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2017/01/16

ロック・ファンのみなさん、リトル・ウォルターをもっと聴いてください

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ブルーズと言っていいのか、それともやっぱりロックなのか、僕にはどうも判断しかねるのがポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド。一つしっかりと言えるのは、ブルーズを掲げて活動した白人バンドのなかでは最もよかったという事実だ。といっても黒白混交編成だったけどね。もっともそう言えるのは、僕の場合、ギターのマイク・ブルームフィールド在籍時代に限る。

 

 

となるとオリジナル・アルバムは二枚しかない。1965年の『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』と翌66年の『イースト・ウェスト』。二枚とも名盤だ。マイク・ブルームフィールド、エルヴィン・ビショップのツイン・ギター体制だったこの時代のポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドこそが、僕にとってはホワイト・ブルーズ(・ロック)最高の存在なのだ。

 

 

名盤であるとはいえ、僕のなかでは二枚目『イースト・ウェスト』の位置付けはやや低い。サイケデリックで分りにくい部分もあって、なかにはかなりの長尺曲とかもあり、いかにも1966年という時代を感じさせるものだが、そのぶんファースト・アルバムのようなブルージーさからやや遠ざかっているかのように聴こえなくもないからだ。特にアルバム・タイトル曲は13分以上もあって、しかもインド風のモーダル・ミュージックで、ちょっとドアーズを思わせる部分もあるが、このバンドにそういうものは求めないなあ、僕は。

 

 

それ以外だと、ベターデイズ時代に再演するロバート・ジョンスンの「ウォーキン・ブルーズ」や、ジャズ・ナンバーであるナット・アダリーの「ワーク・ソング」なんかもやっているけれど、前者はともかく後者の方は、おそらくその曲名から、黒人ブルーズ誕生にまつわるある種の認識を連想しただけなんじゃないかと勘ぐったりしちゃうんだよね。

 

 

だから今の僕は『イースト・ウェスト』はあまり聴かず評価もやや低くなっている(いわんやその後をや)。ってことは結局のところ、僕にとってのポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドとはデビュー・アルバムだけってことになってしまうのだが、ガッカリはしていないし、今では音源の数もそんなに少なくもないのだ。

 

 

まず最大の喜びだったのが1995年リリースの『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』。これに収録されている全19曲の録音は1964年冬と記載があるので、エレクトラ・レーベルからのデビュー・アルバム『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』を録音した1965年9月よりも前なのだ。

 

 

この『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』リリースは本当に飛び上がるほど嬉しかったなあ。さらにその二年後の1997年に CD二枚組の『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』が発売され、それの一枚目五曲目までが、それまで CD 化もされていなかった初期曲だった。

 

 

だから『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』をただのベスト盤だと侮っちゃいけないんだよね。CD ではこれじゃないと聴きにくいものがあるからさ。一枚目六曲目以後は既存アルバムから選んだただのベスト盤でしかないんだけど、このバンドの熱心なファンなら、この五曲のためだけにでも買う価値はある。

 

 

そういうわけで『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』冒頭五曲、『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』の全19曲、『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』の全11曲。これら全てあわせた計35曲が、今の僕にとってのポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドの<全て>なんだよね。

 

 

35曲で計1時間50分以上あるんだから充分だ。それらは本当に素晴らしい。1960年代半ばのアメリカ白人が黒人ブルーズが大好きになって、真似をして、それを自分たちの音楽として再創造していた姿を聴いて、とても喜ばしい良い気分だし、そんな彼らの心意気だけでなく、実際のサウンドが聴いていて気持いい。

 

 

その計35曲のプレイリストの一曲目は、『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』一曲目の「ボーン・イン・シカゴ」。この曲名でみなさんもう全員お馴染のものだよね。1965年のデビュー・アルバム『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』のオープニングだった。このバンド最大の代表曲だ。

 

 

上で書いたようにこのデビュー・アルバムの録音は1965年9月だが、『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』一曲目の「ボーン・イン・シカゴ」は、『フォークソング '65』というエレクトラ・レーベルがリリースしたアンソロジーに収録されていたもので、単独では発売されたことがないはず。

