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2016/09/26

愛する名前を繰返す

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北アイルランド出身の音楽家ヴァン・モリスンのスタジオ・アルバムで僕が一番好きなのは1993年の『トゥー・ロング・イン・エクサイル』だ。どうしてかというとこれはブルーズ・アルバムだから。ブルーズ好きのヴァン・モリスン・リスナーであれば、誰だって納得していただきやすいはず。

 

 

スタジオ・アルバムに限らなければ、『トゥー・ロング・イン・エクサイル』の次作1994年のCD二枚組ライヴ・アルバム『ア・ナイト・イン・サン・フランシスコ』の方が好きだけど、これの話は今日はよしておこう。『トゥー・ロング・イン・エクサイル』にはストレートなブルーズ形式の楽曲も多い。

 

 

二曲目「ビッグ・タイム・オペレイターズ」は完全なる12小節3コードのブルーズ。ヴァンのヴォーカルもいいけれど、フィーチャーされているエレキ・ギターがえらくカッコイイなあと思ってブックレットのクレジット(一曲ごとにパーソネルが記載されている)を見ると、どうやらこれはヴァン自身のようだ。

 

 

「ビッグ・タイム・オペレイターズ」のギターはヴァンとロニー・ジョンスンの二名が記載されているが、ヴァンが「リード・エレクトリック・ギター」となっているので、やっぱりあの超ブルージーなギター・ソロはヴァン自身に間違いないんだろう。完全にアメリカ黒人ブルーズ・ギタリストにしか聞えない。

 

 

「ビッグ・タイム・オペレイターズ」におけるああいうエレキ・ブルーズ・ギターのスタイルは非常によく知っている聴き馴染のある、例のパキパキっていう奴で、これはアメリカ黒人の誰だろうか?とにかくよ〜く知ってるぞと思ってじっくり考えてみたら、ジョン・リー・フッカーにソックリなんだよなあ。

 

 

ジョン・リー・フッカーのレコードを一枚でも聴いたことのあるファンであれば、ああいうパキパキッ、ポキポキッっていうサウンドのブルーズ・ギター・スタイルをよくご存知のはず。それにしても「ビッグ・タイム・オペレイターズ」におけるヴァンのあのエレキ・ギターはちょっとそれに似すぎだよなあ。

 

 

ヴァンって普段からああいったギターの弾き方はしていないと僕は思うんだけど、これは僕が知らないだけなのだろうか?でも僕が聴いている範囲ではあそこまでジョン・リー・フッカーそっくりっていうのは他にないような気がする。曲形式は12小節3コードだから、それはフッカーがやることはそう多くないんだけどね。

 

 

そう思いながら『トゥー・ロング・イン・エクサイル』をじっくり聴き返してブックレットも読直すと、このアルバム、ジョン・リー・フッカー本人が参加しているじゃないか。しかも二曲も。しかもそのうち一つはあの「グローリア」だ。もちろんゼム時代のヴァンの代表曲。いろんなロック音楽家がカヴァーしているよね。

 

 

以前書いた通り米シカゴ近郊のガレージ・ロック・バンド、シャドウズ・オヴ・ナイトの最大のヒット曲がそのゼムの「グローリア」のカヴァーだし、ジミ・ヘンドリクスだってカヴァーしているもんね。ジミヘンの「グローリア」は『ジミ・ヘンドリクス・エクスピアリエンス』というCD四枚組ボックス収録。

 

 

そのボックス・セット附属のブックレットによると、ジミヘンの「グローリア」は1968年10月29日、ハリウッド録音。メンバーはエクスピアリエンスの三人。お馴染みのギター・リフをジミヘンが弾きメロディを歌うんだけど、最大の特徴は中間部でファズの効いた音でギター・ソロを弾きまくっているところだなあ。

 

 

そのあたりはやはりいつものジミヘン・スタイルだ。ところでヴァンの書いた「グローリア」という曲、大好きな女性の名前を繰返し唱えるというもので、あの「G、L、O、R、I、A」っていう一文字ずつ、まるで祈るように歌ったりするものだよね。これはだいたいみんなそんなもんなんじゃないかなあ。

