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2017/04/11

ウェザー・リポートの4ビート

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速くて細かく入り組んだ4ビートを演奏するウェザー・リポート。このことについてまとまった文章を見かけない。専門家のどなたも書いてくださらないので、仕方なく素人の僕が書くことにした。全く自信がないんだが、誰も書かないんだから、自分が読みたいものは自分で書くしかない(僕の動機はだいたいいつもこれ)。はぁ〜、ホント自信はありません。

 

 

きっと事実の指摘を列挙するだけで批評性のない文章が仕上がるだろうな。普段からいつもそうだから気にしないで読んでほしい。意外に思われるかそうでもないのか分らないが、ウェザー・リポートは結成当初から4ビート・ナンバーをやっている。8ビートと電気(電子)楽器を使ったジャズ・ロック・フュージョンのバンドだと普通はみなされているに違いないのだが。

 

 

リアルタイム・リリースでそれが表面化したのは1978年の『ミスター・ゴーン』からだ。間違いなく全員が失敗作、たとえ熱心なウェザー・リポート・ファンでも過渡期的アルバムだと考えている一枚で、僕もやっぱりそうだよなと思ってはいるのだが、このアルバムの全収録曲八つのうち、三曲4/4拍子のものがある。同じく三曲あるのが1980年の『ナイト・パッセージ』。この二作が4ビート・ジャズという視点から見た時、最も面白いウェザー・リポートだ。

 

 

ただ、リアルタイム・リリースでも1977年の『ヘヴィ・ウェザー』B 面ラストに「ハヴォナ」があるじゃないか。これ、4/4拍子だよね。作曲者はジャコ・パストリアスで、演奏もジャコのエレベが主導権を握って展開している。それはそうとこの「ハヴォナ」は、このバンドにおけるジャコのベース演奏最高作じゃないだろうか?「ティーン・タウン」より凄いぞ。

 

 

 

この「ハヴォナ」でドラムスを担当しているのがアレックス・アクーニャ。やや複雑で細かい叩き方をしているよね。従来からの4ビート・ジャズの定型ドラミングに基本的には則っているものの、特にスネアの使い方はそこから逸脱し入り組んでいる。バスドラのペダルを踏むタイミングも従来的ではない。ジョー・ザヴィヌルはもちろん電子楽器であるシンセサイザーを大胆に使っている。曲全体のアレンジもたぶんザヴィヌルだろう。

 

 

ザヴィヌルのアレンジって相当細かい部分まであらかじめ譜面化してあって、全ての楽器のほぼ全ての音を一つ一つ決めてあったみたいだ。ウェイン・ショーターの吹くサックスやジャコらの弾くベース・ラインが完全に譜面通りであるのはもちろん、ドラマーにもシンバル、スネア、ハイハット、バスドラなどを入れるタイミングまで全部キッチリ譜面で指定していたようで、ザヴィヌル以外のメンバーはかなり窮屈だったかもしれないなあ。

 

 

しかしその結果できあがった作品を聴くとスポンティニアスな演奏に聴こえるので、やはりコンポーザーとしてのザヴィヌルの能力は高かった。クラシック界の作曲家や、ジャズ界で探せばデューク・エリントンが、ザヴィヌルのとっていた手法と結果をもっと早くから実現していたけれどね。だからウェザー・リポートの、上で音源を貼った「ハヴォナ」みたいな4ビート演奏も、ザヴィヌルの意図をそのまま実行したものに違いない。

 

 

ただ録音当時未発表だったものなら、もっと早く、最初に書いたように結成当初から、ウェザー・リポートには4ビート・ナンバーが一つだけある。それがザヴィヌルの書いた曲では最も有名なものの一つ「ディレクションズ」だ。マイルズ・デイヴィスのために1968年に書いて提供し、同年暮れに一緒にスタジオ録音し、またマイルズはその後1969年から71年まで全てのライヴ・ステージのオープニング・ナンバーにしていたので、かなり知られている。

 

 

