ザ・バンドのワールド・ミュージック的アティテュード
ザ・バンドの四作目1971年の『カフーツ』。人気ないよねえ。評価も低い。僕も決して傑作なんかじゃないと思う。特にこのザ・バンドというバンド(面倒くさい名前だ)の大傑作とされる一作目『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』、二作目『ザ・バンド』とは全く比較にならないかも。
それは僕も納得しているものの、『カフーツ』だって意外に好きなのだ。というか個人的趣味嗜好だけなら『カフーツ』が僕にとってのこのザ・バンドというバンドの諸作中モスト・フェイヴァイットなんだよね。まあこんな意見のリスナーはロック・ファンには少ないと思う。がワールド・ミュージック・ファンのなかにはいるかも。
そう、『カフーツ』はザ・バンドの諸作中最もワールド・ミュージック的なアティテュードを感じるものなのだ。いろんな音楽をお聴きのリスナーであればこの意見に納得していただけるかもしれない。元々アメリカーナ的なルーツ・ミュージック志向の音楽集団だったザ・バンドがどうしてこうなったのか?
1970年の三作目『ステージ・フライト』までで、いや69年の二作目『ザ・バンド』まででやりたい音楽をやり尽くしてしまい、その後は方向性が定まらなくなったとか、バンド内の人間的力関係の変化が影響しているだとか、いろんな意見を読むけれど、僕はそのあたりにあまり詳しくなく興味も薄い。
単にできあがって今でもCDで聴ける音でだけいろいろと考えて判断しているだけだ。そうなった場合、僕にとってのザ・バンドは、これらに尽きるとまで言われる最初の二枚はちょっと息苦しいというか、じっくり何度も聴き込まないと分りにくいような部分もあって明快じゃないし、ポップでもないもんなあ。
だから僕はザ・バンドの最初の二枚は普段あまり聴かない。だってしんどいもん。僕が一番よく聴くザ・バンドのアルバムは1972年の二枚組ライヴ・アルバム『ロック・オヴ・エイジズ』だ。やっぱりライヴ盤好きで二枚組好きの僕。そんでもって『ロック・オヴ・エイジズ』と『カフーツ』は関係がある。
『ロック・オヴ・エイジズ』ではホーン・セクションが大胆に起用されているが、それのアレンジがアラン・トゥーサンだ。アランがやった仕事のなかで僕が最も好きなものの一つなんだよね。マジックだとしか思えないアランのホーン・アレンジがあるからこそこの二枚組ライヴ・アルバムが大好物なのだ。
『ロック・オヴ・エイジズ』では、元はホーン・セクションなど入っていないザ・バンド・オリジナル楽曲でもアラン・トゥーサンが絶妙極りないアレンジのペンをふるっている。そのあたりのことも含め、いろいろと面白いこの二枚組ライヴ・アルバムについては機会を改めて一度じっくり書いてみたい。
そんなアラン・トゥーサンとザ・バンドとの初顔合わせが1971年の『カフーツ』だったのだ。すなわち一曲目「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」のこと。リヴォン・ヘルム・ロビー・ロバートスン、リック・ダンコ三名の共作名義で、歌うのはリヴォンとリック。この曲でのホーン・アレンジが見事だ。
いったいどういうわけでザ・バンドがアラン・トゥーサンを起用したのかは僕は知らない。なにか書いてあるものがありそうだけど、調べていない。アランのアレンジはいつもそうだけど、「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」でもごく自然。これみよがしな部分が全くなくスッとバンド・サウンドに溶込む。
そんなアラン・トゥーサンのペンとザ・バンドのサウンドの融合具合が最高に発揮されたのが『ロック・オヴ・エイジズ』なんだけど、ホントまた別の機会に。アレンジを書いているのか書いていないのか分らないような感じでバンド・サウンドにごく自然に馴染むという点では、クインシー・ジョーンズの手法に少し似ている。
ホーン・セクション(の編成は書かれていないし、調べても分らず、また僕の耳では聴いてなんの管楽器が何人と判断することも不可能)が参加していることもあって、『カフーツ』一曲目「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」は賑やかな印象だ。それが僕は好きなんだ。若いのにこんな地味な老成バンドの音楽としては。
『カフーツ』にはもう一曲、B面五曲目「ヴォルケイノ」にもホーン・セクションが入っているが、そのアレンジはアラン・トゥーサンであるというクレジットはない。聴いてみてもこれはアランの仕事じゃないな。だって一曲目「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」とはアレンジのスタイルがかなり違うから。
「ヴォルケイノ」でのホーンの入り方は不自然というのではないが、ちょっと取ってつけたようなというか、バンド・サウンドとの融合具合がイマイチに聴こえる。だからクレジットがないように、どう聴いてもアラン・トゥーサンの仕事じゃないのは間違いないように思う。『カフーツ』でホーン・セクションが入るのはその二曲だけ。
ホーン・セクションではないが「ヴォルケイノ」ではサックスのソロが入る。吹いているのはガース・ハドスンだね。曲調もバンドの演奏もホーン・セクションのサウンドも、いかにも火山が噴火するといった派手で賑やかな内容で、ガースのサックス・ソロもいいし、これもアルバム中まあまあ好きな一曲だ。
