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2016/09/01

素晴しき神の恩寵

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アメリカのキリスト教宗教音楽家はもちろんのこと、いろんなジャンルの世俗音楽家もやるゴスペル曲というと「アメイジング・グレイス」が最右翼なんじゃないだろうか。これが最も多くの人がやっていそう。「聖者の行進」もあるけれど、あれは宗教曲というより宗教的世俗歌といった方が近いかもしれない。

 

 

だから敬虔な宗教曲でありながら、そのまま世俗音楽家も最もたくさんやっているのが「アメイジング・グレイス」だろう。もっともこの曲、一般的にはアメリカ黒人の間で歌われて有名になったからブラック・ゴスペル・ソングのように思われているけれど、元々はアメリカ産の曲じゃないよね。

 

 

「アメイジング・グレイス」の誕生の由来とか発祥の経緯とかについては、ネットでちょっと調べれば分るので詳しく書く必要などないけれど、英国産の賛美歌で、しかもメロディはイングランドではなくスコットランドやアイルランドなどいわゆるケルト文化圏の由来だというのが定説。

 

 

そういえばスコットランドのバグパイプ合奏団が「アメイジング・グレイス」を演奏するのを、僕も随分前にテレビで見聴きしたことがある。その頃、既にアメリカ産の黒人宗教歌のように思っていたのでちょっとビックリし、そして歌詞のないインストルメンタル演奏なわけだからやや新鮮な響きだった。

 

 

現在僕が持っている「アメイジング・グレイス」はたったの10個だけ。もちろん数えたのは僕ではなく Mac の iTunes の検索機能。だからCDで持ってはいるがインポートしていないもの(が全体の七割方)を含めればもっとあるはずだけど、それを探し出すのはやや面倒くさい。

 

 

ところで「アメイジング・グレイス」という曲は、ある時期以後の日本では、ひょっとして本田美奈子が歌っていたので有名になっているんだろうか?若くして亡くなってしまった彼女の晩年というか闘病中のシンボリック・ソングのようになっていたから。僕にとっては「1986年のマリリン」の人なんだが。

 

 

本田美奈子ヴァージョンも悪くはないと思うし、その他白鳥英美子(トワ・エ・モワ)ヴァージョンなども僕は聴いていないが有名なんだそうだ。しかしながら僕にとっての「アメイジング・グレイス」は、最初に書いたようにアメリカ黒人のやる曲という認識だから、それら日本人歌手のはイマイチなのだ。

 

 

「透明感のある歌声」というのは褒め言葉だけど、以前から繰返しているように歌声でも楽器の音でも濁って歪んだものこそがより「美しい」と感じてしまう性分の僕なもんだから、やっぱり線の細い歌声はあまり好きじゃない。澄んだ歌声でも芯の太さがないとね。アメリカ黒人がグリグリと歌ってくれた方が好きだ。

 

 

たった10個しか( iTunes 内には)見つからない「アメイジング・グレイス」の僕が持っている最も早い録音は、マヘリア・ジャクスン・ヴァージョンで1947年録音。『ハウ・アイ・ガット・オーヴァー』というCD三枚の1946〜54年アポロ・セッション集に収録されている。

 

 

そのマヘリアの1947年アポロ録音「アメイジング・グレイス」はオルガン一台だけの伴奏で歌っている。相当に力強い歌声とコブシ廻しで、やっぱりこういったアメリカ黒人ゴスペル歌手にこそ歌ってほしいよねと強く実感する素晴しい出来だ。マヘリアのこういう歌は本当に何度聴いても感動する。

 

 

年代順に言うと僕の持っている「アメイジング・グレイス」ではその次がやはり黒人ゴスペル歌手シスター・ロゼッタ・サープの1951年録音。彼女とザ・ロゼッタ・ゴスペル・シンガーズとの共演名義になっているが、聞える声はロゼッタ以外には一人の女性だけ。伴奏はこれまたオルガン一台のみで敬虔な雰囲気。

 

 

そのシスター・ロゼッタ・サープの歌い方を聴くと、明らかに1947年マヘリア・ヴァージョンの影響が聴取れる。ロゼッタがレコーディングする四年も前にレコードが出ているし、そうでなくたって1950年代からその少し後くらいまではマヘリアの影響がゴスペル界にはかなり強く及んでいた。

 

 

ロゼッタの1951年録音ヴァージョン(しかないはずだ、彼女のやるものは)の「アメイジング・グレイス」もオルガン一台の伴奏だというのは完全にキリスト教会音楽のスタイルだよね。貧乏でオルガンなどが買えない教会が代用品としてスティール・ギターを使ったりする以外はほぼ全て同じ。

 

 

そのスティール・ギターを伴奏に用いたゴスペル音楽、すなわちセイクリッド・スティールの世界でも「アメイジング・グレイス」は演奏されていて、僕は三種類持っている。たった十個のうち三個がセイクリッド・スティールでの録音だなんて、なんだかちょっとヘンだよなあ(苦笑)。

 

 

「スティール・ギターを伴奏に用いて」と書いたけれど、これはちょっと不正確なのだ。セイクリッド・スティールの世界では、確かにそれを伴奏に使って歌手が歌うものもあるけれど、それよりもペダル・スティール・ギターがぐいぐい弾きまくるインストルメンタル演奏の方がずっと多いんだよね。

 

 

僕が持っているセイクリッド・スティール・ヴァージョンの「アメイジング・グレイス」も、三つのうち二つがインストルメンタル演奏。一つはソニー・トレッドウェイがペダル・スティールを弾く1994年録音で、アーフリー・レーベルがリリースしたアンソロジー『セイクリッド・スティール』収録。