ウェザー・リポートの「ディレクションズ」というと、間違いなく全員が1972年の『ライヴ・イン・トーキョー』を言うだろう。この72年1月13日は渋谷でのライヴ演奏から編集されて、A 面がスタジオ録音であるアルバム『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』の B 面になっている。『ライヴ・イン・トーキョー』では一枚目 B 面いっぱいを占めるメドレーのラストだが、『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』では、「ディレクションズ」は B 面ラストの単独曲になっている。

 

 

だいたいこの時に限らず、ウェザー・リポートは随分長いあいだ「ディレクションズ」をライヴでの定番ラスト・ナンバーにしていたので、公式ライヴ盤での収録も、上記以外に二種類ある。しかしこの曲、このバンドではライヴ・ヴァージョンしか存在しないんだろうと僕は長年思っていた。それが2009年リリースの CD 三枚+DVD 一枚のベスト盤『フォーキャスト:トゥモロウ』に、未発表だったスタジオ録音が収録されたのだ。

 

 

『フォーキャスト:トゥモロウ』は、ウェザー・リポートの既発曲のベスト盤というだけでなく、そんな未発表曲もあるし、そもそもオープニングの二曲がマイルズ・ヴァージョンの「イン・ア・サイレント・ウェイ」とウェイン・ショーターの「スーパー・ノーヴァ」だしで、ちょっと侮れないんだよね。これに収録のスタジオ版「ディレクションズ」は1971年11月10日録音。

 

 

 

ここでは4ビートのラニング・ベースをミロスラフ・ヴィトウスが弾き、ドラマーのエリック・グラヴァットは4/4拍子の全拍で均等なハイハットを踏み、と同時にそれ以外のスネアやバスドラやシンバルで忙しなくオカズを入れまくるという、まるでトニー・ウィリアムズみたいなスタイルのドラミング。だからまだまだそんなに斬新な4ビート演奏ではない。

 

 

これが変化するようになってくるのが、上述1977年「ハヴォナ」を経ての78年『ミスター・ゴーン』から。この一般には失敗作・過渡期的作品とされているアルバムにある4ビート・ナンバーは、全部 B 面の「ミスター・ゴーン」「パンク・ジャズ」「ピノキオ」の三つ。最後のものには曲名だけでオッ!となるジャズ・ファンが多いはず。それもそのはず、マイルズ・デイヴィスの1968年作『ネフェルティティ』の B 面ラストだったウェイン・ショーター・ナンバーだ。

 

 

ちょっとその二つの「ピノキオ」をご紹介しよう。録音時期の早いマイルズ・ヴァージョンから。

 

 

ウェザー・リポート→ https://www.youtube.com/watch?v=_2OFKzlZDJo

 

 

マイルズのはごく普通のポスト・バップ的な4ビート・ジャズで、各人のソロも普通に出てくる。ところがウェザー・リポートのヴァージョンにはソロといえるソロがない。冒頭でフェイド・インしながらザヴィヌルがピアノでソロを弾いているがそれだけで、テーマ演奏になってからはそれをリピートするだけ。その背後でピーター・アースキンが、かなり細かく入り組んだドラミングを聴かせるっていう、つまりマイルズの、この「ピノキオ」が収録されたアルバム『ネフェルティティ』タイトル・チューンのやり方なんだよね。

 

 

「ミスター・ゴーン」も、ミドル・テンポではあるが変態的4ビート。ジャコが書き自身のベースが躍動する「パンク・ジャズ」も4/4拍子だがかなりヘンだ。しかもこれら二曲でのドラムスはトニー・ウィリアムズなんだよね。アルバム『ミスター・ゴーン』はドラマーの交代期に録音されたので、曲によってトニーだったりアースキンだったりスティーヴ・ガッドだったりする。

 

 

「ミスター・ゴーン」https://www.youtube.com/watch?v=-u_KCmDpfMk

 

 

 

トニーのドラミングが、元々1963年にマイルズのバンドの正式メンバーになった頃からそうだけど、やはりかなり細かく入り組んで複雑な、いい意味での変態的4ビートを叩き出している。ってことはトニーを『ミスター・ゴーン』でザヴィヌルが起用して、マイルズ・バンド時代の曲「ピノキオ」(のドラムスはアースキンだが)もやって、全て4/4拍子のリズム・アレンジにしたのには、やはりこの音楽的独裁者の確たる意図があったよなあ。

