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2017/01/30

ホークスとはザ・バンドのことではない

Ronnie_hawkins










ロック史において、どうでもいいような気もするが、どうでもよくないような気もする人物の一人にロニー・ホーキンズがいる。この人を重要と考えているファンでも、その最大の理由は、のちにザ・バンドと名乗るようになるミュージシャンたちをバック・バンドに起用していた時代があるからに違いない。僕だってザ・バンド、当時の名をホークスという彼らを知ったからからこそロニー・ホーキンズに興味を持ったわけだ。

 

 

ザ・バンドに興味を持ったのは、僕の場合、ボブ・ディラン関連でだったので、つまりディランを知らなかったらロニー・ホーキンズにも行き着いていないか、もっとずっと遅れることになっていたはず。そんなことで行き着いたロニー・ホーキンズ。しかしこのロック・シンガーを、のちにザ・バンドとなる面々がバック・バンドをやっていたからこそ重要なのだという認識であれば、この歌手を聴いたことにはならない。

 

 

なぜならばロニー・ホーキンズの音楽を聴いていると、のちのザ・バンド、当時の名をホークスが伴奏をやった時代、その前の時代、その後の時代と三つ続けても、主役のヴォーカルになんらの変化もないし、バンドのサウンドだってあまり変わっていないし、レパートリーだってとりあげ方に変化なし。つまり音楽的にはほとんど変わらないからだ。

 

 

さらに、これはあるいはひょっとして誤解されている可能性があるんじゃないかと思うんだが、「ホークス」というバンド名。別にこれはのちのザ・バンドになる面々を指すものではない。ロニー・ホーキンズ(Hawkins)という名前からそのまま取ってホークス(The Hawks)になっているだけであって、ザ・バンドになる面々を雇う前からホークスなんだよね。 特にザ・バンドの前身というわけではなく、1957年頃からロニー・ホーキンズが自分のサポート・バンドに付けていただけの話だ。

 

 

だから、たぶんほとんどのロック・ファンはザ・バンド関連でだけ興味を持っているんじゃないかと思う歌手ロニー・ホーキンズなんだけど、まあ僕だって同じような興味の持ち方だったわけだからえらそうなことはなにも言えないが、それだけしか考えていないと、ちょっともったいない歌手だと思うんだよね。あんな甘ったるいポップなロカビリー歌手なんか、(のちの)ザ・バンド抜きじゃ聴いていられないよとおっしゃられるかもしれないが、最近の僕はそんなポップなフィーリングのものも結構好きだ。全くなんでもないような感じだけど、案外悪くもないよ。

 

 

といっても僕が持っているロニー・ホーキンズのアルバムは、CD 二枚組の『ザ・ルーレット・イヤーズ』だけ。英国のシークエル・レコーズというところが1994年にリリースしたもので、1958〜62年までの録音集、全57曲。ルーレットとはもちろんお馴染のレーベル名。そういえばカウント・ベイシー楽団にもルーレット盤があったなあ。

 

 

『ザ・ルーレット・イヤーズ』で聴くロニー・ホーキンズに、自らのオリジナル楽曲みたいなのは全く一つもないみたいだ。全てカヴァー曲。それも誰か他のリズム&ブルーズ〜ロック歌手が歌ってヒットさせたものばかりとりあげて歌っている。このアルバム一曲目は、あのリーバー&ストーラー・コンビが書いた「ルビー・ベイビー」(ドリフターズ)だもんね。

 

 

『ザ・ルーレット・イヤーズ』では収録曲の作者名クレジットが全然ないんだけど、その必要もないほどの有名曲が多いんだよね。「サーティ・デイズ」(チャック・ベリー)、ビートルズもやった「ディジー・ミス・リジー」(ラリー・ウィリアムズ)、「メアリー・ルー」(ヤング・ジェシー)、これまたビートルズもやった「マッチボックス」(カール・パーキンス)、「フー・ドゥー・ユー・ラヴ?」(ボ・ディドリー)、ドクター・ジョンもやった「ハイ・ブラッド・プレッシャー」(ヒューイ・ピアノ・スミス) などなど。

 

 

なかには「サマータイム」みたいなジャズ歌手もよくやるスタンダードや、カントリー歌手ハンク・ウィリアムズの「ジャンバラヤ」もある。ただし「マッチボックス」だけは注意が必要だ。これは確かにカール・パーキンスがやってスタンダード化した曲だけど、彼のためのオリジナル曲では全くない。

 

 

