ブルーバード・サウンド〜サニー・ボーイ・ウィリアムスン
ブルーズ・ハーピストで「サニー・ボーイ・ウィリアムスン」とだけ言えば、通常は二世の方を指すことが多いみたいだ。ということを僕はわりと最近知った。「サニー・ボーイ・ウィリアムソン」とか “Sonny Boy Williamson” でネット検索したら二世の方ばっかり出てくるからだ。
こりゃある意味当然ではあるよなあ。サニー・ボーイ・ウィリアムスン二世は主に戦後のシカゴを舞台に活躍した人で、チェス・レーベルなどに録音し、一世以上の人気と成功を収め、1960年代の渡英時にはアニマルズやヤードバーズとレコーディングもしたからロック・ファンでも知っているだろう。
しかしながら僕にとってはこの名前は一世の方のことだ。そう、ブルーズ・ハーピスト界にはサニー・ボーイ・ウィリアムスンが二名いるんだよね。ややこしいというか面倒くさい。どっちも芸名で、一世の方の本名はジョン・リー・カーティス・ウィリアムスン。二世の方はライス(アレックス)・ミラー。
だから「ウィリアムスン」名に縁があるのは一世の方で、ライス・ミラーは一世の成功にあやかろうと同じ芸名をわざと用いただけなのだ。一世の方は1948年に亡くなっており、二世は直後の51年にトランペット・レーベルに録音を開始する際(活動はもっと前から)、いわば騙そうとしたわけだ。
「伝説の」サニー・ボーイ・ウィリアムスンは死んでおらず、自分こそがそのブルーズ・ハーピスト兼歌手で、だからレーベルを騙して、そしてこの名前でレコードを出せば聴衆も騙せるだろうという、そして大人気になりお金も儲るだろうという、まあそんな計算でライス・ミラーはわざとやったんだよね。
もちろんこれはサニー・ボーイ・ウィリアムスン二世ことライス・ミラーの音楽にケチを付けようとして言っているんじゃない。僕もチェス・レーベルに彼が残したブルーズ録音の大ファンで、1990年代後半にブルーズ・ハープを吹いていた頃の僕はこの人のプレイをよくコピーしていたんだよね。
サニー・ボーイ・ウィリアムスン二世ことライス・ミラーのことについては今日は書かない。今日は彼が名前を拝借したサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世について話をしたい。この人は1937年にブルーバード・レーベルに録音を開始したのがレコーディング・キャリアのはじまりで、その後は大量に録音がある。
ブルーバード・レーベルとは RCA ヴィクターの子会社で1932年設立。この時期は1929年にはじまった例の大恐慌のせいで音楽業界も大打撃を受けてしまい、お金をかけたレコーディングやリリースが難しくなっていた。それでメジャーの RCA も小規模低コスト部門を設立したんだよね。
もちろん RCA だけでなく他のメジャー・レーベルも同様だったのだが、そんなわけで RCA が1932年に設立したのがブルーバード。本拠地はシカゴ。主に1930〜40年代にいろんなレコードを録音し、黒人ブルーズだけでなくジャズやビッグ・バンドものなどたくさん録音・リリースした。
そんななかでも特に1930〜40年代のシカゴを拠点にブルーバード・レーベルで展開された黒人ブルーズは、その後のリズム&ブルーズや初期ロックへ大きな影響を与えた独自のカラーを持っていたので、通称「ブルーバード・サウンド」と呼ばれている。僕はこれがかなり好きなのだ。
きっかけはやはり例の『RCAブルースの古典』だった。LPでは三枚組、現行CDでは二枚組で、アルバム・タイトル通り RCA系の戦前音源を使っているわけなので、ブルーバード録音がたくさん収録されている。そのなかにサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世が三曲入っている。
現行CD二枚組の『RCAブルースの古典』二枚目にあるサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世は「グッド・モーニング・スクールガール」「エレヴェイター・ウーマン」「アーリー・イン・ザ・モーニング」。昔の三枚組LPにそれらが全部入っていたかどうかまでは憶えていないが、とにかくそのレコードでこの人を初めて聴いた。
上で書いた通りサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世のブルーバード録音は100曲ほどもあるんだそうで、どこか復刻専門レーベルが年代順全集にしてリリースしていたような気がするけれど、僕は持っていない。普段僕が聴くのは一枚物CD『ザ・ブルーバード・レコーディングズ 1937-1938』。