 

 

性別に関係なく大好きな相手の名前をブツブツ繰返し唱えたり、場合によっては誰もいない河原かどこかで大声で叫んだり、ノートかなにかに何度も書いたりなどなど、そういうことって誰でもあるよね。なにかを、誰かを好きになるってのは、言ってみればその対象の名称愛、言語愛となって表れる。

 

 

かつて僕の専門的研究対象の一人だった作家に、帝政ロシア生れで革命によって亡命し欧州各国を放浪、アメリカで名声を上げたものの亡くなったのはスイスでだったという根っからのコスモポリタンでエクサイルであるウラジーミル・ナボコフがいる。彼の最も有名な英語小説作品は『ロリータ』だけど、あれだって同じなんだよね。

 

 

ナボコフの『ロリータ』からロリータ・コンプレックス、いわゆるロリコンっていう言葉が生れたりもしたので、単なる変態中年男性の少女性愛作品、ポルノグラフィー(として売れたのは間違いないんだけど)としてだけ捉えられているような気がするけれど、あれは言語愛を表明した作品に他ならない。”Lolita” ってのはそういう意味だから。”Gloria” もちょっと似ているなあ。

 

 

英文学(とだけも言切れないがナボコフは)の話はやめておくとして、愛する対象の名前をまるで呪文のようにリピートする、これはごくごく日常的な普通の行為なので、別に人間に限らず、音楽なんかでも好きになった音楽家名や作品名を反復してモゴモゴつぶやいたりするじゃないか、誰だってみんな。

 

 

ヴァンが書いてゼムが初演した「グローリア」もそんな曲だ。しかもこれはかなりシンプルな形のロック・ナンバーで、コード進行も実に簡単で、ほぼ3コード・ブルーズだと言っていい。だからこそ大ヒットして、1960年代のガレージ・ロック・バンドや、その他いろんな人がカヴァーしやすかったのだ。

 

 

そんな自身の代表曲である「グローリア」を『トゥー・ロング・イン・エクサイル』でアメリカの黒人ブルーズ・マンであるジョン・リー・フッカーを加えてセルフ・カヴァーしているってのはかなり面白いよね。例のギター・リフ(ヴァンだろう)に乗ってまずジョン・リー・フッカーがあの声で歌いはじめる。

 

 

ブックレットの記載ではギターはヴァンとジョン・リー・フッカーの二人。確かに二本聞えるが、どこまでがヴァンでどこまでがフッカーなのか分りにくい。自分で書いたものなんだから、お馴染みのリフを演奏しているのがヴァンだってのは間違いないと思うんだけど、フッカーはどこで弾いてんの?

 

 

その後ヴァンのヴォーカルも出てきて、ジョン・リー・フッカーと絡む。聴き進むと中間部のギター・ソロ、これがフッカーの弾くものに違いないというスタイルだ。曲の最終盤でもフッカーらしいフレーズが聞える。いやあ、これはいいなあ。ゼムのオリジナルよりも面白いんじゃないかと思うのは僕だけ?

 

 

ライヴではヴァンもこれ以前から「グローリア」をやっているみたいだけど、スタジオ作での再演は『トゥー・ロング・イン・エクサイル』ヴァージョンがゼム以来初じゃないかなあ。いろんなロッカーによるカヴァーがかなり多い曲だけど、『トゥー・ロング・イン・エクサイル』のセルフ・カヴァーが一番いいように聞える。

 

 

『トゥー・ロング・イン・エクサイル』ではもう一つ、九曲目の「ウェイスティッド・イヤーズ」にジョン・リー・フッカーが参加している。この曲ではフッカーはギターを弾かずヴォーカルだけ。ああいうボソボソと唸っているだけみたいなスタイルの人だから、ヴァンの声と好対照でいいね。

 

 

ヴァンとジョン・リー・フッカーの関係についてはよく知らないが、一枚フッカーのアルバムをヴァンがプロデュースしたものがあるね。1997年の『ドント・ルック・バック』だ。ヴァンはヴォーカルとギターで演奏にも参加しているし、他にもロス・ロボスの面々やその他いろんな人が参加していて楽しい。

