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2016/11/30

プリンスのスウィート・ソウル

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プリンス1996年の三枚組『イマンシペイション』。個人的には大好きなアルバムでリリース当時は聴き狂っていた。最大の理由はかな〜りスウィートだからだ。個人的に大好きでいい曲がいっぱいあるんだが、しかしその多くはプリンスのオリジナル曲ではない。そう、『イマンシペイション』にはカヴァー曲が多い。

多いと言っても三枚組全36曲のうち4曲だけなんだけど、『イマンシペイション』以前には他人の書いた曲をやることなんて全く一つもなかった(はずの)プリンスなので、だからこれはむしろ「四曲も」あると言うべきだろうなあ。そして1996年のこの三枚組以後も死ぬまでカヴァー曲はやっていない。

あ、いや、1999年の『レイヴ・アン2・ザ・ジョイ・ファンタスティック』にシェリル・クロウの「エヴリデイ・イズ・ア・ワインディング・ロード」があったなあ。がしかしあの曲ではシェリル・クロウは歌や演奏で参加していない。同アルバム中他の曲では参加しているのに、本人の曲で参加しないなんてヘンなの。

しかしあれも例外で、一つのアルバムに四つもカヴァー・ソングがあるなんてのは、プリンスでは『イマンシペイション』だけ。彼の音楽キャリア初のことでもあったから、あれはどういうことだったんだろうなあ。ソングライターとしても、以前から繰返しているようにアメリカ大衆音楽史上最高の一人だったかもしれないのに。

説明不要だけど、『イマンシペイション』にあるカヴァー・ソング四曲とは一枚目六曲目のスタイリスティックス「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」、十曲目のボニー・レイット「アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー」、三枚目五曲目のデルフォニックス「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」、十曲目のジョーン・オズボーン「ワン・オヴ・アス」。

四つとも『イマンシペイション』におけるプリンス・ヴァージョンの出来も素晴らしい。特に「ワン・オヴ・アス」はどう聴いてもジョーン・オズボーンのヴァージョンより上だ。なかでもドラムスのサウンドがいいように思うけど、これ、生ドラムスなのか打込みなのか、僕の耳では判断できない。

スネアの叩き方なんかを聴くと、やっぱり生のドラム・セットをプリンス自身が叩いているんじゃないかと思うんだが、他の部分はデジタルな感触もあるから、やっぱり自信がない。「ワン・オヴ・アス」でのそのスネアが実にいい感じで跳ねていて、僕は大好きだなあ。

ボニー・レイットの「アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー」は、やっぱり彼女自身のオリジナル・ヴァージョンの方が沁みてくる感じでプリンスのよりいいだろうとは思う。プリンス・ヴァージョンの方は冒頭からエレクトリック・シタールが効果的に使われているのが印象的。

エレクトリック・シタールといえば、『イマンシペイション』では実にたくさん使われているよねえ。三枚全部で計ピッタリ三時間という収録時間(ヘンな凝り方だ)なので、全部じっくり聴き直すのがちょっとしんどいんだけど、たくさんエレキ・シタールが使われていたように思う。

記憶では二枚目の「ソウル・サンクチュアリ」と「セイヴィア」にもエレキ・シタールが入っていたような気がして聴き直してみたが、どっちにも入っていないぞ。う〜ん、記憶違いか。まあしかし他の曲で使われているものが確かに多かったのは間違いないはず。

どうして「ソウル・サンクチュアリ」と「セイヴィア」がそうだったような気がしたのかは、自分でもちょっと分るような気がする。この二曲はややエキゾティックな曲調とサウンド・アレンジなのだ。ややインド〜アラブ風な雰囲気があるように思うのは僕だけだろうか?単に僕がインド〜アラブ風なものが好きなだけ?

