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2017/03/27

『アローン・トゥゲザー』はスワンプ名盤?

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特にこれといった興味もないデイヴ・メイスンという UK ロッカーだけど、『アローン・トゥゲザー』一枚だけを持っているのは、もちろんこれがスワンプ・ロック名盤だと言われているからだ。そういう文章をどこかで読んだ、ただそれだけの理由で買った。それくらい英国勢のやるスワンプ・ロックに弱いんだよね、僕は。

 

 

ところが買って聴いてみた『アローン・トゥゲザー』に僕はさほどの LA スワンプ臭を感じず、ふ〜ん、悪くないけれど、なんでもない普通のロックじゃんと思って、その後はそのまま部屋のどこかに置いたまま放ったらかしにしてあった。買ったのは1990年代前半頃のことだったはず。このあいだ引っ張り出してきたその CD はパッケージのどこにもリリース年が記載されていない米 MCA 盤。

 

 

たぶん1990年前半に買ったであろうデイヴ・メイスンの『アローン・トゥゲザー』米 MCA 盤は、1970年のこのアルバムの初 CD 化だったかもしれない(がよく知らない)。その後何回もリイシューされ、紙ジャケットでも出ているようだけど、書いたように大して面白くないありきたりのロック・アルバムだと思い込んでいたので、興味も持てなかった。

 

 

どういう風の吹き回しかちょっと聴き直してみようと思って、『アローン・トゥゲザー』を探し出してどんなものかな?とかけてみたのだ。すると、そんなに強いスワンプ臭はやはり感じないものの、かなりいいアルバムじゃないかと見直しちゃったんだなあ。LA スワンプよりも強く感じるのは、英トラッド風味と米カントリー色と、そしてサイケデリック・テイストだ。

 

 

デイヴ・メイスンの『アローン・トゥゲザー』。僕の持つ米 MCA 盤には、デイヴ・メイスン、『アローン・トゥゲザー』、そして曲目しか記載がないというなんとも愛想のないもので、あとは紙を開くと一行だけ「Produced by Tommy LiPuma and  Dave Mason」とだけしか書かれていない。録音年月日、録音場所、パーソネルなどは全く記載がないので、ネットで調べるしかなかった。

 

 

それにしてもこのアルバム、つい最近亡くなったばかりのトミー・ラプーマのプロデュースだったのか。オリジナル・リリースがブルー・サムというレーベルであることも気付いていなかった。ラプーマの名前が忘れられないのは、僕の場合もちろんマイルズ・デイヴィスが1986年にワーナーに移籍した際にラプーマが面倒を見てくれて、アルバムのプロデュースもやってくれたからだ。それで僕は初めてこの辣腕音楽プロデューサーの名前を知ったのだが、このことは今日はどうでもいい。

 

 

デイヴ・メイスンの『アローン・トゥゲザー』。ネットで検索すると、やはり米ロス・アンジェルスのハリウッドで、それも LA スワンプ勢をたくさん起用して制作されている。親玉格のリオン・ラッセルやボニー・ブラムレットもいるし、カール・レイドル&ジム・ゴードンのリズム・セクションも、あるいはバック・コーラスにリタ・クーリッジもいる。でも誰がどの曲で演奏しているかの詳細は全く不明で、音を聴いて判断する自信が僕には全くない。

 

 

だから『アローン・トゥゲザー』を聴き直して、どの曲のどこの演奏や歌がいいと指摘しにくいのだが、とにかくそんなに濃厚な LA スワンプ・ロックじゃないよなあ、これは。僕が LA スワンプ勢を起用した UK ロックと言われてまず思い浮かべるのは、アメリカ南部風の湿った粘っこいソウルフルなフィーリングだけど、『アローン・トゥゲザー』にはそれが薄い。

 

 

かろうじて三曲目の「ウェイティン・オン・ユー」 だけが、まあ典型的なスワンプ・ロックだよなと感じるくらいだ。バック・コーラスで入る女性陣の歌声がスワンピーだし、エレキ・ギターがブギ・ウギ・パターンのリフを弾いて(誰?)、さらにフェンダー・ローズ・ピアノの弾き方がホンキー・トンク風(これも誰だ?)で、これはいかにもそれらしいスワンプ・ロック。

 

 

 

