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2016/10/30

ウェス・モンゴメリーと白熱のリズム・セクション

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Incredible_jazz_guitar










ジャズ・ギタリストの話をすることが僕は少ない。どうしてかというとそもそも絶対数が少ないからだ。1960年代末〜70年代以後はたくさん出てくるようになったけれども、ああいったジャズ系ということになっているギタリストたちは、ジャズのフィールドから出発したとだけも言えないように思う。

 

 

ああいった1960年代末以後の(ジャズ系ということになっている)ギタリストたちの出発点には間違いなくロック・ギタリストがいたはずだ。少なくとも下敷にはなっているだろう。もっとはっきり言えば60年代後半〜70年のジミ・ヘンドリクスの爆発的活躍がもたらした現象なんじゃないかなあ。

 

 

それにああいったジャズ系ということになっている1960年代以後のギタリストたちの多くがやる音楽は、やはりジャズがロックやファンクなどとクロス・オーヴァーしたようなものだから、そもそも表現したい音楽がジャズ・フィールドだけとも言えないだろう。そんな音楽性の上でジミヘン由来の弾き方をしている。

 

 

普段から僕の文章をお読みの方なら誤解なさらないはずだけど、そうじゃない方のために念のために書添えておくと、僕はそんなジャズ〜ロック〜ファンクな音楽のなかでジミヘン由来みたいな弾き方をするギタリストたちが嫌いじゃないどころか、純ジャズ系よりもはるかに大好きなのだ。

 

 

そんな1960年代末以後のギタリストたちが登場する以前のジャズ界においては、ギターなんてのはごくごくマイナーな楽器であって、前面に出てソロを弾いて目立ちまくるような存在ではない。元々この楽器は1930年代初頭頃にそれまでのバンジョーに取って代るようになったもので、バンジョー同様黙々とリズムを刻むのが仕事。

 

 

もちろんホーン楽器みたいにシングル・トーンでソロを弾くジャズ・ギタリストが皆無だったわけではく、数名いるんだけど(断っておくがチャーリー・クリスチャンが「初」ではない)、やはりそれは例外だなあ。電気増幅せず生のままだと音量も小さい楽器なので、エレキ・ギターが登場する前はバンドに混じると聴こえにくいんだよね。

 

 

そんなわけで、ジャズの世界ではギタリストは日陰の存在である時代が長かった。それで最初に書いたように(ホーン楽器みたいにシングル・トーンでソロを弾く)ジャズ・ギタリストの絶対数がそもそも少ないのだ。今日はそんななかから、モダン・ジャズ時代で僕が最も好きなウェス・モンゴメリーの話をしたい。

 

 

ウェス・モンゴメリー。まるで純ジャズ・ギタリストであるかのような言い方をしたけれど、ウェスも1960年代後半のヴァーヴやA&Mレーベル時代にはクロス・オーヴァー風なアルバムを残している。『カリフォルニア・ドリーミング』(66)や『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』(67)などなど。

 

 

それらはできあがった音楽内容そのものは決して悪くないどころか結構楽しめるものだけど、なにしろ大編成オーケストラを伴奏にポップ・ソングを分りやすく聴かせるようなものだから、ウェスがギターを弾きまくっているわけではない。だからギタリストとしての持味みたいなものはやや分りにくいよなあ。

 

 

ギタリストとしてのウェスの持味を存分に発揮していて、それに集中してたっぷり楽しめるという意味では、やっぱりリヴァーサイド時代だなあ。ウェスのリヴァーサイド盤は10枚以上あるけれど、やはり衆目の一致する通り僕も『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』と『フル・ハウス』が一番好き。

 

 

1960年の『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』と62年の『フル・ハウス』では、前者の方が評価が高く人気もあるようだ。でも僕の意見は逆なんだよね。ライヴ・アルバムである『フル・ハウス』の方が好きだし、音楽的内容も上じゃないかなあ。それでもこの一般的評価は理解できなくもない。

 

 

なぜならば『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』はトミー・フラナガンを中心とするピアノ・トリオだけが伴奏で、だから管楽器奏者で言えばワン・ホーン・カルテットのようなアルバム。ソロも殆どの場合ウェスとフラナガンしか弾いていないので、このギタリストの持味が分りやすいんだよね。

 

 

それに対し1962年録音のライヴ盤『フル・ハウス』はテナー・サックス奏者ジョニー・グリフィンが参加したクインテット編成で、テーマ演奏もギターとサックスとの合奏である場合が多いし、サックス奏者がいる分ウェスがソロを弾く時間がやや短めなのだ。このせいで評価と人気が低いだけじゃないかなあ。

 

 

いやまあ『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』と『フル・ハウス』のどっちが上かなんて言えないのは確かなんだけどね。『フル・ハウス』の方が好きだ、音楽内容もいいぞと感じる僕の気持は、一つにはこれがライヴ盤だということ、もう一つはリズム・セクションの躍動感が抜群だということがある。

 

 

僕が大のライヴ・アルバム好きだということはもう繰返す必要はないはず。やっぱり観客を前にした一回性の生演奏のグルーヴ感は違うんだよなあ。もう一つ、『フル・ハウス』でいいと書いたリズム・セクション、それはこの録音当時のマイルス・デイヴィス・コンボのそれなんだよね。この点は重要だ。

 

 

『フル・ハウス』の録音は1962年6月25日にカリフォルニアのバークリーにあったツボという場所で行われている。この頃にはマイルス・デイヴィス・コンボがライヴ出演のためにサン・フランシスコにやってきていたのだった。それでそのリズム・セクションを借りたのだ。

 

 

