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2016/09/08

ブルーズを歌う女たち

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収録曲の三分の二は既に持っているにもかかわらず買ってしまった『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』。バカだよなあ、僕って。でもそうせずにおれないというくらい古い女性ブルーズ歌手たちが大好きなんだよね。それにしてもこの『ザ・ラフ・ガイド』シリーズ、いったい何枚あるんだろう?

 

 

英国の World Music Network がリリースしている『ザ・ラフ・ガイド』シリーズ。ジャンルで括ったり一人の音楽家に絞ったりしてたくさん出ているが、他に僕が持っているのは『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ゴスペル・ブルーズ』だけ。しかしアマゾンでちょっと見てみたら相当な数がある。

 

 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ゴスペル・ブルーズ』はタイトルでお分りの通り、僕も繰返しているようにゴスペルとブルーズの境界線は引けないんだというのを実際のいろんな音楽家の録音全25曲を並べて実証するというもの。こういうアンソロジーはなかなかないと思うので買ってみた。楽しいよ。

 

 

『ザ・ラフ・ガイド』シリーズでも、一つのジャンルや一人の音楽家に絞ってあるものは特に持っておく必要がないので僕は買う気がしないが、米英大衆音楽だけでなく世界のいろんな音楽、例えばアラブ音楽やトルコ音楽などのアンソロジーもあるようだから、初心者向けにはいいのかもしれない。

 

 

今年2016年にリリースされた『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』も、これを買ったのは1920〜30年代の古い女性ブルーズ歌手が大好き(全25曲の収録音源の録音年は1922年から、新しくても35年まで)だからというのも理由だけど、実はもっと大きな理由があるのだ。

 

 

それは多くの場合両方を熱心に聴く人がやや少ないんじゃないかと思う、ピアノやジャズ・バンドの伴奏でやる都会のブルーズ、通称クラシック・ブルーズの女性歌手と、そのちょっと後に録音を開始するギター伴奏がメインの田舎のブルーズ、通称カントリー・ブルーズの両方が収録されているからだ。

 

 

1920年代が最盛期のクラシック・ブルーズが女性中心の世界だったことはみなさんよくご存知のはず。そして成立していたのはもっと早かったはずだけど録音開始は少し遅れたカントリー・ブルーズは、やはり男性がギターを鳴らしながら歌う世界だという認識のファンが多いんじゃないかなあ。

 

 

言うまでもなくカントリー・ブルーズの世界にも女性歌手が結構いる。そして『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』では、それら女性が歌うカントリー・ブルーズ(というかルーラル・ブルーズと書いておいた方が誤解がないかも)とクラシック・ブルーズの録音両方を、そこそこ上手い具合に並べている。

 

 

そのおかげで『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』では、録音開始時期がより早かったせいでレコードも流通していたせいだろう、1920年代のクラシック・ブルーズの女性歌手が、その後に録音を開始するカントリー(ルーラル)・ブルーズの女性歌手に与えた影響も分るんだよね。

 

 

そんな具合のブルーズ・アンソロジーって今までなかったんじゃない?少なくとも僕は知らないので、それで『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』を買ってみたという次第。ただしこれ一枚を普通に通して聴いているだけだと、そんなブルーズ史的影響関係のお勉強をしている気分には全くならない。

 

 

やはり僕はこういう古いブルーズが大好きなせいなんだろう、『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』は単なる娯楽、聴いて楽しいエンターテイメントなんだよなあ。夜中12時過ぎにこれを大きすぎない音量で鳴らしていると、就寝前のいい感じのベッドタイム・ミュージックになる。

 

 

ちょっと話が逸れちゃうようなそうでもないようなことを書いておく。僕の大好きでたまらないルイ・アームストロングの1927年録音「ポテト・ヘッド・ブルーズ」を、誰だったか名前は完全に忘れちゃったけれど戦前の女優が大変気に入っていて、毎晩寝る前には必ずこれを聴いてからベッドに入っていたという。誰だっけなあ?

