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2017/03/15

激しく感動的なアリーサのゴスペル・ライヴ

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アリーサ・フランクリンのアルバムでは、アトランティック時代よりも、ジャズやブルーズをたくさん歌っていたコロンビア時代の方が好きだという、だめだめアリーサ・ファンの僕。そんな僕がアトランティック時代と限定されれば、一番好きなアリーサは1972年のゴスペル・ライヴ・アルバム『アメイジング・グレイス』になってしまうので、やっぱりダメだこりゃ。

しかしあの『アメイジング・グレイス』は激しく感動的であるのも事実だろう。さらに聖(ゴスペル)と俗(ポップ、ソウル)との境界線なんか引けないんだということも、このアルバムでは強く実感する。いろんな意味でそうだけど、まずこのライヴの際の伴奏バンドの中心は、ポップ界のリズム&ブルーズ/ソウル/ファンクの演奏家たちだ。

ギターのコーネル・デュプリー、ベースのチャック・レイニー、ドラムスのバーナード・パーディーの三名は説明不要の有名人。オルガンのケン・ラパーの知名度は低く僕も『テスティファイ』一枚しか知らないが、その他いろんなソウル系歌手の伴奏をやっているらしい、やはり世俗音楽界でも活動する鍵盤奏者。コンガのパンチョ・モラーレスはもちろんソウル/ファンク界の人材。

さらに、アルバム『アメイジング・グレイス』の1999年リリースの CD 二枚組完全盤にある曲目の三分の一程度のものが、いわゆる宗教曲ではない。世俗のポップ・ソングなのだ。マーヴィン・ゲイの「ホーリー・ホーリー」、リチャード・ロジャーズ&オスカー・ハマーシュタインの「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」、キャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」、ジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」。

世俗のポップ・ソングはそれらだけで、他は伝承的、あるいは作者がはっきりしているゴスペル・ソングだけど、演唱時間はゴスペル・ソングとポップ・ソングが同じくらいなんだよね。さらに最も重要なことは、アリーサの歌い方とバック・バンドの演奏スタイルが、ゴスペルでもポップでも完璧に同じだという事実だね。

アルバム『アメイジング・グレイス』で聴ける曲のほとんどが、ゴスペルでもポップでもリズムは6/8拍子、つまりハチロクだ。これはリズム&ブルーズやソウルのリズムじゃないか。と言うと歴史的事実からすれば順序が逆で、黒人教会で使われている伝統的リズムが、世俗界にも反映されたということに他ならない。

ハチロクのリズムがアメリカ黒人教会の伝統リズムであるというのは、このリズムはアフリカ音楽に多いものだから、ひょっとして先祖の記憶、音楽的 DNA が継承されているということなんだろうか?歌うレパートリーのメロディや英語詞、聖歌隊のハーモニー・ワークなどは西洋白人由来だけど、リズムだけはアフリカ由来?

だから1960年代のソウルやファンクの勃興は、要するにアメリカ黒人の音楽的ルーツ回帰志向だったと言えるかもしれない。社会的にも黒人の人権意識高揚と、実際の権利拡大(というか普通化だが)などのムーヴメントと、そういう音楽の勃興は完全にシンクロしていたよね。そんな部分はジャズやブルーズといった戦前から存在する黒人音楽にも影響が及んでいた。

アリーサのアルバム『アメイジング・グレイス』では、ゴスペル・ソングもポップ・ソングも、その解釈と演唱スタイルはピッタリ一致していてなんの違いもない。完璧に「同じもの」としてやっているのが、聴けば誰だって実感できる。もちろん上記の通りだから、とりあげているポップ・ソングも元から宗教色のある曲が多いのは事実だけれども。

アリーサの『アメイジング・グレイス』にあるポップ・ソングのなかで、原曲の宗教色が最も薄いのはキャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」だろう。落ち込んで困っているなら私に言って、すぐにあなたのところへ駆けつけて手を差し伸べるから、あなたには友がいるのよという曲で…、あれっ、こう書くとちょっとリリージャスだなあ(苦笑)。

いやまあリリージャスなニュアンスがあるように思えてしまうのは、いま僕はそのアリーサの『アメイジング・グレイス』ヴァージョンの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を聴きながら書いているせいでもあって、キャロル・キングやジェイムズ・テイラーやダニー・ハサウェイやマイケル・ジャクスンや、その他無数にある「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を聴いて、それに宗教的メッセージを読み取る人はやはり少ないんじゃないかなあ。

