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2017/02/12

濃厚でジャンピーなエリントン楽団のライヴ最高作

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30年以上前の僕の大学生時代に、『ザ・デューク 1940』という二枚組 LP(上掲写真左)があった。これの話は以前もしたのだが、どれくらいの人が憶えてくださっているだろうか?この二枚組レコードは、1940年11月7日、ノース・ダコタのファーゴにあるクリスタル・ボールルームにおけるデューク・エリントン楽団のライヴ演奏を記録したもの。

おそらくエリントン楽団録音史上最も重要でありかつ最も内容が充実しているライヴ・アルバムなのだが、僕がこれを知ったのは、以前も書いたが17歳か18歳の時に読んだ『スイングジャーナル』誌別冊ムック本みたいなもので見たからだ。ジャズの名盤・推薦盤特集みたいなものだった。僕が17/18歳ということは1979/80年だが、その別冊本(かどうかは記憶が曖昧だが)はもっと前の出版だった可能性がある。

その別冊ムック本みたいなジャズ推薦盤特集号に載っていた『ザ・デューク 1940』。その解説文に、エリントン楽団というといつもいつも1940年頃のヴィクター録音ばかり推薦されるので、たまには違うものをとあったのは間違いない記憶。どなたの文章だったかはもう完全に忘れた。しかし僕はそれを読み、そんなにいつも推薦されてばかりなのであれば、むしろその40年あたりのヴィクター録音の方をこそ聴きたいぞと思ったのだった。

このあたりの思い出話は以前詳しく書いたので今日はやめる。それでエリントン楽団のヴィクター録音ボックスは、通常の方法ではもはや入手困難だったが、一枚物 LP のベスト盤は買えた。A 面が1920年代、B 面が40年代のヴィクター音源集。 B 面と同じ40年のライヴ録音盤である『ザ・デューク 1940』もレコード店で簡単に見つかったので、早速それを買って帰って聴いたのが、この1940年11月7日のエリントン楽団生演奏を聴いた最初だった。

間違いなく LP二枚組だった。調べてみたら LP三枚組で出ていたという話もネットで読むが、三枚組というのは僕は現在まで全く知らないものだ。なんだろうそれは?LP の二枚組と三枚組では収録時間の総数がかなり違ってくる。Wikipedia でこのレコーディングのデータを読むと、確かに LP 三枚組があったとなっているが、それに載っている三枚の収録曲目は、『ザ・デューク 1940』二枚組に残さず全てあった。この記憶も間違いない。

内容的に同じものだったのであれば二枚組だろうと三枚組だろうとどっちでもいいが、とにかく僕は二枚組 LP『ザ・デューク 1940』を愛聴していたのだ。1940年11月のエリントン楽団といえば、こりゃもういろんな意味でピークにあったから、そんな時期のライヴ録音が聴けるなんて今でも夢のようだ。

今では CD 二枚組になっている1940年11月7日、ファーゴでのエリントン楽団のライヴ・レコーディング。僕は二種類持っている。発売順に1995年の東芝 EMI 盤『at fargo, live-1940 (complete)』。次いで2000年のストーリーヴィル盤『アット・ファーゴ 1940 スペシャル・60th・アニヴァーサリー・エディション』。この二つは微妙に内容が違う。

結論から先に言えば、熱心なエリントン愛好家であれば、1995年の東芝 EMI 盤と2000年のストーリーヴィル盤の両方を持っておかないといけない。音質的には誰がどう聴いても60周年記念盤であるストーリーヴィル盤の方がはるかに上だけど、東芝 EMI 盤はワン・トラック多いのだ。

それは二枚目ラスト。2000年のストーリーヴィル盤では22曲目の「ガッド・ブレス・アメリカ」で終わっているが、1995年の東芝 EMI 盤は、そのあとにもうワン・トラックある。タイトルは「ザ・コール・オヴ・ザ・キャニオン〜オール・ディス・アンド・ヘヴン・トゥー」。それが 1:32 もあるもんね。しかしそれはちゃんとした曲ではなく、ハーブ・ジュフリーズが歌うかと思うとすぐにプツッと消えてバンドの演奏になったり、と思うとそれもすぐにフェイド・アウトしたりの繰返しで、なんだかよく分らないものではある。あれ、ホントなんだろう?

