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2017/03/12

ブルー・ノートのピアノの音はヘンだ

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アルフレッド・ライオンが退く1967年まで、ブルー・ノート・レーベルの作品で聴けるピアノの音はちょっとヘンだよね。なんというか鋭さがなく、鈍くさいようなゴロゴロとしたごっつい音だ。これは生演奏現場で一流ジャズ・ピアニストが出す音を知っているとやや妙に聴こえるものだ。

僕がはじめてジャズ・ピアノの音を聴いたのは、レコードでなら前々から書くように MJQ の『ジャンゴ』で弾くジョン・ルイスと『オーヴァーシーズ』のトミー・フラナガン。どっちもいま考えるとピアノの録音自体はイマイチだね。これは時代だろうなあ。1950年代半ばだからあんなもんなんだろう。

その後しばらくしてアート・ペッパーのライヴ演奏現場で、ジョージ・ケイブルズの弾くグランド・ピアノの音を、それも PA なしの生音で聴いたら、レコードとはかなり違う響きがしたので、あぁ、こういうのがピアノという楽器の音なのかと、その時初めて実感したのだった。

ピアノの音色自体はギターその他いろんな楽器よりも早く幼少時から知ってはいた。歩いて10分程度のところに住んでいた僕の父の兄の娘、つまり従姉妹(僕よりかなり年上だけど、おそらく当時は独身)がピアノ教室の先生をやっていて、自宅にグランド・ピアノがあって、よく遊びにいっていた。いいよというのでそれを触っていたのだ。僕が幼稚園児か小学校低学年の頃だなあ。でも全くなにも分っていない僕が右手の人差し指一本でコン・コンとやるだけなので、マトモな音なわけがない。

がしかしグランド・ピアノってこんな音がするんだなと知ってはいたわけだ。それにしてもあの頃の僕は、当然ながらいまみたいな音楽キチガイになるだなんてこれっぽっちも思っていなかった。ピアノにも特に興味はなかった。いまにして思えば、もっとしっかりとそのピアノの先生だった従姉妹にいろいろと教わっておけばよかったと激しく後悔している。もう遅い。

その従姉妹(僕より15歳ほど年上)の娘さん二人も、一人はピアノの個人教室の先生、もう一人は英会話塾の先生を、松山でやっていると聞いた。う〜ん、もったいない。いまからでも遅くないのか…。いや、やっぱりもうダメだろなあ。そんな話はどうでもいい。ジャズ・ピアノ録音の話題だ。

とにかくライヴ現場で PA を通さない生音でグランド・ピアノの音を聴いて体感していると、1967年までのブルー・ノート・レーベルのアルバムで聴けるピアノの音はちょっとおかしな音に聴こえるよね。僕だけじゃなくみなさん同じように感じていらっしゃるはず。これは録音技術やエンジニアのせいではない。

ブルー・ノート作品の録音エンジニアは大半がルディ・ヴァン・ゲルダー。だからニュー・ジャージーのハッケンサックにあるヴァン・ゲルダーのスタジオで録音されている。じゃあやっぱりヴァン・ゲルダーと彼のスタジオのせいじゃないの?と思われるかもしれないが、同じ時期に同じエンジニアが同じスタジオで録った他のレーベルのアルバムでは、ピアノの音はマトモだもんね。

例えばマイルズ・デイヴィスのファースト・クインテットが1956年の5月と10月にプレスティジ・レーベルのためにやったマラソン・セッション。それも全部ニュー・ジャージーはハッケンサックにあるヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。そしてレッド・ガーランドが弾くピアノの音は、鈴のように、あるいは玉のようにと言うべきか、転がるキレイなものだ。

ところが同じエンジニアがほぼ同時期に同じ場所で録音したものでブルー・ノート・レーベル用のもの、例えば1957年10月録音の『ソニー・クラーク・トリオ』。このアルバムで聴けるソニー・クラークのピアノの音はゴロゴロと太くて鈍い。これが同じ楽器の音なのか?と疑いたくなってくるほど違うもんね。だからエンジニアとスタジオ機材のせいなどではない。

そりゃあれだろう、ピアニストの弾き方の違いだろう?レッド・ガーランドはあんな感じだけど、ソニー・クラークはこんな感じで…、と言われるかもしれないが、これもレッキとした反証がある。同じソニー・クラークの、それも同じトリオ作品でも、タイムというレーベルに録音した『ソニー・クラーク・トリオ』(上掲写真右) では、ピアノの音色が違うもんね。シャープで切れ味があって、決して鈍ではない。だからピアニストのスタイルの違いでもない。

ところでタイム盤『ソニー・クラーク・トリオ』の録音は1960年となっていたが、これはどうやら1959年説が正しいらしい。ベースがジョージ・デュヴィヴィエでドラムスがマックス・ローチ。ソニー・クラークのトリオものでは、ブルー・ノート盤の方がはるかに人気が高いが、僕にはタイム盤の方がいい内容に聴こえるよ。ブルー・ノート盤が人気なのはスタンダード曲ばかりだからじゃないかな。トリオ盤は全部ソニー・クラークのオリジナルだ。でもそれがチャーミングだよ。

