Fun! Fun! Fun!
ニオ・スウィングか、ジャイヴと混じったジャンプ・ミュージックか、初期のリズム&ブルーズか、とにかくそんな1940年代後半〜50年代初頭のジャズ(だと思うんだけど)系音楽ってホント楽しいよね。いろんなアンソロジーがあるけれど、僕がよく聴くものの一つが『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』という二枚組。1996年のキャピトル盤だ。
上掲ジャケット画像でお分りのように、キャピトルが1990年代後半にたくさんリリースしていた例のシリーズの一つ。これにシリーズ名のようなものはないみたいだけど、ジャケットやブックレット内のイラストが全部同じスタイルなので一目瞭然だ。いくつ出ていたのか、全部は買わなかったので僕は分らないのだが、全部買っておくべきだったといまでは後悔している。
『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』の編纂者は、やはりこれまたビリー・ヴェラ。だけどこんなアルバム・タイトルにしているにもかかわらず、曲「ジャンピン・ライク・マッド」は収録されていない。それはスキーツ・トルバート&ヒズ・ジェントルメン・オヴ・スウィングによる1940年10月2月録音。リラクシングでなかなかいいんだよね。そこからもらったアルバム名じゃないかと思うんだけどなあ。デッカ原盤だから収録できないのではあるが。
スキーツ・トルバートのバンドなんて、いまでは誰も憶えていないのかもしれない。楽団といってもクラリネット&サックスのリード楽器を二・三本という中人数編成でやっていた人。ナット・キング・コールの「ヒット・ザット・ジャイヴ」のオリジナルがスキーツ・トルバートだし、ルイ・ジョーダンにも曲を提供したものがあるしで、ジャイヴっぽいジャンプ・ミュージックをやっていた人だけど、知る人ぞ知るという存在でしかない。
ルイ・ジョーダンの名前を出したが、今日の本題であるアンソロジー『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』に収録されている51曲(複数曲が収録されている音楽家が結構いるので、人数だとたぶん40人くらいかな)は、要するに<ルイ・ジョーダンの子供たち>だと言える。英単語一つで表現すれば ”fun” 。これに尽きる。CD 二枚組で計二時間以上、楽しくない時間が一瞬たりともないというのが、この種の音楽の唯一にして最高の存在理由だ。
『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』の収録曲は1942〜56年の録音で、当時は言うまでもなく SP 盤で発売され、それがジューク・ボックスに入り、というかそもそもジューク・ボックス用の録音で、客もそれが置いてある場所でただジッと座って聴くのではなく、合わせて踊っていたんだろう。実際、収録曲は全てかなりダンサブルだ。
このアンソロジーで僕が初めてこの曲とそれをやっている音楽家の存在を知り、いまでもこの曲が『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』のなかで一番好きだというのが、一枚目二曲目の「サフロニア・B」。やっているのはカルヴィン・ボウズで、1950年のアラジン録音。
どうしてこんなに楽しいんだろう!?カルヴィン・ボウズはいちおうはジャズ・トランぺッターだけど、この「サフロニア・B」では、お聴きの通りまずヴォーカルで出て、間奏のソロでテナー・サックスの次にあるトランペットがカルヴィンなんじゃないかと思う。しかしトランペットの腕前云々よりも、曲の楽しさだよなあ。メロディも歌詞もコードの変わり方も面白い。僕が特に好きなのが「Eyes a muggin' shoot the liquor to me John boy」と歌う部分での旋律の動きだ。愉快だよね。
しかもお分りのように、この「サフロニア・B」はルイ・ジョーダン直系だ。まさにルイの息子、というには年齢が近すぎるので弟か、とにかくルイのジャイブ・ジャンプ・ナンバーに似ているというかそのまんまじゃん。特にいろんな意味で「カルドニア」に似ている。ルイの「カルドニア」は1945年のレコードだから、カルヴィンの1950年録音はもちろん下敷きにしている。
ルイ・ジョーダンに似ているなんて言い出したら、アンソロジー『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』はだいたいどれもそうだからキリがない話ではある。ルイの影響下にないものだろうと思えるのは、一枚目四曲目のレスター・ヤング「ジャンピン・ウィズ・シンフォニー・シッド」だけじゃないかなあ(でも曲自体は…)。あとはルイ本人も1954年のアラジン録音が二曲収録されている。
