天翔けるギター・スライドと都会的洗練〜オールマンズのフィルモア・ライヴ
「ステイツボロ・ブルーズ」と「ストーミー・マンデイ」がここまで有名になっているのはオールマン・ブラザーズ・バンドのおかげなんじゃないかなあ。もちろん例の1971年3月のフィルモア・イーストで収録のライヴ盤のこと。あれは本当に最高のロック・ライヴ・アルバムだよねえ。僕も大好き。
もっともそうは言ってもオールマンズのあの「ステイツボロ・ブルーズ」はブラインド・ウィリー・マクテルのオリジナルをそのまま参考にしたのではない。オールマンズが下敷にしたのはタジ・マハールの1968年デビュー・アルバム収録ヴァージョンだ。
オールマンズのフィルモア・ライヴ・ヴァージョンを貼って紹介しておく必要はないはずだけれど、どうです?そっくりでしょ。こっちは音源を貼って紹介しておくべきだと思うブラインド・ウィリー・マクテルの1928年録音のオリジナルはこちら。
こんなのをあんなのにしたわけだから、解釈・展開力が凄いのはオールマンズではなくタジ・マハールの方なんだけど、それでもあのフィルモア・ライヴ・ヴァージョンのあのカッコ良さを聴けば、やっぱりそっちの方がいいなあと思っちゃう。アルバム一曲目の出だしだけでいきなりノックアウトされる。
ノックアウトされるのはもちろんいきなり弾きはじめるデュエイン・オールマンのスライド・ギター。上で紹介したタジ・マハール・ヴァージョンにおけるスライド・プレイを完全に下敷にしてはいるけれど、デュエインのとは音色が違うし、さらにデュエインのには天翔けるような強力なドライヴ感があるもんね。
デュエインはあのアルバム一曲目のイントロでいきなりギュイ〜ンと弾きだして、それだけで、たったの一音・二音だけで、全世界のロック・ギター・キッズを完全に虜にしてしまった。その後グレッグのヴォーカルが出るまで弾いて、ヴォーカルに絡み、それが終るとまたしてもスライドでソロを弾く。カッチョエエ〜〜!
当時のオールマンズのツイン・ギターのもう一人ディッキー・ベッツもソロを弾くんだけど、デュエインの印象が強すぎるもんだから、あまり聴応えがないかのような内容に聴こえちゃうもんね。そういうわけだから、あのデュエインのスライドは真似できないとハナから諦めてやらず、ディッキーのだけコピーしようとしていた僕。
最初に書いたもう一曲、T・ボーン・ウォーカー・ソングの「ストーミー・マンデイ」はやる人がかなり多く、オールマンズのヴァージョンもこれまた T・ボーンのストレートなカヴァーではない。フィルモア・ライヴ・ヴァージョンの下敷にしたのは、おそらくボビー・ブランドの1961年ヴァージョンだろう。
もっとも「ストーミー・マンデイ」の方は、オールマン・ブラザーズ・バンド結成のずっと前、デュエインもグレッグもいたオールマン・ジョイズ時代からの得意レパートリーだったらしい。がしかしその時代のこの曲の録音がない(はず)のでどんな感じでやっていたのかは分らない。
「ストーミー・マンデイ」のあの独特の代理コードの使い方は、いわゆる<ストマン進行>と呼ばれている。それが広まったのが他ならぬオールマンズのフィルモア・ライヴ・ヴァージョンだったかも。こっちはやっぱり音源を貼って紹介しておいた方がいいかもしれない。
12小節ブルーズなんだけど、お聴きになれば分るように七小節目から十小節目にかけてマイナー・コードを使っている。具体的には七小節目から順番に G / Am 〜 Bm / B♭m 〜 Am 〜 E♭ / D になっている。キーはGのブルーズだから、ちょっと変った進行だよねえ。
こんな代理コードの使い方は「ストーミー・マンデイ」のオリジナルである T・ボーン・ウォーカーの1947年ブラック&ホワイト録音では聴けない。都会的に洗練されたブルーズ・マンでジャズ的な和音の使い方も得意だった T・ボーンなんだけど、こんなコードは使っていないもんなあ。
またボビー・ブランドの1961年ヴァージョンはT・ボーンのオリジナルにまあまあ忠実なもので、かなり洗練されてはいるものの、オールマンズのみたいな代理コードは使っていない。そのヴァージョンでギターを弾いているウェイン・ベネットのスタイルがデュエインにも大きな影響を与えているとは思うんだけどね。
ところでそのウェイン・ベネット。以前書いたマット・マーフィーと並び都会的に洗練されたスタイルで弾くブルーズ・ギタリストのなかでは僕の最も好きな一人なんだよね。プロのギタリストでも影響を受けているのはデュエインだけではない。ボビー・ブランドと一緒にやったものなんか最高だよなあ。