 

 

そんなに大きくは話が逸れていないように思う。『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』にはそのサッチモが伴奏をやった録音が複数含まれているからだ。サッチモの1920年代録音は<ブルーズ>の枠で扱ってもいいくらいで、小出斉さんもブルーズのガイドブックに載せてくれたらいいのになあ。

 

 

小出さんの『ブルースCDガイド・ブック』にはベシー・スミスなどいわゆるクラシック・ブルーズはもちろん掲載されている。それらの録音の多くでサッチモが伴奏を務めているし、そうでなくなって1920年代のサッチモはブルーズ・ナンバーばっかりで区別不可能なんだから、やっぱり載せてよね、小出さん。

 

 

それははともかく『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』。だいたいが知っている歌手で既に持っている録音が多い。そうであるとはいえ、マ・レイニー、ベシー・スミス、シッピー・ウォレス、メンフィス・ミニーなど超ビッグ・ネームに並んで、知らない名前も少し混じっていた。

 

 

例えば八曲目のロッティ・キンブロウ(Lottie Kimbrough)という歌手は知らん。ファット・ポッサムに録音した(ってことは当然かなり最近の)ジュニア・キンブロウという男性ブルーズマンがいたけれど、関係あるのかなあ?ギター伴奏だけだから彼女一人での弾き語り録音なのか?

 

 

ロッティ・キンブロウは「ローリン・ログ・ブルーズ」という1928年録音が収録されているけれど、これのギターが彼女自身だとするとなかなか上手い。ラグタイム・ギターの名残も感じるスタイルで、ちょっぴり(男性だけど)ブラインド・ウィリー・マクテル風な弾き方だなあ。

 

 

ブラインド・ウィリー・マクテルといえば、その奧さんケイト・マクテルが『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』に一曲収録されている。10曲目の1935年録音「ガッド・ドント・ライク・イット」で、これは当時の夫ブラインド・ウィリーとのデュオ録音で、かなり聴かせるいいブルーズだ。

 

 

ケイト・マクテルはヴォーカルだけで、ギター伴奏をブラインド・ウィリーがやっているんだけど、彼もスーパー・スターだから、そのギター・スタイルについて解説しておく必要は全くない。なおその1935年録音というのは、21曲目ルシール・ボーガンの「シェイヴ・エム・ドライ」と並び、このアンソロジーでは最も新しい録音。


 

そのルシール・ボーガンの「シェイヴ・エム・ドライ」は1935年録音とは思えない古いスタイルで、完全にその10年くらい前のクラシック・ブルーズだなあ。伴奏もさほどブルージーではないピアノ一台だけ。ひょっとしたらそれはクラレンス・ウィリアムズかもしれないが、記載がないし自信もない。


 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』CD には、パーソネルなど詳細な録音データや解説文を記載したブックレットみたいなものは付いておらず、パッケージに曲名と作者名と歌手名と録音年の四つが愛想なく並んでいるだけだから、僕が知らない録音は伴奏者が分らないのだ。

 

それでも1935年録音のピアノ伴奏しか入っていないルシール・ボーガン「シェイヴ・エム・ドライ」を聴くと、そのピアノ・スタイルは、クラレンス・ウィリアムズなんじゃないかという気が僕はするんだなあ。というのはこのピアニストはベシー・スミスの伴奏をやった人なので僕も非常によく知っている。


 

ただしルシール・ボーガン「シェイヴ・エム・ドライ」は1935年録音で、その伴奏ピアノのスタイルにはブギ・ウギ・ピアノの影響がはっきりと聴取れる。だからこれはベシー・スミスの伴奏では全くブギ・ウギがないクラレンス・ウィリアムズが後にそれを習得したか、あるいはやはり別のピアニストなのかも。


 

そんなクラレンス・ウィリアムズ(かどうか)が伴奏をやった時代もあるベシー・スミスの録音も『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』には当然のように収録されている。そもそもご覧のようにこのアルバムのジャケット・デザインがベシーの写真を使っているんだから、代表格ってことだよね。


