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2017/01/29

猥褻ジャズ・トランペッター、ホット・リップス・ペイジ

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トランペットをスケベな感じでいやらしくグロウルさせたら、この人以上のジャズ・マンはいなかっただろうというのがホット・リップス・ペイジ。一般の多くのジャズ・ファンにはカウント・ベイシー楽団での活躍で知られているはず。ベイシーのところには1936年までいたようだ。

 

 

アメリカ中西部テキサス生まれのホット・リップス・ペイジは、そもそものプロ・キャリアをカンザス・シティではじめたと言っても過言ではない。1926年にウォルター・ペイジのブルー・デヴィルズ、次いでベニー・モーテンの楽団で活動した。モーテン楽団はカンザスの代表格バンドだもんね。

 

 

ご存知の通りモーテンは1935年に急死してしまう。それがカウント・ベイシー楽団の出発点になったこともよく知られているはず。ホット・リップス・ペイジもそのまま必然的にベイシーが率いるようになった楽団に参加して活躍。しかもトランペットだけでなく、ときおりヴォーカルも披露していた。

 

 

ベイシー楽団の「パーフェクト・サウンド」(ジョン・ハモンドの言葉)を聴き染めたハモンドの招きで、ベイシー楽団は1937年にニュー・ヨークに進出して大成功するようになるが、ホット・リップス・ペイジは既に同楽団にいなかった。そもそも常時在籍のレギュラー・メンバーでもなかったようで、リップス・ペイジは一足先の36年12月にニュー・ヨークに進出している。

 

 

翌1937年からホット・リップス・ペイジは自らの楽団を率いて活動し、たくさん録音もするようになって、その後スモール・コンボ化したり、他の楽団に参加したりもしているが、1954年にニュー・ヨークで亡くなるまで自己名義の録音は200曲を超えるとか、300曲はあるだとか。しかし僕は全部は聴いていない。

 

 

ホット・リップス・ペイジは、その面白さのわりには、ジャズ・リスナーやジャズ史家・研究家・批評家からニグレクトされ続けてきている存在で、その音源も例によってアメリカ人はあまりリイシューせず、またしてもフランスのクラシックスが年代順全集で何枚にもわたってリリースしてくれている。ところが僕は二枚しか持っていない。

 

 

それが『1938 - 1940』と『1940 - 1944』。二枚あわせ全部で49曲。アメリカのレーベルが申し訳程度にテキトーにチョイスしてリイシューしているものなんかより、この二枚の方が絶対にいいんだよね。もちろんもっとたくさんあって、1944年以後の録音ではリズム&ブルーズに接近していたりもするのだが、もはや入手不可能なのだ。

 

 

だから今日は仏クラシックスの年代順全集で、ホット・リップス・ペイジの1938〜44年録音を辿ってみたい。二枚計49曲のうち、いろんな意味で最高に面白いと思うのは11曲。トランペットにワーワー・ミュートを付けて実にいやらしくグロウルしたり、猥褻でコミカルなヴォーカルを聴かせたり。あるいはジャイヴ・ミュージックだとしか思えないものがあるし、一曲だけラテン・ナンバーもあるのだ。

 

 

そんな11曲を録音順に辿ると、まず1938年4月27日、ブルーバード録音の「アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オヴ・マイ・ハート」が来る。言わずと知れたデューク・エリントン・ナンバーで、今ではスタンダード化しているが、エリントン楽団自身による同曲初録音は38年3月3日だから、ホット・リップス・ペイジが録音する前には、あるいはひょっとしてまだエリントンのレコードは出ていなかったかもしれない。

 

 

仮にそうだとすると、ホット・リップス・ペイジはどうやってエリントンの「アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オヴ・マイ・ハート」を知ったのか?スタジオ録音前からエリントン楽団がライヴなどで演奏していたのだろうか?リップス・ペイジもそれを耳にして聴き憶えた?分らない。録音がたったの一ヶ月前で、1930年代だということを勘案すると、レコードは未発売だった可能性の方が高いんじゃないかなあ。

 

 

そのあたりの正確な事情は分らないが、ホット・リップス・ペイジ楽団ヴァージョンの「アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オヴ・マイ・ハート」は、最初まず普通のスウィング・ジャズ・ナンバーとしてはじまって、中盤でボスのパワフルなトランペット・ソロが出てくる。問題は二分が過ぎた終盤だ。ボスがワーワー・ミュートを付けて実にいやらしくグロウルするのだ。

 

 

そのグロウル部分はかなり短いものだが、これが実にスケべに響く。ご紹介したいが YouTube にない。しかしこの後こんなスケベ・グロウルが聴ける曲がどんどん増えてくる。例えば1940年1月23日デッカ録音の「アイ・ウォント・ビー・ヒア・ロング」。

 

 

 

お聴きのヴォーカルもホット・リップス・ペイジ。曲調も歌詞内容も下品で最高だが、最大の注目点は歌い終わってからのトランペット・ソロだ。ワーワー・ミュートを付けてここまでドスケベなフィーリングでグロウルしまくるジャズ・トランペッターは他にいないんじゃないだろうか。少なくとも僕の聴いている範囲では、リップス・ペイジが一番スケベだ。

 

 

また1944年3月8日コモドア録音の「ユード・ビー・フランティク・トゥー」。なんだこの猥褻さ具合は?ヴォーカルも、ワーワー・ミュートでグロウルするトランペットも、もちろんホット・リップス・ペイジで、この曲はリップス・ペイジの録音中、僕の聴いている範囲では、最もエッチな情緒がある。

