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2017/04/01

アルジェリアのユダヤ人歌手たち

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第二次世界大戦後に建国されたイスラエルは周辺のアラブ諸国と激しく対立しているから、文化的にもそうなのか?とお考えになる方がひょっとしたらいらっしゃるかもしれないけれど、そんなことは全くない。その正反対で、ユダヤ人とアラブ人は実に密接な関係にある。音楽の世界においてもそうなのだ。

これはちょうど僕たちの住む日本と、隣国である韓国や北朝鮮、そして中国が、あたかも仲の悪い間柄、犬猿の仲であるかのように言う人が大勢いながらも、実は日本のなかには中国大陸や朝鮮半島から、人と一緒に流入してきた文化がたくさんあって、ああいう方々のおっしゃる「日本人らしさ」「日本人としてのアイデンティティ」なるものが、中国・朝鮮由来のものと切り離せなくなっているのと似たことかもしれない。

もし仮にああいった嫌中・嫌韓のみなさんのおっしゃるように断交したり一切全てを否定したりすれば、自分たち日本人の、そして日本という国家の存立自体が危ういものになってしまう、そもそも存在すらしなかったであろうという、この歴史的真実に早くああいった日本のみなさんは気がつくべきだ。それでもなおそういう主張を繰り広げたいのであれば、そのなかで漢字・カタカナ・ひらがなは一切使っちゃいけません。

まあ隣国同士は仲が悪くなりやすいというのは世界の歴史を見れば事実ではあるけれども。ギリシアとトルコもそのようだし、現代ならフランスとドイツもそうだよなあ。いやまあそんなことを言いたいわけではない。アラブ音楽におけるユダヤ人の果たした役割について今日は書きたいのだった。

アラブ音楽と言っても今日僕が話題にするのは北アフリカのマグレブ音楽、それもアラブ・アンダルース音楽だけ。こう書くと、ご存知の方はみなさんはは〜んそうだよねとお分りのはず。アラブ・アンダルース音楽は、現在のスペインとポルトガルにあたるイベリア半島をイスラム帝国が支配していた時代に、同地でイスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒の三者が平和的に共存し、その文化的交流のもとで誕生した音楽だもんね。これは常識だ。

日本語で、それも音楽とともに読めるものであれば、田中勝則さん入魂の CD 二枚組アンソロジー『マグレブ音楽紀行 第1集〜アラブ・アンダルース音楽歴史物語』が最も好適かもしれない。あれに附属の解説文は、本当にあれこそ入魂という言葉がよく似合う充実度で、もはやライナーノーツなんかじゃないね、あらゆる意味で。

ライナーノーツという言葉に、ネガティヴなニュアンス、あるいは少しの侮蔑的な意味合いを込めて僕が使ってしまう場合がたまにあるのは、かつて大学生時代に山ほど買って嫌というほど読んだジャズの日本盤レコード附属のそれのなかに、あまりにどうしようもなくくだらないものが、それもかなりな数あったというだけの、完全なる個人的な体験に基づいている。どうでもいいことだった。

ライス盤『マグレブ音楽紀行 第1集〜アラブ・アンダルース音楽歴史物語』は、アラブ音楽好きは絶対に買って聴いて読んだおかないといけないものだろう。その解説文のなかでも、田中さんはイベリア半島における上記のような人種混淆文化として誕生したアラブ・アンダルース音楽の歴史を説き起し、さらに(具体名を出して)アラブ音楽のアンソロジーに、もし仮にユダヤ人音楽家のものが含まれないものがあるとすれば、それは政治的判断だとしか思えないと明記している。

つまりそれほどアラブ音楽、というかアラブ・アンダルース音楽においてユダヤ人が果たした役割は大きい。CD アンソロジーでもこの事実に焦点を当てたものがたくさんあって、しかもそれらのかなりの部分をライスが日本盤でリリースしているようだ。「ようだ」というのは、僕はだいたい全て本国盤=フランス盤で持っているからで、この記事を書くにあたり調べてみて、日本盤があることに初めて気がついた。