その大きな原因の一つが、今日書いているようにブルー・ノート作品のピアノ・サウンドのゴロゴロとした鈍さだ。ソニー・クラークだけじゃない、その他全員このレーベルで聴けるピアニストの弾く音は、トリオものだろうと管楽器入りの編成だろうと、全て鈍くさい。正直に告白すると、アルフレッド・ライオンのこのレーベル、この点だけが残念でならない。

これはかなりおかしなことではある。なぜならばドイツ移民のアルフレッド・ライオンがブルー・ノート・レーベルを興そうと思ったのはピアニストを録音したかったからだもん。1938年の例の『フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング』コンサート・イヴェントを現場で体験したアルフレッド・ライオンは、同イヴェントで聴いたブギ・ウギ・ピアニストに感動して、これを録音したいと会社設立を決断したのだ。

1938年当時のカーネギー・ホールの音響設備がどんなもので、現場でアルフレッド・ライオンがどんなピアノの音を耳にしていたのかは分りようもない。がしかし生演奏現場だからなあ。少なくともブルー・ノートの作品で聴けるようなゴツゴツした鈍い音ではなかったんじゃないかなあ。

だからいざ自分の会社で録音するとなった際に、どうしてあんなピアノの音を希望したのかが謎だ。そう、あのゴツゴツと鈍くさくシャープさがないピアノの録音は、ほぼ全ての作品のプロデュースをやったアルフレッド・ライオンの意向に違いない。そうだとしか考えられないだろう。だってピアニストも同じ、演奏するものも同じ、録音スタジオもエンジニアも同じで、だからそれらから来る違いじゃないんだから、どう考えてもプロデューサーの希望だね。

ブルー・ノートの録音では、ピアノ以外の楽器の音は極めて魅力的だ。ウッド・ベースも野太く、ドラムスも迫力があって、しかも切れ味鋭いシャープさ(特にトップ・シンバルが生々しいリアルさ)、サックスやトランペットだってしっかりよく鳴っているし、楽器本来の持味を実にリアルに録音できている。やっている音楽だってファンキーでカッコイイじゃん。

だからあとはピアノの音さえ玉のように転がるシャープだったならば…、と僕は思っちゃうんだなあ。そこさえマトモならケチの付けようがない百点満点のジャズ・レーベルだったのになあ。ホントあれはどうしてだったんだろう?と長年謎で残念な気持だったのだが、最近はこれは、黒人音楽愛好家であるアルフレッド・ライオンとしては当然の成り行きだったかもと考えはじめている。

というのは同じくアメリカ出身ではない人間がアメリカで興した同じく黒人音楽レーベルであるアトランティック。この会社の作品でもやはりピアノの音はゴツイもんね。ジャズの人ではないが、レイ・チャールズのピアノをちょっと聴いてみて。ブルー・ノートと同じ音がするから。そんでもって管楽器などの音(とヴォーカル)は、アトランティックもブルー・ノート同様やはり野太く魅力的。

ブルー・ノートもアトランティクも、妙な言い方になって気が引けるけれど、なんというかこう、ガッツのあるサウンドなんだよね。汗臭いと言うかさ。言い換えればファンキーさ。音楽内容そのものがファンキーなものを録音するのなら、やはり音色もファンキーなものにしたかったということかもしれないなあ。ピアノは西洋白人音楽の権化みたいな楽器だしね。

ヴォーカルやウッド・ベースやドラムスや管楽器はそれでいいけれど、ピアノまで同じファンキーな録音にしちゃったから、あんな感じに聴こえるんだと思う。ピアノの音はピアノらしいサウンドで元来録りたい(し、実際他のレーベル作品ではそう録っている)ルディ・ヴァン・ゲルダーにも、そうしてくれとアルフレッド・ライオンが指示したに違いないと僕は思う。

やっている音楽そのものはちっとも面白くないが、こと「ピアノの録音」という一点のみならば、ECM レーベルの音はいい。生演奏現場でのグランド・ピアノの生音にこれが一番近いものだと僕は判断している。でも中身がちっとも面白くないものしかリリースしないレーベルだからなぁ、最近の ECM って。

ここ数年、また例の JTNC 界隈のあいだで大人気の ECM。あの方々にケチをつけるのはよしておこう。あんなにつまらないレーベルのあんなにつまらない音楽を持ち上げるなんて耳が腐っているんだろうなどとは言わないでおこう。最近の ECM 作品は、ありゃ要するに西洋白人クラシック音楽になりつつあるんだよね。だからつまらん。

