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2016/09/21

ファンクな「カルドニア」

100cotton

 

Jcrecordingsolo1975highenergy










ジェイムズ・コットンというブルーズ・ハーピスト。リトル・ウォルターの後任として1957年にマディ・ウォーターズのバンドにレギュラー参加したことで名を上げた人だけど、コットンが本領を発揮するようになったのはやっぱり1970年代のブッダ・レーベル時代だよなあ。ファンキーでカッコイイもんねえ。

 

 

ジェムズ・コットンのブッダ時代のはじまりは1974年の『100% コットン』。これのギターがご存知マット・マーフィーなのだ。以前も書いたブルーズ・ギタリスト・ナンバー・ワンの腕前なんじゃないかと思うほどの名人。この『100% コットン』でコットンは自分の世界を確立した。

 

 

『100% コットン』はブギ・ウギだかモダン・ブルーズだかファンクだか分らないような、そんな区別なんか不可能で無意味だと断言できるような音楽だ。一曲目が「ブギ・シング」という曲名で、タイトル通りマット・マーフィーがブギ・ウギのパターンを弾くが、バンドのリズムはファンクなのだ。

 

 

そんでもってジェイムズ・コットンのリード・ヴォーカルを中心にバンド・メンバーが合唱で賑やかに「ブギ・ウギ〜〜!」とリピートし、コットンのブルーズ・ハープがブロウするという内容。曲の仕上りは完全なるファンク・チューンだから、ファンクとはブルーズでありブギ・ウギであるのがよく分る。

 

 

『100% コットン』ではほぼどの曲もそんな感じのファンク・ブルーズで、ピュアな(ってなに?)ブルーズ界出身の音楽家がアルバム全体にわたりここまではっきりとファンクをやっているというのは、この1974年のアルバムが初だったかもしれない。一曲単位でならそれ以前にもあったけれど。

 

 

一般に『100% コットン』で最も有名なのは「ロケット 88」に間違いない。この曲を書き初演したのはジャッキー・ブレンストン名義になっているけれども、この人はアイク・ターナーのバンドのサックス奏者で、バック・バンドも実質的にアイクのキングズ・オヴ・リズムに他ならない。

 

 

そういうわけなので「ロケット 88」という12小節ブルーズはアイク・ターナー・ナンバーだと言って差支えないはず。僕はその同じ録音をアイクの単独盤は言うまでもなく、他にもニ種類のアンソロジーに収録されているのを持っている。ある意味この曲がシンボリックである証拠だ。

 

 

よりシンボリックに見えるのが『セイ・イット・ラウド!:ア・セレブレイション・オヴ・ブラック・ミュージック・イン・アメリカ』に収録されている方だなあ。タイトルでお分りの通りアメリカ黒人音楽礼賛アンソロジー・ボックス。ライノがリリースしたCD六枚組で、いろいろと面白い。

 

 

「ロケット 88」のジャッキー・ブレンストン&アイク・ターナーによるオリジナル・ヴァージョンは、その他、中村とうようさん編纂の『ブラック・ミュージックの伝統:ブルーズ、ブギ・アンド・ビート』にも収録されているのを持っている。僕が持っているのは以上三種類だけど、もっといろいろあるはずだ。

 

 

それらオリジナルを聴くと、アイク・ターナーが典型的なブギ・ウギ・リフを弾いているのだが、ジェイムズ・コットンの『100% コットン』ヴァージョンでもマット・マーフィーがやはり同じようにブギ・ウギ・リフを弾く。バンドのリズムはシャッフルの8ビートだからファンク度はやや薄いかも。

 

 

『100% コットン』でちょっと面白いなと思うのがアルバム・ラストの「フィーヴァー」だ。最も有名なのはおそらくペギー・リーの歌ったヴァージョンだろう。ペギーのヴァージョンでこの曲は世に知られ、ペギーのシグネチャー・ソングみたいになったもんなあ。エルヴィス・プレスリーも歌ったものがあって、僕はそっちの方が好き。

 

 

その他「フィーヴァー」は実にいろんな歌手がやっていて、そのなかにはネヴィル・ブラザーズ(『ネヴィライゼイション』)とかマドンナ(『エロティカ』)もいるんだけど、『100% コットン』のヴァージョンはコンガも入ってやはりエキゾティックな仕上りにしたファンクなフィーリング。

 

 

さてさて『100% コットン』もカッコいいファンク・ブルーズで大好きなんだけど、ブッダ時代のジェイムズ・コットンで僕がもっと好きなのは1975年の『ハイ・エナジー』と76年の『ライヴ&オン・ザ・ムーヴ』の二つ。コットンのブッダ時代はそれら三つで全部ということになる。

 

 

『ハイ・エナジー』と『ライヴ&オン・ザ・ムーヴ』とで僕が最も面白いんじゃないかと思うのが、どっちにも収録されている「カルドニア」だ。もちろん言うまでもなく、あの有名すぎるご存知ルイ・ジョーダン・ナンバーのジャンプ・ブルーズ。ジョーダンのオリジナルは1945年デッカ録音。

 

 

 

大好きなんだなあ、これ。特に「きゃろど〜〜にゃ!」っていう素っ頓狂なシャウトが最高じゃないか。これもホントいろんな音楽家がカヴァーしていて、ほぼ同時代にアースキン・ホーキンス楽団がやっているのをはじめ、黒人音楽家にはカヴァーしている人が多い。

 

