
僕が持っていて、普段からよく聴くマイルズ・デイヴィスの1974年作『ゲット・アップ・ウィズ・イット』CD は、日本の SME が2001年にリリースした紙ジャケットもので、附属のライナーノーツはこれまた村井康司さんが1996年に書いたもの。村井さん、本当に多いですねえ。しかも96年に執筆したわけだから、いまでは訂正したり補ったりしないといけない箇所がやはり多い。
1996年は、一般のユーザーにとってはまだまだインターネット黎明期だったので、村井さんが参照しているのも紙に印刷された二つのディスコグラフィー本(の一つを書いたヤン・ローマンさんとは僕はお付き合いがあるが、話しかけてきたのは彼の方だ)。しかしその後進んだ研究成果がネット上にどんどん掲載されるようになっているので、他の音楽家のことは知らないが、マイルズの日本盤 CD の解説文は一度全部最初から書き直してほしいんだよね。不明だった点がいくつも判明している。特に1970年代のスタジオ録音はそうだ。とはいうものの、2001年のリイシューで96年の文章を流用してあるということは、もはやライナーノーツを新規に依頼する余裕がレコード会社にないということなんだろう。期待はできないね。
音源としても1970年代のマイルズものは、レガシーが「コンプリート」の名を冠するボックスに既発・未発含め集大成され(といっても真の意味でのセッション音源はほんのちょっとしか公式にはリリースされていないが)、その際レガシー(コロンビア)が、各種のディスコグラフィカルなデータも大幅に修正して記載しているので、個々のアルバムの日本盤もやはり修正しないといけないんだがなあ。
というわけで僕の持つマイルズの『ゲット・アップ・ウィズ・イット』CD 附属の村井さんが1996年に書いた解説文について、ここをこう修正しないといけないという具体的な指摘は今日はしない。たくさんあってキリがないからだ。これは村井さんを責めているんじゃない。96年なら誰が書いたって同じだったはず。だからそういう指摘はせず、今日、僕は僕なりに、自分の知っている2017年時点で判明しているデータなども記しながら、マイルズの『ゲット・アップ・ウィズ・イット』について書いていくつもり。
と直前で言ったものの、『ゲット・アップ・ウィズ・イット』にかんしては、特にある時期までは、正確に判明していないデータが実に多かった。それを以下の文中で、一曲ずつの音楽内容を書いていく際に一つ一つそのなかで指摘したのでは、パッと読んだ感じ、分りにくいだろうと思いはじめた。英語サイトでならここが!というものがあるのだが、日本語で読めるサイトで、この二枚組アルバムのディスコグラフィカルなデータを一覧にしてあるものがまだない。やはりまとめておくべきかもしれない。
したがって、各曲の音楽的内容について書く前に、『ゲット・アップ・ウィズ・イット』の録音データを一覧にして記しておく。今後また新たな事実が判明して、再び訂正しないといけないことが出てくる可能性は十分あるが、2017年3月19日(に書いている)時点では、以下で間違いない。信用していただいて問題ない。日本のソニーの関係者の方がこの文章を見ることはないだろうけれど、もし可能性があるのなら、CD 附属解説文記載のデータを以下の通りに修正していただきたい(と言っても上述の通り期待できないが)。
Miles Davis - Get Up With It
Disc 1
1. He Loved Him Madly
Recorded on June 19, 1974 at Columbia Studio B, New York City
Miles Davis (trumpet, organ), Dave Liebman (flute), Reggie Lucas, Dominique Gaumont (guitar), Michael Henderson (bass), Al Foster (drums), Mtume (percussions)
2. Maiysha
Recorded on October 7, 1974 at Columbia Studio B, New York City
Miles Davis (tp, org), Sonny Fortune (fl), Reggie Lucas, Dominique Gaumont (g), Michael Henderson (b), Al Foster (d), Pete Cosey, Mtume( perc)
3. Honky Tonk
Recorded on May 19, 1970 at Columbia Studio C, New York City
Miles Davis (tp), John McLaughlin (g), Herbie Hancock (clavinet), Keith Jarrett (electric piano, org), Michael Henderson (b), Billy Cobham (d), Airto Moreira (perc)
4. Rated X
Recorded on September 6, 1972 at Columbia Studio E, New York City
Miles Davis (org), Cedric Lawson (synthesizer), Reggie Lucas (g), Khalil Balakrishna (electric sitar), Michael Henderson (b), Al Foster (d), Mtume (perc), Badal Roy (tabla)
