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2017/01/02

歌のないカントリー・ロック

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エリア・コード 615とは、米ナッシュヴィルの電話市外局番 615 から取ったバンド名。だから当然ナッシュヴィルのミュージシャンたちによって結成(と言っていいのか?)されたものだ。僕の場合、エリア・コード 615のメンバーは、ボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』『ジョン・ウェズリー・ハーディング』『ナッシュヴィル・スカイライン』、この三作で知った人たち。

 

 

といってもいつ頃だったかそれら三つ、LP では計四枚になるレコードを買って聴いていた当時、エリア・コード 615 という名前なんか知るわけもない。だいたいそれら三作品が録音された時、まだエリア・コード 615 なんていうバンド名では結成というか存在していなかった。

 

 

ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』は1966年、『ジョン・ウェズリー・ハーディング』は67年、『ナッシュヴィル・スカイライン』は69年の作品だが、エリア・コード 615の一枚目のアルバム『エリア・コード 615』がやはり69年の作品なのだ。録音はだから同年か、あるいは前年68年だったのかもしれないが、そのへんの正確な情報は調べても分らない。

 

 

エリア・コード 615 は、だからご存知ない方でもここまで読んでお察しの通り、ディランやその他大勢のロック〜ポップ〜カントリー〜リズム&ブルーズなどの音楽家のアルバム制作の裏方、すなわちサポート・ミュージシャンとして演奏した、ナッシュヴィルのセッション・ミュージシャンたちの集団。

 

 

のちにエリア・コード 615 を名乗るようになる人たちの中心はドラムスのケニー・バットリー、ベースのノーバート・パットナム、ギターのウェイン・モスの三人。特にケニー・バットリーは二枚しかないこのバンドのアルバムの両方で、エリオット・メイザーと共同でプロデュースまでしているので、間違いなくこのドラマーが中心人物だね。

 

 

実際、1968年か69年にエンジニア/レコーディング・プロデューサーのエリオット・メイザーが(のちにエリア・コード 615 と名乗る)このレコーディング・プロジェクトのアイデアを思い付いた時、最初に声をかけたのはケニー・バットリーだった。とメイザー自身がリイシュー CD の英文解説で書いている。

 

 

英文解説のメイザーによれば、それはカントリー・フォークの夫婦デュオ、イアン&シルヴィアのナッシュヴィルでのレコーディング・セッションをこなしていた時のことだったそうだ。イアン&シルヴィアなんて、ひょっとしたら今では憶えてもらえてないかもしれないよなあ。

 

 

でもさぁ、イアン&シルヴィアの1968年ヴァンガード盤『ナッシュヴィル』には、あのボブ・ディラン&ザ・バンドでやった『ベースメント・テープス』セッションからの曲が三つもあるし、それにこのアルバムはカントリー・ロック第一号的金字塔とされるバーズの『ロデオの恋人』がリリースされる一ヶ月前に出ているんだよね。

 

 

そんなイアン&シルヴィアの1968年『ナッシュヴィル』は、タイトル通りナッシュヴィルでの録音で、プロデューサーはイアン・タイスンだけど、前述の通りエリオット・メイザーの肝入でケニー・バットリーがドラムス、ノーバート・パットナムがベースを担当している。

 

 

エリオット・メイザーはその他、前述のボブ・ディランやザ・バンドだけでなく、リンダ・ロンシュタットやニール・ヤングやジャニス・ジョップリンなどのアルバムにもかかわっている有名な音楽プロデューサー。そのメイザーの1960年代後半のナッシュヴィルにおけるファースト・コールが、のちのエリア・コード 615 になる面々だったのだ。

 

 

 

エリア・コード 615 のアルバムは二枚しかない。1969年の『エリア・コード 615』、70年の『トリップ・イン・ザ・カントリー』で、どっちもポリドール盤だけど、僕はアナログ時代には全く知らなかったのが残念。知ったのはこの二枚を 2in1にして CD リイシューされたものが KOCH Records から2000年にリリースされた時だ。

 

 

それは上掲画像の通り、二枚のオリジナル・アルバムのジャケットをそのまま並べた表ジャケット・デザインなのだが、調べてみたら2001年に日本盤で、しかも紙ジャケで CD リイシューされているんだなあ。それの表ジャケットは『トリップ・イン・ザ・カントリー』のジャケットを全面的に使っている。

 

 

ってことはその二作目『トリップ・イン・ザ・カントリー』の方が評価が高い、代表作だということなんだろうか?と思ってネットで日本語記事を漁ってみたら、確かにそんな意見が書いてあるものがいくつか出てくるなあ。う〜ん、まあ 2in1のリイシュー CD でしか聴いていない僕が言うのもあれなんだけど、僕は一枚目の『エリア・コード 615』の方が好きだし、内容もいいと思う。

 

 

しかしながらこの世間的な評価には納得できる部分もある。どうしてかというと、一枚目の『エリア・コード 615』に比べて二枚目の『トリップ・イン・ザ・カントリー』は、ちょっとハードなロックっぽい、そしてリズム&ブルーズ由来の黒いフィーリングが一枚目よりも強く出ているからだ。

 

 

