« オーティス・ラッシュ、君から離れられないよ | トップページ | ティト・プエンテのフジ・アルバム »

2016/09/16

マイルス・ファースト・クインテットの実力

51vvx61qpal

 

412bvpkcoll

 

Workinlp11

 

Steamin_with_the_miles_davis_quint









マイルス・デイヴィスが1956/5/11と同10/26にプレスティッジに録音した全26曲。このいわゆるマラソン・セッションからご存知四枚のレコードが誕生した。リリース順に『クッキン』『リラクシン』「ワーキン」『スティーミン』。これらがアクースティック・マイルスではある意味最も良い。

 

 

アクースティック・ジャズ時代のマイルスで一番良いものは、いやいや『カインド・オヴ・ブルー』周辺だとか、1960年代中期のライヴ録音だとか、それと同一リズム・セクションによる65〜68年までのスタジオ作品、なかでも『ソーサラー』『ネフェルティティ』だとかいろんな声があるよね。

 

 

そんないろんな声のうち、『ソーサラー』『ネフェルティティ』がアクースティック・マイルスでは一番優れている、ジャズの極地だとする意見は結構あるけれど、個人的にはこれに全くうなずけない。この話は悪口に、それもマイルスにではなく、そういうファンの方々への悪口になってしまうのでやめておく。

 

 

ある時油井正一さんは、長年1955年結成のマイルス・ファースト・クインテットこそが一番凄いと思っていたけれど、最近は1960年代中期のセカンド・クインテットの方がもっと凄いと実感するようになったと書いていた。僕の場合はこの油井さんの完全に逆パターンを行っているんだなあ。

 

 

すなわち僕は長年1960年代中期のハービー・ハンコック+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズ時代こそがアクースティック・マイルスでは最も凄いもので、それはスタジオ作ではなくライヴ・アルバムで強く実感していた。サックス奏者はジョージ・コールマン、サム・リヴァース、ウェイン・ショーターと交代するけれども。

 

 

それに比べたら1956年にプレスティッジに録音された前述四枚になったマラソン・セッションはまだまだなんだか緩いじゃん、大したことないじゃんねえと思っていたのだが、ここ五・六年はこの印象が完全に逆転していて、それら四枚のプレスティッジ盤こそ一番優れていると感じはじめているのだ。

 

 

これはファースト・クインテットの実力にようやく初めて気付き、かつての油井さんのような気持になってきたのか、あるいは単なる趣味嗜好の変化なのか、自分でもちょっと分らない。でも前述マラソン・セッションから誕生した四枚のプレスティッジ盤を聴くと、なんだかこれはかなり凄い音楽だぞと実感するのだ。

 

 

それらマラソン・セッションの全26曲が全てファースト・テイクで収録されたものだ(ということになっている)というのもそんな印象に拍車をかけている一因。簡単な打ち合せと音出しだけのたった一回のテイクでそれら全曲が録音されたというのが本当なら、このバンドの実力レヴェルはとんでもなく高い。

 

 

例えば10/26のセッションで最初に録音された「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」(『リラクシン』)。お聴きになれば分るように「曲名は後で教えるよ」とイジワルなことマイルスが言って指を鳴らしてカウントを取って演奏がスタートする。

 

 

 

僕が感心するのは最初のマイルスによるテーマ吹奏の際のリズム・セクションの動き、特にレッド・ガーランドの入れるピアノ伴奏の絶妙さだ。マイルスの吹くメロディのほんの一瞬の隙間に、これ以外のタイミングもなくこれ以外の音もありえないというシングル・トーンをコンと入れている。

 

 

さらにマイルスのソロが終ってジョン・コルトレーンのソロに移行する瞬間にもレッド・ガーランドが一音コンと叩いて入れていて、その絶妙さたるや舌を巻く。続く三番手で出る自らのピアノ・ソロもいい内容。最初シングル・トーン弾き、次いでブロック・コード弾きになるといういつものお馴染みパターンだ。

 

 

そしてこの「イフ・アイ・ワー・ベル」で僕が最も見事だと思うのは、そのピアノ・ソロが終了して再びマイルスによるテーマ吹奏になるその直前のほんの一瞬だけバンドの演奏が止った瞬間に、またしても一音コンと叩いて入れているね。たった一つのシングル・トーンでああまで絶大な効果をバンド全体にもたらす人を、僕は他に知らない。

 

 

その他「イフ・アイ・ワー・ベル」ではレッド・ガーランドもポール・チェンバースもフィリー・ジョー・ジョーンズも全員巧妙なバッキングで、これ、譜面化されたアレンジなしはもちろんのこと、本当にリハーサルなしの一回テイクで完成したものだったのだろうか?どうやら本当らしいので、俄に信じがたいことなんだなあ。