その当時のマイルス・コンボのリズム・セクションはウィントン・ケリー+ポール・チェンバース+ジミー・コブ。既に全盛期を過ぎていたと見るべきか、あるいは円熟期にあったと見るべきか、そこは人によって見解は分れるだろう。1962年というと既にジャズは新しい段階に入っていたのは確かだけれど。

 

 

ただウェスの『フル・ハウス」で聴ける彼ら三人のリズム、その活き活きとしたグルーヴィーな躍動感を聴くと、僕の単なる個人的趣味嗜好を差引いても、やはり円熟の極みにあったと誰もが思えるんじゃないかなあ。まあなんというか果物でも人間でもなんでも、腐りかける寸前が一番美味しいみたいな意味ではあるが。

 

 

ちなみにマイルス・コンボで1962年にこの三人のリズム・セクションを使っている録音は、公式はもちろんブートでも一つも存在しない。この三人がマイルス・バンドで演奏した記録の最後のものは1961年5月19日の、ギル・エヴァンス編曲・指揮のオーケストラとやったカーネギー・ライヴだ。

 

 

だが次の新しいリズム・セクション(ハービー・ハンコック+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズ)の初起用が1963年5月14日のスタジオ・セッションで、それ以前にライヴで起用していたというデータもないので、やはり前年62年いっぱいは旧リズム・セクションを使っていたんだろう。

 

 

それで1962年6月25日にバークリーでのウェスのライヴをリヴァーサイドが公式録音しようと考えた際に、近辺に来合せていたマイルス・コンボのリズム・セクションを借りたってことだろうなあ。テナー・サックスのジョニー・グリフィン参加の理由は知らないが、結果的にはいい内容になっている。

 

 

とにかくこの五人編成のバンドによるライヴの白熱具合をちょっと聴いていただきたいので一曲ご紹介したい。 『フル・ハウス』A面ラストのディジー・ガレスピーが書いた12小節ブルーズ「ブルー・ン・ブギ」。アルバム中この一曲が一番興奮する。

 

 

 

テーマ演奏のあとウェスが一番手でソロを弾く。その弾き方、スタイルについてはもう語り尽くされているので僕が言うことはなにもない。むしろその背後でのリズム・セクション三人の動きを聴いてほしい。なんてグルーヴィーなんだ。その後ウィントン・ケリーのピアノ・ソロ。やはりブルーズが上手いよなあ。

 

 

三番手で出るジョニー・グリフィンのテナー・サックス・ソロも熱い。まあこのサックス・ソロが入らず、その分ウェスがもっと長めにソロを弾いていれば、『フル・ハウス』の人気も評価も『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』よりも上になったんじゃないかと僕は確信しているんだよね。

 

 

その証拠に『フル・ハウス』でのウェスを評価する人は、ほぼ全員A面二曲目の「アイヴ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス」をあげるもんね。なぜならばこれにはサックスが入らず、リズム伴奏付でウェス一人が美しく弾くバラードだからだ。

 

 

 

しかしこういった路線であれば、『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』A面三曲目「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」の方がずっといいんじゃないかなあ。あぁ〜、なんて美しいんだ。こんな美しいギター演奏はそうそうないぞ。

 

 

 

『フル・ハウス』にはB面一曲目に「キャリバ」というラテン・ナンバーもあったりして、それも楽しい。ジミー・コブってこんなラテン・ドラミングができた人なんだぁ〜(失礼)。『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』にもラテンは一曲あるけどね。

 

 

 

なおこの文章を書くにあたりウェスのことをネットで調べていて出てくる文章には、なぜだかウソばっかり書いてある。その最大のものはウェスはチャーリー・クリスチャンが「はじめた」単音弾き奏法を受継いで云々というくだり。例えばウェスの日本語版ウィキペディアにもはっきりとそう書いてある。引用しよう。

 

 

「チャーリー・クリスチャンによって初めてエレキ・ギターでの単音弾きのソロがジャズに持ち込まれたわけだが、ウェスはそのスタイルを大幅に進化・成熟させて、ジャズ・ギターの礎を築き上げた。」

 

 

これ、誰が書いたんだ?真っ赤なウソじゃないか。チャーリー・クリスチャンが初だって?

 

 

こういったチャーリー・クリスチャンがギター単音弾きをはじめ(それをウェスが受継いで発展させ)たのだと書いてある文章は実に多い。しかもネット上だけでなくウェスのアルバムのライナーノーツにも堂々とこう書いてあったりするのがいまだに載っている。こんなの大間違い、ウソっぱちなんだよね。

 

 

チャーリー・クリスチャン登場以前に、1930年代後半にカウント・ベイシー楽団で活躍したエディ・ダーラムを知らんのか?この人はエレキ・ギターで単音ソロを弾きまくるぞ。エレキじゃなくアクースティック・ギターでジャズとブルーズの両方の世界を跨いでいたような人なら、エディ・ダーラムのずっと前からシングル・トーンでソロを弾くギタリストは何人もいるもんなあ。はぁ〜。

 

 

モダン・ジャズばっかり、あるいは古くてもせいぜいビ・バップ黎明期までのものしか聴いていないからこんなことになっちゃうんだ。いつもいつも繰返しているけれども、それ以前の戦前古典ジャズをちゃんと聴いてくれよな。

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コメント

こんばんは、お邪魔いたします。
すごく中身のある記事で感服しました。
私もフルハウスはフェバリットアルバムでありまして、だいのお気に入り。
Jazz初心者には必ずこのアルバムから聞かせます。
またお邪魔いたします。

jamkenさんがおっしゃるような中身のある文章は滅多に書けない僕ですが、せっかくご自身のブログのURLも書いてくださったので、時間のある時にこっちからもお邪魔しますね。

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