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2016/11/16

「作曲」ってなんだろう?

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「作曲」という名で知られる行為の中身を正確に把握したり、どういう行為なのか厳密に定義したりすることは、案外かなり難しいよなあ。というか僕たち素人リスナーにはほぼ不可能だ。という意味のことを、例の佐村河内ゴースト・ライター騒動の時に彼をどんどん攻撃しているジャズ・ファンに面と向かって言ってみたことがある。そうしたらあんな汚いウソツキを擁護したと受け取られて、次の瞬間にブロックされてしまった。

 

 

そのジャズ・ファンの方をフォローしたのは、例の JTNC 系のものに関し中心人物の柳樂光隆君に批判的な発言を繰り返していたから。僕もあれに関しては完全に同意見で、僕の場合は柳樂君本人に対しはっきりそう言ってしまい(僕はだいたいいつもそうであるダメ人間です)、柳樂君には速攻でブロックされた。

 

 

僕がいろいろと柳樂君の名前を出したり出さなかったりして、彼の Twitter 上での発言を引用できるのは、彼は大人気者だから、僕がフォローしている人もどんどんリツイートするから見えるだけのことなんだよね。おかげで随分といろんな意味で楽しませてもらっている。

 

 

佐村河内騒動の一件で僕をブロックした方のツイートも読める場合があって、それは僕がフォローしているジャズ・ライター林建紀さん(自称はジャズ研究家。「評論家」は大それているとお考えらしい)がリツイートするからだ。林さんの専門はローランド・カークだけど、僕から見てもかなり古いと思う戦前ジャズもたくさんお聴きで発言なさるのでフォローしている。

 

 

まあこのリツイートという Twitter の機能。おかげでブロックされている人のツイートも読めるので助かるといえば助かるんだけど、一方で自分をブロックする人の発言なんか見たくないという方も大勢いるらしく、このリツイート機能を改善しろという声もあるんだそうだ。

 

 

僕の場合、以前も言ったけれど、普段(相手は)敵対関係にあると思っている人間の発言でも、マトモだったりポジティヴな意味で面白かったりすれば、大いに納得してうなずく人間だから、やっぱり僕をブロックしている方の発言も見えた方が嬉しいんだよね。

 

 

そういえばエル・スール界隈の有名人であるレコオヤジさん。僕はフォローしてただ読んでいるだけでただの一度も絡みがないのに、なぜだかある時ブロックされてしまっていまだにそのまま。でもエル・スールさんのアカウントはじめ同店関係者の方々がリツイートしてくれて、おかげで読めるのでありがたい。

 

 

そんなことはともかく、「作曲」という行為。これの正体を把握して定義するなんてことは、およそ不可能じゃないだろうか?コンポーザー、あるいは大衆音楽の世界ならソングライターと言うべきか、彼らはいったいなにをしているんだろう?という根源的な問いを僕に最近投げかけてくれたのが、あの佐村河内騒動だ。

 

 

あの佐村河内守と新垣隆の関係においては、新垣隆のあの暴露・告白記者会見以来、新垣=本物、善人で、佐村河内=偽物、悪人という図式がすっかり定着してしまい、これはおそらく今後も変わることはない。佐村河内が現在なにをやっているのか分らない一方で、新垣は表舞台でどんどん活躍できるようになっている。

 

 

しかしこの定着した図式は、本当にこのまま受け取ってもいいものなんだろうか?本当の真相(っておかしな言い方だが)は当人たちにしか分らないはずだし(当人たちにも分らない?)、クラシック音楽の世界だから僕は全く分らず、肝心の新垣が書いて(たんだろう?)佐村河内の名義で発表された作品も全く聴いたことがない。

 

 

洩れ聞く話では、しかし佐村河内もある程度の「指示」みたいなものは出したそうじゃないか。その全部が佐村河内本人の発言で、もはや彼の発言の信用度はゼロだから誰もマジで受け取っていないだろうが、譜面は書けないなりに、言葉や図形みたいなものは示したと発言している。

 

 

この「指示」に関する佐村河内の発言が本当だったとすれば、彼は「作曲した」とまで言えるのかどうかともかく、少なくともその一端に関わった、ちょっぴり作曲行為の片隅に加担したと言えるんじゃないかと僕は思うんだよね。今日最初に書いた、僕をブロックしたジャズ・ファンの方にも具体的にはそう言った。

 

 

曲を書くというのは、音楽的才能を持つ特定の個人がたった一人で部屋のなかでうんうん唸って散々頭を悩ませて、その結果独力でなんとかかんとかウンコみたいに捻り出す、そういう行為だと考えているファンが多いんじゃないかなあ。ひょっとしていまだに全員そうだろうか?