 

 

上で貼った「ミスター・ゴーン」のような、この時のそれ自体はまださほど面白くないかもしれない4ビート演奏が、1979年のライヴ盤『8:30』二枚目 B 面のスタジオ録音サイドにある「サイトシーイング」を経て、80年『ナイト・パッセージ』A 面トップのアルバム・タイトル曲となって結実する。そっちは最高に素晴らしいと、昔から評価が高い(かった?)ものだ。

 

 

 

これ、しかしアースキンのドラム・セット各パートの音がヘンだよねえ。どうしてこんな音色なんだろう?録音時のことなのか録音後の処理なのか分らないけれど、とにかく生音のハイ・ファイ・サウンドではない。かなり加工してあって、シンバルもスネアもクシャーンっていう妙な音だ。これもザヴィヌルの考えなんだろうなあ。

 

 

アルバム『ナイト・パッセージ』では B 面一曲目に「ロッキン・イン・リズム」がある。言わずと知れたデューク・エリントン・ナンバー。自分とバンド・メンバーの書いた曲以外をやることは滅多になかったザヴィヌルのウェザー・リポートだけど、これはやはり偉大すぎる先達への敬意なのか?挑戦なのか?

 

 

 

お聴きになって分るように、これは4/4拍子ではない。エリントンがなんどもやったそのままの8ビート・シャッフルにザヴィヌルもアレンジしている。しかしジャコは一小節に四つの均等な音を弾くというラニング・ベース・スタイルだ。つまり8ビートと4ビート・スタイルの混在。こういった8と4の混淆リズムは、1930年代からエリントンが得意とするところではあった。

 

 

上掲ウェザー・リポートの「ロッキン・イン・リズム」中盤部では、ザヴィヌルがデジタル・アクースティク・ピアノでエリントン・スタイルのパスティーシュをやるあたりもちょっと面白いが、まあしかしその部分も含め、演奏全体それ自体はどうってことないものだ。少なくともエリントン楽団のやる、例えばこんな「ロッキン・イン・リズム」とは比較にもならないだろう。

 

 

 

ウェザー・リポートのアルバム『ナイト・パッセージ』でもっと面白い4ビート・ナンバーは、「ロッキン・イン・リズム」に続く B 面二曲目の「ファスト・シティ」だろう。曲題通りの超急速調で、これ、難曲だよなあ。特にテーマ部分と中間部の合奏部分でタイミングを合わせるのが難しそうだ。

 

 

 

ピーター・アースキンが、やはり細かくて複雑な、21世紀のいま聴いても同時代感がある(?)ような入り組んだ4ビート・ドラミングを展開している。この「ファスト・シティ」が、ウェザー・リポート時代のアースキンのベスト演奏にして、このバンドの4ビート・ナンバーでは一番面白く、2017年でも訴求力が、ひょっとしたらあるかも?

 

 

その後もウェザー・リポートは4ビート・ナンバーをいくつもやっている。『ナイト・パッセージ』の次作『ウェザー・リポート(1982)』の A 面ラストには、三部構成の大曲「N.Y.C.」があって、この2パート目からはアースキンはブラシで繊細な4ビートを演奏するが、はっきり言って曲自体が面白くないから、音源だけ貼って話はしない。

 

 

 

その後リズム・セクションがヴィクター・ベイリーとオマー・ハキムに交代してのちは、特に1984年の『ドミノ・セオリー』、85年の『スポーティン・ライフ』のそれぞれアルバム・ラストで、かなりテンポの速い複雑な4ビートを、それもあらかじめプログラミングしてあるドラム・マシン演奏と、生身のドラマーであるオマー・ハキムを競わせてやらせるという過酷な仕打ちをザヴィヌルは強いている。ザヴィヌルは、たぶんテクノ・ミュージックから思い付いたんじゃないだろうか。

 

 

「ドミノ・セオリー」https://www.youtube.com/watch?v=A-2jZfcmPBU

 

「アイス・ピック・ウィリー」https://www.youtube.com/watch?v=htrXTKAgKDE

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