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2017/02/10

ジミー・コブのリム・ショット名人芸

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どうしてこれほどなのか自分でも分らないが、僕はスネアのリム・ショットの音が大好き。ドラム・セットを使ういろんな音楽で、ドラマーがカツッ、カツッ!とリム・ショットを入れているだけで気持いいもんな。僕だけなんだろうか、こんな嗜好の持主は?

 

 

以前からリム・ショット、リム・ショットと繰返してはいるが、スネアのリム・ショットには二種類あって、オープン・リム・ショットとクローズド・リム・ショットと呼ばれている。僕が通常リム・ショットとだけ言う時は、いつもクローズド・リム・ショットのことで、オープン・リム・ショットの音はだいたいそんな頻繁には聴けないし、イマイチ好きでもない。

 

 

ひょっとしてあるいはご存知ない方は、ネットで検索すればいくらでもデモ演奏動画が出てくる(はず)なので、調べてご覧いただきたい。リム(rim)とは、スネアの場合、打面の円周部のふちのことで、金属製か木製。金属製が多いんじゃないかなあ。なんの金属を使うかによって、リムではない通常の打面を叩く音も変わってくる。

 

 

そんな円周部のふちをスティックで(普通は逆に持って)叩く。といっても離れた場所から叩くのではなく、スネアの上に(逆に持った)スティックを置いて、スティックを持つ手のひらで打面を押さえたままの状態で、押さえた場所を固定して支点にして、スティックをリムに当てて叩く。それがクローズド・リム・ショット。

 

 

そんなリム・ショットの音が、なぜだか分らないんだけど、ジャズ・ファンになった17歳の頃から好きで好きでたまらない僕。おそらく通常のドラム・セットで出せる音のなかでは一番好きかもしれないと思うほどのリム・ショット・サウンド愛好家。どんな音楽でもこれが聴こえているあいだは幸せな気分。

 

 

そんなわけで、マイルス・デイヴィスが雇った歴代の全レギュラー・ドラマーのうち、僕は案外ジミー・コブが好きなのだ。コブは、これまたどうしてだか僕は分らないがリム・ショットを多用する。多用じゃなくて頻用だな。頻用しすぎじゃないかと思うほどだ。マイルス・バンドの前任者フィリー・ジョー・ジョーンズ、後任者のトニー・ウィリアムズは、あそこまでリム・ショットを多用しない。

 

 

マイルス・バンドでは、その後のジャック・ディジョネット、アル・フォスター、リッキー・ウェルマン(以外に短期的繋ぎ役が数名いるが除外して問題ない)も、リム・ショットをさほどは使わない。だいたい1969年以後の電化マイルス時代、特にエレキ・ギター(とその後はシンセサイザー)のサウンドが中心になって以後は、リム・ショットなんか意味ないもんなあ。

 

 

だからアクースティックなジャズ時代だけなんだけど、それでもジミー・コブほどマイルス・バンドでリム・ショットを頻用したドラマーはいない。どうしてこんなに使うのか理解できないぞと思うほど使っているのだが、僕はその音が大好きなもんだから、ボーッと聴いているだけで快感だ。

 

 

ジミー・コブのマイルス・バンドでの初演は1958年5月3日のニュー・ヨークのカフェ・ボヘミアでのライヴ・ステージでだけど、これは正式なものではなく私家録音で、公式には同年5月26日のスタジオ録音4曲5テイクが、コブのマイルス・バンド参加後初録音。

 

 

それはご存知「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」などを含むもので、現在ではアルバム『1958 マイルス』に(「フラン・ダンス」の別テイクを除き)収録されている。このマイルス・バンド参加初録音から、ジミー・コブは既にリム・ショット全開なんだよね。

 

 

『1958 マイルス』では、A 面一曲目の「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」、B 面一曲目の「ラヴ・フォー・セール」でリム・ショットを使っている。ところで下掲 YouTube音源、「ラヴ・フォー・セール」の方はどうして『カインド・オヴ・ブルー』のジャケットなんだ?