最も充実しているのは、日本盤のタイトルなら『ユダヤ・アラブ音楽の至宝』(Trésors de la Chanson Judéo-Arabe)シリーズ だ。これは確か第七集までリリースされている。あるいは『いにしえのユダヤ・アラブ音楽』とか『ユダヤ・アラブ音楽の精粋』とか、いっぱいあるんだよね。全部一枚物 CD なので、興味のある方はどこからでもどうぞ。

それらは書いたようにオリジナルはフランス盤。フランスでマグレブ音楽をたくさんリリースしている MLP が、また最近同趣旨のアンソロジーを三枚リリースした。2012〜13年にわたり出したアルジェリア篇、チュニジア篇、モロッコ篇の三つ。『Chanteurs juifs d'Algérie - Patrimoine Musica』『Chanteurs juifs de Tunisie - Patrimoine Musical』『Chanteurs juifs du Maroc - Patrimoine Musical』。これら、僕は日本入荷とともにエル・スールでフランス盤を買ったのだが、その後やはりライスが日本盤を出しているみたい。

アマゾンで検索したら、それぞれ『アルジェリア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』『テュニジア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』『モロッコ〜ユダヤ人歌手たちの遺産』というタイトルになっている。上記第七集まである『ユダヤ・アラブ音楽の至宝』シリーズがいまや廃盤で中古しかないので、マグレブ音楽におけるユダヤ人歌手について今から興味をお持ちになった方は、速攻でこれら三枚をポチってほしい。僕が持っているのはあくまで MLP のフランス盤だ。

僕の書き方だと一度にそれら三枚を全部話題にするのは難しそうなので(だって簡潔にまとめるという真の意味での文才がないから)、今日はこのあとアルジェリア篇についてだけ少し書いて、来週、チュニジア篇とモロッコ篇について書いてみようと思う。これら三つの国、大衆音楽においてユダヤ人が果たした役割も微妙に異なっているようでもあるしね。

さて『アルジェリア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』(Chanteurs juifs d'Algérie - Patrimoine Musica)。当然ながらアルジェリアで活躍した、あるいはアルジェリア出身ながらも同地からの移民が多いフランスで活躍したユダヤ系歌手たちの歴史的録音集。一番古い録音が1910年で、最も新しいものが1965年の全16曲。

それら16曲を聴いて、あるいはアルファベット文字で記されている歌手名の綴りを見て、それだけでこれがユダヤ人歌手のものだと判断することは不可能だ。アラブ人や、そうじゃないアルジェリアで活躍するイスラム教徒や、その他の人たちの歌との違いは全くない。しかもだいたい全部ポップで耳に残る曲ばかり。本格的アラブ古典、アラブ・アンダルースの古典歌謡、オラン歌謡、シャアビなどどれも楽しく、流し聴きにしていても部屋のなかがいい雰囲気になる。がしかしあまりの大音量で流すと、ご近所さんには「戸嶋さん、なにかおかしな宗教にハマっているのかしら?」と思われるかもしれない。今日は暖かいので窓を開けているし。そんなものばかり毎日大きな音で聴いていますけれど。

『アルジェリア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』(Chanteurs juifs d'Algérie - Patrimoine Musica)収録曲は、やはり MLP 編纂盤らしく、それまで僕が聴いて知っていたものとのダブりは少ない(と思えるのは単に僕のアルジェリア音楽経験不足だろう)。がしかしこれはお馴染だぞと思えるものが二曲ある。

それは六曲目でレネット・ロラネーズが歌う「マザル・ハイ・マザル」と、12曲目サリム・ハラリの「ドール・ビハ・シシバーニ」。 後者の方はこの曲名だけでオルケルトル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB) 愛好家の僕は、アッ、あれじゃないのか?とピンと来ちゃったもんね。そう、ONB のデビュー・ライヴ・アルバム『アン・コンセール』ラストの「ドール・ビハ」と同じものだ。