そんな意味の分らないものがワン・トラック末尾に付随していたところで、なんの違いもないだろう、音質的にはストーリーヴィルの60周年記念盤が劇的に向上しているんだから、そっちでいいだろうと思われる方が大半だろう。しかし音質向上といっても、この1940年11月7日のファーゴでのライヴは、元はアマチュア二名による私家録音で、だからどうリマスターしてもさほどのことはないと僕の耳には聴こえるね。実際オーディオ装置でヴォリュームを上げて聴き比べる(というのを今日やってみた)と、東芝 EMI 盤とストーリーヴィル盤の違いは、音質面では大きくない。

東芝 EMI 盤でだってジミー・ブラントンの弾く(当時としては)驚異的なウッド・ベース技巧は鮮明に聴こえるもんね。2000年のストーリーヴィル盤で聴いて、その音質向上に感動したかというと、僕の場合それはほとんどなくて、大学生の頃にモコモコ音質で聴いていた『ザ・デューク 1940』LP で受けた感動のあまりの大きさとは比較すらできない。

ジミー・ブラントンのベース音といえば、この『アット・ファーゴ 1940』では「セピア・パノラマ」で大きくフィーチャーされている。この曲はこのアルバムで、一枚目四曲目と二枚目二曲目と二回登場するが、演奏時間の長さといい演奏内容といい、二回目のものの方が断然いい。

それを聴くと、1940年時点でのライヴ・レコーディングでここまでクリアにウッド・ベース技巧が聴こえるというのが信じられないほどのものなのだ。アップライト・ベースの前に個別のマイクが立っていたはずがないわけだから、そう考えると、ジミー・ブラントンのピチカート音はバカデカかったんだろうなあ。そんな大きな音で、しかもあんな細かいホーン楽器的メロディ・ラインを弾いているなんてねえ。

エリントン楽団の『アット・ファーゴ 1940』はボールルーム、すなわちダンス会場での演奏であって、決してコンサートでの音楽鑑賞を目的に行われたものではない。だからどの曲も演奏時間が短い。一番長いのが実質的ラスト演目の「セント・ルイス・ブルーズ」の 5:39。あと数曲五分程度のものがあるが、他は全部三分もない。

つまりライヴ演奏なのに当時のスタジオ録音と同じ程度の演奏の長さ。ダンスの伴奏音楽としてのジャズはだいたいいつもこの程度であって、あんまり長いと踊っている客も疲れてしまうわけだ。といってもブルーズ〜リズム&ブルーズ〜ファンクなどのライヴでは延々何十分もやって踊り続けているようだけど、よくやれるもんだなあ。音楽のグルーヴ感の違いなのか、それとも客層の違いなのか、ダンスの種類が違うのか?

そういえば今思い出したけれど、20世紀の終り頃、ブルーズ専門家の妹尾みえさんに誘われて下北沢のライヴ・ハウスでビッグ・ジェイ・マクニーリー(ホンク・テナー・サックス奏者)を聴いたんだけど、もちろんあんなダンサブルなリズム&ブルーズで、しかも会場に椅子はなくオール・スタンディングだったので妹尾さんも僕も含め客はみんな踊った。しかし一曲の演奏時間があまりに長いので途中で疲れちゃって、妹尾さんも僕も他の客も、踊るのをやめてしばらく休んでからまた踊るとか、そんな感じだったもんなあ。

そんな話はいい。エリントン楽団の『アット・ファーゴ 1940』。ジャズがダンスの伴奏音楽だった時代には、あの当時から鑑賞芸術音楽志向があったエリントンですらやはりボールルームで演奏したのだという事実。これはそういう時代だったからエリントンも仕方なく我慢して嫌々やっていたとか、踊るのをやめて自分の音楽に集中して耳を傾けてほしいというのが本音だったとか、そんなことは必ずしも僕は思わないなあ。

むろんエリントンは昔から鑑賞目的のライヴ・コンサートをやっている。アメリカ本国では1940年代から、ヨーロッパではもっと早く30年代からやっているんだよね。そういうのこそエリントンの本領発揮であって、ボールルームなどダンス会場での演奏なんて、いわばお金目的のシノギであって、やむをえずやっていただけだなどと考えると、エリントン楽団の場合ですら、ジャズ音楽の本質を捉えきれない面があるだろうと僕は思う。

スタジオ録音でのエリントン楽団の最高傑作は、間違いなく1940年ヴィクター録音の「コ・コ」だと僕は考えているのだが、この曲は『アット・ファーゴ 1940』でもやっている。スタジオ・ヴァージョンとほぼ同一内容だけど、リズムの躍動感は『アット・ファーゴ 1940』ヴァージョンの方が上だ。かなりジャンピーなんだよね。

『アット・ファーゴ 1940』での「コ・コ」において、そんなジャンピーな躍動感を表現している最大の要因がジミー・ブラントンのベースだ。演奏途中でホーン・セクションが何度かストップするブレイク部分でブラントンが弾くフレーズはスタジオ・オリジナルとはかなり異なっていて、そのフレイジングがもたらすフィーリングがかなり跳ねている。

ソニー・グリーアのドラミングも管楽器隊の吹くリフも、その他アレンジ全般、基本的にはスタジオ・オリジナルと同じなのに、どうしてだかダンサブルな感じが『アット・ファーゴ 1940』ではより一層強く出ている。なんというか歯切れがすごくいい。それでいて同時に粘り気の強いジャングル・グルーヴはしっかりある。これは驚きだね。

