とみー(1031jp)さんのソロ・アルバムは柔らかくて暖かい
Twitterでフォローしている日本の音楽家にとみー(@1031jp)さんという方がいる。the HANGOVERS(ザ・ハングオーヴァーズ)という3ピース・バンドのギター兼ヴォーカルだ。ウィキペディアによればインディーズ・ロック・バンドとなっている。
Twitterでとみーさんといつ頃どうして知り合ったのかはもう忘れちゃった。まあ音楽関係のツイートに面白いものがあるっていうので僕がフォローしはじめたことは間違いないだろう。あと幼少時代のポートレイトを使ったアイコン(上掲右)も僕好み。でもアイコンは何度か変わっている。
やり取りするうちに the HANGOVERS というバンドをやっていることも知り、ちょっと買って聴いてみたら、これはまあ上記ウィキペディアの記述通りだと言える音楽性。決して嫌いじゃないけれど、かといって大好物というほどでもない僕だったのだ。
その the HANGOVERS のギター兼ヴォーカルのとみーさんが今年五月末頃だったかな、初ソロ・アルバムをリリースした。1031jp 名義でアルバム名も『1031jp』。収録は五曲だけで、計たったの18分ほどというミニ・アルバムだけど、これがなかなか悪くないんだよね。
衝撃のソロ・デビュー作だとか、時代を揺るがす傑作だなどとは言い難いというか、まあそんなものではない『1031jp』だけど、ほんわか暖かく柔らかい感触の音楽で、なかなかの佳作だと言えるのは間違いない。これはとみーさんが僕と仲良くしてくださっているから言うんじゃないんだ。
僕はそんな「仲間だから/敵だから」みたいな発想はほぼ持っていない人間。ただ単に言動内容そのものや、作品の中身そのものでしか評価しない。普段どんなに仲が良くてもオカシイなと思えばはっきり言うし、普段どんなに敵対しててもマトモな内容だなと思えばそう評価する。だいたいみなさんそうじゃないかな。
だから今日のこの文章はとみーさんのソロ・ミニ・アルバム『1031jp』がなかなかいいなと思うので書いているだけだ。おそらくご本人もお読みになるだろうと思うので書きにくい部分もあるんだけど、言いたいことははっきり言うつもり。
さて『1031jp』は全五曲があまりロックっぽい音楽ではない。the HANGOVERS を知っているとこれは最初に聴いた時にちょっと意外だったのだが、恒常的に活動するレギュラー・バンドとは区別したいという意向があったはずだ。感じるのはロックではなく、ボサ・ノーヴァだ。
いかに「ロックしないか」がテーマにもなっているんじゃないかなあ。縦ノリの8ビートを避け、横ノリのグルーヴ感を出そうと腐心してできあがった結果だというのは聴いているとよく分る。五曲全てそうだけど、特に典型的に出ているのが一曲目「ハニービー」と二曲目「六月のレイトショー」。
いやまあ他の曲もちょっぴりブラジリアン・テイストというかボサ・ノーヴァ風なノリが軽く表現されているが、最もそれが鮮明なのが上記二曲。しかもサウンドはエレピ(フェンダー・ローズに似た音色だけど、そうではない)以外ほぼアクースティックな響きで、それもいい感じだなあ。
だいたいとみーさんは the HANGOVERS ではエレキ・ギターを弾くことが多いんだけど、『1031jp』ではエレキは効果音的に軽く入っている曲がちょっとあるだけで、ほぼ全編アクースティック・ギター。これはロックっぽくなくしたい、ボサ・ノーヴァ風なフィーリングを出したいという目論見ゆえだろう。
もっともそうは言っても収録五曲全てで聴こえるドラムスはコンピューターを使った打込み。『1031jp』はとみーさんたった一人でコツコツ録音を繰返して創ったもののようだから、まあ仕方がないんじゃないかな。ヴォーカルとギターとベースとエレピ以外の楽器音も全てコンピューター・サウンドかもしれない。
しかし重要なことは、そんな一部を除きデジタル・サウンドで構成されているにもかかわらず、『1031jp』の音楽には人肌の温もりが感じられることだ。かつてのある時期のいかにもペラペラでチープで無機的なコンピューター・サウンドにはなっていない。
そのあたりはちょっと一時期のプリンスにも通じるものがある。なんて書くとこれをお読みになったとみーさんは勘弁してくれ、褒めすぎだと言うだろうなあ。僕も褒めすぎだろうと思うし、それに最近はコンピューターを使って人間的な温もりのあるサウンドを創る音楽家はたくさんいる。
