ロバート・ジョンスンが生きていればこうなった
ロバート・Jr・ロックウッドとジョニー・シャインズ。二人ともロバート・ジョンスンと深い関係があるブルーズ・マンだ。どう関係があるのかは、ブルーズ・ファンには説明不要だろうと思うので省略する。ロバート・ジョンスンがもしあと15年でも生きていればこうなっただろうというような人たちだ。
そんなありえない歴史上の「もしも」を実際の音で体感できるアルバムがある。ロバート・Jr・ロックウッドとジョニー・シャインズ二名による1950年代前半の JOB セッションを収録した『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』というPヴァイン盤CDだ。
『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』は、僕の知る限り世界中にPヴァイン盤しか存在しない。つまり日本盤がオリジナルだ。これのコンパイラーが小出斉さんでリリースは2001年。タイトル通りシカゴのレーベル JOB への二人の録音を集めたもの。
『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』では、前半のロバート・Jr・ロックウッドが全11曲12トラック、後半のジョニー・シャインズが全9曲10トラック。このアルバムを聴くと、この二人がロバート・ジョンスンから受けた大きすぎる影響がよく分る。
影響云々というよりほぼそのまんまなんだよね。1938年に若くして亡くなってしまったロバート・ジョンスンは、世代でいえばマディ・ウォーターズと同じだから、戦後まで生きていた可能性は充分あった。死因は確定していないが毒殺という説が有力なので、なおさら一層そういう思いが強くなる。
そして1950年代にもしロバート・ジョンスンが、同じミシシッピ・デルタ出身の後輩マディ・ウォーターズみたいにシカゴに出てきていれば、間違いなくこんなブルーズをやったはずだというのが分るのが『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』なんだよね。
『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』前半のロバート・Jr・ロックウッドは、主にロバート・ジョンスンのやったシティ・ブルーズ・スタイルを継承している。すなわちブギ・ウギのパターンだ。それをエレキ・ギターを使ってバンド形式でやっている。
ロバート・Jr・ロックウッドのそういう特徴は、なにも『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』に限った話ではなく、そもそも普段からいつもそうなのだ。特に1974年の来日公演盤などは日本のブルーズ・ファンは忘れられないもので、それもシティ・ブルーズ・スタイルがほとんどだよね。
なんたってあのロバート・Jr・ロックウッドの1974年来日公演盤『ブルーズ・ライヴ!』のオープニング・ナンバーは「スウィート・ホーム・シカゴ」だもんね。ロバート・ジョンスンの録音のなかでは最も明確にブギ・ウギのパターンが聴けるシティ・スタイルのブルーズとして有名な一曲。
「スウィート・ホーム・シカゴ」は『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』にも収録されている。といってもそういう曲名にはなっていない。10曲目の「アウ・アウ・ベイビー」がそれだ。聴けば一瞬で全員「スウィート・ホーム・シカゴ」だと分ってしまうほど明確。
『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』というこのアルバム・タイトルにしているんだから、やはりシンボリックな代表曲なんだろうなあ。その「アウ・アウ・ベイビー」は1955年録音で、ギター+ピアノ+ベース+ドラムスというバンド編成だ。
そんなバンド編成での「アウ・アウ・ベイビー」では、ギター&ヴォーカルのロバート・Jr・ロックウッドはかなり忠実にロバート・ジョンスンのパターンを踏襲している。ってことはつまりロバート・ジョンスンの録音したオリジナルが既にそんなモダン・バンド・ブルーズ的だったってことだよなあ。
ギターをエレキにしてリズム・セクションを付けさえすれば、そのまま戦後のシカゴでも通用する、そんなブルーズをやったのがロバート・ジョンスンであって、決してデルタ・カントリー・スタイルの、いい意味での野卑なブルーズ・マンではなかったんだよね。ロックウッドはそれをそのままやっているだけだ。
また『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』のロバート・Jr・ロックウッドによる1曲目と12曲目はどっちもこれまたロバート・ジョンスン・ナンバー「ダスト・マイ・ブルーム」だ。この曲は戦後エルモア・ジェイムズがエレキ・ギター三連スライドでやった。