これのリリースが1997年で、この時期に米 RCA がブルーバード音源の戦前黒人ブルーズ、すなわちブルーバード・サウンドをどんどんCDリイシューしてくれていた。といってもコンプリートな形ではなく、どのブルーズ・マンもアンソロジーだったのだが、あれで随分と助かったのは事実だった。
本当は本家レーベルが完全集にしてちゃんとリイシューしてほしいんだけどね。まあいいや。そんなことで1990年代後半にいわゆるブルーバード・サウンドが本家 RCA からたくさん出ていて、僕もリリースを知ると同時におそらく即全部買っていた。サニー・ボーイ・ウィリアムスン一世もその一人。
サニー・ボーイ・ウィリアムスン一世の『ザ・ブルーバード・レコーディングズ 1937-1938』は全24曲。一曲目が最大の代表曲「グッド・モーニング・スクール・ガール」で、これまた有名な「シュガー・ママ・ブルーズ」や「アーリー・イン・ザ・モーニング」もあるが、このアルバムは歯がゆい面もある。
というのは1937〜38年のアンソロジーと銘打っているから仕方がないのだが、「スロッピー・ドランク」や「ストップ・ブレイキング・ダウン」や「フードゥー・フードゥー」や「シェイク・ザ・ブギ」などなど非常に興味深い録音は収録されていないのだ。これらの曲名だけでも面白そうでしょ。
「スロッピー・ドランク」はリロイ・カーに同名曲があるのでそれで有名だけど、サニー・ボーイ・ウィリアムスン一世が録音したのは同名異曲。この曲名は異曲が多いブルーズなのだ。「ストップ・ブレイキング・ダウン」はあのロバート・ジョンスンの1937年録音のカヴァーだ。
「フードゥー・フードゥー」は別名「フードゥー・マン・ブルーズ」で、この曲名で戦後のシカゴ・ブルーズが好きな方は全員知ってるぞとなるはず。ジュニア・ウェルズが1965年にデルマーク・レーベルに同じ曲をレコーディングし、それが収録されたアルバム名も『フードゥー・マン・ブルーズ』だ。
もちろんジュニア・ウェルズのあれはサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世のカヴァーだ。サニー・ボーイの方はこれ→ https://www.youtube.com/watch?v=RSOIqzxdI-U 一方電化バンド・ブルーズ化したジュニア・ウェルズのはこれ→ https://www.youtube.com/watch?v=O5Z1wFqW0A4
またジュニア・ウェルズのアルバム『フードゥー・マン・ブルーズ』には「アーリー・イン・ザ・モーニング」もあるが、これだってサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世のレパートリーだったのをアダプトしたんだよね。まあこの曲の場合はサニー・ボーイのオリジナルではなく、古くからの伝承物だけどね。
「アーリー・イン・ザ・モーニング」も戦後に録音しているブルーズ・マンやロッカーがかなりいるので、みなさん誰かのヴァージョンで聴いてご存知のはず。B・B・キングのとかエリック・クラプトンのとか。しかしそこまでスタンダード化させたのはサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世だぞ。
さてジュニア・ウェルズのことを書いたけれど、この戦後のシカゴのブルーズ・ハーピスト兼ヴォーカリストの最大の影響源がサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世だったのだ。その他戦後シカゴ・ブルーズ界のハーピストでは代表格のリトル・ウォルターも、そしてスヌーキー・プライアーも同様なんだよね。
それら戦後のブルーズ・ハーピストのサウンドはアンプリファイされたものだけど、サニー・ボーイ・ウィリアムスンはアクースティックでストレートに吹いているという違いはある。しかし上で貼った「フードゥー・マン・ブルーズ」の二つのヴァージョンを聴いただけでも、スタイルの類似性は分るはずだ。
1937年に録音を開始したサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世こそがブルーズ・ハーピスト界のパイオニアであり草分的存在で、ブルーズ界でこのテン・ホールズのハーモニカを吹いた最初の存在ではないんだろうが、スタイルを確立し後世に影響を与えた最大の人物だったのは間違いない。
その後は現在でも、ブルーズ・ミュージックにおいてブルーズ・ハープ(テン・ホールズのハーモニカ)がメイン楽器の一つでよくフィーチャーされているよね。歌わない専業のブルーズ・ハーピストも多い。その最初のきっかけを作ったのがサニー・ボーイ・ウィリアムスン一世に他ならないんだよね。
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