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2016/09/27

カリビアン・ジャズ(・ファンク)

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ソニー・ロリンズの1956年作『サクソフォン・コロッサス』。ジャズ・ファンじゃなくたって音楽好きなら知らない人はいないよねえ。収録の全五曲が揃って超名演で、こんなのを創ってしまったがゆえに、その後のロリンズはしばらく、いや長い間かな、低迷してしまったというほどのウルトラ・マスターピースだ。

 

 

本当に収録の五曲全部いいんだけど、そのなかで僕が最も好きなのがアルバム・トップの「セント・トーマス」とラストの「ブルー・7」。前者の方は日本でも世界中でも大人気で、この1950年代から60年代にかけてはともかく、70年代以後はロリンズ本人もこのカリブ路線をファンク化していた。

 

 

ロリンズ自身はニュー・ヨークで生れ育った人間だが、両親がカリブ地域のいわゆる西インド諸島にあるアメリカ領ヴァージン諸島の出身で、セント・トーマス島もその一部。そのせいなのかどうなのか、いや間違いなくそのせいだろう、息子ソニーも子供の時分からカリブ音楽に接していたという話だ。

 

 

『サクソフォン・コロッサス』一曲目の「セント・トーマス」は間違いなくそんなロリンズの音楽的出自が出ている作品。しかしこれ、同じものを1955年にランディ・ウェストンが「ファイア・ダウン・ゼア」という曲名でレコーディングしているんだよね。

 

 

 

どうです?同じでしょ?もっともこれは一年早く録音しているランディ・ウェストンをロリンズがパクったということじゃないかもしれない。というのはこのメロディはカリブ地域の伝承物だそうだから、ロリンズはそれで知っていたんじゃないかなあ。ウェストンも。そのあたりの事情を僕は全く知らない。

 

 

どなたかそのあたりの詳しい事情をご存知の方に是非教えていただきたいと思います。それでもこの伝承曲だというカリブ・メロディを一躍有名にしたのがロリンズの「セント・トーマス」であったことだけにだけは誰も異論を挟む余地がないはず。冒頭からのマックス・ローチのドラミングも印象的だ。

 

 

 

マックス・ローチは最初スネアのチューニングをかなり硬めにしたカンカンという音で叩いているよね。それとハイハットでイントロを創っている。直後にロリンズのテーマ吹奏が出ても、スネアのチューニングはそのままでしばらく叩き続けて、一度目のロリンズのソロに続きローチのドラムス・ソロになだれ込む。

 

 

ドラムス・ソロ部分でもスネアのチューニングは硬め・高めのまま。あのカンカンという音で通常の4/4拍子でもないようなビートを叩くローチのドラミングとロリンズの吹くメロディこそが、大学生の頃の僕がメインストリームのモダン・ジャズのなかにカリブ風味を感じていた一つだった。しかしドラムス・ソロになってすぐにチューニングを変える。

 

 

通常のバシャバシャという音にスネアの音を変えているのだ。そのチューニング変更はスネアを叩いている真っ最中に行われているので、想像するに右手に持ったスティックでスネアを叩きながら同時に左手でやったんだろうなあ。器用だなあ、ローチは(失礼!)。しかも最初からずっと二拍と四拍でハイハットを踏んでいる。

 

 

ハイハットを二拍と四拍でステディに踏続けるというのはモダン・ジャズ・ドラミングの基本だし(これを変えたのが1964年頃のトニー・ウィリアムズで、全拍で踏んでしまう)、「セント・トーマス」でのローチも最初から最後まで同じ。だからメインストリームな4/4拍子感覚もしっかりある。

 

 

ってことは「セント・トーマス」のリズムはメインストリームのモダン・ジャズ風なんだか、それとはちょっと感じの違うカリブ風なんだかちょっと判断が難しいというか、この二つのミクスチャーのようなフィーリングだよなあ。こんなことができるドラマーは1956年時点ではローチしかいなかっただろう。どうしてこんなことができたんだろうなあ。

 

 

これもどなたかお分りの方に教えていただきたいです。ともかくそんな大変に面白い『サクソフォン・コロッサス』一曲目の「セント・トーマス」。1956年録音なんだけど、カリブ・ジャズはもっとその前からたくさん存在したわけだから、ジャズのメインストリームから姿を消していたのが先祖帰りしただけの話。

 

 

だからやはり「ジャズはラテン音楽の一種」だ。そんなジャズのルーツ回帰路線の一つである1956年の「セント・トーマス」は、その後もロリンズの得意レパートリーになって、前述の通り1970年代にはカリブ・ファンクみたいな音楽をやっていたから、その時期のヴァージョンはもっと面白いよ。

