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2016/09/29

ディープなブルーズ・マンのポップなアルバム

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2001年に亡くなったブルーズ・マン、ジョン・リー・フッカーの実質的な遺作である1997年の『ドント・ルック・バック』。熱心なフッカー・ファンや黒人ブルーズ・マニアからは全く相手にされていないアルバムじゃないかなあ。僕もどうってことないような内容だとは思うけれど、案外好きなのだ。

 

 

まずアルバム・ジャケットがいいよね。CDショップ店頭でこれを見た時にいいアルバムに違いないと僕は直感して迷わず即買い。帰って聴いてみて、一曲目「ディンプルズ」の出だしだけでこりゃいいね!ってなったなあ。アルバム中この曲にだけロス・ロボスの面々が参加して演奏している。

 

 

一曲目「ディンプルズ」はプロデュースもロス・ロボスだ。ギターがニ本聞えるけれど、デイヴィッド・イダルゴ、セサール・ロサスとなっている。ジョン・リー・フッカーは弾かずヴォーカルのみ。だからこの曲のサウンドはブルーズ・ロック調のものをやる時のロス・ロボスに似ている。

 

 

ロス・ロボスがイースト・ロス・アンジェルスを拠点とするメキシコ系アメリカ人で構成されたラテン・ロックというかチカーノ・ロック・バンドであるのはみなさんご存知の通り。そんでもって初期からかなりブルーズ・ロック要素も強く、例えば『ハウ・ウィル・ザ・ウルフ・サーヴァイヴ?』にも両方ある。

 

 

ワーナーからリリースされた『ハウ・ウィル・ザ・ウルフ・サーヴァイヴ?』は1984年のアルバムにしてロス・ロボスの実質的なメジャー・デビュー作と言えるんじゃないかなあ。この前に二枚あるんだけど、チャリティー・アルバムだったり自主制作だったりして、流通商品なのかどうかちょっと分りにくい。

 

 

だから三作目の『ハウ・ウィル・ザ・ウルフ・サーヴァイヴ?』こそがロス・ロボスのメジャー・デビューなんだよね。このアルバムでは、メジャー・リリースだというのを意識してかどうか、彼ら独自のラテン色とあわせブルーズ・ロック色も濃厚。

 

 

ロス・ロボスも人気が出るにつれ、メジャー・リリース・アルバムでもテックス・メックス〜ラテン色も濃厚に打出すようになり、それがブルーズ・ロック要素と溶け合って、本当に彼らにしかできない独自の音楽をやるようになった。その最高傑作がおそらく1996年の『コロッサル・ヘッド』だろう。

 

 

ロス・ロボスの話とか『コロッサル・ヘッド』の面白さかとか、同時期にやっていた別働隊ラテン・プレイボーイズの話とかは別の機会にしたい。そんな傑作『コロッサル・ヘッド』でもアルバム・ラストの一曲はデイヴッド・イダルゴが弾く完全なるブルーズ・ギター・インストルメンタルだよなあ。

 

 

だから『コロッサル・ヘッド』の翌年にジョン・リー・フッカーの『ドント・ルック・バック』に一曲だけとはいえロス・ロボスの面々が参加してブルーズをやっているのには全くなんの驚きもない。「ディンプルズ」での二本のギターはデイヴィッド・イダルゴがリードしているんだろう。

 

 

ギターもいいんだけど、「ディンプルズ」で一番目立つのはアンプリファイされたブルーズ・ハープ(10穴ハーモニカ)の音だ。それはジョン・ジューク・ロウガンが吹いている。エレクトリック・ブルーズ・ハープ専門家だけど、主たる活動がテレビ音楽と映画音楽の世界でだったので、僕はあまり知らない。

 

 

ただこれがきっかけだったんじゃないかと僕が思うのが1987年のアメリカ映画『ラ・バンバ』。ご存知の通りチカーノ・ロック・スターだったリッチー・ヴァレンスの伝記映画で、これのサウンドトラックを同じチカーノのロス・ロボスがやり、そしてジョン・ジューク・ロウガンも参加している。

 

 

だから間違いなくロス・ロボスとジョン・ジューク・ロウガンは1987年の『ラ・バンバ』(でロス・ロボスはブレイクした)以後は付合いがあったはずだ。それが直接的な理由じゃないかもしれないが、それから10年後のジョン・リー・フッカーのアルバムでも一曲共演しているってことだね。

 

 

ロス・ロボスが参加して演奏・プロデュースしているのは一曲目「ディンプルズ」だけ。それ以外の10曲のプロデュースはジョン・リー・フッカーと付合いの長いヴァン・モリスン。プロデュースだけでなくギターとヴォーカルでも参加しているから、実質的なコラボ・アルバムと言えるかも。

 

 

1997年に『ドント・ルック・バック』を買って帰って最初に聴いた時には、一曲目「ディンプルズ」がえらくカッコイイなあって個人的には思ったので、二曲目以後はジョン・リー・フッカーにしてはさほどディープではない曲があるし、ブルージーな感じも薄いポップなフィーリングもあったりして、だからイマイチだなあと感じていた。

 

 

もちろん『ドント・ルック・バック』にはストレートなブルーズ・ナンバーも数曲ある。一番有名なのはおそらく五曲目の「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」と10曲目の「レッド・ハウス」だろう。後者の方は相当に知名度があるはず。その理由は説明不要のジミ・ヘンドリクス・ナンバーだからだ。

 

 

12小節3コードというジミヘンのやった音楽のなかでは最もトラディショナルな種類の一つに入るであろう「レッド・ハウス」。いろんな人がカヴァーしているけれど、『ドント・ルック・バック』におけるジョン・リー・フッカー・ヴァージョンは、シンプルな伴奏に乗ってフッカーお馴染みの唸り声。

