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2016/10/12

サイケデリックなブルーズはいかが?

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ブルーズ純粋主義者からは非難囂々らしいマディ・ウォーターズの1968年作『エレクトリック・マッド』。純粋なブルーズってなんだ?とか、なにかと混ざっていない音楽があるのか?とか、僕は言いたいことがいっぱいある。がしかし僕はこのアルバムをアナログ・レコードで聴いたことは一度もない。

 

 

『エレクトリック・マッド』のアナログ・レコードを全く見たことがなかったもんなあ。そもそも日本に入ってきていたのか?そういうわけなのでこのアルバムはCDでリイシューされてからしか聴いたことがない。おそらく多くの日本人マディ・ファンも同じだろう。CDでしか聴いていない人が多いはず。

 

 

現在僕が持っている『エレクトリック・マッド』CDは1996年の米MCA盤。調べてみたらこの96年というのがこのアルバムの初CD化らしい。その頃には外資系の大手輸入盤ショップも東京には何軒もあったので、僕は見つけて即買いだった。でもどんな音楽なのかは事前に知らなかった。

 

 

買って帰って聴いてみたらこれが面白いんだよね。そしてブルーズ・ピュアリストの方々には大変に評判が悪いアルバムだということもその直後に知りそれも納得だった。だってこりゃサイケデリック・ブルーズ(・ロック)みたいな一枚で、ファズを効かせて歪みまくったエレキ・ギターが大活躍しているからだ。

 

 

『エレクトリック・マッド』の録音は1968年の5月とCD附属の紙に書いてある。そしてバック・バンドの面々がこれはCDジャケットや附属の紙のどこにもそうは書かれていないのだが、ロータリー・コネクションなのだ。ロータリー・コネクションなんて今では忘れられているかもなあ。

 

 

ロータリー・コネクションとはチェス・レーベルのマーシャル・チェスの発案で1968年にシカゴで発足したバンド。正確にはチェスではなく傍系のキャデット・レーベルに録音しているが、それらはおそらくもはや誰も相手にしていないかも。現在このバンドが憶えられているならば、ミニー・リパートン関係か、そうじゃなければ二枚のアルバムのおかげ。

 

 

サイケデリック・ソウル(風ロック)とでもいうような音楽性のこのバンドが憶えられているかもしれない二枚というのがマディの『エレクトリック・マッド』とハウリン・ウルフの1969年作『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』だ。後者の表ジャケットはひどいんだぞ。堂々と「ウルフはこの新作が好きではない」とか書いてあるもんなあ。

 

 

っていうのは『エレクトリック・マッド』も『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』もボスはどっちも1950年代初頭に人気が出たブルーズ・マンで、南部的なダウン・ホーム感覚のバンド・ブルーズこそが売物なのにもかかわらず、そんなことに一切構わずサイケデリック・ブルーズ路線まっしぐらだからだ。

 

 

それら二枚ともマーシャル・チェスの企画・発案によるもの。1960年代半ばには新世代に押され人気が落ちていたマディとウルフの二名を、当時大流行していたサイケデリック・ロックが大好きな若いリスナー向けにアピールしたい、少しでもアルバムの売上げが伸びるようにしたいと思ってのことだった。

 

 

それでマディとウルフの新作にロータリー・コネクションをバック・バンドとして起用して、大流行中の音楽傾向に合せたような<新しい>ブルーズ・アルバムを創るべくマーシャル・チェスのプロデュースでキャデットに録音されたのが『エレクトリック・マッド』と『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』。

 

 

『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』の話は別の機会にするとして、今日は『エレクトリック・マッド』の話。なにも知らないファンがこのアルバム名を見れば電気楽器を使っているという意味なんだろうと思うはず。しかしそれは違う。電気楽器というだけなら、マディはずっと前から使ってるもんね。

 

 

だいたい戦後にシカゴに出てきてからのマディは自分が弾くのもエレキ・ギターだし、サイド・ギタリストにもエレキ・ギターしか弾かせていない。ただし全てエフェクター類などは一切使わずクリーン・トーンでのことだから、このあたりがいわゆるブルーズ・ピュアリストのみなさんが好きな部分だね。

 

 

ともかくそんなわけでアルバム・タイトルにある「エレクトリック」は楽器への言及なわけがないので、1960年代半ば〜後半の文化的な文脈、サイケデリック・カルチャーへの言及なんだろう。この時代にはエレクトリックなんちゃらとかいう名前のバンドやアルバムや曲や歌詞がいろいろとあったじゃないか。

 

 

『エレクトリック・マッド』の収録全八曲は過去のマディの代表作の再演が約半分。「アイ・ジャスト・ワント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」「フーチー・クーチー・マン」「シーズ・オールライト」「マニッシュ・ボーイ」「ザ・セイム・シング」。残り三曲は他の音楽家の曲のカヴァーだ。

 

 

一曲目の「アイ・ジャスト・ワント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」。代表作『ザ・ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』収録の1954年録音・・・、ということを確認しようと思ってこのアルバム附属のブックレットを開いて自分で笑ってしまった。曲目一覧の部分に一曲ずつ僕が鉛筆でキーを書いているぞ。

 

 

「アイ・ジャスト・ワント・メイク・ラヴ・トゥー・ユー」が D、「フーチー・クーチー・マン」が A とかさ。なんじゃこりゃ。このCDを聴きながら自分でブルーズ・ハープ部分をコピーしようと思って音を拾ってキーを書いておいたんだなあ。1990年代後半に僕はブルーズ・ハープを吹いていたから。