このアンソロジーで、なかでも最高に笑えるのがラロ・ゲレーロの二曲。そのうちの一つ、一枚目18曲目の曲題はなんと「マリファナ・ブギ」だ。わっはっは。ラロもスペイン語で歌い、しかもなんだか僕には理解できないスラングみたいなものを使っているという話なんだけど、聴いてスペイン語のスラングを理解する能力はゼロの僕なので。曲が楽しいというだけで充分。
『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』では、このラロ・ゲレーロに続く19曲目アイク・カーペンター楽団の「パチューコ・ホップ」が、大編成バンドでやる最高のジャンパーでダンサー。迫力満点。1953年録音で、しかもホンク・テナーのブロウがあるので、ライオネル・ハンプトン楽団「フライング・ホーム」の系列なんだね。
最高じゃないかこういうの。どうしてジャズ・ファンはこういうの聴かないんだ?不思議だね。ホンク・テナーといえば、『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』にはビッグ・ジェイ・マクニーリーとジーン・アモンズが二曲ずつ収録されている、そのうち一つは超有名(だと思っているのはジャンプ〜 R&B 好きだけ?) な「インセクト・ボール」だ。
ビッグ・ジョー・ターナーみたいなブルーズ・シャウターや、T ・ボーン・ウォーカーのような(ピュアな?)ブルーズ・マンも収録されている。T ・ボーンの方は1948年キャピトル録音の「ハイピン・ウィミン・ブルーズ」というブギ・ウギ・ベースのジャンプ・ブルーズ。後半のギター・ソロは既にお馴染の弾き方だが、洗練度がまださほどでもなく、ワイルドな雰囲気もある。
ジャイヴィーなジャンプ・ブルーズ(系ジャズ)はビ・バップへの予兆でもあったという、以前も一度書いた意見は、『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』に一曲収録されているものでも証明できる。 一枚目八曲目の「ウー・パ・パ・ダ」を歌うバブズ・ゴンサレスがそれ。バブズ・スリー・ビップス・アンド・ア・バップ名義になっている1947年録音。これはジャズ・ファンのあいだでも有名なもののはず。バップ・ヴォーカルの代表曲で、ディジー・ガレスピーもやったからだ。
アンソロジー『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』に収録されている音楽家で、僕が最も愛好し、しかもアメリカ音楽史的に最も重要だと思うのが、クーティー・ウィリアムズ楽団。全部で四曲あって、全てもはやリズム&ブルーズと呼ぶべきテイストを醸し出している。クーティーの楽団の1940年代後期録音は全部そうだけどね。
例えば一枚目七曲目にある「スティンギー・ブルーズ」。1948年キャピトル録音で、歌うのはボブ・メリル。この深いノリ。このノリこそアメリカ黒人音楽がジャズからリズム&ブルーズへと変化していった端境期にたくさんあったジャンプ・ミュージックのものなんだよね。
一枚目20曲目にある「ジュース・ヘッド・ボーイ」もいいなあ。ヴォーカルはエディ・クリーンヘッド・ヴィンスンの1946年録音。ヴォーカルに絡むボスのワー・ワー・ミュート・トランペットも、ブラス群の迫力満点のアンサンブルも猥雑で聴き物だ。
二枚目19曲目の1948年録音「アイ・メイ・ビー・イージー、バット・アイム・ノー・フール」では、リズムの感じはやや正統派スウィング・ジャズっぽいかなと感じないでもないが、でもやはりノリというかリズムのタメが深い。これまた歌うボブ・メリルのそれは、もはや R&B ヴォーカルと呼んで差し支えないだろう。
『ジャンピン・ライク・マッド:クール・キャッツ&ヒップ・チックス・ナン・ストップ・ダンシン』の二枚目25曲目のルイ・プリマ「5・マンス、2・ウィークス、2・デイズ」は1956年録音。これまた当然のようにルイ・ジョーダンの蒔いた種が花開いたものだが、アルバム・ラストのこれを聴くと、(ニオ・)スウィング〜ジャンプ〜リズム&ブルーズの区別なんか無意味だということを痛感する。
クーティー・ウィリアムズ楽団の1940年代後半ジャンプ録音と、ルイ・プリマのやはりジャンプ系録音のことは、それぞれ別個の記事でまとめて書いてみるつもり。僕も大好きだし、このあたりのアメリカ黒人音楽愛好家はみんなこういうの好きなんだよね。だからさ。
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