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2016/10/08

ONBが伴奏のライの充実ライヴ盤

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Cheha










アルバムのジャケット・デザインがあまりにもチャーミングすぎるので、路面店でもネット・ショップでも見た人はそれだけでみんなレジに持っていってしまうであろうシェバ・ジャミラ&リベルテのライヴ盤『アンルジストルモン・プブリク・オウ・フェスティヴァル・レ・ゼスカル・2005』。

 

 

タイトル通り2005年のライヴで、フランスでのリリースは翌2006年。しかし僕がこのライヴ盤に気が付いて買ったのは2007年だったはず。はっきりとは憶えていないんだけど、mixi の日記を遡れば分るはず(でもそれはしない)。僕の場合2007年だと既にネット購入がメインだった。

 

 

当時はまだ東京在住だったので充実した路面店にも行けたはずだけど、21世紀に入って少し経った頃から、CDでも本でもなんでも生鮮食料品以外のほぼ全てをアマゾンなどネット通販で買うようになった僕。どうしてだったんだろうなあ。今は愛媛の、それも県庁所在地ではない田舎町だから、他に方法がない。

 

 

というわけでどなただったかがネット記事にしていたのを読み、というよりその記事のトップに載っているアルバム・ジャケットを見た瞬間に、シェバ・ジャミラ&リベルテの2005年ライヴ盤を買おうと決めちゃったのだ。届いて聴いてみたら、これが本当に素晴しい。端的に言えばライの充実ライヴ盤。

 

 

2007年にはアルジェリア音楽であるライの良作が減ってきているように僕は感じていて、しかし「シェバ」というのが名前に入っているんだから、知らない人だったけれどライ歌手だろうということだけは分っていた。そしてシェバ・ジャミラ&リベルテのこのライヴを聴いた瞬間に、たまらなく嬉しくなった。

 

 

一曲目「ルサム・ワラヌ」がまずはダルブッカを連打する音ではじまる。続いて鍵盤シンセサイザー、そんでもってエレベとドラムスも出て、バック・バンドであるリベルテ(フランス語で「自由」の意)によるインストルメンタル演奏がはじまる。それがなんともコクのある素晴しいものなんだよなあ。

 

 

もうそれを聴いただけで傑作ライヴ盤であることを確信した僕。しかしそれにしても一曲目「ルサム・ワラヌ」のあの演奏は見事だよなあ。相当に熟練したマグレブ音楽バンドであるのは間違いないと思っていたら、このリベルテは実質的になんとあの ONB(オルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベス)らしい。

 

 

リベルテ=ONB だということになかなか気付いていなかった僕。だってこれは2005年のライヴだけど、もうこの頃の ONB に興味はなくしていたから、当時のメンバーなども全く知らない。このライヴ・アルバムのデジパックを開くと演奏メンバーと担当楽器が載っているけれど、やっぱりあまり分らない名前だ。

 

 

じゃあどうしてリベルテ=ONB であると想像がついているのかというと、このライヴ盤のラストのこれまたインストルメンタル演奏があって、その曲のタイトルが「バルベス」になっている。一曲ごとに付いている短いフランス語紹介文を読むと「オルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベスのアレンジに基づく」となっているんだなあ。

 

 

マグレブ音楽に興味のある方には説明不要だけど「バルベス」(Barbès)というのはパリにあるバルベス地区のことで、北アフリカのアラブ系住人によるマグレブ文化発信のフランスにおける拠点だ。バルベス国立楽団という意味のONB のバンド名もそこから採られているのはよく知られている。

 

 

そんなことや、あるいはこのライヴ盤についての各種ネット記事にこのリベルテは実は ONB に他ならないという意味の文章があって、そういう方々のなかにはこのライヴを収録したフランス南部の港町サン・ナゼールで開かれていた音楽フェスティヴァル、レ・ゼスカルに詳しい方もいらっしゃる様子。

 

 

そんな文章のなかにはレ・ゼスカルにおけるリベルテは屋台骨的バンドで、いろんな歌手の伴奏を延々と長時間務めている影の立役者なのだという意味のことが読めるものがあるので、このライヴ盤ではじめてレ・ゼスカルの名前も知った僕なんかよりもはるかにリベルテのことをよくご存知のはずだから。

 

 

そんな文章のなかにも「リベルテ= ONB」みたいなことが書いてあるんだよね。そんなことと前述のデジパックのパッケージにある説明文で、僕もリベルテが ONB なんだなと思っている。しかしこの ONB は21世紀になって以後にリリースするアルバムはイマイチ面白くないので、ここまで演奏できるとはかなり意外だった。

 

 

そもそも ONB はマグレブ系ミクスチャー音楽バンドで、そのミクスチャー具合が三作目以後一層進んだので、僕はもう少しトラディショナルな方向性の音楽の方が好きだからなあと思っていたわけだった。ところがこのシェバ・ジャミラとやった2005年ライヴでは伝統的ライのスタイルで演奏している。

 

 

う〜んといやまあ伝統的とだけも言えない。アルジェリアはオランで産まれたライの伝統を存分に活かしながら、それを現代的な演奏法で表現していると言うべきか。いやホント素晴しく熟練されたコクのある演奏ぶりで感心する。自分たち ONB の作品でもこんな音楽をやればいいのになあ。

