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2017/03/11

狂熱のディスコ・フュージョン〜 ONB

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オルケルトル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB) のデビュー・ライヴ・アルバム『アン・コンセール』。やはりこのアルバムについては、一度まとまった文章にしておきたいという気分になってきたので書くことにしよう。なんたって大恩人と言うべき一枚だもんなあ。これにハマらなかったらマグレブ音楽にのめり込むのがもっとずっと遅れたはずだし、僕の場合マグレブ音楽にハマったからこそ、西アジアのアラブ音楽も大好きになったわけだから、ONB 様様なのだ。

ONB の『アン・コンセール』に出会う前に僕が聴いていたマグレブ音楽は、アルジェリアのライだけと言って差し支えない。もちろんその後ハッサン・ハクムーンの1993年作『トランス』があるけれど、個人的にはあまり面白くなかったので、グナーワ方面に興味が行かなかった。でもそれまでモロッコ音楽のことをちっとも知らなかった僕が買ったんだから、かなりの話題にはなっていたんだよねえ。

ハッサンの『トランス』があんなに話題になっていたのに、僕がどうして面白く感じなかったのかは、いま聴き返せばその理由はなんとなく分るような気がするが、その話はまたハッサン関係の記事でまとめたい。ライについては、僕が知ったのは例のいわゆる<パリ発ワールド・ミュージック>っていうやつで、マルタン・メソニエのプロデュースによる(シェブ・)ハレドの『クッシェ』がきっかけだったのだが、あのへんの話もまた機会を改めたい。

ハレドの『クッシェ』はメソニエと一緒にサフィ・ブーテラというアルジェリア出身のジャズ・ベーシストがプロデュースしている。このサフィ・ブーテラは ONB とかなり関係があるみたいなんだよね。ONB の中心人物はユセフ・ブーケラで、やはりアルジェリア出身の、やはりベーシストなんだけど、このユセフはサフィ・ブーテラの強い影響を受けたらしい。それでジャズの世界にものめり込んでいたようだ。

ジャズの要素は ONB の『アン・コンセール』をき聴くとかなりはっきりあるよね。もっと言えばこのライヴ・アルバムはフュージョン・ミュージックだ。フュージョンといっても、グナーワやシャアビやライなどマグレブ音楽とジャズやロックなどアメリカ音楽との合体融合(フュージョン)という意味ではなく、明快なアメリカ産ジャズ・フュージョンっぽい部分が強くあるんじゃないかなぁ。

1998年当時『アン・コンセール』を買って聴き狂っていた頃は、このことを意識していなかった。ただ単に今まで聴いたことのない未知の音楽だ、凄い凄い、カッコイイなあと感動しきりで、ネット上の周囲の音楽仲間にも熱く語って推薦しまくっていたんだけど、昨日・今日と聴き返してみると、こりゃ間違いなくアメリカン・フュージョンだ。だからこそマグレブ音楽を知らなくても、高校三年生の時から熱心なジャズ・フュージョン・リスナーである僕が、一回聴いただけでスッとなんの違和感もなく溶け込めたんだろう。

『アン・コンセール』は冒頭三曲がメドレー形式に一繋がりになっているが、一曲目の「ミムナ」冒頭でいきなりソプラノ・サックスの音が聴こえる。それも大きな音量で。背後で親指ピアノのような音が鳴っているが、これはその楽器そのものではなくシンセサイザーで出しているものかもしれない。それにくわえチャントも入り、しばらくすると鉄製カスタネットのカルカベも聴こえはじめる。リード・ヴォーカリストが「ミムナ、ミムナ」とリピートしている。

ところでこの「ミムナ」という言葉。マグレブ音楽、というかグナーワ(系ポップ)を聴いていると実に頻繁に聴けるものだ。たぶん元はアラビア語なんだろうから、いまの僕に正確な意味は掴めないが、ひょっとしてグナーワ儀式かなにかと関係があるものなんじゃないのかなあ?ハッサンのアルバムでも出てくるし、ONB 結成時の主要メンバーで『アン・コンセール』でも活躍しているアジズ・サハマウイのソロ・アルバム『グナーワ大学』にもあった(ような気がする)。ホントなんだろう、この「ミムナ」っていう言葉は?アラビア語とモロッコ事情に通じている方、どなたか教えてください。

『アン・コンセール』一曲目の「ミムナ」で、1998年当時僕が一番ゾクゾクして背筋に電流が走ったような感じになったのは、上述のようにまるで儀式現場でプリミティヴな楽器をループ演奏しながら呪文でも唱えているみたいな(ソプラノ・サックスのサウンドだけはそうじゃないが)部分から、エレベとドラムスが入ってきて、一気にバンドのサウンドが瞬時に強くグルーヴしはじめる刹那だ。3:05。
伝承民俗音楽から、それをそのまま活かしたかたちでモダン・ポップになるという、まさにその瞬間に、それ以前からはっきり聴こえていたソプラノ・サックスが一段と大きなフレイジングで跳ねるんだよね。ルーツ音楽からポピュラー音楽にチェンジする瞬間に、フュージョンっぽいソプラノ・サックスがそのきっかけをつくるのだ。

ソプラノ・サックスは、「ミムナ」ではその後聴こえなくなるが、『アン・コンセール』冒頭部のメドレー二曲目「サウイェ」冒頭部でもまた入る。さらにそこからはエレキ・ギターの音も聴こえるようになるが、それはまるでラリー・カールトンかリー・リトナーかっていうような弾き方で、まさにフュージョン・ギターだもんね。中間部ではソプラノ・サックスが繰返しリフを演奏する。

