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2017/04/16

エリントン楽団で歌うアイヴィ・アンダスン

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女性だろうと男性だろうと、デューク・エリントンが専属的に雇った歌手のなかで最も魅力的な存在だったのがアイヴィ・アンダスン。アイヴィは1931年2月にエリントン楽団に正式加入し、その後42年8月まで在籍。スタジオ録音はもちろん、ライヴ・ツアーにも同行し歌った。この31〜42年という時期のエリントン楽団の録音のメインはコロンビア系レーベル(ブランズウィクなど)で、前からしつこすぎるほど頻繁に繰返しているが、本家コロンビアが完全集として CD リイシューしなかったので、Mosaic がリリースした11枚組で辿る以外ないのだ。

モザイクはかなりしっかりとしたリイシュー・レーベルなのでそれで充分なのだが、まあ11枚組はサイズもデカイし、限定生産・発売だったしで、それもあってひょっとしていまでは入手が簡単ではないのかな?でも心配することはない。これまたいまや廃盤で中古しかないみたいなんだけど、コロンビア系レーベルへのエリントン楽団の録音でアイヴィ・アンダスンがヴォーカルをとった曲だけを抜き出した CD 二枚組アンソロジーがある。

それが『デューク・エリントン・プリゼンツ・アイヴィ・アンダスン』で、これはもともと1973年に LP 二枚組で米コロンビアが発売したものだった。日本盤 LP があったかどうかは記憶がないのだが、CD リイシューなら日本盤も出ている。SME が2000年に出した『デューク・エリントン・プレゼンツ・アイヴィー・アンダーソン』。これを僕は即買いして、現在まで愛聴している。

エリントン楽団で歌うアイヴィのヴォーカルそのものは、むかしからファンのあいだでは愛聴されてきた。アナログ・レコードでも1930年代のエリントン楽団コロンビア系録音セレクションがあって、最も有名な「スウィングしなけりゃ意味ないね」なんかも入っていた。またヴィクター系録音のエリントン楽団ならむかしからレコードでも完全集があって(コロンビアとのなんたる違い!)、それには1940年代初頭の同楽団でアイヴィが歌う「ソー・ファー、ソー・グッド」「ミー・アンド・ユー」「アイ・ガット・イット・バッド」など、当然全てあった。

いま「アイ・ガット・イット・バッド」の名前を出したけれど、この1941年6月26日録音の色っぽいバラードこそが、エリントン楽団でのものといわずアイヴィ・アンダスンの全録音で最も魅力的なものだと僕は思うのだ。あたかもコロンビア系録音アンソロジー『デューク・エリントン・プリゼンツ・アイヴィ・アンダスン』の話をするかのような格好をしながら、まずはこのヴィクター録音の一曲について書いておこう。

1941年6月26日に、エリントンが曲を、ポール・フランシス・ウェブスターが歌詞を書き、エリントンとビリー・ストレイホーンが共同アレンジした「アイ・ガット・イット・バッド(アンド・ザット・エイント・ノー・グッド)」を、楽団は2テイク録音しどちらも現存。ヴィクター系全集24枚組でなら両方聴ける。がしかしじっくり聴き比べても二つのテイクの違いは非常に小さいので、1941年に SP レコードで発売されたマスター・テイク(=テイク2)だけでいいだろう。
これであれば、別にコンプリート集なんかじゃなくたって、普通の戦前のヴィクター系エリントン楽団の簡便なアンソロジーにも入っている。確認はしていないが、「アイ・ガット・イット・バッド」が収録されない同楽団のヴィクター録音アンソロジーなんて考えられないので間違いないはず。上の音源をお聴きになって分るように、なんともセクシーじゃないか、アイヴィのヴォーカルもジョニー・ホッジズのアルト・サックスも、そして楽団のアンサンブルそのものも艶っぽいことこの上ない。おかしな気分になっちゃうな。

こういった官能ソングはエリントンの得意としたところで、その多くでジョニー・ホッジズやベン・ウェブスターらがエロエロとサックスを吹いている。そういうのが僕は大好きなんだなあ。「アイ・ガット・イット・バッド」も、ヴォーカリストなしでエリントン楽団が再演する場合は、いつもホッジズのアルトをフィーチャーするショウ・ケースになっていた。

がしかし上掲の1941年初演ヴァージョンの「アイ・ガット・イット・バッド」で最もセクシーなのは、やはりアイヴィ・アンダスンのヴォーカルなんだよね。こんな声とこんな歌い方でこんな内容を目の前で歌われた日にゃあ、オジサン、そりゃもうたまりません。40年代のアメリカにタイム・トリップしたいぞ。しかもその歌のあとで、さらにその雰囲気をソックリ引き継いでジョニー・ホッジズがエロく煽る。

