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2017/02/11

ギリシアの古いレンベーティカを聴こうじゃないか

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以前も書いたけれど、部屋のなかの平積み CD 山脈を発掘していて出てきた、カラン・レーベルの『レンベーティカ』という一枚物アンソロジー。これにたくさん入っているローザ・エスケナージが最高にセクシーで、聴直して惚れ直したわけだけど、彼女はいわゆるスミルナ派レンベーティカを代表する一人。

 

 

この『レンベーティカ』というアンソロジー CD がリリースされたのが2007年。この時がギリシアのブルーズとも呼ばれるこの音楽を僕が聴いた最初だったはず。レンベーティカという名前すら知らなかったのに、どうしてこれを買ってみようと思ったのかは全く憶えていないけれど、おそらくジャケ買いだったんだろうなあ。雰囲気あるもんね。

 

 

今聴くと最高に面白いと思えるこのアンソロジー CD も、2007年に初めて買って聴いた時は、特に大きな感銘は受けなかった。全く聴いたことのない音楽で、録音は全て戦前の古い録音であることは全く気にならない僕だけど、やはり耳馴染がないせいか、全くピンと来ていなかった。何度聴いてもフ〜ンって感じで。

 

 

どうもピンと来なかったので、しばらく放置したままにしていて、レンベーティカについて掘下げることも全くしなかった。そんな僕がこの音楽について本格的に聴きはじめるきっかけになったのが、古い米ブルーズなどを復刻している英 JSP が出した四枚組ボックス『Rembetika』だ。

 

 

JSP という英国のレーベルは、もちろん前から知っていた会社だったけど、どうして突然古いギリシア音楽を復刻したのかは分らない。その四枚組の『Rembetika』ボックスを二つ、計八枚を僕が買ったのが2008年。先のトルコのカランのアンソロジーを買って聴いた翌年だったということになるなあ。

 

 

どこで知ったのかも憶えていないその JSP の四枚組ボックス二つ。全部で十時間以上もあるんだけど、ジャケット・デザインも素晴しかったし、それに一枚一枚に副題が付いていて、それでいつ頃の録音かということと、レンベーティカの種類の違いも分ったのだった。この計八枚をとにかく聴きまくった。

 

 

その副題によって、レンベーティカにスミルナ(イズミール)派とピレウス派があることも初めて知ったのだった。ただし、最初に聴いていた頃は、その二つの流派の味わいの違いはどうもよく分っていなかったというか、まあほぼ理解していなかったわけだ。なんとな〜く肌触りの違いを感じてはいたかもしれないが。

 

 

JSP からは、レンベーティカの復刻ボックスがその後も続々とリリースされていて、僕の知る限りでは2013年の第八集まで出ているはず。僕は全部買って聴いたんだけど、最初の二つには夢中になったけど、その後の、例えばマルコス・ヴァンヴァーカリス集などには、そんなに深くはハマらなかった。

 

 

マルコス・ヴァンヴァーカリスにどうしてあまりハマらなかったのかは、少し後になって分った。彼はピレウス派レンベーティカの人物なのだ。レンベーティカのスミルナ派とピレウス派の違いが、少しずつ分ってきた。しばらく聴き込むと、同じ古いレンベーティカでもだいぶ違うとはっきり感じるようになった。

 

 

スミルナ派とピレウス派とはなにか?ということは、以前も一度書いた。スミルナ派とは、20世紀初頭のオスマン帝国時代に、トルコはアナトリア半島のイズミール(ギリシア名スミルナ)で、当地のギリシア人達が混淆音楽として産み出したもの。それゆえにトルコ歌謡やアラブ音楽の風味が強いのが僕の好み。

 

 

その後の希土戦争(〜1922)後の住民交換を経て、ギリシアの港町で成立したのが、その港町の一つの名前を取ってピレウス派。つまりトルコ音楽やアラブ音楽といった養分と後ろ盾を失って、色っぽさが薄くなってしまっている。もちろん、ピレウス派のレンベーティカにも魅力的なものは多いんだけどね。

 

 

だいたい20世紀末にアラブ音楽(正確にはマグレブ・ポップ・ミュージック)にドハマりして、その後も現在に至るまでハマり続けている僕みたいなリスナーにとっては、ギリシア系、トルコ系、アラブ系、ユダヤ系などアナトリア半島の多民族・多文化共存という環境の下で生まれ育まれたスミルナ派レンベーティカに惹かれるのは、当然の成行きだ。

 

 