 

 

バック・バンド、リベルテの話が長くなったけれど、主役の女性ライ歌手シェバ・ジャミラは二曲目から登場。歌は全てアラビア語のようだけど、曲間はフランスの街でのライヴだからという理由からかフランス語で喋ってくれているので助かる。といっても音楽を聴く参考になるようなことは言っていないが。

 

 

シェバ・ジャミラ登場のアルバム二曲目「マーナ・リ・ナブギア」はフアリ・ドーファンの曲だとクレジットされているが、この男性ライ歌手も僕は聴いていないので、このシェバ・ジャミラのヴァージョンで初めてその曲を知った。この曲でも他の曲でも、シェバ・ジャミラの歌い方は野趣あふれるものだ。

 

 

野趣あふれるというのは良く言えばということで、裏返して悪く言えば乱暴というかかなりテキトーな歌い方だよなあ、アルバム全編を通して。一言一言噛みしめるように丁寧に歌い込むようなスタイルではない。でもそれが欠点には聞えず迫力満点の魅力に響くので、やはり素晴しいライ歌手だ。

 

 

そんな野趣あふれるというか乱暴に投げつけるように歌い、そして頻繁にヨヨヨョ〜〜という裏返った声でコブシを廻すようなシェバ・ジャミラのヴォーカルの背後をリベルテがしっかりと支えている。やはりこのバンドの演奏じゃないとこんな歌い方のヴォーカルの音楽は崩壊するだろうというような見事な演奏。

 

 

それはそうとまたリベルテの演奏の話に戻るけれど、クレジットでは生身のドラマーが演奏していることになっていて、実際人力のドラムス演奏に間違いないサウンドだけど、ところどころ打込みなのかドラム・マシーンのような音も聞えてくるような気がする。あるいはこれは僕の聴き違いだろうか?

 

 

間違いなくドラム・マシーン(のような音)が鳴っているように思う瞬間があるんだけどなあ。クレジットはない。だがアルジェリアでどんどん生産される大衆向けライでは打込みなどのコンピューター・サウンドはごくごく当り前のものだから、シェバ・ジャミラのこのフランス・ライヴでそれが聴けても不思議ではない。

 

 

三曲目「シュラブ・セケリニ・ザーフ」はレゲエだ。作詞はブアレム・ミモザとなっているが、作曲はリベルテの名前がクレジットされているから、ひょっとしたらこの2005年のレ・ゼスカル用のオリジナル楽曲なのかもしれない。レゲエ風のライって僕は殆ど知らないが、明るい陽気なフィーリングでいいね。

 

 

五曲目「ビブ・グアリビ」では冒頭から終始カルカベが鳴っているのが大の僕好み。何度も書いているが僕は大のカルカベ好き人間なのだ。ライでカルカベ?と思われるかもしれないが、隣国モロッコ音楽の楽器なんだしね。それに雑多なマグレブ音楽を混ぜて演奏するバンドだと実によくあることだ。

 

 

四曲目「コクテル・メダハット」、六曲目「ナブリ・リア・ワーディ」は、フランス語解説文を読むと<メダハット>というアルジェリア女性の間で結婚式の際などに即興的に歌われる伝統的な音楽をベースにしているそうで、そんなメダハットをライ化して人気を取ったのがシェブ・アブドゥだと書いてある。

 

 

伝統的メダハットのことや、それをポピュラーなライにしたシェブ・アブドゥのことも僕はなにも知らないが、四曲目「コクテル・メダハット」や六曲目「ナブリ・リア・ワーディ」を聴くとかなりモダンだ。トラディショナルな雰囲気は薄い。どっちもリベルテがアレンジしているせいもあるんだろうね。

 

 

それら二曲のメダハット由来らしいライではヴァオリンも大活躍している。ONB にはもちろんヴァイオリン奏者はいないので、この時のライヴでの特別編成なんだろう。しかもクレジットされている名前を見ても誰だか分らないヴァイオリン奏者の演奏は、アルバムのかなりの部分で演奏にいいアクセントを加え良い味になっている。

 

 

それが一番はっきりと分るのがシェバ・ジャミラの歌うラストであるアルバム七曲目の「コクテル・マロカン」。この曲ではヴァイオリンが大活躍して威力を発揮している。それ以外のリベルテの面々もバンド一体となって主役のシェバ・ジャミラを盛立てている熟練の演奏。歌手の歌い方はやはり乱暴だ。

 

 

 

乱暴だというのは上でも書いたけど悪い意味ではない。アラビア語の意味は僕には分らないが、短いフレーズをブツ切りにして一個一個投げてぶつけるような感じの歌い方だよなあ。そんな朗々とコブシを廻すような人でもないんだね、シェバ・ジャミラは。でもそれがヴォーカルに迫力をもたらしている。

 

 

そんなヴァイオリン大活躍の「コクテル・マロカン」がライヴ本編のクライマックスになり、シェバ・ジャミラはバック・バンド、リベルテを称えながら退場する。次ぐアルバム・ラストは書いたように「バルベス」というタイトルのインストルメンタル演奏。この曲もオラン地方の伝承曲なんだとフランス語紹介文にある。

 

 

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