 

 

 

 

二曲ともまず一番手で出るボスのトランペット・ソロのあいだは、ジミー・コブもかなり控え目で静かな叩き方だが、二番手でサックスのソロが出てきた瞬間にパッと派手で賑やか目になる。これはマイルス・バンドの伝統みたいなもんで、だいたいボスのトランペットは音量も小さいし、か細い女性的なサウンドだから、その背後では派手にやらず、次いで強い音で雄弁に吹くサックス・ソロになった瞬間に、ドラマーも派手になる。この伝統は、あのやかましいトニー・ウィリアムズですらある時期までは継承していた。

 

 

「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」においては、最後のビル・エヴァンスのピアノ・ソロからジミー・コブがリム・ショットを入れているのがお分りいただけるだろう。だいたいコブはこのあとも、マイルス・バンドではスタジオでもライヴでも、管楽器奏者のソロが終わってピアノ・ソロになるとリム・ショットを入れたがる傾向が強い。

 

 

とはいえ「ラヴ・フォー・セール」では、三番手のジョン・コルトレーンのテナー・ソロになった瞬間からリム・ショットを定常的に入れ続けている。そもそもリム・ショットとはあくまでアクセント付けであって、定型パターンばかりでは味気なくなりかけた時に使うからこそ効果的なものなのに、こんなに定常的に入れ続けたんじゃあなあ(笑)。僕は大好きな音だから聴き続けられて気持いいけれど、普通はちょっとね。

 

 

ジミー・コブ参加のマイルスの次のスタジオ録音が、世に名高い『カインド・オヴ・ブルー』。このアルバム収録曲では、「ソー・ワット」「フレディ・フリーローダー」「オール・ブルーズ」と三曲もリム・ショットを使っているもんね。このアルバムはマイルスの全アルバム中というだけでなく、この世に存在するあらゆるジャズ・アルバム中最も売れ続けているものらしく、つまり<ジャズ=『カインド・オヴ・ブルー』>みたいな認識がひょっとしたらあるんじゃないかと思うほどの一枚だ。あまり入門者向けの作品じゃないと僕は思うんだけどね。

 

 

「ソー・ワット」でのジミー・コブは、管楽器三人のソロが終わりビル・エヴァンスのピアノ・ソロの最初の一音が出るか出ないかという刹那に、もう既にリム・ショットを入れていて、それが短いピアノ・ソロのあいだずっと入り続けている。

 

 

 

『カインド・オヴ・ブルー』二曲目の「フレディ・フリーローダー」では、なんと冒頭の三管によるテーマ吹奏の最初からジミー・コブはリム・ショットを入れているからね。しかし一番手のウィントン・ケリーのピアノ・ソロになるとやめてしまい、と思って聴いていると、ケリーのソロ3コーラス目からやっぱりリム・ショットを入れはじめている。上でも書いたがどうもコブはピアノ・ソロでリム・ショットを入れたがる傾向があるんだなあ。

 

 

 

この傾向は『カインド・オヴ・ブルー』 B 面一曲目の「オール・ブルーズ」でもやはり同じ。同じブルーズ形式の楽曲でも、ファンキーにスウィングする「フレディ・フリーローダー」に対し、ピアノがビル・エヴァンスに戻って全くファンキーではなく静的なブルーズである「オール・ブルーズ」でも、三番手のピアノ・ソロのあいだでだけジミー・コブはリム・ショットを入れ続けている。

 

 

 

ジミー・コブのこんなリム・ショット頻用しすぎ傾向の極致ともいうべき曲芸が、この人のマイルス・バンドでのスタジオ作品三作目になる1961年録音の『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』B 面の「テオ」。これはいったいなんなんだ?あまりにもやりすぎなんじゃないのか、このリム・ショットは?