メドレー三曲目の「ハギダ」はラルビ・ディダの歌うライナ・ライのナンバーだが、ここではサックスのアラン・デビオサはテナーに持ち替えている。やはり爽やかフュージョン・テナー。まあこの人のサックス吹奏自体は、アメリカ人ジャズ・サックス奏者の一流どころをたくさん聴いている僕からしたら、正直言ってなんでもないものだが、それでも『アン・コンセール』ではその他随所で聴ける彼のサックス・サウンドが、このアルバムをとっつきやすく聴きやすいものにしていることだけは間違いないメリットだ。

そんなサックスやエレキ・ギターだけでなく、シンセサイザーもエレベもドラムスも全て演奏スタイルがジャズ・フュージョンっぽくいまの僕には聴こえる。そんな要素を ONB にもたらしているのが、上でも書いたようにジャズにのめり込んだ経験を持つ ONB の核であるユセフ・ブーケラなんじゃないかなあ。ユセフ自身はこのバンドのリーダーじゃないんだとインタヴューでは語っているが、音楽的リーダーシップは間違いなく彼がとっているよね。

ジャズ・フュージョン要素は、1998年に『アン・コンセール』にどハマりしていた頃の僕は意識していなかったわけで、そんな自覚は全くなく、ただただひたすらカッコイイ音楽だ、そうか、これは北アフリカの音楽をベースにしているのか、バルベスっていうのはパリ18区のマグレブ移民地区のことなのか、そうか、それでバルベス国立楽団と名乗っているんだなとか、そういう認識だったもんね。

しかしあんなに聴き狂ったのは、やっぱりジャズ・フュージョン要素が強く溶け込んでいたからだったんだと、2017年にもなっていまさらようやく気が付いて、気が付いてみると昨日からまた『アン・コンセール』をなんども聴いている僕。やっぱり何回聴いてもいいなあ、このライヴ・アルバムは。

もちろん ONB の『アン・コンセール』には、特にジャジーでもなければフュージョンっぽくもない曲だってある。冒頭の三曲メドレーに続く四曲目「サヴォン」、七曲目の「ラブー」は、リズムの感じもアメリカ産音楽っぽいし、特にエレキ・ギターがキュイ〜ンと入るあたりはやはりフュージョンだ。がしかし六曲目の「サラーム」はレゲエだし、五曲目「ザウィヤ」のリズムはかなり複雑(スネアの入るタイミングを理解するのに苦労する)で、シンセサイザーがグルグル廻るようなフレーズを演奏し、リード・ヴォーカルとチャントとのコール&リスポンスで展開する。

また八曲目の「マ・イシャリ」は(途中までは)完全にトラディショナル・スタイルのシャアビだ。ファテ・ベンラーラが、マンドーラでいかにもシャアビだというようなフレーズを弾き、自ら弾くそれに乗って歌う。彼一人でのマンドーラ弾き語りがしばらく続くので、賑やかな(ディスコとも言いたいほどの) ONB サウンドのなかに混じるとかなり異色で、大きなチェンジ・オヴ・ペースになっている。ライヴ現場だと、おそらくダンスをやめての休憩タイムになっていたんだろう。

ファテ・ベンテーラ主導の「マ・イシャリ」でも、半分あたりでシンセサイザーとエレキ・ギターとエレベとドラムスが入りはじめる。全くダンサブルではない歌謡曲だけど(シャアビってそんなもんだよね)、バック・コーラスも聴えるようになると、ドラマーが派手目にシンバルを鳴らしたりするので、途中からはやはり伝統シャアビではなくモダン・ポップ・シャアビという感じにはなる。

『アン・コンセール』でダンサブルではない歌謡ソングは、その八曲目「マ・イシャリ」だけで、その後はまた再び賑やかなディスコ・タイムに突入し四曲。フュージョン・サックスも聴こえ、エレキ・ギターもギュンギュン鳴るし、シンセサイザーも活躍。ドラマーもタイトかつポップなリズムを叩き出す。カルカベの音が大きく聴こえるのだけが、やはりマグレブ音楽だなと感じさせる程度だ。

十曲目の「シャリニ」では親指ピアノの音に続きゲンブリが鳴りはじめる(弾いているのはアジズ・サハマウイかな?クレジットがないけれど)のでグナーワになるのかと思うと、確かにグナーワ・ベースの曲だろうけれど、それも相当にポップなモダン・グナーワ、というかこれはもはやグナーワでもないだろう。グナーワを出汁に使った別の料理だよね。

アルバム『アン・コンセール』全体の流れでは、その次の11曲目「アラウイ」がメイン・アクトのラスト・ナンバーだった可能性がある。根拠は完全にゼロだけど、聴いているとなんとなくそんな気がする。「アラウイ」がフェイド・アウトして次のラスト12曲目「ドール・ビハ」に入る前に若干の空白時間があるし、「ドール・ビハ」は本編で演奏されたとは考えにくいしね。

11曲目「アラウイ」はいかにも ONB のこのライヴ・アルバム本編を締めくくるのに相応しい強烈な、しかし典型的なマグレブのビートとサウンドだ。アルバム『アン・コンセール』で、冒頭の三曲メドレー以外で代表曲はどれ?と言われたら、僕は「アラウイ」を推す。実際 ONB を代表する一曲になったんじゃないかな?このバンドのその後のことはあまりよく知らないが。

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