« よく晴れた朝のショーロ・カリオカ | トップページ | ボブ・ディランのライヴ36枚組で聴く音楽の古典的表現 »

2017/01/22

エリントン楽団戦前録音の魅力

Images

 

51g5h6bz0rl











なんてことは、かなり時間をかけてじっくり考えないと書けるわけもない大きなことだが、今日は主に1930年代のコロンビア系録音を中心にいろいろと聴きなおしていたので、感じたことをちょっとだけ記しておくことにする。僕がそんなことをしているのも、全て Astral さんのおかげというか、彼のせいというか(笑)。

 

 

エル・スールでよく CD を買う Astral さんは、昨2016年リリースのヴァン・モリスンの新作をきっかけに、戦前ジャズにはまってしまい、特にデューク・エリントン楽団を中心にいろいろと熱心にお聴きの模様。そんな様子は彼のブログで読める。

 

 

 

このブログへのコメントでも書いたのだが、三大メジャー・レーベルのものということであれば、戦前エリントンを集めるのはシンプルで分りやすく、たやすい。いや、正確にはたやすかった、という過去形になってしまう。なぜならどれもこれもいまや廃盤で中古しかないからだ。

 

 

アメリカにおける三大メジャーとは、コロンビア、ヴィクター、デッカ。 いちおう僕が持っているそれらのレーベルのエリントン戦前録音集を、リリース年順に記しておこう。

 

 

デッカ系はCD三枚組『The Complete Brunswick and Vocalion Recordings of Duke Ellington 1926-1931』。これは本家デッカが1994年にリリース。

 

 

ヴィクター系はCD24枚組『The Duke Ellington Centennial Editon: The Complete RCA Victor Recordings 1927-1973』。これも本家RCA(BMG)が1999年にリリース。タイトルでお分りのように戦後録音も含むものだが、戦前ものでも完全集といえるのはこれだけ。

 

 

コロンビア系はCD11枚組『The Complete 1932-1940 Brunswick, Columbia and Master Recordings of Duke Ellington and His Famous Orchestra』。これは以前から言っているように本家コロンビアがリイシューしてなくて(激怒)、復刻専門レーベルのMosaicが2010年にリリースした。いちおう「Sony の許諾下で」みたいな文言がパッケージにあるけれども。

 

 

この三つのボックスを買いさえすれば、それが三大メジャーの戦前エリントンの「全て」だ。しかしモザイクがリリースしたコロンビア系を除く二つのものは今や廃盤で、アマゾンなどでは中古価格が高騰。特にヴィクター系音源全集24枚組は、こないだ見たら九万円を超えているじゃないか。

 

 

24枚組だから元々値が張るものではあったけれど、リリース直後に僕がアメリカに注文して(日本のネット・ストアはまだ充実していなかった)買った時は、円換算で四万台だった記憶がある。24枚組というサイズと中身の充実度、歴史的重要性を考慮すれば、四万円は躊躇しない値段だった。しかし九万円ではなあ…。

 

 

同じく廃盤のデッカ系三枚組は、デッカではなく、どこかの得体の知れないコレクターズ・レーベルが三千円程度で売っているみたいだから、今でも入手は難しくないだろう。しかしデッカといいヴィクターといい、どうしてこういう人類の宝、かけがえのない貴重な財産を廃盤にするのかねえ。コロンビアにいたっては、自分ではリイシューすらしていない有様だしなあ。

 

 

僕の場合、1979年にジャズにハマって数年で戦前ジャズの虜になって、その後すぐに CD 時代になって、エリントンの戦前録音も、CD リイシューされるたびにリアルタイムで買ってきたので、今でも特に困ることはない。だが Astral さんのようにごく最近その魅力に気が付いてハマりはじめたリスナーの方々にとっては、入手自体が容易ではない。Astral さんだけじゃない。同じような人たちがたくさんいるんじゃないだろうか。

 

 

まあ文句や愚痴ばっかりたれても仕方ないので、音楽の中身の話も少ししておこう。今日はコロンビア系音源を中心に聴きなおしていたと最初に書いたが、1930年代のエリントンはここがメインなのだ。エリントン楽団のピークはどう聴いても1940〜41年のヴィクター録音だが、その直前のコロンビア系録音だってかなりいい。

 

 

モザイクがリイシューした11枚全部を、一日で聴き返すのはしんどいことなので、今日は最初の四枚しか聴いていないが、最大の魅力は猥雑さだなあ。これはレーベルを問わず戦前のエリントン楽団に強くあった芸能性ってことで、エリントンに限らず、ビ・バップ勃興前までの戦前ジャズなら、だいたいどれを聴いてもそれがある。

 

 

言い換えればポップ・エンターテイメントであるということ。これこそが大衆音楽の最大の魅力、楽しみだと僕は思う。芸術性ではなくってね。クラシック音楽ファンにも人気の高いエリントン楽団だけど、そういう方々は、おそらく一人の例外もなく、エリントンが強い影響を受けた20世紀初頭の欧州クラシック音楽の作品から、という視点でしかエリントン楽団を聴いていない。

 

 

音楽をどう聴こうとその人の自由、勝手であって、それに文句を付けるようなつもりは僕もない。どうぞ、エリントン楽団をクラシック音楽的にお聴きくださって結構。ただ、それ「だけ」では、このアメリカ黒人音楽家の真の姿、全貌は把握できませんよということは、強調しておきたい。アメリカにおける黒人の立場を踏まえずにエリントンを聴いたって、所詮は一部分しか理解できない。