 

 

僕はそんな風には作曲行為を捉えていないんだよね。いやまあ僕は一曲たりとも自分で曲を創った経験なんかない人間だから、本当は今日のこの文章も、プロのソングライターの方からしたらお笑い種だと思うんだけど、でもなんとなく素人なりの考えを書いているだけ。

 

 

音楽に限らず文学でもなんでも、なにか作品を産み出すっていうのは特定個人の天才的産物で、個人の独創である、それが個性というもので、作家・作品のアイデンティティだとするような発想は、実は近代西洋の産物なんだよね。音楽の世界でいえば、いわゆるクラシック音楽がそういうものとして成立して以後だ。

 

 

歴史的・地理的に見ると、そういう発想の方が実は少ないんだよね。作品とは特定個人の独創で、そこに権利(したがって金銭)が発生するという考えじゃない時代・地域の方が一般的だ。そんな時代・地域においては、ほぼ全てが社会共同体の共有財産だから、個人が権利(と金銭)を主張したりはしない。

 

 

歴史的に振り返ると、どうも西洋史におけるルネサンスからじゃないかあ、そういうオリジナリティみたいな考えが全面的に支配するようになったのは。どんな分野でもそうだけど、特に音楽の世界ではバロック音楽成立直前あたりだ。ってことはやはり一致するじゃないか。

 

 

そんな西洋音楽が全世界を席巻してしまい、個人の独創を譜面化するのが作曲だということになって、クラシック音楽のシステムは西洋だけでなく世界的に普及して、20世紀以後は特に人気が出たアメリカ大衆音楽の成立にも非常に大きく関わったがために、そんな世界でもやはり作曲という行為は個人の独創の譜面化だと考えられるようになった。

 

 

譜面・譜面、書く・書くというけれども、実は書かない・譜面化しない音楽も多いぞ。譜面の書き読み能力がなかったり、そもそも目が見えなかったりする音楽家はかなりたくさんいるじゃないか。聴力を失って以後も目は見えたので、頭のなかで音を鳴らして作曲したベートーヴェンみたいな存在は、例えばアメリカのカントリー・ブルーズの世界ではありえない。

 

 

アメリカ黒人ブルーズの世界では、そもそも誰のオリジナル曲なのか?作者は誰か?が全く分らないまま歌い継がれてきている曲も多いのはご存知のはず。伝承もの、パブリック・ドメインってやつ。どれがそうだと指摘するなんて不可能でバカバカしい。全部そうだもん。

 

 

まあでも一例あげておくと、戦後のシカゴでマディ・ウォーターズがやって有名にし、UKロック・バンドもそこからバンド名をもらったので、おそらく最も有名なブルーズ・ソングであるはずの「ローリン・ストーン」。これもマディが「作曲」したものなんかじゃないもんね。

 

 

マディはミシシッピ・デルタ出身で、デルタ時代に、かなり前からミシシッピに伝わっている作者不明の古い伝承ブルーズ・ソングを聴き憶え採り上げて、録音は残っていないが間違いなくデルタ時代にレパートリーにして弾き語っていた。それを戦後のシカゴで、今度はエレキ・ギターでやってみただけの話。

 

 

実際マディがやって有名にした「ローリン・ストーン」は、その1950年録音よりもっとずっと前からデルタ・ブルーズ・メンが録音しているもんね。多くは「キャットフィッシュ・ブルーズ」の名前でね。一番有名なのは1941年のロバート・ペットウェイ・ヴァージョンかなあ。1941年というのもこの曲の演奏時期としてはかなり新しい。

 

 

こんなのはほんの一例で、ブルーズの世界ではこっちが常識。誰が書いたオリジナル楽曲か?作曲家は誰か?なんていう概念がない。これは西洋音楽とその影響下で19世紀後半に誕生した職業ソングライターの世界、いわゆるティン・パン・アリーのシステムとは関わりなく存在した世界だからだ。

 

 

そして世界中の、そして人類史上のいろんな音楽を見渡す、というか聴くことは不可能な場合も多いので、現在残されていて聴けるものから推測するだけなんだけど、そんな個人の独創が譜面化するのが作曲行為、オリジナリティ第一主義という考え方の方が少ない。

 

 

西洋近代音楽やその影響下でシステム化した大衆音楽の場合は、作曲=個人の独創という把握の仕方は間違っていないのかもしれない(がその西洋近代音楽だって、ルネサンス以前の中世やそれ以前の音楽からの由来を考えたら・・・)。でもそんな発想をそういうシステムでは成り立っていない世界に押し付けないでほしいのだ。