ちょっとご紹介しておこう。作者であるキャロル・キングの『つづれおり』ヴァージョン。
ダニー・ハサウェイの『ライヴ』ヴァージョン。
ダニー・ハサウェイのヴァージョンは、自らフェンダー・ローズを弾きながら歌う。歌い廻しもエレピの弾き方も絶妙だ。特に歌いながら、そのヴォーカル・フレーズの切れ目切れ目に入れるエレピのフレイジングに僕はグッと来る。後半部で観客も大合唱になるあたりは、ほんのちょっと教会クワイアを想起しないでもないが。

ところが『アメイジング・グレイス』一枚目にあるアリーサのヴァージョンはこれ。
実際にはこれは伝承ゴスペル曲である「プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド」と合体している。メドレーとの記述もネット上では見つかるが、いわゆる普通のメドレーではなく完璧なる合体融合で、一つの曲に仕上げているのがお分りいただけるはずだ。アリーサが歌うメロディはキャロル・キングの書いた「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」だが、歌詞を宗教的なものに一部書き換えているよね。

すなわち「Soon He will be there, God will brighten up, He can brighten up」などと歌っている。つまりこのアリーサ・ヴァージョンの場合、困難に直面しているのは教会を訪れた信徒、そしてアリーサは「黙想なさい」(meditate) と歌っているが、そうすることで救いの手を差し伸べる、キャロル・キングの言葉で言えば友達(friend)とは、すなわち神だ。困っているのなら神に祈りなさい、そうすれば神があなたのところを訪れて助けてくれるでしょう、という歌に変貌しているんだよね。

伝承ゴスペルの「プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド」は、そのままでは出てこない。アリーサのリード・ヴォーカルのバックで入るマス・クワイアが、この曲題通りの言葉を、それもキャロル・キングの書いたメロディに乗せて歌っている。つまりこのワン・トラックは、ほぼ完璧にキャロル・キング・ナンバーをそのまま宗教化したものだ。

上掲音源リンクでは聴けないのだが、この「プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド/ユーヴ・ガット・ア・フレンド」演唱に入る前に、ジェイムズ・クリーヴランド師が次の曲の構成と意味合いを語っている部分がある 〜 二つの曲を持ってきました、一つはポップ、一つはゴスペルで、それら二つを一つに合体させたのです、あなたには友が必要でしょう、神は「私の名を呼びなさい、そうすればあなたのところへ行きますから」と述べておられるのです 〜 と語っているのだ。

その「I’ll be there」をジェイムズ・クリーヴランド師が言い終わったら、アリーサがジェイムズ・クリーヴランド師の弾くピアノ伴奏で歌いはじめるのが上掲 YouTube 音源だ。その語りはその前の曲「ハウ・アイ・ガット・オーヴァー」の末尾部分になっているのでトラックが切れているわけだが、どなただか知らないがアップロードした方には本当はその語り部分から入れてほしかった。

ところでその「ハウ・アイ・ガット・オーヴァー」。ゴスペル歌手クラーラ・ワードの書いた有名ゴスペル・ソングだよね。クラーラ自身のヴァージョンはこれ。
だがこの曲はマヘリア・ジャクスンのヴァージョンの方がはるかに有名だろうし、出来もいい。何種類もあるけれど、この1963年のワシントン大行進と結合したものも意義深い。
ただしこれは録音状態も悪いし、マヘリアの歌の出来としても次の1951年のアポロ・レーベル録音ヴァージョンの方がずっといい。
アルバム『アメイジング・グレイス』で聴けるアリーサの「ハウ・アイ・ガット・オーヴァー」は、やはりど迫力のマス・クワイアを従えて、手練のリズム・セクションが猛烈にグルーヴしているものだ。それにしてもこの盛り上がり方というか高揚感はものすごいものだよなあ。僕はキリスト教信者ではないけれど、こんな音楽を一度でいいから現場で生体験したいものだ。
アルバム『アメイジング・グレイス』では、三曲目の「オン・アワ・ウェイ」も素晴らしい。まだ主役のアリーサは登場前で、歌っているのはジェイムズ・クリーヴランド師の先導するサザン・カリフォルニア・コミュニティ・クワイア。オルガンはケン・ラパーなんだろう。3:09 あたりから。
このリズムは、アメリカ黒人音楽を聴き慣れない方には三拍子に聴こえるかもしれないが、そうではなく、やはり(おそらくアフリカ由来の)6/8拍子なんだよね。女性マス・クワイアのグワッ、グワッと迫り来るそのスタイルといい、やっぱりこういうのが黒人音楽の粋だよなぁと感動する。

同じ曲を翌日の1月14日金曜日公演でもやっていて(アルバム二枚目)、そちらにはアリーサも入っている。といってもコーラス・ワークの一員に徹していて判別できないが、是非聴いてみてほしい。

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