 

 

念のために書いておくが俗称ブルーズ・ハープ、すなわち10穴ハーモニカ(テン・ホールズ)は一個一個キーが決っていて、一個のハーモニカはそれに合せたキーの曲しか吹けない(少なくとも吹きにくい)。だからテン・ホールズを吹くブルーズ・ハーピストは何個もキーの違うものを持っていて、曲により持替える。

 

 

ライヴ・ステージなどでは、ブルーズ・ハーピストはそんな何個ものブルーズ・ハープを収納したベルトみたいなのを腰に巻いて、曲が変りキーが変ると持替えるのだ。僕は1990年代後半によく遊びでブルーズ・セッションを友人とスタジオを借りてやっていて、ヴォーカル&ブルーズ・ハープ担当だったのだ。

 

 

ギターも一応ちょろっと触る僕だけど、この楽器はみんなやっていて全員僕なんかよりはるかに上手いから、ブルーズ・セッションでギターを弾くことはほぼなかった。いやまあやっぱりあれだ、高校生の頃と同じく英語詞を英語に聞える発音で歌えるという、ただその一点のみが理由だったんだよなあ。

 

 

久しぶりに妙なものを見つけてしまい関係ない失笑ものの話をしてしまった。『ザ・ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』収録の「アイ・ジャスト・ワント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」オリジナルはこれ。 こういうのでマディは人気が出た人。

 

 

 

ところが『エレクトリック・マッド』ヴァージョンはこれ。 なんじゃこりゃ?!って叫びたくなるよね。ブルーズ純粋主義者は怒りの叫び、そして僕は歓喜の叫び声をね。このアルバム収録の過去の代表曲再演はどれもこんな感じに仕上っている。

 

 

 

一番目立つのがかなり深めにファズをかけて弾きまくっているエレキ・ギターの音だけど、それがピート・コージー。そう、1973〜75年のマイルス・デイヴィス・バンドで大活躍したシカゴ出身の太っちょギタリスト。『エレクトリック・マッド』では他にも二名ギタリストがクレジットされている。

 

 

それがフィル・アップチャーチとローランド・フォークナーの二名。前者は僕もよく知っているが、後者の方はあまり知らないのでギター・スタイルがどんなものなのか聴き分ける自信がない。がしかしあの音色とフレイジングなど全てひっくるめたサウンドは間違いなくピート・コージーだろう。

 

 

『エレクトリック・マッド』収録のマディの代表曲再演で僕が一番面白い、楽しいと感じるのが四曲目の「シーズ・オールライト」。1952(か53)年録音のオリジナル→ https://www.youtube.com/watch?v=1PdshyTjujE  これがこうなっている→ https://www.youtube.com/watch?v=pM1RPsuYP_8

 

 

思わず笑っちゃうほど最高にサイケデリックで楽しいね。ブルーズ・ピュアリストの方々が怒り心頭なのも納得だ。この『エレクトリック・マッド』ヴァージョンの「シーズ・オールライト」で僕が一番好きなのは、本編が終ってからの5:15あたりからだ。ベースが突然「マイ・ガール」のリフを弾きはじめる。

 

 

もちろんテンプテイションズのあれだ。これはロータリー・コネクションの中心人物で『エレクトリック・マッド』でオルガンを弾き全曲のアレンジもし、マーシャル・チェスと共同プロデュースもしているチャールズ・ステップニーの指示ではなく、ベースのルイス・サッターフィールドが突発的に弾いたんだろうね。

 

 

すると次の瞬間にピート・コージーがそれに即応して「マイ・ガール」のメロディを弾いている。しかもギンギンにファズの効いた歪みまくった音で。こりゃまるでジミ・ヘンドリクスが弾くテンプテイションズ。楽しいね。いや、僕みたいな趣味嗜好の人間には最高に楽しいけれど、多くのブルーズ・ピュアリストたちは虫酸が走るだろうな。

 

 

『エレクトリック・マッド』にある他人の曲では、三曲目のローリング・ストーンズ・ナンバー「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」が一番面白い。なぜかというと頭から右チャンネルで聞えるギター・リフは「サンシャイン・オヴ・ユア・ラヴ」だからだ。

 

 

 

もちろんクリームのあれ。それは1967年に発売されているから、自らの曲名からバンド名を取り自分のレパートリーもたくさんやってくれているローリング・ストーンズの同じく67年の曲をやりつつ、そこにストーンズには薄いサイケデリック色をクリームから引っ張ってきているんだね。

 

 

マーシャル・チェスはもちろんレコードの売上げを見込んでこんな内容の『エレクトリック・マッド』を制作したのだが、マディの購買層のメインだったであろうブルーズ・リスナーにはあまり売れなかったんじゃないかなあ。しかしそれでも同時代のジミヘンやレッド・ツェッペリンには大きな影響を与えたらしい。

 

 

その他、エレキ・ギターに深めのファズをかけて弾きまくるサイケデリックなブルーズ・ベースのロックやファンクをやる連中には『エレクトリック・マッド』は大歓迎され、またもっとずっと後の時代になると多くのヒップホップ系音楽家がここからたくさんサンプリングしているんだよね。時代を先走りしすぎただけかも。

 

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