 

 

 

この曲ではテナー・サックス・ソロも特筆すべき出来だ。それを吹いているのがラッキー・トンプスン。この名前はマイルス・デイヴィスの1954年録音『ウォーキン』A面でみなさんご存知のはずだから有名人だが、もともとこういった湿ってエッチな情緒を表現するテナー・マンだったんだよね。

 

 

似たような情緒を持ったのが1944年6月14日サヴォイ録音の「ダンス・オヴ・ザ・タンバリン」。ホット・リップス・ペイジの猥雑なヴォーカルとグロウリング・トランペットにくわえ、これのテナー・サックス・ソロもいい感じのスケベな吹き方。ただしこれはラッキー・トンプスンではなくドン・バイアスだ。

 

 

 

ホット・リップス・ペイジのこんな猥褻路線の最高傑作が、1944年11月30日録音の「ジー・ベイビー、エイント・アイ・グッド・トゥー・ユー?」だね。ここではテナー・サックスがラッキー・トンプスンに戻る。これはドン・レッドマンの書いた曲で、レッドマンもまたどスケベ・ジャズ・マンなんだよね。

 

 

 

猥褻路線以外のホット・リップス・ペイジの話も少しだけしておこう。まずジャイヴィーな味。それは二曲しかないが、なかなか面白いものだ。録音順に1940年1月23日デッカ録音の「アイ・エイント・ガット・ノーバディ」と、44年9月29日コモドア録音の「フィッシュ・フォー・サパー」。

 

 

 

 

お聴きになってお分りのように、二曲とも少人数編成のヴォーカル・グループが参加していて、それがまるでジャイヴ・ヴォーカル・グループそのまんまじゃないか。「アイ・エイント・ガット・ノーバディ」はハーレム・ハイランダーズとのクレジットがあるが、「フィッシュ・フォー・サパー」の方は記載がないのが残念。

 

 

けれども聴いた感じ、「フィッシュ・フォー・サパー」の方はホット・リップス・ペイジ以下バンド・メンが歌っているんじゃないかと思う。ヴォーカルのクレジットはボスのところにしかないが、コーラスになっている部分での楽器伴奏はリズム・セクションだけだし、プロの熟練したコーラス・ワークにも聴こえないので、たぶん間違いない。

 

 

最後にホット・リップス・ペイジに一曲だけあるラテン・ナンバーの話をしておこう。1940年12月3日デッカ録音の「ハーレム・ルンバリン・ザ・ブルーズ」。どうですこれ?ラテンなリズムに乗って、しかもリップス・ペイジがワーワー・ミュートでいやらしくグロウルするなんて、最高じゃないだろうか?

 

 

 

「ルンバ」という言葉が曲名に入っているが、これはお聴きになってお分りの通り、キューバ現地でのルーツ的アフロ・ミュージックであるルンバのことではない。北米合衆国や欧州その他でルンバの名で広まったソンだ。もともと「son」と言うと「song」と混同しそうになって紛らわしいので、北米合衆国人が勝手に「rhumba」と言いはじめただけだ。おそらく1930年の「南京豆売り」の爆発的大ヒット以後のことだろう。

 

 

そのあたりから北米合衆国のジャズ・メンも、どんどんソン風のキューバン・ナンバーをやるようになり、それらの曲名に「ルンバ」の名を冠しレコード発売した。ご存知デューク・エリントン楽団にも複数あるよね。ところでどうでもいいが、ルンバという名称は社交ダンスにもあって、それもまた音楽のソンとはあまり関係がないようだ。つまり「ルンバ」は三種類に分化していて、めんどくさいことこの上ない。

 

 

社交ダンスの世界には僕は興味がないのだが、キューバ現地のアフロ音楽であるルンバと、ソンをベースにして主に北米合衆国のジャズ・メンがやるルンバの二つはかなり面白いよね。北米合衆国でのこの用語の使い方がいい加減でも、音楽的にはキューバン・ジャズとして面白く楽しく聴けるじゃないか。

 

 

それは上で音源を貼ったホット・リップス・ペイジの「ハーレム・ルンバリン・ザ・ブルーズ」一曲お聴きになれば分るはず。陽気で楽しいもんね。スネアのパターンでなかなか上手いラテン・リズムを叩き出している A・G・ガッドリーというドラマーを僕は知らないが、同じくラテン・リフを弾くピアノは、あのブギ・ウギ・ピアニストのピート・ジョンスンなんだよね。

 

 

ルンバの名を冠し1930年代から北米合衆国のジャズ録音にはたくさんあるこういったキューバ〜ラテン・ナンバーだけど、ホット・リップス・ペイジの「ハーレム・ルンバリン・ザ・ブルーズ」の他では聴けない最大の特徴は、やはりボスがトランペットにワーワー・ミュートを付けて、実にいやらしくスケべな感じでグロウルしていることだなあ。

 

 

曲名通り楽曲形式は12小節3コードのブルーズで、しかもハーレムと曲名にある通り、当時ホット・リップス・ペイジが拠点にしていた街の名を持ってきている。つまりリズムもエキゾティックなラテン調なら、グロウルするトランペットもエキゾティックで、まるでハーレムの夜のクラブでいやらしく踊るコットン・クラブで聴いているみたいだよね。

 

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コメント

ちょっと聴いただけですけど、こりゃまたえげつない音で最高ですね。
この猥雑さがたまりません。

Astralさん、こんなドスケベ・トランペッター、僕は他に知りません。

とんちん…、いいね。

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