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2016/11/03

日米の不倫ソング

Jamescarrmindmess

 

Unknown










「夜霧よ今夜もありがとう」が日本における不倫ソングのナンバー・ワンだとしたら、アメリカにおけるそれは「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」だね。どっちのシングル盤も1967年リリース。といっても前者の方は石原裕次郎主演の映画『夜霧よ今夜も有難う』の主題歌だ。

 

 

「夜霧よ今夜もありがとう」はだから当然石原裕次郎が歌ったもので、曲を書いたのは浜口庫之助。映画の封切りは三月だったのだが、先行して二月にシングル盤がリリースされている。「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」の方はブラック・ミュージック・ファンであれば知らない人はいないはず。

 

 

その初演歌手がご存知ジェイムズ・カー。曲を書いたのがダン・ペン&チップス・モーマン。このソングライター・コンビが創ったもののなかでは最高の名曲じゃないかなあ。カーはこれをゴールドワックス・レーベルに録音し、1967年に同レーベルからシングル盤でリリースされてヒットした。

 

 

僕のなかではゴールドワックス=ジェイムズ・カーみたいなイメージがある。O・V・ライトとかスペンサー・ウィギンズとかドロシー・ウィリアムズとかオヴェイションズとか、その他いろんな歌手が録音しているディープ・サザン・ソウルのレーベルなんだけど、僕にとってのゴールドワックスとはカーだ。

 

 

ただし僕がそう思うようになったのはCDリイシューがはじまってからで、特に2001年と2004年に英 Ace レーベルが『ザ・ゴールドワックス・ストーリー』の一枚目と二枚目、2009〜2010年に同レーベルが『ザ・コンプリート・ゴールドワックス・シングルズ』三枚を出してからだ。

 

 

ジェイムズ・カーという素晴らしいソウル歌手がいる(らしい)という話は前々から読んでいて、特に鈴木啓志さん編纂の例の『U.S. ブラック・ディスク・ガイド』に、カーの確か『ユー・ガット・マイ・マインド・メスト・アップ』が掲載されていた(ような気がする)。しかしそれはヴィヴィド盤だったよなあ。

 

 

そのヴィヴィド盤はCDではなかったんじゃないかな。いや、CDだったかもしれないがもうその本の現物が手許にないので確認できない。とにかく僕の力ではそのアルバムは入手できなかった。それでも「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」の高名だけは鳴り響いていた。なぜかってカヴァーする人がたくさんいたからだ。

 

 

そのなかの一人にライ・クーダーがいる。ライは1972年のアルバム『ブーマーズ・ストーリー』のなかで「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」をカヴァーしている。ただしそれにはヴォーカルは一切入らず、ギター・インストルメンタル。だからどんな歌なのかは分かりようがなかった。

 

 

今聴き直すと『ブーマーズ・ストーリー』B面一曲目の「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」はどうもあんまり面白いもんではないように思う。その後ライはライヴでこの曲をよくやったようだ。長年聴けなかったんだけど、21世紀になって二つのライヴ・ヴァージョンがリリースされた。

 

 

録音の早い方はライ・クーダー&ザ・チキンスキン・バンド名義の『ライヴ・イン・ハンブルグ 1977』で2013年リリース。もう一つはライ・クーダー・アンド・コリドス・ファモソス名義の『ライヴ・イン・サン・フランシスコ』で2011年録音のやはり2013年リリース。後者のヴァージョンの方がいいなあ。

 

 

どうしてかって1977年ヴァージョンの「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」は『ブーマーズ・ストーリー』ヴァージョンそのままのギター・インストルメンタルでやはりヴォーカルなし。終盤ほんのちょっぴり背後でコーラスの声が聴こえるけれど、まあオマケみたいなものでしかない。

 

 

2011年ヴァージョンの方にはしっかりとしたヴォーカリスト(クレジットされているのは三名だが誰だろう?)が参加して「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」のあの歌を歌っているので、僕にはこっちの方がいいんだよね。そして1977年のにも2011年のにもフラーコ・ヒメネスが参加している。

 

 

ヒメネスの弾くアコーディオンと、ライ自身がやはりアメリカ南部音楽風のギター・スライドを聴かせてくれているので、「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」がなんだかテックス・メックス・ナンバーみたいに仕上っているのはちょっと面白い。元は暗い曲なのに、それがなんだか陽光の下に出たみたいだ。

 

 

ジェイムズ・カーの歌う「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」をちゃんと聴いたのは、それらライのライヴ・ヴァージョンよりも早く、英 KENT(Ace)が2002年に『ユー・ガット・マイ・マインド・メスト・アップ』のCDリイシューをしてくれたのを買ったからかもしれない。

 

 

これだけの有名曲のジェイムズ・カー自身の1967年シングル・ヴァージョンは、ひょっとしたらもっと前からなにかのかたちで耳にしていたんじゃないかという気がしないでもない。ヴォーカル入りカヴァーというだけなら、アリーサ・フランクリンとのかフライング・ブリトー・ブラザーズので聴いてはいた。

