僕のオススメ〜マイルズの必聴アルバム10選
昨2016年8月の記事だけど、『ローリングストーン』誌が「マイルズ・デイヴィスの必聴アルバム15選」というものを掲載した。もはや旧聞に属するものかもしれないが、僕がこれを知ったのはわりと最近なので、これに関連して今日は少し書いておきたい。
『ローリングストーン』誌のこの手の企画そのものは、はっきり言ってお遊びだろうけれど、でもマイルズ関係だからなあ。僕は黙っていられない。マイルズ関係でなくたって、この雑誌のこの手のランキングやベスト・アルバム選などを参考にするファンもいるのかもしれないし。
上でリンクを貼った英文をお読みいただければ分るように、この記事はやはり先鋭的で時代を形作ってきた音楽家としてのマイルズの必聴作を選ぶという視点だ。それでまず「俺は音楽の流れを五回か六回は変えた」というマイルズ自身の言葉を引用している。
有名な言葉なんだけど、しかも『ローリングストーン』誌でこの記事を書いたスティーヴ・ファターマン(誰?)もこれは間違っていないとコメントしているんだけど、どう考えてもこのマイルズの言葉はウソだよね。ウソが言い過ぎなら見栄を張っているだけ。五回とか六回とか、どう見てもそんなに変えてなんかいないじゃないか。
僕の見るところ、マイルズがジャズとその周辺の音楽の流れを変えたと言えるのは二回だけ(それで十分多いわけだけど)。1959年と69年の二回だけだ。しかも59年のモーダルな作曲・演奏法確立にしても、69年のビートとサウンドのロック/ファンク化確立にしても、マイルズがやりはじめたことなんかじゃないぞ。
どっちの時も、それぞれ数年前から先行する動きがあって、マイルズは、悪く言えばその動きをかすめ取って、あたかも自分がやったものであるかのようにして録音し完成させてアルバムにしただけだ。良く言えば、それ以前はみんな実験的模索だったのを、マイルズはその域を一気に飛び越えて、見事な完成品・傑作にまで仕立て上げたとは言える。
だけどさぁ、「時代の流れを変えた」とか「新しい」とかなどという視点でしか音楽を聴かないとなると、そりゃあまりにも貧しいんじゃないかなあ。マイルズという音楽家もそんな視点でしか捉えられていないように思うから、どうもこの人の本質をみんな掴まえきれていないんじゃないかという気が僕はする。例の JTNC 系の方々が語るマイルズ論も全てそう。
だから今日、僕は、『ローリングストーン』誌の「マイルズ・デイヴィスの必聴アルバム15選」の中身に具体的に反論するのではなく(それは意味がないだろうから)、僕なりに選んだ「マイルズ・デイヴィスの必聴アルバム10選」を以下に記しておきたい。15作ではなく10作。といっても絞りに絞った結果、マイルズ名義ではないアルバムが一枚だけ入って合計11枚になってしまった。かたちとしてはキレイじゃないが、勘弁してほしい。
僕の選考基準は、時代を形作ったとか新しいとか音楽の歴史を変えたなんていうものではなく、あくまで聴いて楽しいか、美しいと感じるか、リラックスできるかどうかだ。それだけ。それも特にジャズ・マニアではない一般の音楽リスナーも、これを聴いたら、あっ、こりゃいいね、マイルズの他のアルバムも聴いてみたいぞという気になるかどうか 〜 それだけで11枚選んだ。以下、年代順に。括弧内は録音年。
これがマイルズの推薦盤にあがっているのをまだ一度も見たことがないが、極上の一枚なんだよね。隠れた名盤だ。特にヴァイブラフォンのミルト・ジャクスンとピアノのレイ・ブライアントが旨味。四曲全ていいけれど、特に一曲目と四曲目のブルーズ・ナンバーでは絶品のソロとバッキングを聴かせる。ボスのトランペットはまだイマイチだけど、それでもこの二人に触発されて、この時期にしてはいいソロを吹く。
ファースト・レギュラー・クインテットの作品からはこれを。内容的にはプレスティジでのマラソン・セッションから生まれた四作全て同じようにいいし、『クッキン』は10月の録音で統一されているので完成度は高い。だが『リラクシン』は、タイトル通り本当に寛げる内容で、アップ・テンポのものもバラードも、聴いていていい気分なんだよね。
ギル・エヴァンス編曲・指揮のオーケストラとやったものでは、やっぱりこれだ。評価も人気も高い『スケッチズ・オヴ・スペイン』はあまり楽しくないと思う。みんな、あれが本当に心底いいと思って聴いてんの?どう聴いても『マイルズ・アヘッド』の方が美しいでしょ。二曲目「カディスの乙女」とか四曲目「マイ・シップ」などのバラードをフリューゲル・ホーンで吹くマイルズと、その背後で鳴るギル・アレンジのオーケストラの響きは、天上の美しさ。