 

 

もう一つがやはり同じくアーフリーが出した『セカンド・アニュアル・セイクリッド・スティール・コンヴェンション』収録の2001年録音で、ダン・チャックと、セイクリッド・スティール界では最有名人の一人チャック・キャンベルの二人ともがペダル・スティールを弾いて絡み合うインスト演奏だ。

 

 

それらセイクリッド・スティールのインストルメンタル演奏での「アメイジング・グレイス」二つを聴くと、ダン・チャック&チャック・キャンベルのペダル・スティール・デュオの方が僕には面白い。宗教的な敬虔さを(キリスト教者ではない僕でも)より強く感じるのはソニー・トレッドウェイ・ヴァージョンの方だけど。

 

 

もう一つ、アンソロジー『セイクリッド・スティール』にはこの世界ではやはりかなりの有名人ヘンリー・ネルスンがペダル・スティールを弾き、ベースとドラムスの伴奏も入って、さらに歌手ベシー・ブリンストンがお馴染みの歌詞とメロディを歌っているヴァージョンも収録されている。1993年録音でこれもかなりいい。

 

 

ここまではほぼ専業的宗教音楽家のやる「アメイジング・グレイス」の話だったけれど、最初に書いているように世俗音楽家もたくさんやっている曲なので、そういうものも少し持っている僕。そのなかで個人的に一番のお気に入りはロック歌手エルヴィス・プレスリーのヴァージョン。本当に素晴しいんだ。

 

 

エルヴィスは結構たくさんゴスペル・ソングも歌っているのはみなさんご存知の通り。エルヴィスは白人でありかつ黒人音楽要素も強いという人だから、ホワイト・ゴスペル、ブラック・ゴスペル双方の要素がはっきりと聴取れる。エルヴィスにはゴスペル・アルバムが何枚かあるよね。

 

 

しかし僕が持っているのは個々のアルバムではなく、2000年に米RCAがCD三枚組でリリースした『ピース・イン・ザ・ヴァリー:ザ・コンプリート・ゴスペル・レコーディングズ』というもので、エルヴィスの歌ったゴスペル・ソング集大成。これは本当にいろいろと興味深いアルバム・セットなのだ。

 

 

エルヴィスの「アメイジング・グレイス」は1971年録音。ピアノ+ベース+ドラムスの伴奏に加え、聖歌隊がバック・コーラスで入っている。ブックレットのクレジットではちょっと分らないのだが、どう聴いてもこれは大編成のマス・クワイアに間違いない。ド迫力のそれに乗るエルヴィスの歌もいい。

 

 

エルヴィスのゴスペル・ソングについては、そのCD三枚組完全集をじっくりと聴直しなにか書いてみようと思っている。さてエルヴィス以外の世俗歌手が歌う「アメイジング・グレイス」は僕は二つしか持っていない。ネヴィル・ブラザーズのとアリーサ・フランクリンのヴァージョンでどっちもライヴ。

 

 

アリーサの方は相当に有名なはず。なぜならば彼女がゴスペル・ソングを歌ったライヴ・アルバムが『アメイジング・グレイス』というタイトルだからだ。1972年にロサンジェルスの教会で行ったレコーディング・セッションを収録したアトランティック盤で、昔から名盤として名高いものだ。完全集CDもある。

 

 

僕が現在愛聴しているのもライノが1999年にリリースした『アメイジング・グレイス:ザ・コンプリート・レコーディングズ』。マーヴィン・ゲイの「ホーリー・ホーリー」やキャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」やジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」などもやっているんだよね。

 

 

つまり世俗曲をも宗教的な解釈で採り上げているわけで、生粋の宗教歌とあわせそれらの伴奏をやっているなかに、世俗音楽家のコーネル・デュプリー、チャック・レイニー、バーナード・パーディなどもいて、これだから教会音楽/世俗音楽の間に厳密な境界線なんか引けないんだよね。まあそれはいいや。

 

 

アリーサのこのゴスペル・ライヴ・アルバムについても言いたいことが山ほどあるので、詳しくはまた別の機会にしよう。アリーサの「アメイジング・グレイス」は、アレクサンダー・ハミルトン師の「次の曲を紹介する必要はないでしょう」とはじまる語りに続き、アリーサの歌とマス・クワイアが入る。

 

 

その冒頭のゴスペル・クワイアの迫力に驚いていると、アリーサがソロで歌いはじめ、ジェイムズ・クリーヴランド師の弾くピアノに乗ってメロディを自由にフェイクしぐりぐりとコブシを廻しながら、「アメイジング・グレイス」という歌の持つ意味を強調しているような歌い方だ。後半の声の強い張りと伸びは絶品。

 

 

こういうアリーサの「アメイジング・グレイス」を聴くと、やはりこの歌手はゴスペル・ルーツの人で、世俗音楽のソウル・ミュージックを歌う時のその歌い方の根底にそれがあることを強烈に実感する。「ア・ナチュラル・ウーマン」だってなんだって全部そうなのだというのが非常にクッキリと分っちゃうのだ。

 

 

さてさて、ネヴィル・ブラザーズのライヴ盤でエアロン・ネヴィル(「アーロン」ではない)が歌う二種類の「アメイジング・グレイス」や、ダーティ・ダズン・ブラス・バンドの非常に短いがしかし荘厳な雰囲気のホーン・アンサンブル・ヴァージョンなどについて書いている余裕がなくなってしまったね。

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