あまり深入りすると面倒くさいことになってしまう曲なんだけど、「マッチボックス」を、まず「マッチ・ボックス・ブルーズ」という曲名で最初にレコーディングしたのは、あのブラインド・レモン・ジェファースンだ。それも三回も。一回目は1927年3月14日のオーケー録音。二回目と三回目は1927年4月頃(とだけしか分っていない)のパラマウント録音。

 

 

それら三つを、僕の持つ CD 四枚組の ブラインド・レモン・ジェファースン完全集で聴くと、一回目のオーケー録音は若干歌詞とフィーリングが違うかなと思うけれど、でも一部でカール・パーキンス・ヴァージョンと同じ歌詞がやはり出てくる。二回目・三回目のパラマウント録音なら、もはやカール・パーキンスはほぼこのままカヴァーしただろうというような内容だ。

 

 

さらにこのブラインド・レモン・ジェファースンがやった「マッチ・ボックス・ブルーズ」とは、その三年前の1924年にマ・レイニーが歌ってパラマウントに録音した「ロスト・ワンダリン・ブルーズ」のことなのだ。歌詞が一部同じだし、まあ要するにこれは古くからある定型ブルーズ・リリックの一つなんだよね。

 

 

 

つまりロカビリー・ナンバーとして大ヒットさせたカール・パーキンスも、そんなブルーズ伝統の末裔だということで、そのカール・パーキンス・ヴァージョンをそのままカヴァーしたロニー・ホーキンズやビートルズもやはりその末裔なんだよね。ビートルズの「マッチボックス」といえば、ポール・マッカートニーの1990年リリースのライヴ盤『トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック』にも収録されている。カッコイイんだぞ〜。

 

 

 

ロニー・ホーキンズの「マッチボックス」は1961年9月18日録音で、既にロビー・ロバートスン、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルムがいる。もっともそのうちリヴォンだけはもっとずっと前からロニー・ホーキンズのバックでドラムスを叩いている。僕の持つ『ザ・ルーレット・イヤーズ』では、一番早い時期の録音である1958年6月で既に参加しているんだよね。

 

 

ロニー・ホーキンズの活躍の舞台は主にカナダで、トロントに拠点を置き、カナダだけでなくアメリカ合衆国をツアーしていたが、元はアーカンソー出身。つまり出身地がリヴォンと同じなんだよね。リヴォンがロニー・ホーキンズのバンドに参加したのは1957年暮れ頃のことらしいが、だからあるいはもっと早くから知り合っていた可能性がある。というかおそらくそうに違いない。

 

 

ただ大成功したのがカナダでだったので、当地カナダのミュージシャン、すなわちまずロビー・ロバートスンを1960年に、次いでリック・ダンコを61年夏に、リチャード・マニュエルを61年暮れに、その直後にガース・ハドスンを雇ったということなんだろう。のちのザ・バンドになるこのメンバーが勢揃いして整ったのが、1962年か63年あたりだ。

 

 

今ではザ・バンドになった面々がバックをやっていた時代があるロック歌手という認識しかされていないかもしれないロニー・ホーキンズで、そのザ・バンドとは一人のアメリカ南部人と他はカナダ人で結成されたものだとされているが、そういう編成になったのは、とりもなおさずロニー・ホーキンズがアーカンソー出身のアメリカ南部人でありかつカナダで活躍したからに他ならないんだよね。この歌手がそういう経歴を持っていなかったら、ザ・バンドはそもそも誕生していないんだぞ。

 

 

そんないわばタレント・スカウトでもあったロニー・ホーキンズ。そのヴォーカルの味は、まあ確かにどうってことないような甘くてポップなフィーリングで、特にここが取り柄だとか特長だとか指摘できるようなものが薄い。というかほとんどない。自分では曲も書かず、もっぱら他人のヒット曲をカヴァーするだけだしね。

 

 

しかし以前も書いたように「歌手は歌の容れ物」だという考えに傾きつつある最近の僕。この記事では主に鄧麗君(テレサ・テン)とパティ・ペイジをとりあげて、むりやり歌手独自の個性的な味付けをせず、楽曲の持つ元々の美しさをそのままストレートに歌い表現し、それを聴き手に伝えるようなスタイルの歌手たちを絶賛した。

 

 

 

ロニー・ホーキンズって、ひょっとしたらそんな歌手たちと同資質の人だったんじゃないか(いや、まだ生きているけれども)と、だんだん僕は考えるようになってきている。そうなると、のちのザ・バンドになった面々がバックであろうとなかろうと、あるいはやはりロビーのあのビヨ〜ンっていう変態ギターが聴こえると楽しいとかありはするものの、それはこの歌手の本質になんの関係もないんだなと分ってきたんだよね。

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