 

 

 

お聴きになってお分りの通り、まだマイルスによるテーマ吹奏(あれは「テーマ」じゃないのだが)もはじまっていないピアノ・イントロから曲芸的リム・ショットの使い方をしているじゃないか。そのちょっと複雑なリム・ショットは、「テオ」一曲を通し、マイルスのソロ、二番手コルトレーンのソロ、三番手で再び出るマイルスのソロと続くあいだ、一瞬たりとも止むことなく入り続けている。

 

 

こんなリム・ショットの使い方は、ジャンルを問わず他では僕は聴いたことがない。上でも書いたが、リム・ショットとはあくまでアクセント付けであってスパイスだ。いわばうどんにふりかける七味唐辛子なのに、「テオ」におけるジミー・コブは、そんなリム・ショットをうどんの出汁みたいな基本の味として使ってしまっている。

 

 

ただしかし、いくらジミー・コブがリム・ショット好きドラマー(だったのかどうかよく知らないが多いのは確かだ)だったといっても、この『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』の「テオ」は異常だから、これはコブ自身の発案ではなく、ボスのマイルスの指示によるものだった可能性もある。そう考えないと、九分以上ある自分の曲で延々リム・ショットが鳴り続けているのは、自分の指示じゃなかったらボスとしてはちょっと遠慮してくれという気分になるんじゃないかなあ。

 

 

そんでもってこのスパニッシュ・スケールを使った「テオ」。言ってみれば『スケッチズ・オヴ・スペイン』のクライマックスであるアルバム・ラストの「ソレア」をコンボ編成でやったみたいな名演だと僕は信じているこの「テオ」。ボスの独り荒野を行くみたいなトランペット・ソロも、録音時の1961年なら既に大きな存在になっていたコルトレーンの饒舌なソロも絶品だが、その背後のリム・ショットが実に効果的に響いているように僕は感じる。

 

 

「テオ」のリズムは6/8拍子、すなわちハチロクであって、マイルスの録音史上初であるばかりでなく、1961年時点のジャズ作品としては、このリズム・パターンを用いた相当珍しい早い一例だと思うんだけど、ジミー・コブのあの複雑に入り組んだリム・ショットを中心とした組立がこのハチロクのパターンを絶妙に表現し、管楽器二名のスパニッシュ・ソロを強く支えている。ジミー・コブ生涯最高のドラミング作品に違いない。

 

 

今日はここまでスタジオ録音作品の話しかしなかった。それだけでもうこの長さだから、ジミー・コブが参加してリム・ショットを叩くマイルスのライヴ・アルバムの話は今日はやめておこう。1958年のニューポート、61年のブラックホーク、同年のカーネギー・ホールと三つあって、やはりリム・ショットが頻繁に顔を出す。出しすぎ。

 

 

ただ二つだけ、これは名演だというものの音源を貼るだけにしておく。1961年4月、ブラックホーク金曜日の「ウォーキン」と、同年5月カーネギー・ホールでの一曲目「ソー・ワット」。どっちもやはりウィントン・ケリーのピアノ・ソロになると、ジミー・コブがリム・ショットを入れている。特に後者は猛烈にグルーヴィーなケリーのピアノ・プレイの背後で、リム・ショットこれ以上ないというほど効果的に響く。

 

 

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コメント

とんちん、リムショット好きなんだね。ジミー・コブは確かにきちんと使ってるね。で、カツッて音が聴こえるとちょっとした緊張感が走るので、この頃のマイルスのバンドらしさをより感じるね。
リムショットばっかり叩いてるとバチがキズだらけになるんだよな〜

じゃああれだ、ひでぷ〜、ジミー・コブのバチにはさぞやばちが当たっていただろうなあ〜。

SadeのSweetest Tabooという曲もリムショットけっこう聴けますよ
この曲の独特のリズムが僕は好きです

はい、シャーデーはぼくもかなり好きです。

バラード系でつかわれる余韻の長い、リムショットが好きです
ホールに響き渡るような感じですかね

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