だからこれはとみーさんや『1031jp』だけの特長じゃないだろう。でもなあ、あのとみーさんのヴォーカルの柔らかさや暖かさはやっぱり特筆すべきものだよ。それは the HANGOVERS でも同じなんだけど、『1031jp』ではロックをやらないという意図があったと思うから、より一層それが強く出ている。
ボサ・ノーヴァを強く感じる最初の二曲に続く三曲目の「彗星」はリズムに軽いファンキーさがあるのがいい。ハンド・クラップ音も効果的に入っているけれど、これは自分で叩いているのか MIDI 音源の素材を使っているのか、両者を混ぜているのか、ちょっと分らない。
そういえばハンド・クラップは三曲目だけでなくほぼ全曲で効果的に使われている。ドラムスが打込みサウンドなだけに、そこに人肌の温もりを加えるのに大きな効果をもたらしているよね。だからリズムの感触が無機的なものにはなっていない。
ハンド・クラップが特に大きな効果を出しているのが四曲目「シネマの朝食」と五曲目「エイチビー」。この二曲におけるハンド・クラップ音は、人力演奏では難しそうなかなり細かいフレイジングだから、少なくともこの二曲でのそれはコンピューター作成のものだろう。
また『1031jp』では全五曲そうだけど、街の雑音というか雑踏、環境音みたいなのが入っているのも僕好み。これもやはりコンピューター中心のサウンドに人間らしいザワザワしたものを出そうとしての試みなんだろう。成功している。少なくとも僕はかなり気に入っている。
サウンド・エフェクトといえば、四曲目「シネマの朝食」ではちょっとアナログ・レコードを再生する針音というかスクラッチ・ノイズみたいなのが聴こえるけれど、僕の聴き違いかなあ?それが鳴っているなと思って聴いていると、指をパチンと鳴らす音をきっかけにそれは止み、打込みドラムスとハンド・クラップが入ってきたりする。
なお『1031jp』では全五曲、とみーさんの柔らかい声がちょっと多重録音で重ねられている部分があるようだ。基本的には独唱だけど、ちょっぴり二重唱っぽくなったりコーラスになったりする瞬間があるので間違いない。このソロ・ミニ・アルバムで僕が最も気に入っているのが、そんなとみーさんの声なのだ。
アルバムの五曲でほぼ全てやや高いピッチの、ちょっと中性的なヴォーカルだけど(とみーさんは男性)、三曲目の「彗星」でだけは低めの男性的な声で歌いはじめ、それが一曲続くなあと思って聴いていると、途中からは多重録音のコーラスが入ってやっぱりちょっとだけ中性的になる。
クラシック音楽の声楽家はあの発声法が僕はどうしても好きになれないんだけど、ポピュラー音楽のヴォーカリストの魅力の八割以上は、その元から持っている喉、声にあると僕は考えている人間。訓練した技巧は上達しても、声だけはどうしたって変えられない宿命なのだ。
楽器奏者の場合は、練習しまくってどんどん上手くなる(一方でマンネリになったりもする)わけで、生得的な魅力っていうものはかなり小さいんじゃないかなあ。あ、いや、管楽器奏者の場合は口や唇の形や歯並びが影響するなあ。でもそれも矯正できる部分がある。
がしかし歌手だけはそうはいかない。持って生まれた声が勝負。だからいい声を持って生まれた歌手は、それだけであらかじめ魅力を付与されているようなもの。とみーさんにはその魅力があるように僕は思うんだなあ。楽器技巧のことや音創りのちゃんとしたことは、素人の僕には分らないけれど、声の魅力はみんな分るよね。
『1031jp』では、ひょっとしたら中性的でソフトで暖かいとみーさんのヴォーカルの魅力を最大限に浮かび上がらせるために、伴奏をあまりハードじゃないサウンドに、ロック風ではないもものに工夫してあるのかもしれないなあ。ご本人がどこまで自覚しているのか分らないけれど、僕にはそう思える。
なお、とみーさんのソロ・ミニ・アルバム『1031jp』、僕はご本人がTwitterで個人的に直販なさっていたので、それで直接メールして買った(送料込2000円)けれど、路面店でも売っているようだし、アマゾンなど通販サイトでも売っているので、今日の僕の文章を読んで興味を持った方は是非一枚。
まあ『1031jp』、全部通し20分もないのであっと言う間に終ってしまって、だから二度・三度とリピートしたくなる。もっと長い50分とか60分とかのフル・アルバムが聴きたいんだよなあ。ミニ・アルバムを一枚創るだけでも相当大変だったようだから(もろもろ赤字なんだそうだ)、気長に待ってますからお願いしますよ、とみーさん。
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