仄かに揺れる蝋燭の炎〜『メイダン』歌手名一覧
オスマン古典歌謡集『メイダン』。涼しくなってきたので再び聴くようになっている(レー・クエンの2016年新作も同様)。だってお聴きの方ならご存知の通りの雰囲気の音楽なもんだから、真夏の炎天下ではちょっと聴く気にならないもんねえ。だからアラトゥルカ・レコーズの面々によるこういう音楽が大好きな僕もしばらく敬遠していた。
『メイダン』(Meydan - Taş Plakların Kaldığı Yerden)は、トルコ本国では昨2015年11月にリリースされている。カラン配給でアラトゥルカ・レコーズの面々によるオスマン古典歌謡集第二弾。第一弾が2013年の『ギリズガ』(Girizgâh)。
あの『ギリズガ』の時は日本でもちょっぴり話題になって文章を書く人も若干名いらっしゃったんだけど、日本では今年になって買えるようになった第二弾『メイダン』について書いている人は、ネットでどう検索しても(紙メディアにあるわけないので)僕以外には一人もいないんだなあ。
書いてあるように、フィジカルをエル・スールさんに依頼中の今年はじめに iTunes Store で発見してしまい、現物が届いていない状態のまま我慢できないので思わずダウンロード購入してしまった僕。
エル・スールさんから『メイダン』が入荷したとのメールが届いたのが4/20。ちょっと事情があって他のものとまとめて一緒に発送してもらったのが5/10。二日で自宅に届き、CDで再び何度も聴いた。CD現物が手許に届き、ダウンロード音源だけでは分らないこともいろいろと分るようになった。
それで今日この文章を書いているという次第。これをブログにアップするのは秋になるだろうけれど、書いている現在は五月なのだ。ネット・ダウンロード音源だけでははっきりしなかったことがフィジカルで分った最大のものが、やはり一曲ごとの歌手名だ。これこそ待望んでいたもの。
しかしながら『メイダン』一曲ごとの歌手名はCD附属のブックレットに書かれてはあるものの、曲目と併記する形での一覧にはなっておらず、曲ごとに他の情報とあわせてあまり目立たない文字で記載されているだけなので、ちょっと分りにくいんだなあ。『ギリズガ』の時も同様だったけれど、ある理由があって凄く助かったのだった。
それはエル・スールさんのサイトに『ギリズガ』一曲ごとの歌手名が記載されてあったのだ。あのCDの時も iTunes にインポートすると「Artist」欄が全部 “Alaturka Records” になってしまい困っていたのだった。
『ギリズガ』附属のブックレットを見ながら一曲づつ手入力するしかないなと思ったんだけど、エル・スールさんが一覧にしてくださっていたので、それをコピー&ペーストするだけでよかったという、なんとも楽ちんなことだった。ところが今年春入荷の『メイダン』については書いてくださっていないんだよね。
推測するに『ギリズガ』の時はアラトゥルカ・レコーズというレーベルも録音した歌手や演奏家たちも日本では初紹介だったので書いてくださったんだろうけれど、『メイダン』は二作目なので、もう既にファンの間ではそこそこ馴染があるはずだから書く必要もないだろうということなんだろうね。
ネットで他に記載してあるページがないか探してみたけれど自力では全く発見できないので、『メイダン』についてはやはりブックレット記載の、前述の通りやや分りにくい書き方をしてある一曲ごとの歌手名を見ながら、一つ一つ手入力した僕。しかしトルコ語の文字はちょっと入力しにくい部分がある。
ケマル・アタチュルクによる1928年の文字表記改革で、トルコ語はそれまでのアラビア文字ではなくアルファベット文字で表記するようになった(けれどもアラトゥルカ・レコーズの面々がやっている音楽はそれ以前のものばかり)んだけど、文字の上や下に記号その他が付くものがかなりあるよね。
それらの記号のなかには人気のある欧州言語では使われないものがある。しかも例えば “i” の上の点がなく “ı” と表記する場合が多かったりもする。それら全部ひっくるめると、入力ソースの言語設定をトルコ語に切替えない限りは(その切替えは Mac ではあっけないほど簡単だが、トルコ語キーボードではないのでやはり難しい)入力がちょっと面倒くさい。
僕が常用している言語入力ソースは日本語と英語だけ。US 環境にしただけでフランス語その他記号付欧文文字の入力も全く問題ない。しかしトルコ語はそれでは出ない記号があるので、文字記号一覧表から一個一個拾っていって、それで『メイダン』全曲の歌手名全員をなんとか入力することができた。
これはトルコ語に馴染の薄い人間にはやや煩雑なので、これが(『ギリズガ』の時のエル・スールさんみたいに)一覧になっているサイトなどでもあれば助かる人が多いと判断し、本日ここにそれを記したものを公開することにした。確認はしたが、あるいは誤表記や漏れがあるかもしれない。