 

B・B・キング(この人はよくルイ・ジョーダン・ナンバーをやるよね)とかジェイムズ・ブラウンとかマディ・ウォーターズとか、あるいは上で名前を出したアイク・ターナーもやっているし、ロバート・Jr・ロックウッドも例の1974年の日本でのライヴ盤でやっているもんなあ。

 

 

それがジェイムズ・コットンの『ハイ・エナジー』と『ライヴ&オン・ザ・ムーヴ』収録の2ヴァージョンではガラリと様変りして、モダン・ファンクに変貌している。といっても『ライヴ&オン・ザ・ムーヴ』収録のライヴ・ヴァージョンは、まだ少し従来からのブギ・ウギっぽいフィーリング。

 

 

ところが1975年録音の『ハイ・エナジー』収録ヴァージョンの「カルドニア」はちょっと俄に信じがたい完全なるファンク・チューンになっている。単独では YouTube に上がっていないがフル・アルバムで上がっているので、是非聴いてみて!30:58から。

 

 

 

どうだこれ?最高じゃないか。このファンクなカッティング・ギター、マット・マーフィーじゃないかもしれない。ギタリストはリード・ギター名義のマット・マーフィー以外にも二名クレジットされていて、スティーヴ・ヒューズ、テディ・ロイヤルと書かれているが、果して誰が刻んでいるんだろう?

 

 

だってこの『ハイ・エナジー』ヴァージョンの「カルドニア」冒頭から鳴っているカッティング・ギターは、こりゃまるでジェイムズ・ブラウン・バンドのジミー・ノーランみたいじゃないか。スーパー・ファンキーでカッコよくて、だから誰が刻んでいるのか凄く知りたいんだけどなあ。ご存知の方お願いします!

 

 

同時にこれまた冒頭から鳴っているベースもいいなあ。完全なるファンク・マナーでのベースの弾き方だよね。これは一名しかベーシストがクレジットされていないので間違いなくこの人であろうチャールズ・カルミーズ。マディ・ウォーターズなどでの録音でも弾いたシカゴの腕利きベーシスト。

 

 

ジェイムズ・コットンのヴォーカルは<歌う>というより<喋っている>という感じで、これは「カルドニア」のルイ・ジョーダンのオリジナル・ヴァージョン以来の伝統であるトーキング・ブルーズ。歌い終るとファンク・ビートに乗ってアンプリファイされたブルーズ・ハープがグワ〜〜ッって鳴りはじめるあたりのスリルと快感は筆舌に尽しがたい。

 

 

いやあ、こんなファンクな感じに仕上っている「カルドニア」って他にあるのかなあ。「カルドニア」に限らず1940年代のルイ・ジョーダンのジャンプ・ブルーズが、こんなにもタイトでシャープでグルーヴィーなファンク・チューンになっているものって、僕は音楽経験が浅いから他に聴いたことがない。

 

 

こういうジェイムズ・コットン『ハイ・エナジー』ヴァージョンの「カルドニア」を聴くと、ブギ・ウギ〜ジャンプ〜ブルーズ〜ファンクまでぜ〜んぶ一繋がりだってのを身に沁みて実感する。そもそも『ハイ・エナジー』というアルバムは、ジェイムズ・コットンのなかでも最もファンク度が強いアルバムだ。

 

 

『ハイ・エナジー』には一曲目の「ホット・ン・コールド」にのみアラン・トゥーサンが参加してピアノを弾いている。五人編成のホーン・セクションの演奏も入り、それはクレジットはないがアラン・トゥーサンが書いたアレンジによるものなのは、誰が聴いてもそうだと分るので間違いない。

 

 

これまた(演奏には参加していないが)アラン・トゥーサンの書いた曲である二曲目「チキン・ヘッド」ではファンキーで粘っこいクラヴィネットの音が聞えるが、それはワーデル・クェザーグによるもの。それにこれまたジミー・ノーランっぽい粘り気のあるカッティング・ギターが絡んでいる。

 

 

二曲目「チキン・ヘッド」でもホーン・セクションの音が入るので、やはり曲を書いたアラン・トゥーサンのアレンジに違いない。三曲目「ハード・タイム・ブルーズ」もアランの書いた曲で、一曲目以外アランは演奏では参加していないことになっているのだが、聞えるピアノはニュー・オーリンズ・スタイルだよなあ。

 

 

四曲目「アイ・ガット・ア・フィーリング」では冒頭から終始誰が弾いているのか分らないがこれまたファンク・マナーなギター・カッティングが聞え、しかもその音にはファズとワウが効いているので、まるでインヴィクタス系みたいなグチョグチョ、クチュクチュといったサウンドなのだ。ホント誰だろう?

 

 

五人編成のホーン・アンサンブルは『ハイ・エナジー』の殆どの曲で聞えるので、アラン・トゥーサンは間違いなくアルバム全体に関わってアレンジやプロデュース(的なこと)もしているよね。と思ってCDパッケージ附属の紙にある非常に細かい字を読むと、やはり彼のプロデュースとなっていた。

 

 

しかも『ハイ・エナジー』の録音自体がそもそもニュー・オーリンズのシー・サン・スタジオでやったとなっているじゃないか。いやあ、老眼鏡を掛けないと絶対に読めない細かい字なので、今まで億劫がって読んでいなかった。知らないまま長年愛聴してきたが、やはりニュー・オーリンズ・ファンク恐るべしということか。

 

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