ともかくオールマンズのフィルモア・ライヴでの「ストーミー・マンデイ」。参考にしたに違いないボビー・ブランド・ヴァージョンや T・ボーン・ウォーカーのオリジナル(その他再演)では聴けない代理コードを使っているのは、いったいどうしてななんだろうなあ。
だいたいオールマン・ブラザーズ・バンドはサザン・ロックの代表格とされるくらいで、どっちかというと泥臭くてダーティーで豪快にグイグイ乗るようなスタイルを中心とした音楽家だと思うし、1971年のフィルモア・ライヴでも多くがそんな曲なのに、あんな都会的洗練を聴けるのがちょっぴり不思議だ。
都会的洗練といえばオールマンズのあのフィルモア・ライヴにはもう一曲あるよね。ディッキー・ベッツの書いた「エリザベス・リードの追憶 」。僕はあれも大好き。一番好きなのが1970年『アイドルワイルド・サウス』収録オリジナルでは聴けない、冒頭のディッキー・ベッツによるヴァイオリン奏法だ。
エレキ・ギターでのヴァイオリン奏法はみなさんご存知のはずだけど、一応書いておくと、ピッキングの際にはヴォリュームを絞りアタック音を出さず、直後にスッとヴォリュームを上げることにより、スムースにシュ〜っと音が鳴るように演奏するもの。まるでヴァイオリンを弓で弾くような音なのでこの名称がある。現実に弓で弾くジミー・ペイジのことではない。
通常この奏法ではギター本体に付いているヴォリューム・ノブを使う。あらかじめノブを廻してヴォリュームを最低にしておいて、ピッキング直後に小指などでノブを廻して音量を上げる。しかしこのやり方の場合、ピッキングする位置とヴォリューム・ノブの位置が近くないとやりにくい。
フェンダーのストラトキャスターなどでは従ってやりやすいのだが、1971年のフィルモア・ライヴ時でのディッキー・ベッツが使っていたのはギブスンのレス・ポールだとの情報がある。レス・ポール・モデルはヴォリューム・ノブが通常ピッキングする位置からは遠いのだ。じゃああの時のディッキーはどうやっていたんだろう?
ひょっとしてフィルモアの「エリザベス・リードの追憶」冒頭でのヴァオリン奏法はギター本体のヴォリューム・ノブを使ってではなく、足で踏んで操作するヴォリューム・ペダルかなにかを使ってのものだったんだろうか?僕は全く知らないし調べてもいないのだが、しかしフット・ペダルを使った音でもないような気がするなあ。
う〜ん、分らない。僕はギター専門家ではないので、レス・ポールでもピッキング直後に本体のヴォリューム・ノブに指を引っ掛けて廻すことが可能なのかもしれない。どなたかギター専門家の方か、あるいは専門家ではなくてもお詳しい方、あるいは事情をご存知の方、教えてください。
オールマンズのあのフィルモア・ライヴではいかにもあの時代らしく長尺曲も多い。1971年リリースの二枚組アナログ盤では19分の「ユー・ドント・ラヴ・ミー」と23分の「ウィッピング・ポスト」くらいだけど、その後のリイシューCDでは33分以上もある「マウンテン・ジャム」もリリースされた。
それらライヴでの長尺曲はグレイトフル・デッドに影響されたと思しきものなんだけど、じゃあデッドみたいな1960年代後半のグラス・カルチャー的産物で、マリファナでもやっていないと素面ではかったくるて聴きようがないのかというと、僕にとってはそうでもないんだなあ。デッドはダメな僕なのに。
33分以上もある「マウンテン・ジャム」だって退屈せずに聴けるってのは僕だけだろうか?「ウィッピング・ポスト」も6/8拍子というリズムが面白くて聴けちゃうし、「ユー・ドント・ラヴ・ミー」だけがあんまり面白くないように思うんだけどね。しかし僕はそれら長尺曲ではギターの二人はあまり聴かない。
僕が(面白くないように感じる「ユー・ドント・ラヴ・ミー」を除き)「ウィピング・ポスト」と「マウンテン・ジャム」で聴いているのはいつもリズム・セクションだ。特にジェイ・ジョハンスンとブッチ・トラックスのツイン・ドラムス。あの派手な掛合いがいいなあって思うんだよね。
なかでも「マウンテン・ジャム」後半でドラマー二人だけの演奏になっているパートがあって、僕には面白いんだよね。ちょっとヘンかなあ?普通あんなのは飛ばしちゃうよね。そんなせいか、あるいは長すぎてLP片面に収録できないせいもか、アナログ盤では未収録だった一曲だ。
その他マディ・ウォーターズのカヴァー(といっても元はスリーピー・ジョン・エスティス)とか、エルモア・ジェイムズのカヴァーとか、サニー・ボーイ・ウィリアムスン二世のカヴァー(も元はエルモア)とか、あるいは2014年にCD六枚組でリリースされたこのフィルモア・ライヴのコンプリート盤だとかの話はまた別の機会にしよう。
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