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2017/02/01

ヒューイ・ピアノ・スミスで賑やかにパーっとやろうぜ

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10年ほど前だったか?、日本のお酒のテレビ CM で流れていた「ドント・ユー・ジャスト・ノウ・イット」。僕は完全なる下戸なので、CM の内容そのものに全く興味はなく、だからどの会社のなんというお酒だったか全然憶えていない。単に BGMで流れるそれを聴いて、えっ?この曲が日本のテレビ CM で使われるのか!とちょっぴり驚いたのだった。

「ドント・ユー・ジャスト・ノウ・イット」はヒューイ・ピアノ・スミスの曲。1950年代後半〜60年代前半に活躍したニュー・オーリンズのリズム&ブルーズ・ピアニストだ。僕がこの人の名前と曲を初めて知ったのは、御多分に洩れずドクター・ジョンのアルバム『ガンボ』でだった。

『ガンボ』のなかには(かつての B 面に)「ヒューイ・スミス・メドレー」があって、三曲やっている。順番に「ハイ・ブラッド・プレッシャー」「ドント・ユー・ジャスト・ノウ・イット」「ウェル・アイル・ビー・ジョン・ブラウン」。続くアルバム・ラストの「リトル・ライザ・ジェイン」もドクター・ジョンはヒューイの曲としてクレジットしているが、これは伝承ナンバーだ。

ドクター・ジョン自身が『ガンボ』に寄せた一曲ごとの解説文では、「リトル・ライザ・ジェイン」はパブリック・ドメインにある民謡だと分っているが、私はヒューイの曲として扱いたいと書いている。この気持は分りやすい。なぜならば、実際ヒューイのヴァージョンで知られる曲だし、まだドクター・ジョンと名乗る前のマック・レベナック時代に、この人はヒューイのバンドに在籍して薫陶よろしきを得たからだ。

つまりドクター・ジョンにとってヒューイは師匠みたいな人物だから、ニュー・オーリンズ R&B 古典集である『ガンボ』の録音に際し、そのヒューイのナンバーを三曲メドレーでやり、もう一つの伝承曲もヒューイの名前を作曲者としてクレジットして演奏しているわけなんだよね。

そんな事情で知ったヒューイ・ピアノ・スミス。僕が持つこの人の録音集は、たったの CD 一枚。1997年に英国のウェストサイドがリリースした『ハヴィング・ア・グッド・タイム:ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ、Vol. 1』というもので、全23曲24トラック。どうして曲数とトラック数が一致しないかというと、冒頭に、ヒューイの曲では一番有名な「ロッキン・ニューモニア・アンド・ザ・ブギ・ウギ・フルー」が2ヴァージョン並んでいるからだ。

邦訳すれば「ロック肺炎とブギ・ウギ・インフルエンザ」となるこの曲は1957年録音。録音の際、最初はインストルメンタル・ナンバーとしてやりはじめたものらしいが、途中から歌詞付きになって、結局そのヴォーカル(ボビー・マーシャン)入りのとインストルメンタルのと両方を、シングル盤のA面B面にしてリリースされたのだった。

この「ロッキン・ニューモニア・アンド・ザ・ブギ・ウギ・フルー」がヒットして、なんとミリオン・セラー(ビルボート R&B チャート五位) になったそうだ。このレコードはこの曲の歌詞を書いたジョニー・ヴィンセントが興したエイス・レコーズからリリースされたシングル盤だったのだが、大ヒットになったので、その後ヒューイはエイスにどんどん録音し、続々とレコードが発売されれることになった。

それが1957〜62年(?)あたりのことで、その間エイスと傍系のヴィン・レーベルから出たヒューイのレコードはヒットが続いて、ニュー・オーリンズのリズム&ブルーズ・ミュージシャンとしては最も成功し、最も重要な人物の一人とみなされるようになった。

リズム&ブルーズ・ピアニストといってもニュー・オーリンズの人物だから、当然ジャズ・ピアノの影響も濃い。僕が特に強く感じるのはジェリー・ロール・モートンの影響だ。ジャズ系以外だと、やはりプロフェッサー・ロングヘアの直系とも言うべき弾き方をしているよね。そもそもフェスの活躍以後、ニュー・オーリンズのピアニストでフェスの影響下にない人物を探す方が難しい。