そのエルモア・ジェイムズの1951年トランペット録音ヴァージョンで「ダスト・マイ・ブルーム」は一気に有名になり、またそれがエルモアの初録音でもあったので、エルモア自身これが大ブルーズ・マンとしての出発点になり、同曲で披露したエレキ・ギターでの三連スライドが名刺代わりになった。
『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』にあるロバート・Jr・ロックウッドによる「ダスト・マイ・ブルーム」2ヴァージョンは、1曲目、12曲目と離れてはいるものの、同日の同メンバーによる同じセッションでの録音で、実はエルモアの初録音よりも先なのだ。
ただしその1951年 JOB 録音の二つの「ダスト・マイ・ブルーム」は、解説の小出斉さんによればどっちも当時はリリースされなかったらしい。だからリアルタイムではエルモア・ジェイムズ・ヴァージョンの方が先に知られることとなった。比べるとロバート・Jr・ロックウッドのはかなりおとなしい。
おとなしいというか、ロバート・ジョンスンのオリジナルをそのまま電化バンド形式でやっているというようなもので、エルモア・ジェイムズ・ヴァージョンのような拡大解釈はしていない。その分、最初から書いているようにロバート・ジョンスンが1950年代に生きていればこうだったと実感できるような感じだ。
ちょっぴりシカゴ・スタイルなギターの弾き方も出てくる。ビッグ・ビル・ブルーンジーを思わせる瞬間もあるからね。拡大解釈したエルモアのは強烈にモダンだが、ロバート・Jr・ロックウッドのもダウン・ホーム感がありながら充分モダンというか洒落ていて、どっちがいいかは聴く人の好み次第だ。
『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』にはロバート・Jr・ロックウッドの名前で収録されているが、実はサイド・ギタリストとして参加しただけで、ピアニスト、サニーランド・スリム名義の五曲、同様にドラマー、アルフレッド・ウォレス名義の二曲も面白い。
コクのあるヴォーカルの味はサニーランド・スリムの五曲がいいなあ。ロバート・Jr・ロックウッドよりも上だ。しかもそれら五曲は相当に洗練されたモダン・シティ・ブルーズで、サニーランドのピアノもそうだけど、ロックウッドのギターの弾き方も T・ボーン・ウォーカー〜ジャズ系の音使いだ。
そんなのを聴いていると、ロバート・Jr・ロックウッドは完全にロバート・ジョンスン・スタイルの継承者としてのブルーズ・マンでありながら、同時に戦後のブルーズ新時代にも適応した、いわばアグレッシヴさと都会的洗練を兼ね備えた人だったことが、1950年代初期 JOB 録音で既に分る。
さて駆け足で『スウィート・ホーム・シカゴ:ザ・JOB・セッションズ 1951-1955』後半のジョニー・シャインズを。全て基本的には(ブルーズ・ハープ奏者が入るものはあるが)一人でのギター弾き語り。まず最初の13曲目「ランブリン」。これも完全にシャインズ一人でのエレキ・ギター弾き語りブルーズ。
「ランブリン」というタイトルだけど、これはロバート・ジョンスンの「ウォーキン・ブルーズ」だ。続く14曲目「フィッシュ・テイル」というタイトルでのこれまた完全にシャインズ一人での弾き語りは、やはりロバート・ジョンスンの「テラプレイン・ブルーズ」。改作とか焼直しでもなくそのまんまだ。
ギターとヴォーカルのディープさは、ジョニー・シャインズの方がロバート・Jr・ロックウッドよりも強く感じる。ロバート・ジョンスンにあった(といっても録音数自体はかなり少ない)デルタ・スタイルの継承者だといういうだけでなく、一人での弾き語りの時はそんなディープな持味のブルーズ・マンだよなあ。
また17曲目以後の五曲ではウォルター・ホートンのブルーズ・ハープと不明のベースが入っていて、シカゴ・ブルーズの初期型バンド・スタイルみたいな色が濃くなっている。ブルーズ・ハープがかなり大きくフィーチャーされているので、さしずめモダン・ハーモニカ・ブルーズといった趣でちょっと面白い。
また19曲目「ノー・ネーム・ブルーズ」、20曲目「ブルータル・ハーティッド・ウーマン」におけるジョニー・シャインズのギターはデルタ・スタイルではなく、ロバート・ジョンスン直伝のウォーキング・ベース、すなわちブギ・ウギのパターンを弾いている。まるでロックウッドみたいだよなあ。
ロバート・Jr・ロックウッドも時々デルタ・スタイル直伝のものをやることがあったし、だから主にロバート・ジョンスンのデルタ的側面を受け継いで云々といったジョニー・シャインズだって、シティ・ブルーズのスタイルであるブギ・ウギを弾いたっておかしくはないどころか、当たり前だろうなあ。
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