お分りのようにこれだけがマイルズのリーダー名義作品ではない。キャノンボール・アダリー名義のブルー・ノート盤だけど、実質的にマイルズがリーダーシップをとったセッションであるのは、音を聴けば誰でも分る。これを収録したリール・テープのケースには、アルフレッド・ライオンのペンで「Miles Davis Quintet」と書かれてある(その写真を僕は見たことがある)。一曲目「枯葉」におけるハーマン・ミュートをつけたトランペット・ソロだけで KO されるよね。
タイトルで分るようにライヴ・アルバム。サタデイの方はイマイチに聴こえるので、一曲目のブルーズ「ウォーキン」が必殺であるフライデイの方だけをオススメするが、本当は金・土あわせ二枚組で発売してほしい。そうすれば未練を残すことなくそれを推薦できるんだけどね。アクースティック・ジャズ時代のマイルズ・ライヴでは、1960年代中期〜後期のハービー・ハンコック+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズを擁したアルバムが評価が高いけれど、ちょっと緊張感が強すぎる。普段聴きには適さないし、入門用でもない。
とはいえ、そのリズム・セクション+ウェイン・ショーターによるセカンド・レギュラー・クインテットのアルバムも一枚は選んでおきたいので、スタジオ録音第一作であるこれを。この時点では、このクインテットの音楽はまださほど抽象度を強めておらず、聴きやすい。次作の『マイルズ・スマイルズ』から『ネフェルティティ』までは、西洋白人音楽リスナー向けである部分が大きいように思う。だからそういうリスナーにはそれらをオススメしておくが。
マイルズ・ミュージックが生涯で最も激しく変化した1968〜71年頃。新時代を切り拓いた大傑作とされる『ビッチズ・ブルー』は、マイルズ・ファン、ジャズ・ファン以外にはちょっとしんどいかも。さらにファンキーさという点でも『イン・ア・サイレント・ウェイ』の B 面(CD だと2トラック目)の方がカッコイイもんね。ファンキーにグルーヴする曲を、落ち着いた静的で美しいメロディの曲でサンドイッチした編集のアイデアも効果抜群。
ロック・ファンに「マイルズのいいのをなにか一枚教えてください」と言われたら、迷わずこれを差し出すべきだ。エレベのマイケル・ヘンダスン、ドラムスのビリー・コバム二名の創り出すビートに乗って、ジョン・マクラフリンがロック・ギターを炸裂させ、マイルズも軽快に吹きまくる。映画のためのサウンドトラックとしての編集時(録音時にはそれは無関係)にテオが挿入したいろんなパートは不要だったかもと、いまでは思える。
これを選ばないというのは考えられないね。だぁ〜ってファンキーだもん。2010年代のいまでも意義深い(とみんな思っているみたいだ、特に JTNC 系のライターさんたちや、その読者さんたち)という視点はいまの僕にはない。1998年頃に、それまでマイルズをほぼ知らなかった茨城県在住のソウル〜ファンク愛好家にこれをプレゼントしたら、一発でハマったぜ。そんな経験からも、やはりオススメなんだよね。特にコアなブラック・ミュージック・ファンには。
1970年代中期に何枚もあるレギュラー・バンドでのライヴ・アルバムからは、この1975年2月1日、大阪公演夜の部を。でも一枚目は後半部しか面白くない。凄いのは二枚目だ。同じ日の録音では、昼の部を収録した『アガルタ』の場合が一枚目だけカッコイイから、つまり『アガルタ』の一枚目と『パンゲア』の二枚目がセットになれば文句なしなんだけどなあ。
1981年復帰後の作品からも一枚だけ選んでおこう。この『ドゥー・バップ』はマイルズが亡くなる1991年の初頭にイージー・モー・ビーとのコラボで取り組んでいたプロジェクトからの音源が中心だけど、未完成のまま故人になってしまい、死後リリースとなった。もし亡くなる前に完成していれば…、と残念で、興味深いアルバムなのだ。あと二年でも生きていれば、マイルズは本格的にヒップ・ホップ・ミュージックをやったはず。それもラッパーをレギュラー・バンドのメンバーとして雇ったに違いないね。
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