 

 

エリントンはあくまで大衆音楽界の人間。大衆音楽とはポップ・エンターテイメントであって、言い換えればいっときの気晴らし。聴いてウキウキしたりワクワクしたりして、あるいは聴きながら身体を揺すったり踊ったりして、楽しい時間を過ごす、そうやって日頃の鬱憤を晴らして、また明日への活力を得る。そういうもんだぞ、エリントン・ミュージックだってね。

 

 

つまりテレビでお笑い番組を見て楽しかったり、あるいはちょっとしたお金で街の娼婦を買って,その場限りの快感を得る。そんなものだ、大衆音楽とは。そういうなんというか猥雑な芸能性を、モダン・ジャズは失ってしまった。エリントンですら戦後は失ったのだ。死ぬまでこれを忘れず失わず、ポップ・エンターテイメントとしてのジャズに徹したのはルイ・アームストロングだけだ。

 

 

だから戦後のサッチモは、ピュア・ジャズ・ファンからはボロカスに言われてしまうんだが、以前も書いたようにリズム&ブルーズに最接近していたりして、かなりポップで楽しい。まあでも普通のジャズ・ファンはあんなの聴かないね。

 

 

 

ああいうのこそ、ジャズであれなんであれ、大衆音楽の真の輝きだろうと僕は信じていて、戦後は芸術的になったエリントンも、戦前はそういう部分を非常に強く持っていた。正確に言えばアートとしての素晴らしさと両面兼ね備えていたというか、故相倉久人さんの言葉を借りれば、「芸能ってのはお客さんに喜んでもらえなきゃしょうがない。でも、たどり着く頂点はアートと同じですよ」ってこと。エリントンにもサッチモにも当てはまる。

 

 

そんなことが、1930年代のコロンビア系録音で聴くエリントン楽団でも非常によく分ってしまうのだ。こりゃやっぱりあれだよなあ、時代のスポットライトを浴びていたもの、最先端の流行音楽だった時代の音楽だからってことなんじゃないのかなあ。アメリカ大衆音楽の王者だった時代のジャズが持っていた魅力、輝き。

 

 

1930年代エリントン音源で、いまの僕が最も魅力を感じるのはアイヴィ・アンダースンのヴォーカルだ。彼女が歌う「スウィングしなけりゃ意味ないね」が、モザイクの11枚組1枚目の2曲目なんだよね。これは1932年のブランズウィック録音だけど、スウィングというよりも、タイム・トリップして1970年代ファンクに化けたような演唱なんだよね。

 

 

コロンビア系音源でアイヴィ・アンダースンがヴォーカルをとったものは、32曲が随分前に CDリイシューされている。日本の SME が2000年にリリースした二枚組『デューク・エリントン・プレゼンツ・アイヴィー・アンダーソン』がそれだ。どうもこれは1973年に LP で出ていたものなんじゃないかと思えるフシがある(が僕はそれは知らない)。

 

 

その『デューク・エリントン・プレゼンツ・アイヴィー・アンダーソン』の一枚目一曲目が、他でもない1932年ブランズウィック録音の「スウィングしなけりゃ意味ないね」なんだよね。これ、今の若いファンク・ミュージック好きが聴いても、これが32年の音楽なのかとビックリするに違いない。

 

 

僕はいま YouTube サイトで確認してリンクを貼ることができない環境なので、みなさん検索してみてください。「it don't mean a thing duke ellington ivie anderson」くらいの検索ワードで、実に簡単に出てくるはずだから。

 

 

ってことで、Astral さん、とりあえず『デューク・エリントン・プレゼンツ・アイヴィー・アンダーソン』だけでも是非に!そのうちモザイクの11枚組を買えば、全部ダブってしまうんだけどね(地獄への手招き)。

 

« よく晴れた朝のショーロ・カリオカ | トップページ | ボブ・ディランのライヴ36枚組で聴く音楽の古典的表現 »

ジャズ」カテゴリの記事

コメント

うーん。我が意を得たり!ですねぇ。
猥雑さ=ポップってことなんですが、エリントンに限らず戦前ジャズを聴いていて、気づいたのが所謂ジャズ耳(ソロイストのプレイにひたすら耳を研ぎ澄ますみたいな)にならないのは、ポップスと同じ感覚で聴いてるからなんですよね。そうなれば音質なんてまったく気にならなくなるはずなんですが。

「スウィングしなけりゃ意味ないね」はエリントン楽団も何度も録音してますが、やっぱりアイヴィ・アンダーソンのヴァージョンが最高ですよね。この盤はアマゾンで見つけてジャケも素敵だし欲しいんですが、これも廃盤でけっこうなプレ値でして。でもいずれ必ずゲットしますよ。ダブったとしたって続けて彼女の歌が流れるCDなんて素敵じゃないですか!

Astralさん、要は「楽しい」ってことです。モダン・ジャズばかり称揚する方々は、戦前ジャズをどう考えているんでしょうかねえ?

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: エリントン楽団戦前録音の魅力:

« よく晴れた朝のショーロ・カリオカ | トップページ | ボブ・ディランのライヴ36枚組で聴く音楽の古典的表現 »

フォト
2023年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