 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』に収録されているベシー・スミスは四曲目の「ケアレス・ラヴ・ブルーズ」。ベシーの最も有名なレパートリーの一つだ。伴奏のコルネットが前述の通りルイ・アームストロング。フレッチャー・ヘンダースン楽団在籍時代だ。やっぱりいいよなあこれは。


 

サッチモが伴奏をやったベシーの録音の筆舌に尽しがたい素晴しさについては昔から大勢の方々が書いているので、僕が加えることはなに一つない。いやあ、僕はホントにベシーのこういう歌が大好きで大好きでたまらない。なんて魅力的なんだ。彼女一人で最高に感動的なのにサッチモまで聴けるだからなんの文句もない。


 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』にはサッチモが伴奏をやったものがもう一曲収録されている(が前述の通り記載はない)。七曲目のバーサ・チッピー・ヒルの26年録音「トラブル・イン・マインド」。僕はこれのコルネット伴奏がサッチモだと知っているけれど、知らなくたって聴けばみんな分るはず。


 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』には、以前書いた通り(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-f983.html)僕の大好きな古いブルーズ・スタンダードである「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」もあるのが嬉しい。13曲目のサラ・マーティンによる1922年録音だ。


 

サラ・マーティンのヴァージョンでは曲名が「テイント・ノーバディーズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー」表記になっている。正直に告白するとサラ・マーティンという歌手もそれまで名前を知らなかったので調べてみたら、なんと「最も人気のあったクラシック・ブルース歌手の一人」だそうだ。う〜〜ん・・・。


 

そんでもってサラ・マーティンの歌う1922年録音の「テイント・ノーバディーズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー」は相当に有名なんだそうで、というのは『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』には記載がないが、これの伴奏ピアニストがファッツ・ウォーラーだということになっていて、しかもこれがこの曲の史上初録音だというデータもある。う〜〜ん・・・。


 

どうして「う〜〜ん」と唸っているかというと僕はファッツ・ウォーラーの全録音を持っている。それで慌ててその四枚組が六つというファッツの全録音集ボックスを見たら、一箱目一枚目の三曲目にサラ・マーティンの歌う「テイント・ノーバディーズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー」があるじゃないのさ。


 

そのファッツ・ウォーラー全集附属のデータ記載を見たら、サラ・マーティンとファッツ・ウォーラーの「テイント・ノーバディーズ・ビジネス・イフ・アイ・ドゥー」は1922年12月1日、ニュー・ヨークでの録音なんだなあ。しかしどうしてこれを忘れていたんだろう?サイズが大きいから iTunes に入れていないせいか?検索しても出てこないわけだから。

 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』。二曲目にマ・レイニーの歌う「スタック・オ・リー・ブルーズ」があり、九曲目にピアノ弾き語りのデルタ・ブルーズ・ウーマン、ルイーズ・ジョンスンがあり、12曲目にはお馴染み女性ギター弾き語りのパイオニア、メンフィス・ミニーがあったりなどなど。


 

『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』で一番ビックリしたのは17曲目の「ジ・アーケイド・ビルディング・モーン」を歌うリオーラ・マニング(Leola Manning)だなあ。この人も知らなかったが、すんごい張りのある堂々としたビッグ・ヴォイスで、こりゃ最高だ。この曲名はひょっとしてビル火災かなにかのことだろうか?


 

単に大好きだからというのと、クラシック・ブルーズとカントリー・ブルーズが一緒に並んでいるという今まで見たことのない選曲・配列だったので僕は買った『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・ブルーズ・ウィミン』。このあたりの古い女性ブルーズ歌手にどれだけの人が興味を持つか分らないけど、本当に楽しいよ。


 

シリーズ・タイトル通り雑で荒っぽいものかもしれないけれど、1920〜30年代の古い女性ブルーズ歌手入門の取り敢ずのとっかかりの一枚としては、なかなかよくできたアンソロジーだと思うので、今までこういうのは苦手だなあと敬遠していたリスナーの方々にも是非オススメしておきたい。

 

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