『カフーツ』で一曲目「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」の次に好きなのが続く二曲目「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」だ。これはボブ・ディランの書いた曲だけど、ディラン本人のヴァージョンはまだ未発表だったので、このザ・バンドのヴァージョンで知れらていたもの。
実を言うと僕は「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」のボブ・ディラン自身によるヴァージョンをいまだに聴いたことがない。でも調べてみたら『グレイテスト・ヒッツ Vol. II』に収録されているようで、僕はその二枚組を持っているなあ。オカシイぞ。どうして憶えていないだろうなあ。
まあいいや。『カフーツ』二曲目の「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」。冒頭でフェイド・インしてくるのがガース・ハドスンの弾くアコーディオンで、すぐにリヴォンの歌が出る背後でもずっとアコーディオンが鳴っていて、ヴォーカルが終わると、またしてもアコーディオンでソロを弾きながらフェイド・アウトする。
『カフーツ』の「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」でのそんな部分にも、僕はアティテュードとしてのワールド・ミュージック志向を感じ取っている。ガース・ハドスンのアコーディオンの弾き方はややアメリカ南部風なもので、ちょぴりザディコっぽく聴こえたりもするのが面白い。
「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」、ホント、ボブ・ディラン本人のヴァージョンはどんな感じなんだろうなあ?『グレイテスト・ヒッツ Vol. II』を引っ張り出してきて聴かなくちゃ。一応ザ・バンドの『ロック・オヴ・エイジズ』現行CDにもディランが歌うのが収録されている。
それはもちろん2001年リリースの際に追加されたボーナス・トラックで、『ロック・オヴ・エイジズ』のアナログ盤にはない。ちょっと聴いてみたけれど、「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」もごくごく普通のいつものディラン節でアコーディオンは全くなし。あまり面白いもんじゃないなあ。
やっぱり『カフーツ』の「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」こそが面白い。これに比べたら、いかにもワールド・ミュージックっぽいB面一曲目の「シュート・アウト・イン・チャイナタウン」での取ってつけたようなわざとらしいエキゾティック趣味はあまり好きじゃない。
『カフーツ』A面ラストの「4%・パントマイム」にはヴァン・モリスンがゲスト参加して、リチャード・マニュエルと掛け合いで歌って面白いやり取りを聴かせる。リチャードはピアノで三連フレーズを叩き続けている。作曲はヴァンとロビー・ロバートスンの共作名義。これもなかなかいいなあ。
僕が現在持っている『カフーツ』を含むザ・バンドの全作品は、米キャピトルが2000年にリイシューしたもので、どのアルバムにもたくさんボーナス・トラックが収録されている。そのなかにはかなり興味深いものがあるので、オリジナル通りじゃないとダメだというリスナー以外にはオススメなのだ。
『カフーツ』のオリジナルは全11曲だけど、2000年リリースのリイシューCDには5トラック収録追加されている。「五曲」と書かないのには理由がある。ラスト16トラック目は「ラジオ・コマーシャル」だからだ。聴いた感じ、タイトル通りおそらく『カフーツ』リリースにあたってラジオで流した宣伝音源だ。
「ラジオ・コマーシャル」は約一分間。そんなもの聴いてもしょうがないだろうと言わないで。ちょっと面白いのだ。いきななり「ジプシーの、ミンストレル・ミュージシャンの」ザ・バンドというナレイションが流れて、それに続いて三曲の断片が流れ、「ザ・バンドの最新作、キャピトルから!」と言っている。
流れる断片のアルバム収録の三曲は「ウェン・アイ・ペイント・マイ・マスターピース」「シュート・アウト・イン・チャイナタウン」「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」の順で出てくる。つまり全てワールド・ミュージック志向のものばかり。ってことはキャピトル側もそんな音楽性を売り出したかったのかもしれないなあ。
また15曲目に「ドント・ドゥー・イット」のスタジオ・アウトテイクが収録されている。この曲、もちろんマーヴィン・ゲイのあれだけど、当時ザ・バンドによるスタジオ録音は未発表のまま。1972年の『ロック・オヴ・エイジズ』に収録されたのだけが20世紀のあいだはザ・バンド唯一のものだった。
その『ロック・オヴ・エイジズ』オープニングの「ドント・ドゥー・イット」が、冒頭で弾きはじめるリック・ダンコのベースといい、アラン・トゥーサンのアレンジしたホーン・セクションの入り方といいえらくカッコよくて、僕は最初にレコードで聴いた瞬間にこのアルバムが大好きになったものだった。
それに先立つスタジオ録音ヴァージョンがあって、それが聴けたってのが嬉しかったんだなあ。基本的にはドラムスのサウンドを基本に組み立てているマーヴィン・ゲイのオリジナルに即したものだけど、『ロック・オヴ・エイジズ』でのアラン・トゥーサンは、間違いなくまだリリースされていなかったこれを聴いてアレンジしたんだなと分るものだ。
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