というわけで以下、『メイダン』二枚組の一曲ごとに、それを歌っている歌手名一覧。数字に続けて曲名、”-“ のあとに歌手名。トルコ語入力が面倒だという方はどうぞご自由にコピー&ペーストしてくださって構わない。ただし繰返すが100%間違いがないという自信はないので、そのおつもりでどうぞ。
ディスク1
1) Aman cânâ beni şâd et - Asuman Aslim, Esma Bașbuğ, Gül Yazici, Tuğçe Pala, Yaprak Sayar
2) Vücûd iklîminin sultânı sensin - Atakan Akdaș
3) Yine neş'e-i muhabbet dil ü cânim ettii şeydâ - Yaprak Sayar
4) Ey il Nde bitmez bu ah ü vâhin - Bekİr Büyükbaș
5) Güzel kuşum söyle neden kederlisin - Esma Bașbuğ
6) Kâhtane'ye gelin yalınız - Mustafa Doğan Dİkmen
7) Olsa kiraz ile üzüm (Açgözlü Hülyası) - Gül Yazici
8) Lâl olursun söylesem bir fıkra - Hamİde Uysal
9) Mey-i lâ'linle dil mestâne olsun - Atakan Akdaș
10) İçim yanıyor kalbim kanıyor (Zehrâ) - Asuman Aslim
11) Benim yârim şıktır şık - Esma Bașbuğ
12) Bir pür cefâ hoş dilberdir - Hüseyİn Tuncel, Yaprak Sayar
13) Bakmıyor çeşm-i siyâh feryâde - Yaprak Sayar
14) Gözüm Hasretle Giryândır - Nazan Sibaci
15) Pencereden kuş uçtu (Ben bir garip kuş idim) - Hamİde Uysal
16) Geçti âlâm-ı firâkın cânıma - Mustafa Doğan Dİkmen, Gül Yazicii, Tuğçe Palma, Yaprak Sayar
17) Çok yaşa sen ayşe - Tuğçe Palma
ディスク2
1) Mâh yüzüne âşikanım - Yaprak Sayar, Atakan Akdaș
2) Gelse o şûh meclîse nâz ü tegafül eylese - Hamİde Uysal
3) Gül gonca-i ümmîdi gibi gel - Atakan Akdaș
4) Bir penbe incisin sen - Yaprak Sayar
5) Tirek bostan - Esma Bașbuğ
6) Etti o güzel ahde vefâ müjdeler olsun - Mustafa Doğan Dİkmen
7) Bir çiçeğim adım lâle - Gül Yazici
8) Aşk âteşine yanma gönül nâfile - Ufuk Caba
9) Bahar faslı - Esma Bașbuğ, Nazan Silvaci, Mustafa Doğan Dİkmen, Gül Yazici, Yaprak Sayar, Atakan Akdaş
a. Revâdır bu dil-i zârın figanı
b. Ey menhlika ey gül beden
c. Baǧlar bahçeler güller
d. Açtı güller andelîb eyler fegan
e. Gel gìdelim senin íle
f. Bahâr olsa çemenzâr olsa
g. Bahâr íle nesâtımız
10) Ey ser ne aceb derde düşüp - Bekİr Büyükbaș
さて『メイダン』の肝心の中身の音楽については、上でリンクを貼った今年1/8付のブログ記事に付け加えることは殆どない。歌手名もだいたい全部当っていた。やはり「音」だけあればだいたいのことは分ってしまうよね。ジャケット含めパッケージ商品としての楽しさを除けば、それがないと分らない歌手名やその他各種情報は付随的なものでしかないと改めて実感した。