 

 

唸っているというか喋っているようなトーキング・ブルーズ・スタイルでの「レッド・ハウス」。ジョン・リー・フッカーはギターも弾いているとなっているけれど、他に二名、ヴァン・モリスンとダニー・ケイロンもギターでクレジットされている。フッカーはあんまり弾いてないみたいに聞える。

 

 

「レッド・ハウス」でジョン・リー・フッカーがワン・コーラス歌い終って、「プレイ・ザ・ブルーズ!」の掛声ではじまるギター・ソロは間違いなくフッカーではない。おそらくヴァン・モリソンだろうなあ。ダニー・ケイロンなのかもしれないが、僕はこの人を知らないから分らない。

 

 

その(おそらくは)ヴァンであろう間奏部のギター・ソロはジョン・リー・フッカー・スタイルそのまんまだ。超ブルージーでかなりの聴き物。いやあ、いまさらなことを言うけれど上手いね、ヴァンのブルーズ・ギターは。いやまあクレジットされているダニー・ケイロンかもしれないが、この人は誰だ?

 

 

『ドント・ルック・バック』にあるもう一つのこれまた超有名ブルーズ・スタンダードである「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」。この曲名だけでみなさんお分りのはずだけど、戦前ブルーズ・シーン最大の人物リロイ・カーの書いた曲で、本当に多くのブルーズ・メンやロッカーがカヴァーしている。

 

 

最近ではエリック・クラプトンの1994年作『フロム・ザ・クレイドル』一曲目が「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」だったので、ロック・ファンは間違いなくそれで馴染があるはずだ。でもねえ、あれ、エルモア・ジェイムズの1955年フレア・ヴァージョンの丸写しなんだよね。

 

 

あるいはひょっとしてご存知ない方がいらっしゃるかもしれないので、一応音源を貼っておこう→ https://www.youtube.com/watch?v=gyqTOFpuTcA  クラプトン・ヴァージョンはこっち→ https://www.youtube.com/watch?v=CY85PSxn0PI  どうだろう?まあ敬愛の念だけは伝わってくる感じだね。

 

 

これも貼っておかなくちゃ。リロイ・カーのオリジナル・ヴァージョン「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」(1934)→ https://www.youtube.com/watch?v=FOuFZ9NXPHo  こんな感じのピアノ・ブルーズをエレトリック・ギターでの三連スライド・スタイルに移し替えたのがエルモアの素晴しい独創だったんだよね。

 

 

そんでもってジョン・リー・フッカー1997年『ドント・ルック・バック』ヴァージョンがこれ→ https://www.youtube.com/watch?v=wq-S-pe0yU4  しかしフッカーがこのブルーズ・スタンダードをやったのはこれが初めてではない。1950年代にヴィー・ジェイ録音でやっている。

 

 

ジョン・リー・フッカーのヴィー・ジェイ録音といえば、上で書いた『ドント・ルック・バック』一曲目の「ディンプルズ」。これも1956年ヴィー・ジェイ録音がオリジナルなんだよね。それはいいんだけど、問題は『ドント・ルック・バック』における「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」だ。

 

 

なにが問題かというと『ドント・ルック・バック』における「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」は、どうしてだか “Written By John Lee Hooker” と書かれてあるんだよなあ。これは理解できないぞ。聴いたら間違いなくリロイ・カーのあれだってことは誰だって分るのに。

 

 

こりゃオカシイね。まるでレッド・ツェッペリンみたいじゃないか。リロイ・カーの書いたブルーズ・スタンダードだってことは誰だって一聴瞭然はず。だからどうしてこうなっているのか事情をご存知の方、教えてください。この一点だけが僕にはどうしても分らないんだけど、演唱自体はなかなかいいよね。

 

 

その他三曲目「エイント・ノー・ビッグ・シング」、七曲目「トラヴェリン・ブルーズ」、九曲目「フリスコ・ブルーズ」、11曲目「レイニー・デイ」は、全てジョン・リー・フッカーらしいドロドロしたスロー・ブルーズで、しかもいい感じのギター・ソロはおそらくヴァン・モリスンが弾いているんだろう。

 

 

でもアルバム『ドント・ルック・バック』の目玉というか特徴というかウリは、おそらくそういうブルーズそのものみたいなものではなく、二曲目「ザ・ヒーリング・ゲーム」と四曲目「ドント・ルック・バック」だろうなあ。後者はジョン・リー・フッカーの曲だけど、前者はヴァン・モリスンの書いた曲。

 

 

「ザ・ヒーリング・ゲーム」ではヴァンのヴォーカルもかなり大きく目立ちジョン・リー・フッカーの歌と絡むし、単独でもヴァンが歌うパートがある。ギター・ソロはこれはもう疑いなくヴァンが弾いている。「ドント・ルック・バック」はジョン・リー・フッカーがずっと前に書いたオリジナル曲。

 

 

「ザ・ヒーリング・ゲーム」も「ドント・ルック・バック」もブルーズ・マンが歌っているとは思えないフィーリングで、かなりポップなんだなあ。もちろんブルーズ・メンもポップ・ソングをよくやるけれども、ジョン・リー・フッカーはそういう部分とはやや縁が薄いような人だと僕は思っていたからなあ。

 

 

それら二曲ともヴァン・モリスンのプロデュースで、ギターとヴォーカルでもヴァンがやりジョン・リー・フッカーと絡んで、さほど強くブルージーでもなくディープなフィーリングもなく、一般のロック〜ポップ・リスナーにも聴きやすい軽快なポップ・チューンに仕上っているってのはちょっと面白いんじゃないだろうか。

 

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