんてことはまず有り得なかった。第一にかんばしくない体調の問題と、もう一つは自分がソロを吹くよりもバンド・メンバーの演奏によるファンク・グルーヴを重視していたというのが理由。

 

 

だからやはり体調イマイチな1975/2/1の、しかも昼夜二回公演の夜の部の後半という疲れてきているに違いないところで、五分間も続けてトランペットを吹くというのはちょっと考えられない。しかもそのトランペットの音色といいフレイジングといい色っぽいことこの上ないもんねえ。

 

 

特筆すべきはそのトランペット・ソロの途中から4ビートになっているという事実。33:00あたりからだ。その前からちょっとそんな雰囲気があったのだが、33:00からははっきりとした4/4拍子で吹きはじめ、それを聴いたアル・フォスターやマイケル・ヘンダースンも合わせて4ビートの演奏になる。

 

 

アル・フォスターのその部分のドラミングはシャッフル気味だから8ビートの感触があるんだけど、ジャズにおいては戦前のデューク・エリントン楽団以来8ビート的シャッフルは多いから伝統的なリズムだ。マイケル・ヘンダースンに至っては一小節に四つの音を均等に置くというウォーキング・ベースだもんなあ。

 

 

そういう感じになってマイルスがいいソロ内容を吹いている瞬間にエムトゥーメがたまらず「カモン、マイルス!カモン・マイルス!」と叫んでいる。その叫び声の直後しばらくはマイルスが吹かないので、エムトゥーメは「オォ・・・」と言っちゃうのだが、そうなった次の瞬間にマイルスがさらに本格的にソロを吹きはじめるんだなあ。

 

 

この数分間は何度聴いても本当に素晴しい。4ビートでジャジーだからではない。これはあくまでファンクだ。4/4拍子のファンク・ミュージック。この五分間のトランペット・ソロが終ってオルガン演奏になり、それも終ると再びピート・コージーがファズの効いた音で大団円を弾きエクスタシーの終焉。その後の数分間はいわば後戯。

 

« ブルーズを歌う女たち | トップページ | 100年経っても瑞々しいイリニウの古典ショーロ »

マイルズ・デイヴィス」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 4ビートのファンク・ミュージック:

« ブルーズを歌う女たち | トップページ | 100年経っても瑞々しいイリニウの古典ショーロ »

フォト
2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