他は一曲目の「オンリー・ユー・ノウ・アンド・アイ・ノウ」もちょっぴりスワンピーなのかなあ。でもスワンプ・ロックって、僕にとってはもっとこう湿った粘っこいノリの音楽であって、この一曲目はカラリと爽快にかっ飛ばすロックンロールで、カッコイイのは文句なしに素晴らしいけれど、別に LA スワンプの匂いは強くない。この曲で出だしから左チャンネルで聴こえるアクースティク・ギターはやっぱりメイスン?じゃあ右チャンネルでソロを弾くエレキ・ギタリストは誰?僕の耳と知識では誰のスタイルなんだか判別できない。カッコイイから知りたいよなあ。

 

 

 

まあでも本当にこの二曲だけだね、僕がデイヴ・メイスンの『アローン・トゥゲザー』で LA スワンプの香りを(ちょぴり)感じるのは。他の六曲では全くと言っていいほど感じられない。かつてはそれが物足りない、つまらないと思っていたんだけど、聴き返してみて印象が完全に逆転した。むしろそれら六曲の方がいいね。

 

 

二曲目の「キャント・ストップ・ワリイング、キャント・ストップ・ラヴィング」はアメリカ産のカントリー・ロックだ。英国要素をあえて探せばフォークっぽいような部分があるかもしれないが、それよりも僕はまるで初期のイーグルズそっくりじゃないかと思うのだ。もちろんデイヴ・メイスンのこれの方が時期的には先だ。いいね、こういうしっとりとしたカントリー・バラード小品が最近は胸に沁みる。

 

 

 

問題は四曲目の「シュドゥント・ハヴ・トゥック・モア・ザン・ユー・ゲイヴ」だ。いやまあ問題作ってことはないけれど、『アローン・トゥゲザー』のなかで、いまの僕にはこれが一番面白い曲なんじゃないかと聴こえる。これは英トラッドとサイケデリック・サウンドとの合体なんだよね。

 

 

 

お聴きなって分るように、まず冒頭で弾きはじめる弦楽器(ギターかな?違うような?)がバロック音楽風な旋律を奏でているように聴こえるが、直接的にはバロックではなく、やはり英トラッド由来のテイストなんだよね。それでも英国トラッドとバロック音楽は深い関係があるからなあ。ジェスロ・タルのことを思い出してみて。

 

 

さらにこの「シュドゥント・ハヴ・トゥック・モア・ザン・ユー・ゲイヴ」では、途中からワウを効かせたエレキ・ギターが入るじゃないか。その部分は完全に1960年代後半風のサイケデリック・サウンドだ。曲の創りもややラーガ・ロック風のものだしね。ホント誰が弾いてんの、あのサイケなエレキ・ギターは?メイスン自身?他の誰か?メイスンも元々そんな人みたいだけど?どなたかご存知の方、どうか教えてください。

 

 

ラーガ・ロック風のサイケデリックと LA スワンプは、普通は相容れないものだと認識されているだろう。英国勢ならエリック・クラプトンもジョージ・ハリスンも、そんな1960年代半ば〜後半のロック傾向に嫌気がさして、ではなかったかもしれないが、ディレイニー&ボニーの英国ツアーをきっかけに(それにはデイヴ・メイスンも参加している)少なくともそこから脱却はして、LA スワンプ風のロックへと向かったわけだからさ。

 

 

サイケ・サウンドが長年イマイチだった僕にとっては、ブルーズやリズム&ブルーズや黒人ゴスペルなどなどが、白人ロック音楽のなかに渾然一体となって溶け込んでいて、強い粘り気のあるグルーヴ感を出していながらも、どこかアメリカの南部町を思わせる素朴な土臭さも感じるスワンプ・ロックが大好きだった。

 

 

だからスワンプ名盤に位置付けられるデイヴ・メイスンの『アローン・トゥゲザー』を聴いても、そんなホンキー・トンクなフィーリングがほぼ全くと言っていほど感じられないので、どこが面白いの、これ?となってしまっていたのだ。でもそれは僕の耳がヘボなだけだった。最近聴き返し、スワンプ・ロックではないが、英トラッド・フォークなサウンドが、ちょっぴりのサイケ風味と合体しているのなんか、最高に楽しいじゃないかと大いにこのアルバムを見直した。スワンプ・ロック名盤としてではなく。

 

 

六曲目の「サッド・アンド・ディープ・アズ・ユー」なんて、これも美しいバラードだよなあ。アクースティック・ピアノとアクースティック・ギターだけの伴奏で、メイスンが実に淡々と歌う。メロディの流れも哀感があっていい。曲の美しさという点では、『アローン・トゥゲザー』のなかでも屈指の一曲、ハイライトじゃないかなあ。

 

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