 

 

その『フォークソング '65』の B 面一曲目だった「ボーン・イン・シカゴ」。ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドがこれを何年何月に録音したのか記載がないし、調べても分らないのが残念だけど、なんでも1964年あたりから既にバンドのラインナップは整っていて、ライヴではこの曲もやっていたようだ。

 

 

『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』附属ブックレットにある記載を見ても、この(ひょっとして1964年冬よりも前の録音?)「ボーン・イン・シカゴ」では、ポール・バタフィールド(ヴォーカル&ハーモニカ)以下、エルヴィン・ビショップ(ギター)、ジェローム・アーノルド(ベース)、サム・レイ(ドラムス)、マイク・ブルームフィールド(ギター)と、全員揃っているもんね。

 

 

1964年でこのメンツというと、ロック・ファンの全員が思い出す翌65年7月、ボブ・ディランのあの例のニューポート・フォーク・フェスティヴァルでのパフォーマンスってことになるだろうなあ。あの時のディランの電化ロック路線を支えたバック・バンドが、まさにこのポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドだった。

 

 

あの時に衝撃を受けたのは、直に聴いたマリア・マルダーだけではない。フォーク・リヴァイヴァル・ムーヴメントの真っ只中で、ほとんどのアメリカ白人聴衆が、実はもっとずっと昔から自分たちにもかなり近接したところに存在していたはずの黒人ブルーズを、それもエレクトリック・バンド編成で白人メインで演奏するのを実体験した初めての機会だったかもしれない。

 

 

といっても社会的にも音楽的にも近接していたものなので、それが「初の機会」で衝撃を受けた(とマリア・マルダーは語っているが?)というのも、今考えたらちょっとおかしなことだよなと思わないでもない。がまあしかしあくまで一般的には、それも大規模な白人音楽野外フェスティヴァルにおいて堂々とやったという点においては、やはりビックリしたんだろうなあ。

 

 

そんなことを公の聴衆の前でやっちゃおうと考えたボブ・ディランのあの当時の輝きと、その輝きを一層際立たせるために彼が起用したポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドの実力の高さを、改めて痛感させられる思いだ。僕にとってのディランとはそういう人物であって、あくまで黒人ブルーズの伝統をベースにした電化ロックの世界の人で、英語詞の文学的レベルの高さで大きな賞をもらう云々は大したことじゃない。

 

 

ディランのことはいいとして、ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドも、あの1965年7月のニューポート・フォーク・フェスティヴァルで一躍知名度が急上昇して、それが同年のデビュー・アルバム録音・発売にも繋がったんだと思う。

 

 

しかしながら、バンドのスタート地点であるかのように思われていたかもしれないそのデビュー・アルバム『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』は、あるいはひょっとしたらある意味では終着点だたったんじゃないかというのが、今の僕の認識なんだよね。

 

 

それが前述の計35曲のプレイリストを聴いての正直な実感だ。初期ヴァージョンの「ボーン・イン・シカゴ」は、既に『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』収録のヴァージョンとあまり違わない完成度に至っているが、それはおそらくこの曲は録音前からライヴなどでやり込んでいた得意レパートリーだったからだろう。

 

 

それでも、それら2ヴァージョンの「ボーン・イン・シカゴ」を聴き比べると、やはり微妙な違いはある。全体的なアレンジや音の組立てはほぼ同じだが、テンポとノリが明らかに異なっている。初期ヴァージョンの方が、気付かないほどほんの少しだけテンポが遅く、ノリが深くて、タメが効いている。

 

 

そのせいで初期ヴァージョンの「ボーン・イン・シカゴ」は、ホワイト・ブルーズ・ロックよりは、黒人ブルーズに近い。ところが『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』収録ヴァージョンでは、ほんのちょっとだけテンポ・アップし、ややせわしない感じになって、ノリのディープさが薄い。そのぶん、かえって当時の多くの白人聴衆にはとっつきやすかったはずだ。

 

 