こんな粘っこく、しかもスパスパ歯切れもよく(矛盾しているように読めるかもしれないが)、さらにこれはエリントン楽団にしか表現できなかったあの独特のドロドロに濁った音のアンサンブルで強烈に迫ってくるわけだから、これをライヴ現場で生で聴いて踊る客のダンス感覚って、ダンス音痴の僕には想像しにくいくらい。その感覚はジャズというより、もっと濃厚なリズム&ブルーズとかファンク・ミュージックとかのダンス感覚に近い。これは間違いないと思う。

『アット・ファーゴ 1940』では、一枚目の「ハーレム・エアシャフト」とか「ストンピー・ジョーンズ」とか、二枚目にある「ロッキン・イン・リズム」とかも、同様の激しくスウィンギーなナンバーで、ウェザー・リポートもカヴァーした最後の曲なんか、これは前から僕は言っているけれど、オリジナル録音の1931年時点でジャズ楽曲のタイトルに「ロック」という言葉がダンス感覚を表現する意味で使われた、おそらくアメリカ音楽史上初の例。それはそうと、このファーゴ・ライヴでの「ロッキン・イン・リズム」終盤で「南京豆売り」のフレーズを吹いているトランペッターは誰だろう?他にも聴こえる曲がある。

ハードで濁ったスウィング・ナンバーのことばかり書いているが、『アット・ファーゴ 1940』には、もちろんメロウで幻想的で印象派風なバラード・ナンバーもたくさんある。一枚目の「ムード・インディゴ」「ウォーム・ヴァリー」、二枚目の「ソフィスティケイティッド・レイディ」「スターダスト」などなど。

そんななかでは、特にジョニー・ホッジズの官能的なアルト・サックスが聴こえるものが僕は大のお気に入り。つまり「ウォーム・ヴァリー」だなあ。ホッジズのアルト・サックスの音色も後半部のアンサンブルも、なんとも艶やかで美しい。色っぽすぎて、朝の出勤前に聴くにはちょっぴり勇気が必要(笑)。

二枚目にある「スターダスト」は、もちろんエリントンの自作曲ではなく有名すぎるスタンダード・ナンバー。『アット・ファーゴ 1940』ではテナー・サックスのベン・ウェブスターのショウケースとなっている。頭が切れてて途中からはじまっているのだけが残念だけどね。ウェブスターがコールマン・ホーキンスのバラード吹奏スタイルからどれだけ大きな影響を被っているか、聴けば誰でも瞬時に分ってしまうほど似ている。

エリントン楽団の『アット・ファーゴ 1940』。楽団員の構成といい(あぁ、クーティー・ウィリアムズさえまだ抜けていなかったら…)、楽曲の充実度といい、まさに絶頂期にあったこのオーケストラの極めて貴重で重要なライヴ録音だし、また演目が1940年11月時点までの同楽団の総決算的代表曲が揃っている(っていうことはだいたい全部ある)し、エリントン・ファンなら聴いていないのはありえないだろうとまで言いたい大傑作ライヴ・アルバムだ。

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コメント

昨年タワレコにストーリーヴィル盤の「アット・ヴァーゴ」を注文したら、さんざん待たされた挙句入荷せず、キャンセルになっていました。もう廃盤?アマゾンで普通に買えるのでそのうちにと思ってたんですが、音質が変わらないなら東芝 EMI 盤の方がいいなぁ。ポートレート写真のジャケですよね。
上の文では最初に「誰がどう聴いても60周年記念盤であるストーリーヴィル盤の方がはるかに上だけど~」となってますが、東芝盤も普通に聴けますよね?スポティファイで一回聴いてますが、私家録音なら音質は良すぎるくらいと思ったんですが。

コットンクラブでの実況盤についてもいつか記事にしてください。
あれ僕は大好きなんです。

あぁそれと、いい大人が朝から「暖かな谷間」なんて曲を聴いちゃいけませんよ。ハハハ。

Astralさん、音質が変わらないと言っても、まあ確かに違う部分がありはするので、やはり60周年記念盤の方が一般的にはオススメでしょう。それに東芝EMI盤って、今でも買えるんですか?もちろん僕の持っている東芝EMI盤のファーゴ・ライヴも問題なく再生できます。60周年記念盤は、アマゾンだと待たずに即買えるじゃないですか?

東芝盤は中古ならそこそこな値段で買えるみたいです。
どうしようかな。やっぱり大人しくストーリーヴィル盤にしようかな。

Astralさん、念のために書いておくと、60周年記念のストーリーヴィル盤には、附属の一枚の紙に曲目が書かれてあるだけ。録音年月日もパーソネルもなにもかも、データの類はま〜ったくなにも書かれていないです。ですので、解説文みたいなものも一言もありません。

僕ら昔からこのライヴを聴き続けているファンは、そんなもの一切必要ないわけですが、ここから入門するという方には、かなり不親切ではあります。東芝EMI盤には、一応それらはあります。

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