アラトゥルカ・レコーズに録音する歌手のなかでの僕の最愛であるヤプラック・サヤール(様と本当は書きたい)は、『メイダン』での単独歌唱は全部で三曲。それらと一作目『ギリズガ』でのものやその他入手可能なCDに含まれているものから、僕はヤプラックの歌うものだけ抜出して一つのプレイリストにまとめてある。
ヤプラック・サヤールのプレイリストは全部で10曲もないし、たったの30分程度なんだけど、もうそればっかりリピートして聴いている僕なのだ。ヤプラックはレコオヤジさんや僕をはじめ、エル・スール界隈の一部オジサンたちのなかでは熱狂的に支持されているという人気歌手(でもないのか?)。
だってヤプラックの声は本当に美しいもんなあ。その上彼女は大変な美人だ。歌手の容貌なんかどうでもよろしいというのは僕も完全に同意で、容貌が良くて喉がダメなのであれば、容貌がどうでも喉が素晴しい歌手の方を僕も一億倍は支持する。がしかしヤプラックは両方優れているんだから文句なしだろう。
ヤプラック・サヤールの声は、他の歌手と一緒に合唱している時ですら、聴いていてアッ彼女だ!とクッキリ分ってしまほど鮮明だ。それくらい愛しているから分るというのが最大の原因に間違いないけれど、そうでなくても目立つ独特の美しさを持った声なんじゃないかなあ。さらに突き刺すような鋭さも兼ね備えている。
ところでもう一つ『メイダン』フィジカルが届いてみて初めて判明した謎が、二枚目九曲目の「バハール・ファスリ」。今年一月に書いた上記リンク記事では、全てSPサイズの約三分ばかりのあの時期のオスマン古典歌謡集のなかに、なぜ一曲だけ17分もあるものが混じっているのか不思議だと書いたんだけど、これは七曲メドレー形式だったのだ。
『メイダン』CDのジャケット裏やブックレットにはっきりそのメドレー七曲の曲名が記載されてあるのでようやくどうしてあんなに長いのか理由が分ったという次第。とはいってもその二枚目九曲目の「バハール・ファスリ」を聴いたところで、僕にはどこが曲の変り目なのかほぼ分らない。
曲のキーが変ったり歌が終って楽器演奏になってしばらくして別の曲に聞えるものがはじまったりするので、まあそこが曲の継目なんだろうなと判断はするものの、そもそも「バハール・ファスリ」でメドレーになっている元の七曲が完全なる初耳なわけだから、いまだに全くなんの確信も得られていない。
それはそうと『メイダン』ジャケットを見ると “Turkish Airlines” の文字が同社のロゴと並び記載されている。これは一作目『ギリズガ』にはなかった。昨2015年12月に大阪と東京で行われたアラトゥルカ・レコーズの面々によるコンサートもトルコ航空主催の無料招待だったよね。
『メイダン』はレコーディングも各種制作も発売もその昨2015年12月の来日公演よりも前に終っている。ってことは想像するに、この二作目アルバムからトルコ航空がアラトゥルカ・レコーズのスポンサーに付いたということなんじゃないかなあ。そりゃあんな地味極まりない音楽が売れるわけないんだから、スポンサーがいないとね。
一作目『ギリズガ』も二作目『メイダン』も、取上げられている作曲家(ブックレット末尾に全員顔と生没年と説明文がある)も演奏や歌唱のメンツも、そしてできあがった音楽の感触もほぼ全く同じような金太郎飴状態なんだけど、なんというかまるで蝋燭の炎がかすかに揺れるかのような雰囲気で、秋から初冬にかけてはいいよなあ。
真夜中に電気照明ではなくたった一本の蝋燭を点けて、そのかすかに揺れるか揺れないかというような仄明かりを見つめているかのような気分になるアラトゥルカ・レコーズの『ギリズガ』と『メイダン』。初耳だった一作目では、初耳ゆえにある種の<衝撃>めいたものすら感じた僕だけど、二作目では当然それはもうない。
がしかし音楽の熟成度とか歌手の歌い廻しのこなれ具合などは、二作目『メイダン』がやや上を行っているように思う。これは当然だ。100年以上前の音楽を、おそらくその姿形も全く変えず忠実に飽きもせず21世紀に再現している作業ななんだから、年月が経てば経つほど完成度が上がっていくだろう。
アラトゥルカ・レコーズの面々のやる100年以上前のオスマン古典歌謡って、まあホントこれ以上に地味な音楽もないというくらいだから、さほど大勢のファンが付くわけもなく、今のところ二つあるCDだってあんまり売れていないだろうけれど、できれば彼らが今後も活動を継続していけますように。そしてCDが出れば今後も日本で買えますように。僕は現地トルコへ行くべく画策中。イスタンブルは猫の楽園状態らしいしね。
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