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2017/01/12

アルバータ・ハンターらあれらの歌手たちとモダン・ブルーズは繋がっているぞ

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歌手アルバータ・ハンターの録音集では、オーストリアのドキュメント・レーベルが出しているバラ売り四枚(五枚だという話もあるが?)の『コンプリート・レコーディッド・ワークス・イン・クロノロジカル・オーダー』 という味も素っ気もないタイトルのものが一番いい。それにしても、ドキュメントってどうしてボックスにしてリリースしないんだろう?

 

 

アメリカの戦前ブルーズならドキュメント、同戦前ジャズならフランスのクラシックス。この二大復刻レーベルのものは全てバラ売りで、同一人物で何枚あってもボックスにしたことがない。僕なんかはどうせ全部買うんだし、それなら買う手間が一度で済むし、散逸しない(バラ売り複数枚のものが離れ離れにしまって、もう一度一緒にするため整理するのに手間取った経験がある)ボックスの方が助かるんだけど、一般的には逆なのかもなあ。

 

 

まあそれはいいや。アルバータ・ハンターは、一般的にはブルーズ歌手となっている。といっても僕のなかではどっちかというとジャズ歌手なんだけどね。あの1920年代に大活躍した女性ブルーズ歌手たちの伴奏は、ほぼ100%と言っていいほど同時代のジャズ・メンがやったんだしなあ。まあジャズ・メンってのはあの時代からずっと21世紀までも、いわばユーティリティ・プレイヤーではあるけれども。

 

 

一番知名度があるだろうベシー・スミスだって、僕が大学生だった30年以上前にはジャズの枠で日本盤レコードが出ていたよ(例のCBS ソニーの「肖像」シリーズ)。ベシーの伴奏だって全てジャズ・メンだし、アルバータ・ハンターにしても、その他のあの時代の女性ブルーズ歌手にしても全員そう。

 

 

あのへんの歌手たちのことを、ブルーズ・リスナーでも(そしてジャズ・ファンも)苦手だという方がいるように見えるのは、たぶん古い1920年代ジャズ・バンド風サウンドに馴染が薄いか、あるいは聴いてはっきりと分るいかにもブルーズという黒い音楽感覚がないせいなのかもしれない。19〜20歳頃からは古いジャズがこの上なく好きになってしまった僕は、アルバータにしろベシーにしろマ・レイニーにしろ、みんな大好きだ。

 

 

だけれども、僕のなかではジャズ歌手という位置付けのアルバータの録音集にしてからが、ドキュメント・レーベルが復刻するということ自体、ブルーズという枠内で認識されているという証拠だから、そこは素直に認めなくちゃね。それにしてもアルバータについての英語・日本語問わず各種文章って、だいたいどれも彼女の劇的な人生のことは詳述しているけれども、肝心の音楽的内容についてはほとんど書かれていない。

 

 

アルバータは、まだ商業録音がはじまっていない1910年代半ばからシカゴで歌手活動をはじめていて、特にドリームランド・カフェでキング・オリヴァーのバンドと一緒にやったあたりでブレイクしたらしい。それが1917年のことで、大人気になって同年に欧州公演も実現している。その頃、録音がはじまっていればなあ。

 

 

レコーディング開始はニュー・ヨークに進出した1921年から。主にフレッチャー・ヘンダスンのバンドが伴奏で、ドキュメント盤のデータ記載では「ヘンダスンズ・ノヴェルティ・オーケストラ」という名称になっている。まだホットにスウィングするジャズ・バンドになる前の時代で、しかし同バンドをバックにアルバータがブラック・スワン・レーベルに吹き込んだ二曲を聴くと、なかなかどうして悪くない演奏だ。

 

 

ただしピアノのフレッチャー・ヘンダスン以外のメンバーは判明していない。あと1921年のブラック・スワン録音では、残り二曲の伴奏をレイズ・ドリームランド・オーケストラがやっている。聴いた感じ、そっちの方が伴奏の腕前は上だなあ。だいたいフレッチャー・ヘンダスン自身、あの頃はまだピアノの腕前も全く大したことはないんだ。

 

 