 

 

これは分りやすい一例をあげただけで、マラソン・セッションで収録された全26曲全て同じように本当に一回テイクでの収録なのか?と疑いたくなるような巧妙な演奏ぶりだよね。特にリズム・セクションの三人の動きが絶妙で、ここで出す音はこれ以外ありえないという完成度の高い演奏をしている。

 

 

マラソン・セッションでは全部の曲が譜面化されたアレンジなしの一発勝負だったということになっていて、確かにそうだったんだろう。ほぼ全てがね。「ほぼ」というのは、譜面化されていたかどうかはともかく、事前にアレンジされていたであろうと僕には思えてならないものが実は三曲だけあるのだ。

 

 

それは『リラクシン』の「ウッドゥン・ユー」(https://www.youtube.com/watch?v=tyfmCF0k5KY)、『スティーミン』の「ウェル、ユー・ニードゥント」(https://www.youtube.com/watch?v=JQAz2I2c_ws)、『ワーキン』の「ハーフ・ネルスン」(https://www.youtube.com/watch?v=IZ5U4sMYTWA)。

 

 

これら三つはお聴きになれば分るように、各人のソロが終って最終テーマ吹奏になる直前にマイルスとコルトレーンが一つのリフをユニゾン合奏していて、しかもリズム・セクションもそれに合せた演奏になっている。お聴きになってどうだろうか?僕にはヘッド・アレンジだけでは不可能なものに聞える。

 

 

しかもそのホーン二管がユニゾンで奏でるリフは事前の口頭での打ち合せだけでも難しいような感じで、これはあるいはひょっとして譜面化されていたんじゃないか、その可能性が少しはあるんじゃないかと僕は最近考えるようになっている。しかしこの意見はマラソン・セッションに関する定説を完全に覆すものだ。

 

 

おそらく世界中で誰一人として、そんな事前の譜面化されたアレンジが(たった三曲だけとはいえ)あったなんてことは言っていない。少なくとも僕は一行たりともそんな意見は読んだことがない。まあおそらくはいつもの調子で僕だけが勝手気ままに抱いている妄想のようなものかもしれないけれどもね。

 

 

実はもう一曲だけ事前の周到なアレンジがあった、そしてそれは僕だけじゃなくおそらくみなさんそれに納得していただけるだろうものがある。それは10/26録音の「ラウンド・ミッドナイト」だ。えっ?と思われるだろうね。これはあの “in’” 四部作には収録されていないものだからだ。

 

 

その「ラウンド・ミッドナイト」は1959年リリースのプレスティッジ盤『アンド・ザ・モダン・ジャイアンツ』に収録されている。このアルバムはマイルスとセロニアス・モンクが共演した1954/12/24のクリスマス・セッションでの録音が中心。それにどうして一曲だけ違うのが混じっているんだろう?

 

 

録音年月日や演奏メンバーが違っているのは「ラウンド・ミッドナイト」一曲だけだもんなあ。二日間のマラソン・セッションで録音されたもののうち、いわゆる “in’” 四部作に収録されていないのはこれだけだ。そしてその「ラウンド・ミッドナイト」は1955年コロンビア録音と完璧に同じアレンジ。

 

 

もちろんコロンビア録音の方が約一年も早い。しかもそれはご存知の通り事前の周到なアレンジがあったカッチリとした演奏。そして約一年後のプレスティッジへのマラソン・セッションでの同一メンバーによる同曲演奏でもほぼ完全に同じアレンジで演奏しているのだ。ほぼ同じだからコロンビア録音だけで充分なんだけどね。

 

 

そういう「ラウンド・ミッドナイト」はだからいわば例外なのだが、それ以外でも前述の三曲は事前のアレンジ譜面があっただろうとしか僕の耳には聞えないし、それら以外はまあおそらくやはり定説通り簡単なヘッド・アレンジだけでの一発テイクでの録音だったんだろうね。そしてそれら全て完成度が高い。

 

 

その完成度の高さは、具体的に「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」について説明したように、他の曲の演奏でも同様な、あたかも事前に練り込まれていたかのようなもので、だからそれらほぼ全てが一発テイクイクで完成したとなると、やっぱり書いたようにこのファースト・クインテットの恐るべき実力を実感するんだなあ。

 

« オーティス・ラッシュ、君から離れられないよ | トップページ | ティト・プエンテのフジ・アルバム »

マイルズ・デイヴィス」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: マイルス・ファースト・クインテットの実力:

« オーティス・ラッシュ、君から離れられないよ | トップページ | ティト・プエンテのフジ・アルバム »

フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