でもそんな ECM のアルバムでも、ピアノの音の録り方だけはマトモで楽器本来の音がするから、ジャズ・ピアニストの作品でこれだけはまだ聴けるだろうというものの具体例を二つだけあげておく。チック・コリアが、ヴァイブラフォンのゲイリー・バートンとデュオでやった1979年のライヴ・アルバム『イン・コンサート、チューリッヒ、オクトーバー 、28、1979』と、キース・ジャレットが、ゲイリー・ピーコック&ジャック・ディジョネットで結成したトリオの第一作である1985年の『スタンダーズ、Vol.1』。

チック・コリア&ゲイリー・バートンの『イン・コンサート』の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。特に一曲目のスパニッシュ・ナンバー「セニョール・マウス」は猛烈にドライヴする超絶名演で、これ一曲だけのために買っても損はしないよ。それくらい凄い。特に後半のチックのソロ後半部の盛り上がり方には鳥肌が立つね。僕なんか二曲目以後は全く憶えていないもん(ウソ)。いや、ホントいいんだ。

キース・ジャレットのスタンダーズは、ほぼ全て面白くないが、三作目のライヴ・アルバムまではまあまあ悪くないのだ。そんな三枚のなかで一番いいのがデビュー作の『スタンダーズ、Vol.1』。どうしてかというとB 面二曲目(CD だと五曲目)の「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」がゴスペル風なアーシーさ全開の8ビート・ナンバーだからだ。

モダン・ジャズのピアノ・トリオって、面白くないものしかできあがらないフォーマットかも。それでもキース・ジャレットのピアノ・トリオ最高傑作は、1968年のライヴ・アルバム『サムウェア・ビフォー』に違いない。ボブ・ディランの「マイ・バック・ペイジズ」をブロック・コードだけでファンキーにやったり、あるいは曲によってはセシル・テイラーばりのアヴァンギャルドさを聴かせたりなどなど。

『スタンダーズ、Vol.1』にセシル・テイラーはないけれど、ファンキーさ、アーシーさは五曲目の「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」でしっかり聴けるのだ。この一曲があるからこそ、いやまあ二曲目の「オール・ザ・シングズ・ユー・アー」も凄いけれどさ(ジャック・ディジョネットがね)、このアルバムはなかなかいんだ。

でもそんな『スタンダーズ、Vol.1』も、1968年のヴォーテックス盤『サムウェア・ビフォー』には内容的に全く及ばないものだけれどさ。あの60年代末〜70年代初頭(はマイルズ・デイヴィス・バンド在籍時代だが)あたりのキース・ジャレットは本当によかったよなあ。そういえばヴォーテックスってアトランティックの傍系レーベルじゃないか(笑)。

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コメント

ピアノの音、違うね。僕の印象ではレニー・トリスターノがゴロゴロ、昔の秋吉敏子もゴロゴロ、オーヴァー・シーズのフラナガンはドンドン♫
で…先日、せっまい都内のロック中心のライブでラッパ吹いてあらためて思ったけど、マイクとPAで音がずいぶん変わるね。ジャムセッションやってる場末のお店はPAなんかほとんど関係ないから別だけどねぇ。ジャズは生音がいいと思うけど、PAの感性でコントロールされてる。エレピやギターは楽器じゃなくて機械みたいな性格が強い。ラッパがスタンドマイクでエコーかけられたり、サックスがピックアップマイクでスカスカ吹くというのは、もう自分の音じゃないね。機材と録音空間とPAの感性によるね。それはともかく、クリフォード・ブラウンの音は生っぽい録音が多い気がするな。生音が聴いてみたかったなぁ。w

やっぱり一度はマイクもPAもなしで生音を聴いとかないと、楽器の「本当の」音は分らないよねえ(電気を使う楽器を除く)。その点僕は、ジャズ系だとだいたい全部知っているんだけど、世界中にはレコードやCDでしか聴いたことのない楽器が実にたくさんあるんだなあ。

やっぱりそうだったんですね。私は当初レーベルなどと言うものはあまり気にせず聴いていて、いわゆる御三家(キース・チック・ハービー)のピアノだとハンコックが暗めなこもったような音色だなー、これは専門的なことはわからないけどタッチやその他技術的な違いなんだろかと思ってました。

でもいつだったか小川隆夫さんのインタビュー記事でブランフォード・マルサリスが、ブルーノートの録音はピアノがまるで箱の中に頭を突っ込んで聴いてるようで大嫌いだみたいなことを言ってて、ええっ?有名なブルーノートでそんなことあるのか、しかし初期のハンコックはあそこで作品出してるか、じゃあレーベルの録音技術の違いだったのかと。

これは好み・嗜好の問題なんでしょうか。ブルーノートのスタッフの。私ももっときらびやかな音質で聴きたいとは思いますが。

やはりブランフォードもそうなんですね。ぼくをふくめ、ブルー・ノートのピアノの音をブランフォードと同様に嫌いだと感じているファンは多いと思います。演奏内容はいいんですよ。でも音色がちょっとねえ〜。

ひとえにレーベル・オーナーにしてプロデューサー、アルフレッド・ライオンの嗜好・志向ゆえだと思います。

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