年間ベストテン 2016
1995年以来毎年欠かさずネット上で発表し続けている私的音楽作品ベストテン。今年もここ数年の恒例で今日12月25日、クリスマスの日に発表しよう。これも毎年書いているけれど、僕の年間ベストテンはその年の作品とは限らない。あんまり前のものも選びにくいけれど、それでも僕が買う音楽ソフトは、出てすぐその年に買えるとは限らないものもあるからだ。
そういうわけで「今年買った」ものが対象で、二・三年前くらいのまでのリリースなら入れている僕の年間ベストテン。新作篇とリイシュー・発掘篇に分けて10枚ずつ。ではまず新作篇から。
大のショーロ好きの僕にとって、今年の一位はこれ以外考えられない。僕がショーロというものを知って以来リリースされた新作では、断然ナンバー・ワンの大傑作。いまだにこれを聴かない日はないかも。音楽は「進化」なんかしない。ただ本当に美しいものが、そのままいつまでも美しくあるだけだ 。
ポルトガルの若手(でもないがもう)ファド歌手の最新作にしてベスト作。この声の存在感、迫力、凄みの前には全く言葉がない。伴奏も伝統的ファド・スタイルでジョアナもじっくりと歌い込む。歌が好きなリスナーなら一曲目の一瞬だけで撃沈させられてしまうはず。
アイヌの伝統楽器トンコリの奏者兼歌手の OKI さん率いる21世紀型の最新バンド。こういうのこそ「グローカル・ビーツ」と呼んで評価してほしいぞ。重たいリズムのグルーヴ感も最高。
去年から惚けっぱなしのヴェトナム人バラード歌手レー・クエン。極めて細かい息遣いの隅々にまで行き届いた歌い廻しの繊細な表現力は、いまや世界中を見渡しても並ぶ者がいないんじゃないかと思うほど。
1950年代から活躍するブラジル人鍵盤楽器奏者ジョアン・ドナート。今年の新作はレトロな1970年代風ジャズ・ファンクでありながら、サン・パウロの若手を起用してアフロビート色も聴かせてくれる。いまだに個人的ヘヴィ・ローテイション盤。
今年、ブログ記事にしようしようと思いつつ書きそびれてしまったが、ナイジェリアのジュジュ・ミュージックの若手ナンバー・ワン、フェミ・オルン・ソーラーの新作。激しくダンサブルで豪快なように聴こえて、その実かなり繊細なパーカッション・アンサンブルに乗り、フェミの軽快なヴォーカルが舞う。
2016年、この歳の老舗ロッカーがこんなにも瑞々しく新鮮なニュー・ミュージックを創ってくれるとは、失礼ながら予想だにしていなかった。アメリカ音楽(系)のものでは一番よかったね。
リシャール・ボナの音楽では、前々からラテン要素がいちばん好きな僕なので、アルバム一枚まるごとラテン音楽が全面展開する今年の新作はもってこいの僕向きアルバム。これもいまだに個人的ヘヴィー・ローテイション盤。
通称いわゆる砂漠のブルーズでは、年頭に日本でも買えるようになったティナリウェンの新作ライヴ・アルバムがものすごいものだったけれど、個人的な好みだけならこっちだ。みなさんよくご存知のトゥアレグ系バンドのサウンドでしかないのに、どうしてこんなに心地良いんだろう?