また一連のブギ・ウギ・ピアニストたち、特にピート・ジョンスン、ミード・ラクス・ルイスの痕跡も、ヒューイのピアノ・スタイルのなかにかなりはっきりと聴き取ることができる。あとはやっぱりファッツ・ドミノ・スタイルだなあ。プロ・キャリアのスタートが1950年代初頭にギター・スリムやアール・キングのバンドでのことだったらしいので、そのへんは納得だよね。

ウェストサイド盤『ハヴィング・ア・グッド・タイム:ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ、Vol. 1』にヒューイの代表曲は全て収録されている。この人はやはりエイス(と傍系のヴィン)時代こそが一番美味しかった音楽家で、その後エイスを離れインペリアル・レコーズと契約して以後は、はっきり言って鳴かず飛ばずで、エイス時代の成功の見る影もないような感じだからだ。

『ハヴィング・ア・グッド・タイム:ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ、Vol. 1』では、やはり冒頭に2ヴァージョン収録されている「ロッキン・ニューモニア・アンド・ザ・ブギ・ウギ・フルー」、三曲目の「リトル・ライザ・ジェイン」、七曲目の「ドント・ユー・ジャスト・ノウ・イット」、八曲目の「ハイ・ブラッド・プレッシャー」、十曲目の「ハヴィング・ア・グッド・タイム」、12曲目の「ウェル・アイル・ビー・ジョン・ブラウン」あたりが最も有名だし、聴いていても最も楽しい。

といっても『ハヴィング・ア・グッド・タイム:ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ、Vol. 1』全24トラックを通して聴いていると、他の収録曲も同様に楽しいというか、はっきり言って同一パターンなのだ。要するに金太郎飴状態で、曲調もメロディもヴォーカリストの歌い方(ヒューイ自身は歌わない)も、ピアノの弾き方も、なにもかも似ている。どの曲もだいたい全部同じフィーリング。

最大の特徴は相当にコミカルで猥雑で賑やかだってことだなあ。書いてきた曲名でお分りのようにタイトルに病気ネタが複数あるけれど、別に深刻そうなものなんかじゃ全然なくて、笑っちゃうようなものだし、病気ネタ以外でも馬鹿馬鹿しくてコミカルで、歌詞もそうだし、曲調もジャイヴィーでユーモラス。まあニュー・オーリンズの音楽家って、だいたいみんなそうだけどさ。

サザン・ソウルみたいな、どっちかというとわりとシリアスな世界もあるけれど、そんでもってそういう世界も好きな僕だけど、いつもいつもそんなのばかり聴いていると若干息苦しさを感じないでもない。息抜きにというんじゃないけれど、ヒューイ・ピアノ・スミスなどニュー・オーリンズの音楽家のコミカルで馬鹿馬鹿しい作品を聴いて、楽しい時間を過ごすのもいいんじゃないかな。

音楽はシリアス・アートだと信じているリスナーのみなさんであれば、ヒューイみたいな人の音楽の楽しみ方って絶対に分りようがないと思うけれど、アホらしい、馬鹿馬鹿しいようなフィーリングこそが持味だみたいなニュー・オーリンズの音楽が、このルイジアナの大都会で生まれたものこそが、その後のアメリカ大衆音楽の土台、母胎になってきているんだよね。

そんなニュー・オーリンズの黒人リズム&ブルーズが最も美味しかった時代である1950年代後半〜60年代前半まであたりで最も活躍しヒットを飛ばしたのがヒューイ・ピアノ・スミスであって、録音集を聴いていると、ま〜ったく深刻な気持にならないというか、なんでも笑って忘れてしまおうぜみたいな気分になれて、大変楽しい。

聴き手側があまりに落ち込んでいる時はからかわれているような気分になって、かえって一層気分が落ち込みそうなヒューイの音楽だが(カタルシスを得るには同種のものじゃないとダメだからというのがギリシア悲劇以来の伝統)、ワイワイ賑やかにパーっと楽しみたい開放的な気分の時には、これ以上ピッタリ来る音楽もないんじゃないかと思うほどなんだよね。

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