僕の拙い文章だけじゃあれなんで、ちょっと音源を貼ってご紹介しておこう。「ボーン・イン・シカゴ」の2ヴァージョン。

 

 

初期ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=aEG39gVoPOA

 

『ザ・ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド』ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=p-xh-Ot12Yc

 

 

どうだろう?微妙に違うのがお分りいただけるはずだ。後者のデビュー・アルバム収録ヴァージョンは、やはりこれはは(ブルーズ・)ロックだと言うべきだろうね。少なくとも前者初期ヴァージョンと比較すれば。それはそうと、この初期ヴァージョンの YouTube 音源の説明文には、1964年12月録音とあるなあ。

 

 

もしそれが本当だとすると、1995年リリースの『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』と同時期の録音なんだけど、どうして収録しなかったんだろう?不思議だ。デビュー・アルバムにある既存曲だからじゃないだろう。『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』には、デビュー・アルバムで再演した「メロウ・ダウン・イージー」の初期録音が収録されているもん。

 

 

それ以外でも、『アン・アンソロジー:ジ・エレクトラ・イヤーズ』の二曲目には「ラヴィン・カップ」があるが、それは、これまたエレクトラが1966年にリリースした雑多な音楽家のアンソロジー『ワッツ・シェイキン』に収録されて発売されたもの。

 

 

だけどその「ラヴィン・カップ」にかんしては、『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』にも再録された。また同じくアンソロジー『ワッツ・シェイキン』には、ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドの「スプーンフル」(ハウリン・ウルフ)や「グッド・モーニング・リトル・スクール・ガール」(サニー・ボーイ・ウィリアムスン)もあったが、その二曲も『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』に再録された。

 

 

ってことはやはりどうして「ボーン・イン・シカゴ」だけ、このバンドの初期音源収録を謳った『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』に再録しなかったのかがやや解せないような、ちょっぴり分るような分らないような…。ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドのイコン・ソングなんだから、やっぱり入れといてほしかったなあ。

 

 

その他『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』にはいろいろと面白い黒人ブルーズのカヴァーがある。「イット・ハーツ・ミー・ソー」はタンパ・レッドの曲だけど、多くのブルーズ・ロッカー同様エルモア・ジェイムズ・ヴァージョンを下敷きにしているかと思うと、さにあらず。ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドが参考にしているのはジュニア・ウェルズ・ヴァージョンだ。

 

 

またひょっとしたら昨年暮れから再注目されつつあるんじゃないかと思うブルーズ・ソングが、『ジ・オリジナル・ロスト・エレクトラ・セッションズ』四曲目の「ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー」だ。言わずと知れたリトル・ウォルターの曲で、ウォルターはポール・バタフィールドのハーモニカの先生だったもんね。

 

 

これをローリング・ストーンズが昨年暮れリリースの最新作『ブルー・アンド・ロンサム』のなかでカヴァーしている。そもそもあのストーンズのブルーズ・カヴァー・アルバムにはリトル・ウォルターの曲が一番多く、アルバム・タイトルにしている曲だってそう。そして大々的にフィーチャーされているミック・ジャガーのハーモニカ、その模範としたのがやはりウォルターだった。

 

 

それでこの「行かないでくれ」(Hate To See You Go)を、 リトル・ウォルター、ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド、ローリング・ストーンズ、三つのヴァージョンを続けて聴いてみたけれど、ストーンズのはウォルターのオリジナルにかなり忠実だけど、バタフィールドのはかなり違うアレンジとフィーリングだよね。

 

 

そんでもってやはりはっきりした。いくらオリジナルに忠実にやろうが、大胆にリアレンジしようが、リトル・ウォルターのオリジナルと比較したら最後、ストーンズのとポール・バタフィールド・ブルーズ・バンドのは、やっぱりホワイト・ロックに他ならない。三つとも貼っておくので、みなさんも感じてみてください。

 

 

リトル・ウォルター→ https://www.youtube.com/watch?v=9ipVBX5znkI

 

ポール・バタフィールド・ブルーズ・バンド→ https://www.youtube.com/watch?v=aWYc-YVUUf0

 

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