 

 

 

 

 

ウェザー・リポートに「ブラウン・ストリート」という曲がある。1979年リリースの二枚組『8:30』収録で、このアルバムのメインはライヴ音源だけど、一番面白いのは二枚目B面だったスタジオ録音サイドだ。その二曲目にあるのが「ブラウン・ストリート」。聴けばすぐ分るカリブ・ジャズだ。

 

 

 

「ブラウン・ストリート」のオリジナル・スタジオ録音はおそらく1979年初頭あたりなんじゃないかなあ。音源を貼ったので是非お聴きいただきたい。ベース・レスだけどいいじゃんこれ。このあたりからウェザー・リポートは面白くなくなったというのが一般の意見だろうけど、全然そんなことないよねえ。

 

 

はっきり言えばこれはカリプソ風なんだよね。ジョー・ザヴィヌルは1976年あたりからラテン音楽やアフリカ音楽への関心を強めていて、まずその頃雇ったドラマー/パーカッショニストがペルー出身のアレックス・アクーニャ。彼が叩いている『ヘヴィ・ウェザー』にはペルー音楽要素もあるじゃないか。

 

 

マイルス・デイヴィスも1973年9月に「カリプソ・フレリモ」をレコーディングしている。翌74年の『ゲット・アップ・ウィズ・イット』に収録されリアルタイムで発売された、かなり面白いが32分もあるという長尺曲。長すぎるので最後まで集中して聴くのが難しいという人が多いかも。

 

 

 

10:06でパッとリズムがチェンジして、カリブ風の賑やかな楽しい感じではなく落着いたスロー・テンポになり、ややダークで落着いた演奏になるんだが、21:40から再び元通りのカリブ風なリズムになって最後までそれが続いている。

 

 

しかもこの「カリプソ・フレリモ」は全体を通しどす黒い。真っ黒けなネグリチュードの権化みたいな一曲だよなあ。だからブラック・カリブ・ファンクだ。『ゲット・アップ・ウィズ・イット』には一枚目B面に、やはりラテンな「マイーシャ」がある。

 

 

 

この「マイーシャ」は1974年10月録音。だからこのフルートはデイヴ・リーブマンではなくソニー・フォーチュン。それもかなりいいよなあ。75年のライヴでは、サックスの方はどこが面白いのやらサッパリ分らないフォーチュンだけど、フルートはいいんだ。この「マイーシャ」のギター・ソロはドミニク・ゴーモン。

 

 

「マイーシャ」ではクラベスが刻む音もしっかり聞える。エムトゥーメじゃなくておそらくそれがピート・コージーの担当だったんじゃないかと僕は推測している。コンガとの多重録音でエムトゥーメが叩いているんじゃないのかと言われそうだけど、ボスのトランペット以外は多重録音したというデータはない。

 

 

『ゲット・アップ・ウィズ・イット』のクレジットでも、その他紙上でもネット上でも、ディスコグラフィカルなデータ記載ではピート・コージーはギターとなっているのだが、本人があのアルバムでは一切弾いていないんだ、ソロは全部ドミニク・ゴーモンなんだと証言している。これは深入りすると全く別の話になるのでやめておく。

 

 

しかもお聴きになって分る通りダークでヘヴィーな「カリプソ・フレリモ」と違って、「マイーシャ」のメロディは相当にポップで明快だ。ノリもこの時期のマイルスにしては軽快だし親しみやすく聴きやすい感じで、1975年来日時のインタヴューで児山紀芳さんも不思議がってマイルスに聞いていたくらい。

 

 

1973〜75年時期のマイルスのスタジオ録音には、長年未発表だったけれどこんな感じのカリブ〜ラテン・ジャズ・ファンクが他にいくつもある。現在では『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』六枚組に収録されて公式リリースされているので聴くのは容易だから、是非聴いてほしい。

 

 

そんなマイルスや、似たようなカリブ・ジャズ・ファンクをやっていた1970年代のロリンズや、あるいはそんなに黒くはないが前述のウェザー・リポートや、あの時代には他にも何人もいるけれど全員連動しあっていたんだなあ、今考えると。大学生の頃の僕は単に楽しいなあと思って聴いていただけだった。

 

 

メインストリームのモダン・ジャズにおけるそんなものの先駆けが1956年の『サクソフォン・コロッサス』一曲目「セント・トーマス」だったのかもしれないよね。元々カリブ地域発祥だったのかもしれないジャズなんだから、1970年代の書いたような展開も含め、それらはやっぱり先祖帰りでありルーツ回帰だったんだよね。

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