 

 

あ、前述のコンピレイション盤『ザ・ゴールドワックス・ストーリー』の一枚目にジェイムズ・カーの「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」が収録されているなあ。裏ジャケットには2001年と書いてあるから、僕がCDでしっかりこのカーのヴァージョンを聴いたのが2001年だったのは間違いないだろう。

 

 

ジェイムズ・カーの単独盤 Ace の『ユー・ガット・マイ・マインド・メスト・アップ』と同じく、やはり KENT からジェイムズ・カーの『ザ・コンプリート・ゴールドワックス・シングルズ』も出ている。出たのはおそらく同時期じゃないかと思うんだけど、後者には発売年がどこにも記載されていない。

 

 

それら二枚のどっちにも当然「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」は収録されている。当たり前だね。ジェイムズ・カーのゴールドワックス録音はだいたいシングル曲ばっかりで、オリジナル・アルバムみたいな格好になっている『ユー・ガット・マイ・マインド・メスト・アップ』だって基本シングル曲集だ。

 

 

だから『ユー・ガット・マイ・マインド・メスト・アップ』と『ザ・コンプリート・ゴールドワックス・シングルズ』、どっちかだけでいいような気がしないでもないが、まあしかしダブっていない曲目もあるので、ジェイムズ・カー・ファン(でもないんだが僕は)はやっぱり両方買わなくちゃね。

 

 

「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」というダン・ペン&チップス・モーマンが書いてジェイムズ・カーが歌った曲の素晴らしさについては、紙でもネットでもいろんな人が書いているので、僕なんかが書くことはなんにもないように思う。歌詞は不倫ソングだけど、メロディがもっといいよなあ。

 

 

「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」のメロディがいいっていうのは、おそらくライ・クーダーもそこに目を付けたんだろう。ライは歌の方はあまり得意じゃないってこともあるだろうけれど、メロディの美しさゆえにこそ主にギター・インストルメンタルでカヴァーしているんじゃないかなあ。

 

 

アリーサ・フランクリンのカヴァー・ヴァージョン(『ディス・ガールズ・イン・ラヴ・ウィズ・ユー』)は、歌手としての力量はジェイムス・カーよりアリーサの方が上だという気が僕はするので、彼女もピアノを弾きながらしっかり歌い込んでいる。しかし曲の持味はカーの方が活かせているかも。

 

 

っていうのはアリーサはああいった、こうなんというかどっちかというと崇高なというか、スポットライトを浴びて堂々と声を張って歌うスタイルの歌手。ところが「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」は不倫ソングで、コソコソ隠れて暗い裏道の片隅で男女が逢引するという内容の曲なわけだ。

 

 

それにもかかわらずアリーサのはいつも通りの堂々たる歌いっぷりで、これじゃあまるで隠さなくちゃいけない道ならぬ道が白日のもとに晒されてしまっているような雰囲気なんだよね。しかも黒人教会風なオルガンやゴスペル合唱みたいなコーラスも入って、これじゃあ教会で不倫の懺悔を大声でやっているみたいじゃないか。

 

 

教会には懺悔室というのがあって(今の日本では「懺悔」「告解」と言わず「ゆるしの秘跡」と呼ぶらしい)、そこに入ると、懺悔する人間は聖職者に顔を知られることもなく罪を告白することができる。つまりこっそりやるわけだ。それをアリーサはまるで大ホールのステージで大声で告白している感じだ。

 

 

もちろん音楽はどんな曲をどんな解釈・アレンジでやってもいいし、どんな歌い方をしたって出来上がりが素晴らしければ誰も文句は言わない。それこそが音楽の面白さだってことは、以前「シー・シー・ライダー」という苦悶のブルーズを爽快感満載なロックンロールで歌うエルヴィス・プレスリーの件でも書いた。

 

 

アリーサの「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」だって出来上がりはいいと思う。だけど(CDでしっかりとは)あとから聴いたジェイムズ・カーのオリジナル・ヴァージョンを聴いたら、やっぱりそっちの方が不倫ソングというこの曲の持つ意味合いはよりよく表現できているように思うんだよね。

 

 

ジェイムズ・カーもゴスペル界出身らしい。歌い方は確かにそんな感じの声の張り方だ。「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」でもそうだし、この曲では教会合唱風ではないがバック・コーラスも入る。全体のサウンド・アレンジもやや派手。しかし淡々と隠れた恋を歌う雰囲気はよく出ている。

 

 

石原裕次郎が「夜霧よ今夜もありがとう」を後乗りでまるで引きずるように歌い、いつか晴れて逢えるようになる日まで夜霧に隠れてしのび逢おうという歌詞を説得力あるように歌っているのと同じく、ジェイムズ・カーも「ザ・ダーク・エンド・オヴ・ザ・ストリート」で似たような表現をしているんじゃないかなあ。

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