あまりこの曲にばかりこだわっていてもあれなので、やはりコロンビア系録音集の『デューク・エリントン・プリゼンツ・アイヴィ・アンダスン』の話をしなくちゃね。この二枚組のオープニングが「スウィングしなけりゃ意味ないね」(It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing))なのだが、この曲は、アイヴィが歌った1932年2月2日のブランズウィック録音が初演なのだ。
このリズムを聴いてほしい。まずウェルマン・ブロウドの野太いベース音に導かれ、そのベース伴奏だけでアイヴィがスキャットで入るあたりから既に背筋がゾクゾクするようなスリルを僕は感じる。クーティ・ウィリアムズのワー・ワー・ミュート・トランペットとホーン・アンサンブルに続き、普通の歌詞のある部分をアイヴィが歌いはじめると、やはりその抜群のリズム感に感心しちゃう。だいたいこの32年録音の「スウィングしなけりゃ意味ないね」のビートは尋常じゃないからね。

ジャズのメインストリーム・ビートとも呼びにくいような、まるで1970年代のファンク・ミュージックを何十年も先取りしたかのようなリズムだよなあ。ファンクというのが言い過ぎならリズム&ブルーズだ。R&B なら間違いなくこの32年録音にある。粘り気といい跳ね方といいそんな感じだよね。僕はこの32年版「スウィングしなけりゃ意味ないね」を、なにかをしながら、例えばリズミカルにキーボードをタイピングしながら聴くことができないんだよね。こっちの体内生理リズムを撹乱されてしまうからだ。

そんなに、聴き手の体内リズムを掻き乱すほどに、強靭で粘っこいビート感を持つ「スウィングしなけりゃ意味ないね」で、アイヴィ・アンダスンはエリントン楽団の奏でるアンサンブルに一歩も引けを取らず、自分の喉一本で堂々と渡り合っているばかりか、迫力とスウィング感を増す役目を果たし、曲の魅力を拡大している。すごいことだよなあ。

『デューク・エリントン・プリゼンツ・アイヴィ・アンダスン』はこれが一曲目であるせいで、聴く人はみんなこれを聴いただけでノックアウトされてしまうはずなのだが、その後、そんな濃厚なサウンドとリズムの曲でアイヴィがチャーミングに歌うものばかりが並んでいるもんだから、どれの話をしたらいいのか僕も困っているのだ。

しかしやはりアイヴィがエリントン楽団のコロンビア系録音で歌ったもので重要なのは、『デューク・エリントン・プリゼンツ・アイヴィ・アンダスン』の二枚目六曲目の「ローズ・オヴ・ザ・リオ・グランデ」、同14〜16曲目の「ソリチュード」「ストーミー・ウェザー」「ムード・インディゴ」だろう。

「ローズ・オヴ・ザ・リオ・グランデ」は1938年6月7日録音で、やはり2テイクあるが、そのうちファースト・テイクはスウィングというレーベルで発売されたもので、ブランズウィックはセカンド・テイクの方をレコード発売。どっちもモザイクの11枚組完全集で聴けるが、『デューク・エリントン・プリゼンツ・アイヴィ・アンダスン』にも収録されている、ブランズウィックから発売されたテイク2の方が出来がいい。
この「ローズ・オヴ・ザ・リオ・グランデ」のポップでスウィンギーな味もいいが、もっといいのは、エリントン楽団のコロンビア系録音で戦前の最後あたりに録音された「ソリチュード」「ストーミー・ウェザー」「ムード・インディゴ」のバラード三曲だ。三つとも同じ日、1940年1月14日のコロンビア(「系」ではない)録音。

「ストーミー・ウェザー」だけはエリントン云々関係なく有名曲だよね。ハロルド・アーレンが1933年に書いたこの曲を最初に歌ったのはエセル・ウォーターズで、その後ビリー・ホリデイもフランク・シナトラもダイナ・ワシントンも歌っているが、なんといってもこの曲はリナ・ホーンの代表曲だ。1943年の映画『ストーミー・ウェザー』に自ら出演し歌い人気になった。この映画は、やはりこの曲を歌ったアデレイド・ホールの伝記作品で、リナ・ホーンはその女性歌手役。
アデレイド・ホールはエリントン楽団でも歌ったものがあり、それは猥褻な、もとい、セクシーな1928年2月3日ヴィクター録音の「クリオール・ラヴ・コール」。アデレイドはフリーランスの歌手で、どこかの楽団に所属はしていなかった。エリントンもアイヴィ・アンダスンをレギュラー歌手として雇うまでは、そんなフリーランス歌手をそのつど起用していたのだった。この木管アンサンブルは女性のよがり声にしか聴こえないぞ。ラヴ・コールだもんなあ。
ちょっと脱線してしまったがいつものことだ。「ストーミー・ウェザー」を有名にしたのは、書いたようにリナ・ホーンに間違いないのだが、録音はエリントン楽団でアイヴィ・アンダスンが歌った1940年の方がちょっとだけ早い。しかも歌の出来を言うなら、アイヴィの方が上だろうなあ。
お聴きになって分るように、まずクーティ・ウィリアムズがワー・ワー・ミュートでエゲツなく猥雑にグロウルするのも最高だが、続いて出るアイヴィのヴォーカルも素晴らしく、それにオブリガートをつけるベン・ウェブスターのたゆたうようなテナー・サックスもいいじゃないか。