 

 

僕の最もよく知るアメリカのジャズ音楽の世界だと、最も偉大な作曲家に間違いないデューク・エリントンがいるが、エリントンの場合も1939年にビリー・ストレイホーンを専属作曲家(兼ピアニスト)として雇って以後は、この「真の作者は誰か?」が分らない場合がある。

 

 

今までも何度か指摘しているが、エリントン楽団におけるビリー・ストレイホーは「影武者」だった場合が多かったようで、ここ20年近くの研究ではコンポーザー欄にエリントンの名前しか書かれていない作品でも、実はストレイホーンの独創だったケースがかなりあるらしい。

 

 

これは新しいオリジナル楽曲の場合についてだけの話であって、ストレイホーン加入前にエリントンが書いた曲をストレイホーンがアレンジし直して、それを譜面化し楽団が演奏してレコードになったというものは、数え切れないほどある。研究書にもそう書いてあるし、そうでなくても僕の耳判断だけでもそう思えるものがある。

 

 

ってことはだ、新垣隆が書いて、彼の名前を伏せたまま佐村河内守の名前でこの世に発表されたものと、このストレイホーン/エリントンの関係はどこが違うんだ?本質的な違いは全くないじゃないか。エリントンを偽物、ウソツキ呼ばわりする専門家やファンはこの世に一人もいないなあ。

 

 

全面的に新垣の名前を隠した佐村河内と違って、エリントンはストレイホーンの名前をクレジットすることが時々あったから、それが免罪符になる?いんや、全然ならないね。なにも違いはないはずだ。マイルス・デイヴィスもこんなことは多いよなあ。ビル・エヴァンスとの一件しかり。

 

 

例えばアルバム『カインド・オヴ・ブルー』B面ラストの「フラメンコ・スケッチズ」は、前年のビル・エヴァンス「ピース・ピース」そのままなのに、エヴァンスの名前はクレジットされていないし、またA面ラストの「ブルー・イン・グリーン」の場合はもっと入り組んでいる。

 

 

「ブルー・イン・グリーン」では、事前にマイルスがビル・エヴァンスに二つのコードを示し「この二つでなにができるか考えろ」と指示して、その結果エヴァンスが「ブルー・イン・グリーン」という曲に仕立て上げた。にもかかわらずやはりエヴァンスの名前はクレジットされていない。

 

 

こりゃあれだ、佐村河内が言葉や図形で新垣に指示を出し(がどこまで本当かは分らないのだが)、それをもとに結果新垣が具体的な曲として譜面化して佐村河内に提供したっていうのと全く同じなんじゃないかなあ。「ブルー・イン・グリーン」を含む『カインド・オヴ・ブルー』についても、マイルスを盗人呼ばわりする人は皆無だけどさ。

 

 

別に僕は西洋音楽ではないものの具体例をあげて西洋近代音楽の発想が間違っていると言っているわけではない。佐村河内/新垣の作品もクラシック音楽らしいから、やはり佐村河内は完全なる偽物、ウソツキなのかもしれない。そんなクラシック音楽の世界でだって20世紀以後のいわゆる現代音楽の分野では、作曲家の概念はしばしば揺らいでいるじゃないか。

 

 

それにねえ、音楽の世界でもどんどんデジタル化が進んでいるので、もはや紙の譜面にすることは少なくなっているようだ。最初からデジタル・データの形で着案し、デジタルで展開させて、場合によってはアナログ演奏なしでコンピューターで音創りして、完成したものも一度もアナログ化せずデジタルなまま出荷する。しかもそれら全ての段階で複数による共同作業。たった一人でなんでも全部やるという方が稀だろう。

 

 

ただ唯一、つい数日前だったか日本で行われたなんちゃらかんちゃらでギターを弾かなかったとクレームされているジミー・ペイジ。今のペイジはギター業の方はもはや引退同然状態で、自らが関わった過去音源の発掘・リイシューなどプロデュース業に専念しているようなもんなんだから、そんな人物にギター弾かないじゃないかとクレームする方がオカシイと僕は思う。チケット買うのがそもそもの間違いだ。

 

 

そんなジミー・ペイジのレッド・ツェッペリン。あれだけはイカン。個人的には佐村河内より許せないんだ。今からでもちゃんとクレジットしてリリースし直してほしい。念の為書き添える必要はないと思うけれど、いちおう書くと僕は大のツェッペリン好きだからね。

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