Disc 2
1. Calypso Frelimo
Recorded on September 17, 1973 at Columbia Studio B, New York City
Miles Davis (tp, org), Dave Liebman (tenor sax, fl), John Stubblefield (soprano sax), Reggie Lucas, Pete Cosey (g), Michael Henderson (b), Al Foster (d), Mtume (perc)
2. Red China Blues
Recorded on March 9, 1972 at Columbia Studio C, New York City
Miles Davis (tp), Wally Chambers (harmonica), Cornel Dupree (g), Michael Henderson (b), Al Foster, Bernard Purdie (d), Mtume (perc), Wade Marcus (brass arranger), Billy Jackson (rhythm arr)
3. Mtume
Recorded on October 7, 1974 at Columbia Studio B, New York City
Miles Davis (tp, org), Reggie Lucas, Dominique Gaumont (g), Michael Henderson (b), Al Foster (d), Pete Cosey, Mtume (perc)
4. Billy Preston
Recorded on December 8, 1972 at Columbia Studio E, New York City
Miles Davis (tp), Cedric Lawson (org), Reggie Lucas (g), Khalil Balakrishna (electric sitar), Michael Henderson (b), Al Foster (d), Mtume (perc), Badal Roy (tabla)
以上、レガシーがリリースした2003年の『ザ・コンプリート・ジャック・ジョンスン・セッションズ』(「ホンキー・トンク」について)と、2007年の『コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』(「ホンキー・トンク」以外全部について)に記載のデータ、さらにインターネット上に存在する各種ディスコグラフィーに基づいて記載した。
がしかし、レガシー盤記載のデータとネット上にあるマイルズのディスコグラフィーとでは、異なっている部分もかなりあるし、またネット上のディスコグラフィーも、ものによって情報が違っている。さらに実際に CD で現物の音を聴いたら、それらのどれも全て間違っているとしか思えない部分すらある。
したがって、基本的にはそれらの情報源を擦り合わせながらも、最終的には僕自身の耳判断(極めて頼りないものだが)を信用して、というか各種情報源によって記載内容が異なっている場合には耳で聴いての判断以外に拠り所がないわけだから、やはりそれに基づいて上のディスコグラフィカルなデータ一覧を書いた。
例えば、1974年のセッションのうちの二つ(「マイーシャ」「エムトゥーメ」)では、ピート・コージーはギターだとあらゆる情報源が記している。がしかしコージー自身の「私はあのアルバムでは弾いていないんだ」という証言と、その証言通り、コージーのスタイルだと判断できるギターがどうしても聴こえないこと、『アガルタ』『パンゲア』になった1975年2月1日の大阪公演でもコージーはしばしば金物のパーカッションを担当することがあったが、それらで聴ける音と、一つ例えば「エムトゥーメ」で聴けるカチャカチャという音が同じであること 〜〜 これらから僕は推測して、上記のように記したのだ。
なお、1974年録音でも「ヒー・ラヴド・ヒム・マッドリー」でだけは、僕はピート・コージーの名前は一切出していない。ギターでも金物パーカッションでも、あるいは他のなんであれ、コージーが演奏していると判断できる音が全く存在しないからだ。それと同様に聴こえない音は、ディスコグラフィーなどに名前が載っていても、やはりその演奏者の名前は外してある。
例えば「ホンキー・トンク」ではソプラノ・サックスでスティーヴ・グロスマンの名前が全ての情報源にある。編集前の音源(『ザ・コンプリート・ジャック・ジョンスン・セッションズ』収録)では確かにグロスマンが吹くパートがあるのだが、テオ・マセロは『ゲット・アップ・ウィズ・イット』をプロデュースする際の編集作業で、それを全面的にカットしている。だからグロスマンの名前は、このアルバムのデータからは外す判断を僕はした。これはほんの一例で、他にもある。
しっかしここまで書いてきて、あぁしんど〜。マイルズ『ゲット・アップ・ウィズ・イット』の肝心要の音楽的中身について書く余裕が、いろんな意味でなくなった。文章も長くなったし、気力も今日はもうない。上の方で、データなども記しながら『ゲット・アップ・ウィズ・イット』について書いていくつもり、などと宣言したのは撤回する。それは来週に廻すことにしようっと。だぁってねぇ、これまた書きたいことが山ほどあるのさ。
最近のコメント