それでもブラック・スワンではなくパラマウントに録音するようになる、ドキュメントのアルバータ完全集一枚目五曲目〜二枚目以後も、やはりフレッチャー・ヘンダスン楽団からのピック・アップ・メンバーやヘンダスンのピアノ一台が伴奏をやっているものが多いので、なにかあったのかもなあ。大して上手くもないからね。


 

 

パラマウントでの初録音である1922年7月(何日かは不明)録音の「ダウン・ハーティッド・ブルーズ」。これはアルバータの自作曲だが、これこそがアルバータの名前を一躍有名にしたレコードだ。といっても有名になったのは、翌23年にこれをカヴァーして歌ったベシー・スミスのヴァージョンだけどね。

 

 

そもそもベシーの「ダウン・ハーティッド・ブルーズ」は彼女の生涯初録音だ。前年リリースのアルバータのレコードを聴いて感銘を受けたに違いなく、聴き比べると、ベシー・ヴァージョンはクラレンス・スミスのピアノ一台の伴奏だけで歌っていることもあるし、声の張りもより堂々としていて、アルバータのよりも人気が出るのは分る気がする。

 

 

 

これに対しアルバータのオリジナルはジャズ・バンドの伴奏で、ビュービー・ブレイク(Bubie Blake)ズ・オーケストラとなっている。ピアノがビュービー・ブレイクである以外のメンバーは全員不明だが、聴いた感じ、トランペット、トロンボーン、サックス、クラリネットなどの管楽器主体のバンドだ。

 

 

ところでこのビュービー・ブレイク(Bubie Blake)と書かれているピアニストは、ユービー・ブレイク(Eubie Blake)とは違うんだろうか?ユービーはジャズっぽいピアニストで、ヴォードヴィル・ショウなどでも活動した有名人だが、ビュービー・ブレイクという名前の人物は僕は知らないなあ。

 

 

ともかく1922年パラマウント・オリジナルの「ダウン・ハーティッド・ブルーズ」におけるアルバータのヴォーカルには、黒っぽいようなフィーリングがあまり聴き取れないばかりか、声の張りもさほど朗々としたものではない。どっちかというとやはりジャズ系の歌手に近い軽快でポップなフィーリングでの発声と歌い廻しだ。

 

 

 

同じ曲だから聴き比べがたやすいアルバータのとベシーのと、どっちがいいかはリスナーの好み次第だなあ。ただはっきりしているのは後年まで人気が続いているのはベシー・ヴァージョンの方だってこと。アルバータの方は「ベシーに影響を与えた歌手」だという位置付けになってしまっている。

 

 

僕はどっちも好きなので、どっちがいいとかは言えない。どっちも素晴らしくいいじゃないか。そして「ダウン・ハーティッド・ブルーズ」はアルバータ最大の代表曲になって(それはベシーがカヴァーしてくれたおかげかもしれないが)、彼女は1970年代後半に「奇跡の復活」を遂げて以後も、繰返しこの自作ブルーズを歌っている。

 

 

多くのみなさんには、そういう現代の再演ヴァージョンの方が聴きやすいんだろうと思うので、探したら YouTube に上がっていたものを二つ紹介しておこう。録音も極上だし、しかもアルバータの声も奇跡的にあまり衰えていない。

 

 

 

 

1976年に音楽界に復帰し、ジョン・ハモンドの肝煎でコロンビアと契約して再びレコード(今度は LP アルバム)をリリースするようになったアルバータのそれが、どうして「奇跡の復活」で、それまでの数十年間なにをしていたのかなどは、上で触れたように多くの文章が彼女の人生を語っているので、ご一読いただければ分る。僕は音楽そのものにしか興味がない。

 

 

なお、上で二個貼ってご紹介した「ダウン・ハーティッド・ブルーズ」のアルバータ自身による現代再演を聴けば、あることに気付くはず。モダン・ブルーズとほぼ変わらないという事実だ。これは1920年代(を中心とする)あれら女性ブルーズ歌手についてのある種の言説が、真っ赤なウソであることの明白な証拠だ。

 

 

その言説とは、アルバータやベシーやマ・レイニーなどなどあれらの歌手は、一応ブルーズに分類されてはいるが、マディ・ウォーターズたちのやったものや、それに続くいろんなブルーズとは「根本的に」異なる種類のもので、クラシカルなブルーズなのだというもの。