普通はそういうものの方が好きな場合が多いんじゃない?普段から黒いもの、黒いもの、ファンキーさ、ファンキーさと馬鹿の一つ覚えみたいに繰返している僕だけど、エリア・コード 615 の場合は、もっとこう穏やかでのんびりとのどかなフォーク・カントリー(・ロック)風な音楽の方が似合うような気がするんだなあ。

 

 

実際一枚目の『エリア・コード 615』は、なんと全11曲で歌は一切入らない。ヴォーカル抜きのインストルメンタル演奏ばかりで、今で言えばカラオケなんだよね。カラオケっていうのはそこそこ的を射ているんじゃないかなあ。だってこのエリア・コード 615 は、基本、歌手のサポート・バンドだからさ。

 

 

アルバム『エリア・コード 615』では、ハードな調子の演奏も一つもなく、全曲かなり穏やかな印象のカントリー・ロック・サウンドなのだ。楽器編成もアクースティック中心で、電気楽器はエレベとエレキ・ギターだけ。そのエレキ・ギターも派手な音で弾きまくったりはせず、控え目な味付け程度。エレベはもちろん完全なる脇役だ。

 

 

ナッシュヴィル・サウンドだから、当然ペダル・スティール・ギターもたくさん聴こえる。一応電気楽器ではあるけれど、そんなイメージから遠いものだからなあ。ペダル・スティールもフロントでメロディを弾くが、ソロというかメロディを奏でる中心はフィドル、ハーモニカ、バンジョーの三つ。

 

 

『エリア・コード 615』には有名曲のカヴァーが多い。最も有名なのは間違いなく三曲目「ヘイ・ジュード」、五曲目「レディ・マドンナ」、七曲目でメドレーの一部になっている「ゲット・バック」、この三つのビートルズ・ナンバーだね。それもなんだか全然ロックではなく、純カントリーみたいな仕上がりだ。

 

 

例えば「ヘイ・ジュード」。フィドルの音に続きバンジョーがツンタカ刻みはじめ、それに乗りフィドルがあの有名なメロディを弾いたかと思うと、ドラムスが入ってきて、今度はハーモニカで続いてそれを演奏する。その後はエレキ・ギターになるけれど、またすぐにペダル・スティールのソロ、ハーモニカのソロ、バンジョーのソロ。ビートルズ・オリジナル後半部のリフレインは、フィドルとハーモニカ中心でやっている。

 

 

 

「レディ・マドンナ」はペダル・スティールが鳴りはじめたかと思うとリズム・セクションが入ってきて、やはりフィドルがソロを弾く。そしてバンジョーがツンタカ(それは完全なるカントリー・スタイル)、ハーモニカのソロ。14:37 から。

 

 

 

「ゲット・バック」の話は省略するとして、『エリア・コード 615』にあるもののうち、それら三曲のビートルズ・ソング以外でよく知られた有名カヴァー・ソングは、おそらく二曲目のオーティス・レディング「アイヴ・ビーン・ラヴィング・ユー・トゥー・ロング」 と、ラスト11曲目のボブ・ディラン「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」だろう。

 

 

オーティス・レディングのオリジナル・ヴァージョン「アイヴ・ビーン・ラヴィング・ユー・トゥー・ロング」(『オーティス・ブルー』)はこれ。エレキ・ギターが三連を弾き続ける、いかにもサザン・ソウル・バラードといった趣で、僕もかなり好きだ。

 

 

 

これをエリア・コード 615 はこんな感じにしている。三連のパターンは同じだが、まずフィドルでメロディを弾いたあと、ハーモニカがソロをとる。どの曲も全部そうだけど、バックのエレベ(ノーバート・パットナム)とドラムス(ケニー・バットリー)がやはり肝だ。そしてこの曲だけはまあまあ黒い感じがするね。3:44 から。

 

 

 

黒い感じがするといえば、『エリア・コード 615』四曲目の「ナッシュヴィル 9-N.Y 1」は典型的な12小節3コードのブルーズで、リズムの感じ、特にエレベが弾くラインは完全なるモダン・シカゴ・ブルーズのスタイルじゃないか。バディ・ガイとかあのへん。まずハーモニカのソロ(はアンプリファイされた音)が出て結構ブルージーだし、続くエレキ・ギターのソロ(マック・ゲイデン)もファンキーだ。カッコイイなあ、これ。10:49 から。

 

 

 

アルバム『エリア・コード 615』のラスト11曲目のボブ・ディラン・ナンバー「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」では、ペダル・スティールではなくアクースティック・ギターをスライドで弾く音でメロディを奏ではじめる。クレジットによればウェイン・モスがドブロを弾いているようだ。

 

 

そのドブロをスライドで弾く「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」のメロディが実にいいフィーリングのサウンドだ。続いてフィドル、オルガンに続き、やはりペダル・スティールが出る。そのあたりからなんだかバックのサウンドがゴージャスになってくるなあと思ったら、弦楽六重奏団がいるんだね。30:38 から。

 

 

 

セカンド・アルバム『トリップ・イン・ザ・カントリー』の話を全くしていないが、まあいいじゃないか。僕も決して嫌いだとか評価していないだなんてことはないよ。

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