 

 

そのジョン・リー・フッカーの『ドント・ルック・バック』のことをちょっと調べてみたら、このアメリカ黒人ブルーズ・マンとヴァンとはかなり前から関係があるみたいだ。僕はゼム時代をちゃんと聴いていないんだけど、フッカーの「ドント・ルック・バック」を当時カヴァーしていたらしい。

 

 

ってことは1960年代から関係があったんだ、この二人は。そんでもって実際に顔を合せての初共演が1972年のことだそうなので、昨日・今日はじまった交流じゃなかったんだねえ。知らなかったのは僕だけなんだろう。スタジオ・アルバムでの正式共演は『トゥー・ロング・イン・エクサイル』が初かなあ?

 

 

『トゥー・ロング・イン・エクサイル』がブルーズ・アルバムに聞えるというのはそんなせいばかりではない。「グローリア」の次の八曲目「グッド・モーニング・リトル・スクール・ガール」は曲名でお分りの通りサニー・ボーイ・ウィリアムスン(一世の方)の曲だよね。1937年初演のブルーズ。

 

 

その他書いたようにスーパー・ブルージーな二曲目「ビッグ・タイム・オペレイターズ」も三曲目「ロンリー・アヴェニュー」もブルーズだし、ラスト11曲目のメドレー「インストルメンタル/テル・ミー・ワット・ユー・ワント」も完全なるブルーズ。特に前半のインストルメンタル演奏部分は真っ黒けで、ヴァンが若干唸っているだけだから完全にジョン・リー・フッカーだ。

 

 

『トゥー・ロング・イン・エクサイル』で面白いのは11曲目の「ムーディーズ・ムード・フォー・ラヴ」。タイトル通りアメリカのジャズ・サックス奏者ジェイムズ・ムーディーが作曲者としてクレジットされているが、彼が「書いた」とも言いにくい。彼のサックス・ソロを抜出して曲みたいにしただけだからだ。

 

 

ジェイムズ・ムーディーがサックスで吹いたアドリブ・ソロを「曲」としてピック・アップし歌詞を付けたのが、ヴォーカリーズの世界では最有名人のエディ・ジェファースン。ヴァンの『トゥー・ロング・イン・エクサイル』ヴァージョンしか知らない人だって、メカニカルな器楽的旋律だなと気付くはず。

 

 

その他ジャジーなヴァイブラフォンが聞える曲も複数あったりするし、『トゥー・ロング・イン・エクサイル』は全体としてはブルーズ・アルバムに間違いないだろうと思うんだ けど、ちょっぴりジャジー、それもファンキーなソウル・ジャズ風で、どこをどう切取っても僕好みの最高のアルバムなんだよね。

 

 

それはそうと『トゥー・ロング・イン・エクサイル』のアルバム・ジャケット、これはシカゴ市内の写真じゃないのかなあ。この街に馴染のある僕にはそう見えるんだけど、クレジットは見ていない。ご存知の方がいらっしゃれば教えてください。

 

 

なお最初で書いた次作のライヴ盤『ア・ナイト・イン・サン・フランシスコ』では、そんなブルーズ&ジャズ風な側面をもっと拡大してあって、これにもジョン・リー・フッカーがゲスト参加して「グローリア」をやっているし、オリジナルからスウィング・ジャズである「ムーンダンス」もあるし、これもいいよ。このライヴ・アルバムの話はまた別の機会に。

 

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コメント

ヴァンはジョン・リーの72年作「Never Get Out Of These Blues Alive」に参加しています。
ヴァンの歌も聴けるタイトル曲なんかはとしまさん好みじゃないですかね。
https://www.youtube.com/watch?v=dXNevlS-zlo
以降結構な回数アルバムにゲスト参加してますよ。

ジャケの写真に関しては以前こんな記事を書きました。
http://astral-clave.blog.so-net.ne.jp/2010-06-25

お名前がありませんがAstralさんですね。ありがとうございます。貼って下さっている音源を聴いてみます。フッカーのそのアルバムは未聴ですので、それも買います。そんでもってジャケ写はシカゴじゃなくてニュー・ヨークですか。意外だなあ。

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