 

 

こういう文章は実に多い。僕も大学生だった30年以上前からいろいろと読んできた。しかしそんな言い方は上でご紹介した二つのアルバータによるモダンな再演の「ダウン・ハーティッド・ブルーズ」を聴けば、完全なる誤謬として消え失せるはずだ。ダウン・ホーム感のあるモダン・シカゴ・ブルーズに近いからだ。

 

 

アルバータの復帰作である1980年のコロンビア盤『アムトラック・ブルーズ』の大半は、やはりジャズっぽいブルーズ、あるいはジャズ・ソングと呼ぶべきものもあるが、刮目すべきは B 面一曲目だったアルバム・タイトル曲「アムトラック・ブルーズ」なんだよね。

 

 

 

タイトルでお分りの通り、アメリカにある大きな鉄道に題材をとったもの(この点でも、鉄道が頻出する、戦前から続くカントリー・ブルーズとの共通項がある)。そして出だしのエレキ・ギターに注目してほしい。これは完全なモダン・シカゴ・ブルーズ・ギタリストの弾き方だよね。

 

 

その後アルバータのヴォーカルが出てきて以後の伴奏はやはりジャズ・バンドだけど、その後のソロを弾くエレキ・ギターは強烈なダウン・ホーム・ブルーズじゃないか。歌の部分ではクラリネットやトランペットが絡んだりするが、それもジャジーというよりもブルージーだもんね。

 

 

つまり1920年代のあの都会派女性ブルーズ歌手と、そのルーツになっていたであろうアメリカ南部における誕生期のカントリー・ブルーズと、そこからそのまま直接発展した戦後のシカゴなどにおけるモダン・バンド・ブルーズと、それらぜ〜んぶ繋がっているぞ。どこが根本的に異質なクラシカル・スタイルなもんか。

 

 

確かに聴感上は音も古いし、伴奏はジャズ・メンだし、ヴォーカルの感じにもブルージーなフィーリングが明確じゃないし、そもそも発声と歌い廻しが大衆音楽の歌手にしてはやや古風なものだしで、とっつきにくいのは僕もよく分る。だが先入見を捨ててよく聴いてほしいのだ。根本的にはモダン・ブルーズと同質の音楽だろう。

 

 

あぁ、本当はドキュメントがリリースした CD 四枚の『コンプリート・レコーディッド・ワークス・イン・クロノロジカル・オーダー』 の話をもっとたくさんするつもりだったのに。三枚目で全面的に参加しているルイ・アームストロングはレッド・オニオン・ジャズ・ベイビーズの一員で、1924年11月録音。クラリネットのバスター・ベイリーやピアノのリル・アームストロング(既に「ハーディン」ではないので結婚していた)もいる。

 

 

またその三枚目には、サッチモは参加していないが、「ドント・フォーゲット・トゥ・メス・アラウンド」「ヒービー・ジービーズ」という二曲のサッチモ・ソングがある。それらのアルバータによる録音は1926年だから、サッチモ・オリジナルの、前者は同年、後者は翌年。

 

 

またファッツ・ウォーラーのオルガン伴奏一台で「シュガー」などのポップ・ソングや、W・C・ハンディが版権登録したブルーズ・ソングなどを歌うアルバータもなかなか悪くない。アルバータやベシーらが活躍したあの時代、ジャズとブルーズが切り離せないものだったということも含め、またモダン・ブルーズと繋がっているということも含め、ああいった女性歌手たちをもっとしっかり聴いてくれないかなあ。

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コメント

ドキュメントからは、クロノロジカル・シリーズの4枚のほかに"VOLUME 5 THE ALTERNASTE TAKES (1921-1924)" が出ています。

アルバータ・ハンターについては、3.11の直後に記事を書きました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26

五枚目ってそれかぁ〜。もはや入手不可能です。ドキュメントも最初から全部突っ込んで五枚で出してくれたら良かったのになあ。

それにしてもbunboniさんは四枚目が一番お好きなんですね。確かにあの「シュガー」はいいです。この曲は僕もリー・ワイリーで知りました。アルバータにかんしては僕は三枚目が最高ですね。

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