「ソウル・サンクチュアリ」ではタブラではないが、ちょっとそれに似た音の打楽器がはっきりと聴こえるしなあ。「セイヴィア」の方は聴き直したら特にエキゾティックでもないぞ(苦笑)。エキゾティックではなく、プリンスお得意のファルセット唱法で理想の愛を歌い上げるアメリカン・ポップ・バラードだ。

そして「セイヴィア」終盤では自身の弾くエレキ・ギターがドラマティックに爆発するという、こりゃまたなんとも壮大な展開だ。この曲こそ『イマンシペイション』二枚目のクライマックスだね。プリンスにとってのセイヴィア、すなわち救世主だったマイテを称えた曲。

『イマンシペイション』二枚目では露骨だけど、他の二枚でも当時結婚したばかりのマイテとの蜜月ぶりから来るスウィートさ、多幸感が全体に満ち溢れていて、それまでのプリンスの音楽を知っていると思わず「よかったね、プリンス」と声をかけたくなるような気分なのだ。

だから『イマンシペイション』は全体的にウキウキしていて、非常にポジティヴで前向きのラヴ・ソングが多く、聴いている僕までなんだか幸せな気分になって微笑んでしまう。それがこの三枚組が大好きである最大の理由なんだよね。そしてそんな気分を象徴しているのが前述二曲のソウル・クラシックス。

スタイリスティックスの「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」は1972年の、デルフォニックスの「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」は1968年のもので、どっちの曲も双方のグループの代表曲にして最大のヒット曲。ソウル・クラシックスとしてカヴァーする人は多い。

プリンスみたいな音楽家の志向を考えると、そんな誰でも知っている有名ヒット・ソングを、それもライヴ・コンサートなどではなく自身のリリースする新作アルバムでカヴァーするなんてことは、それまでなら考えられないことだった。おそらく二曲ともそのメロディの美しさゆえじゃないかなあ。

『イマンシペイション』附属ブックレットで一曲ごとに付いているコメントを読むと、「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」のところでは「今まで書かれたなかで最もプリティなメロディじゃない?」とある。「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」のコメントでは「もう一つの大好きな曲」だと。

『イマンシペイション』にあるプリンスのカヴァー・ヴァージョンは例によって紹介できないので、それぞれのオリジナル・ヴァージョンを紹介しておこう。

スタイリスティックス「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」https://www.youtube.com/watch?v=nkG0YOMUNs4
デルフォニックス「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」https://www.youtube.com/watch?v=baNbyst7aW0

お聴きになれば分るように、『イマンシペイション』でのプリンスはほぼ忠実にカヴァーしている。「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」冒頭のあの印象的なソプラノ・サックスも、「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」出だしのあのドラム缶を叩いているようなスネアの連打も。

『イマンシペイション』ではこんなスウィート・ソウル・クラシックスのカヴァーだけでなく、オリジナル曲も似たような多幸感・祝祭感があるものが多く、だからアルバム全体にわたって、プリンスがまるで甘茶ソウルの人間になったかのような雰囲気だよなあ。

「甘茶ソウル」(スウィート・ソウル)はソウル・ファンのあいだでの専門用語なので、プリンス・リスナーでご存知ない方がいらっしゃれば是非ちょっとネット検索してみてほしい。「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」も「ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー」も甘茶ソウルのコンピレイションによく入っている。

もちろん『イマンシペイション』ではそんなスウィートなソウル・バラードばかりではない。一枚目ではダンサブルなファンク・チューンが中心だし、三枚目はややハウス〜テクノっぽい打込みメインで、やはりクラブ系のダンス・チューンが多い。なかでも一枚目のオープニング「ジャム・オヴ・ザ・イヤー」は腰が動くね。

「ジャム・オヴ・ザ・イヤー」出だしのベース・リフ。あれいいよなあ。短いファンキーなリフ・パターンを繰返し弾いていて、僕は大好きだ。すぐにドラムスが入り、鍵盤とホーン・セクション(シンセサイザー?)との合奏が入ってきて、プリンスのファルセット・ヴォイスが聴こえはじめると、あぁ、パーティーがはじまるんだなと思うよ。

そんでもってパーティーの幕が開くと、その中身はなんとも甘い展開が続いて、例えば以前も書いたけれど完全なる1930年代風スウィング・ジャズ・ナンバーの五曲目「コーティン・タイム」(は「求愛のとき」という意味)に続く六曲目が「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ!」だなんてね。

なお、上でも書いたが一枚目十曲目のボニー・レイット「アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー」だけは、彼女本人のヴァージョンの方がいい。『イマンシペイション』収録のプリンス・ヴァージョンのファンが多いようだから、そんな方には是非ボニーのオリジナルも聴いてほしいので、貼っておく。ギターがよく話題になるボニーだけど、ヴォーカルもいいよ。なんて切ない歌なんだ。

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