ギリシアのヨルゴス・ダラーラスの新作は、レンベーティカとラグタイム(とそれをルーツとするアメリカ黒人音楽)との合体・折衷作で、この二つの一見無関係そうな音楽の共通性を、世界のポピュラー音楽史を俯瞰しながら考えさせてくれる面白いものだった。
新作部門では、選外にはしたが充実作が今年も多く、大いに頭を悩ませた。書いてあるようにティナリウェンの新作は入ってしかるべきだったし、個人的趣味嗜好だけならデヴィナ&ザ・ヴァガボンズの新作ライヴ・アルバムや、アラトゥルカ・レコーズの面々による『メイダン』だって選びたかったのだが、そこは我慢我慢。
続いてリイシュー・発掘篇のベストテン 2016。
これが出た以上、これを一位にしないことは、熱心な中村とうよう教信者である僕には考えられない。普通の意味での音楽が聴けるのは附属 DVD だけ。でもページをめくるたびにとうようさんの声と、とうようさんが情熱を傾けたいろんな音楽のサウンドが聴こえてくるかのようだ。
ジャズに限れば僕が最も敬愛し影響を受けたのがとうようさんではなく油井正一さん。その油井さんの書いた本では個人的に最大の愛読書だった『ジャズの歴史』(東京創元社)が、リットーミュージックから九月に復刊文庫化されて、こんなにも嬉しいことはなかったね。
サイズが大きいので、なかなか全貌を把握することがいまだにできていない僕だけど、1940年代末以来終生モロッコに住んだアメリカ出身の作家ポール・ボウルズが、現地の伝統音楽を採取したボックス・セット。今の僕にとってのボウルズとはアメリカ人作家ではなく、こういうモロッコ文化の人物だ。
ポルトガルのトラジソンがリリースした全12枚のシリーズ。今年になって日本盤が出はじめて簡単に買えるようになり、いわゆる大航海時代のポルトガルが、ギターなどの楽器や、それを使ったり使わなかったりするいろんな音楽を世界各地に持込んで現地で花開いた音楽文化の粋の一端が分りやすくなった。今までリリースされているなかから、僕が最も感動した「ゴア篇」を。
最近の現在進行形ユッスーにはもはや興味はないけれど、1980年代末〜90年代頭あたり、昇竜のごとき勢いだっ全盛期のユッスーであれば、いつでもどんどん聴きたい。これは1987年にアテネでピーター・ゲイブリエルに招かれてやったライヴ。ピチピチしたユッスーの輝かしい声とバンドの躍動感が素晴らしい。
つい先日、今年も恒例のように巨大なボックス・セットがリリースされたボブ・ディラン。そんな毎年毎年ボンボン出されても困っちゃうわけで、僕の場合、昨2015年リリースのこの『ザ・カッティング・エッジ』も今年に入ってようやく買えた。だがしかしまだまだジックリとは聴き込んでいないという有様。周回遅れだなあ、僕は。ざっと聴いたところ、ディラン自身がアクースティック・ギターでボ・ディドリー・ビート(3・2クラーベ)のパターンを刻みながら歌う「ライク・ア・ローリング・ストーン」その他があるようだが。
これも値段がバカ高いのでなかなか買えず、半値程度にまで下がってきた今年になって買えた巨大ボックス。なんたって B・B・キング絶頂期の録音が(ほぼ)全て、これでもかというほど聴けるんだから、楽しいったらない。それにしてもアメリカ黒人ブルーズって、同じようなものをいくら続けて聴いても聴き飽きないね。
別になんでもない初心者向けアンソロジーのように見えるけれど、1920年代の通称いわゆるクラシック・ブルーズと、そのちょっとあとに録音を開始するカントリー・ブルーズの女性歌手が一緒くたに並んでいるという、案外存在しない編纂方針のもので、マニアもなかなかどうして侮れない一枚なのだ。
アラブ〜インド音楽風味こそが僕の最も愛するレッド・ツェッペリンなんだけど、この『コーダ』二枚組デラックス・エディションには、なんと1972年にインドはボンベイ(ムンバイ)で現地のインド人ミュージシャンと共演録音した二曲がある。ジミー・ペイジはつまらんことばかりやってないで、こういう録音の全貌を一日も早く詳らかにしてくれよ。
ドック・レゲエことブルーノ・ブルム監修・選曲・解説の三枚組アンソロジー。カリブに端を発し、その後内陸部のメンフィスなどなどソウル・シティに至る道程にあった、カリブへと拓けた河口の街であるルイジアナ州ニュー・オーリンズ。その地の音楽家の録音で、ソウル・ミュージックのルーツと展開・発展を辿るというもの。同じブルーノ・ブルムがてがけた『キューバ・イン・アメリカ 1939-1962』『ジャマイカ・ジャズ 1931-1962』は年末に入手したばかりなので、来年に廻すことにしよう。
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