今でもすぐれたギリシア音楽にトルコ臭・アラブ臭を強く感じることがあるのは、ひとえにこの地が長年オスマン帝国の支配下にあって、トルコやアラブとユダヤとギリシアの住民・文化交流が盛んであったことの名残に他ならない。大衆音楽って、一国・一民族によって生まれたもの(なんてあるのか?)より、混血ものの方が圧倒的に面白い。

 

 

最初に書いたローザ・エスケナージは、まさにそういった混血音楽であるスミルナ派レンベーティカを代表する大物女性歌手で、戦前の1920年代から戦後の70年代にわたって活躍した人だ。 これは先に書いた JSP のボックス第一集に入っているもの。

 

 

 

告白すると、レンベーティカ、特にスミルナ派のそれを本当に理解できるようになったと自覚したのは、2014年のトルコ古典歌謡集『ギリズガ』を聴いてから。あれは19世紀末〜20世紀初頭のトルコ古典歌謡ばかり再現したもので、これで、同時期に育まれたスミルナ派レンベーティカとの共通性を実感できた。

 

 

例えばカラン盤『レンベーティカ』の5曲目→ https://www.youtube.com/watch?v=OcPcEEu6v9Y この曲は『ギリズガ』14曲目と全く同じ曲→ https://www.youtube.com/watch?v=i-GQDWnmetU 一聴瞭然だよね。スミルナ派レンベーティカは、こういう古いトルコ歌謡もレパートリーにしていた。

 

 

酒や麻薬や売春などいかがわしい場所で演奏され、猥雑な特徴を持つという意味では、レンベーティカも世界中のいろんなポピュラー・ルーツ・ミュージックと似ている。それはサウンドを聴けば分る。下層民の鬱屈した感情を吐出すように歌うという点でも、米ブルーズと似ている。ギリシア語の歌詞は分らない僕だけど。

 

 

米ブルーズが、その後のリズム&ブルーズやロックやソウルなど、様々な米国ポピュラー・ミュージックの土台になったように、ギリシアのブルーズと呼ばれるレンベーティカも、その後のギリシア・ポピュラー・ミュージックの礎になっている。ハリス・アレクシーウやヨルゴス・ダラーラスなどにもそれを強く感じる。

 

 

以前リリースされたギリシア人シンガー・ソングライター、レオニダス・バラファスの『アピリオティス』。いろんな人が非常に高く評価していたし、僕も去年の新譜ベストテンの第五位にしたんだけど、これが完全に伝統レンベーティカ路線のアルバムで、こんな感じ。

 

 

 

こういうのを、普段はバリバリの現代ロック風音楽をやっているミュージシャンですら作ってしまうところに、やはりレンベーティカ以来のギリシア・ポピュラー・ミュージックの伝統が脈々と息づいているということを実感するね。また最近は先に書いたスミルナ派レンベーティカを復興する試みもある。

 

 

ライカ歌手ヤニス・コツィーラスの2012年『愛のスミルナ』。この邦題が示すように、完全にこのアルバムはかつてのアナトリア半島イズミールで育まれたスミルナ派レンベーティカを蘇らせた内容。聴けば分るようにトルコ古典歌謡色濃厚だ。

 

 

 

またスミルナ派レンベーティカ復刻の試みとともに、元々不可分一体だったギリシア音楽とトルコ音楽の一体性を現代に具現化しようという人達もいる。トルコ古典歌謡を演奏し歌うTAKIM。このバンドはギリシア人のバンドなのだ。こういうの。

 

 

 

こういったいろんなギリシア音楽を聴くと、今でもギリシアとトルコは、少なくとも音楽的には密接な関係があるというか不可分一体なのだと分る。この両国、昔から仲が悪く、今でも日本と韓国以上に犬猿の仲らしいんだけどね。それでもポピュラー音楽方面では、関係を取り戻そうという動きがあるようだ。

 

 

古いレンベーティカに興味を持った方には、やはり最初に書いたカラン盤アンソロジー CD からオススメしたいのだが、どうやらアマゾンでも品切れ、エル・スールでももう在庫なし状態になっているなあ。ライスの日本盤は日本語解説文も付いているのでいいんだけどなあ。音源的には JSP のボックス・シリーズの方が充実しているけれど、JSP のものはいつもどれも音とデータだけだからね。それだけでいい、サイズが多くても気にしないという方には、JSP 盤をオススメしておく。

 

 

※この文章本体は2015年11月に書いたものです(2017年2月11日注)。

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