他の二曲「ソリチュード」「ムード・インディゴ」の話もしておこう。言うまでもなくアイヴィが歌う1940年録音は、エリントン楽団でも初演ではない。前者は1934年1月10日のヴィクター録音、後者は1930年12月10日のやはりヴィクター録音がオリジナルだ(ただし「ムード・インディゴ」は、同楽団でもこの約一ヶ月前にヴィクターに録音しているようだが発売されず、僕の持つヴィクター系録音完全集にも収録がない)。

「ムード・インディゴ」は、また自楽団名義ではなく、エリントン参加のピック・アップ・メンバーによるものであればこれより早く1930年10月14日にオーケーに録音済(だが僕はそれを持っていない、どれに入っているんだ?)。また同10月17日に、やはり七人編成でブランズウィックに「ムード・インディゴ」を録音。30年当時のブランズウィック・レーベルはデッカ系なので、僕もデッカ系録音のエリントン完全集三枚組(に附属のディスコグラフィ記載のこの「ムード・インディゴ」の録音日付は間違っている)で聴いている。

それら「ソリチュード」や各種「ムード・インディゴ」は、言うまでもなくエリントン楽団のインストルメンタル演奏だ。1940年のコロンビア録音ヴァージョンで聴けるアイヴィ・アンダスンが歌う歌詞を書いたのは、例によって当時の楽団マネイジャーだった アーヴィング・ミルズ。歌詞の中身はたいしたことないが、アイヴィの歌い方と、各人のソロと、その背後で聴こえるサウンドがチャーミングなんだよね。

「ムード・インディゴ」https://www.youtube.com/watch?v=p-xC9DEqGMY

二曲ともエリントン楽団のトレード・マーク的な印象派風アンサンブル。どっちも初演はまだビリー・ストレイホーン加入前の録音だから、エリントン自身こういった音楽的志向がもともとあったいうことではあるなあ。だがしかし上掲の1940年録音ではビリー・ストレイホーンが共同でアレンジし直しているので、一層そんな楽想が濃くなっているのがお分りいただけるはず。

ポップでブルージーな歌手アイヴィ・アンダスンが参加して歌っているせいで、エリントン楽団ファンのなかに多い西洋クラシック音楽愛好家のみなさんは、やはりこういうのはあまりお好きじゃないんだろうと思う。しかしですね、ヴォーカルを抜けば西洋印象派風なイメージは一層強くなっていると思うのだが、まあでもこのチャーミングなアイヴィのヴォーカルを無視して聴いたら面白味半減ではあるなあ。はぁ〜、むずかしい…。

この(マトリックス・ナンバー順に)「ソリチュード」「ストーミー・ウェザー」「ムード・インディゴ」をコロンビアに録音した1940年1月14日には、続いてもう一曲「ソフィスティケイティッド・レイディ」も録音している。もちろんモザイクの11枚組完全集で聴けるのだが、どうしてだかこの曲ではアイヴィが歌っていない。これまた印象派風のバラードで、しかもセクシーなニュアンスのある曲だろうと僕は思うので、アイヴィのブルージーなヴォーカルが聴けたらもっとよかったんだけどなあ。エリントンさん、どうしてアイヴィに歌わせてあげなかったんでしょうか?インストルメンタル・ヴァージョンならもっと前からあるじゃないですか。

さてさて、エリントン楽団の戦前コロンビア系録音は、この1940年1月14日がラスト・デイトになり、同40年3月6日からは、34年5月9日以来約六年ぶりにヴィクター録音を再開する。その一曲目である「ユー、ユー・ダーリン」で歌うのは男性歌手ハーブ・ジュフリーズだが、他の曲ではアイヴィ・アンダスンもたくさん楽しくポップに歌っているのだ。その最高傑作が、最初にご紹介したセクシーな「アイ・ガット・イット・バッド」だと僕は思っている。ありゃもうセクシーというか、聴いている僕はスケベ気分になってしまうから困っちゃう。

またスウィング感ということであれば、1940年3月15日録音の「ミー・アンド・ユー」が絶品だ。アイヴィ・アンダスンの歌だけでなく、クーティ・ウィリアムズ、ジョニー・ホッジズ、ローレンス・ブラウン、バーニー・ビガードの楽器ソロも文句なしにスウィンギー。ソニー・グリーアのドラミングも躍動的だ。
ジャングル・サウンドの猥雑さやド迫力という意味では、1941年6月26日録音の「チョコレイト・シェイク」がものすごい。エリントン楽団のこのサウンドとリズムの強靭さの前には脱帽するしかないが、アイヴィ・アンダスンのヴォーカルも、これ、いったいどうしたんだ?この鬼のような切迫感は?

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