それが分って ONB の『アン・コンセール』を見直すと、確かに Trad とのクレジットになっている。アレンジが ONB とユセフ・ブーケラ。確かにあのアルバム、現代ライなどと並びトラディショナル・ナンバーも多く、それを大胆に現代楽器などもたくさん使ってモダンでポップに再解釈してあるものだよね。

『アルジェリア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』(Chanteurs juifs d'Algérie - Patrimoine Musica)で僕が知っていたもう一曲、レネット・ロラネーズの「マザル・ハイ・マザル」。この歌手名はオランのレネットという意味だろうが、しかし曲はシャアビ風だ。少しオラン歌謡という趣もある1959年録音。
これをお聴きになれば、グナーワ・ディフィジオン愛好家のみなさんであれば、あれだ!とお分りのはず。あのバンドの二作目1999年の『バブ・エル・ウェド・キングストン』七曲目の「シャラ・アッラー」が同じメロディと歌詞なのだ(と言っても歌詞の意味は僕には分らず、音が同じだと思うだけ)。
グナワ・ディフュジオンの『バブ・エル・ウェド・キングストン』の方も見直してみたら、七曲目の「シャラ・アッラー」は、やはり Traditionnel とクレジットされている。このアルバムでのトラディショナル・ナンバーはこれだけで、他はアマジーグやメンバーのオリジナル楽曲だ。

レネット・ロラネーズのこの「マザル・ハイ・マザル」。YouTube で探すと何種類も上がっているので、 ヴァージョン違いをなんどか録音したのかと思い全部聴くと全部同じものだ。もちろん彼女のオリジナルではなく、リリ・ラバッシの書いた曲。そのリリ・ラバッシも『アルジェリア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』(Chanteurs juifs d'Algérie - Patrimoine Musica)に一曲収録されている。

それが三曲目の1937年録音「ムラ・エル・メシアッサ」。 しかしホントこれ、聴いてアラブとかユダヤとか無意味だよなあ。少なくとも僕にはなんの意味もなく、曲や歌い廻しでそれを区別することは全く不可能だ。37年だから、まだアルジェリアはフランスの属国だった時期。
上で書いたように1965年録音まで収録されている『アルジェリア〜ユダヤ人歌手たちの遺産』(Chanteurs juifs d'Algérie - Patrimoine Musica)。アルジェリアは1962年にフランスから独立する。実はその後、同国内におけるアラブ人ではないユダヤ人(やベルベル人など)は、居心地が悪くなったというか迫害を受けるようになったらしい。

ユダヤ人の場合、アルジェリア独立ということとは別に、ユダヤ人国家があんな場所にできてしまったので、北アフリカ地域に住んでいたユダヤ人たちも、そこイスラエルに向かったのかもしれない。それ以前から多いフランスに渡ったユダヤ人もたくさんいたはず。アルジェリア独立後、ユダヤ人が迫害されるようになったのは、あるいはイスラエル建国とその後の中東戦争のせい?関係ないの?

国家や地域の政情と音楽を含む文化事情ってこんな風にねじれている場合があって、なんとも複雑な気分だよなあ。以前も書いたが、キューバ革命が完遂して真の意味での独立を勝ち取った1959年よりも前の、北米合衆国属国時代のキューバ音楽の方が魅力的だとか、そのアメリカのカンザス・シティでも、トム・ペンダーガストの腐敗政治がはびこっていた1939年までは、ジャズとブルーズが庇護されていて賑わっていただとか、その他たくさんあるじゃないか。

アルジェリアに限らずアラブ諸国で、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒のいわく因縁のある三者が、本当は平和的に交流して、楽しく美しい音楽をまた創り出してほしいとか(『エル・グスト』という映画があったよね)、日本国内にもたくさんいる朝鮮半島出身者がいわれのない攻撃を受けることなく平和裡に暮らせるようになってほしいとか、こんなことを書く僕は単なる呑気な夢想家だってことなんだろうか?

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