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2017/04/03

マナサスとフォーリナーは別に関係ないのだが…

Pieces









現役活動中のアルバムが二つしかないスティーヴン・スティルスのバンド、マナサス。セルフ・タイトルの1972年ファースト二枚組(CDでは一枚)と73年セカンドの『ダウン・ザ・ロード』一枚と、それだけで十分じゃないかと思えるほどあれらは充実している。だけどやっぱりなあ、もうちょっと聴きたかったと思っているファンは多いだろう。

 

 

2009年にライノがそんなマナサスの新作、ではないが未発表録音集を発売したのだ。だから僕は嬉しくて即買い。タイトルは『ピーシズ』。このアルバム・タイトル通りの小品集、というかはっきり言ってボツ曲、既発曲の別テイク、未完成品、そんなのばっかりで、収録の全15曲、どれもこれも二分程度。長いのでも五分とかそのくらいのが二つあるだけ。

 

 

熱心なマナサス・ファン、スティーヴン・スティルス愛好家以外には全く面白くないであろう未発表集『ピーシズ』で、一部ネット上の記事で「マナサス3枚目のアルバムとして十分に聞ける」とあったりするのは褒めすぎというか、愛好家ならではの贔屓目なんじゃないかと僕でも思う。実際、大したものじゃないよなあ。

 

 

そんな『ピーシズ』だけど、ファンなら聴けば聴いたで結構楽しめるのも事実。ライノ・リリースのアメリカ盤には、どの曲が何年何月頃の録音で、誰が参加してなんの楽器を担当しているなど、一切記載がない。これはひょっとしたらスティーヴン・スティルス自身、記録を残していなかったということかもしれない。そうなんじゃないかと思えるフシが、アルバムを聴くとある。

 

 

そこだけが残念なんだけど、でも結構面白い部分もあるよ、マナサスの『ピーシズ』。ごく普通のスティーヴン・スティルス・ファンやロック・ファンには、たぶん一曲目の「ウィッチング・アワー」、二曲目の「シュガー・ベイブ」、六曲目の「ワード・ゲーム」が一番興味を惹くものだろう。みなさんお馴染の曲だからだ。最初のものはクリス・ヒルマンのファースト・ソロ・アルバム『スリッピン・アウェイ』に、他の二つはスティルスのセカンド・ソロ・アルバム『スティーヴン・スティルス 2』に収録されていて、昔から知られている。

 

 

クリス・ヒルマンの『スリッピン・アウェイ』は、マナサス解散後1976年のアルバムだけど、『スティーヴン・スティルス 2』はマナサス結成前の71年の作品。だから「ウィッチング・アワー」はマナサスでちょっとやってみたけれど完成できなかったので、クリス・ヒルマンが自分のソロ・アルバムにと持ってきたということなんだろう。それにしては『ピーシズ』収録のマナサス・ヴァージョンも出来がいいけれど。

 

 

 

クリス・ヒルマン『スリッピン・アウェイ』ヴァージョンはこれ。

 

 

 

ほとんど違いがないというか、ひょっとしたらマナサス・ヴァージョンの方がいいかもしれないなあ。スティーヴン・スティルスなのか他の誰かなのか、『ピーシズ』の曲順を考えたのが誰なのか分らないけれど、この「ウィッチング・アワー」をトップに持ってきたのは大正解。このアルバム収録曲では一番出来がいいもん。

 

 

「シュガー・ベイブ」「ワード・ゲーム」は、マナサス以前にスティーヴン・スティルスが完成させてアルバムに収録していた既発曲なので、マナサス・ヴァージョン(はホントいつ頃の録音だろう?)を当時リリースしなかったのは理解できる。といってもこの二曲、ライヴではマササスも演奏していて YouTube で探すといくつか上がっている。『ピーシズ』ヴァージョンの「シュガー・ベイブ」もかなりいいんだが、それは見つからない。

 

 

これら三つが普通はみんな面白いって思うものなんじゃないかなあ。僕がグッと来たのはは実はそれらじゃない。マナサスの未発表集『ピーシズ』で僕が一番好きなのは、三曲目の「ライズ」、七曲目の「タン・ソラ・イ・トリステ」、十曲目の「ハイ・アンド・ドライ」だ。これは完全に僕の個人的趣味嗜好による判断なので、みなさんは参考になさらない方がいい。

 

 

三曲目の「ライズ」がいいというのはどうしてかというと、エレキ・ギターの弾き方がまるでフォーリナーそっくりだからだ。フォーリナーなんてどうでもいいだろ?って感じかもしれないが、僕は案外好きなのだ。といってもいまでは一枚も CD を持っておらず、というか LP も CD も自分では一枚も買ったことはなく、これまたいつものようにロック好きの下の弟がレコードを買って聴いていたので、僕も拝借していたのだ。

 

 

でもたぶん『ダブル・ヴィジョン』だけだなあ、弟が買ってきて僕も借りて聴いていたフォーリナーのレコードは。ヴォーカルが誰でギターが誰かも忘れてしまったが、あの印象的なエレキ・ギター・リフだけはクッキリ鮮明に憶えている。でも自分で CD を買う気がしないのは、まあどうでもいいんだろうな、やっぱり。

 

 

『ピーシズ』収録の「ライズ」は、マナサスの二作目『ダウン・ザ・ロード』に収録されたのと同じ曲だけど、演奏スタイルが全然違う。特にテンポが前者は後者の倍速。CD附属の紙に書かれてある曲解説を読むと、前者の方がオリジナル演奏なんだそうで、マイアミ録音。ってことは『ダウン・ザ・ロード』ヴァージョンは、やり直してディープなノリのミドル・テンポにしたんだなあ。そっちはみなさんご存知だと思うので、『ピーシズ』ヴァージョンを貼っておく。
https://www.youtube.com/watch?v=lKSIhK8CI4s

 

 

聴こえるギター・スライドはジョー・ウォルシュに違いない。全く記載がないんだが、これは自信がある。『ダウン・ザ・ロード』には参加しているしね。そんでもって僕にとってこのヴァージョンの「ライズ」がフォーリナーみたいだというのは、例えばこういうの。

 

 

 

この「ハット・ブラッディッド」はフォーリナーの二作目でヒット・アルバムになった『ダブル・ヴィジョン』の A 面一曲目だった。いま調べてみたら、このエレキ・ギターはミック・ジョーンズかイアン・マクドナルドかのどっちかなんだなあ。どっちだろう?こういうエレキ・ギター・リフが当時のフォーリナーのアイデンティティだったんだよね。調子に乗って B 面一曲目だったアルバム・タイトル曲も貼っておこうっと。

 

 

 

こういうロック、僕、わりと好きだよ。まあレッド・ツェッペリンで洋楽に目覚めたようなもんだから当然ではあるけれど。フォーリナーといえば、とっくに興味もなくしていた(というか自分では一枚も買ったことないから)僕の上京後に、ある時ラジオから「アイ・ウォント・トゥ・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」 という、まるでどこかのジャズ・スタンダードみたいな曲名のバラードが流れてきて、あぁいいなあこれとは思ったものの、自分ではレコード(CD?知らん)を買わなかった。ハード・エッジなギター・バンドの印象だったからなあ。

 

 

 

そんなことはどうでもいいとして、マナサスの『ピーシズ』七曲目の「タン・ソラ・イ・トリステ」。スペイン語の曲名なのでお察しがつくように、マナサスお得意の、というかスティーヴン・スティルスお得意のサルサ・ナンバー。しかもインストルメンタル。がしかしこれを聴くと『ダウン・ザ・ロード』の「ペンザミエント」そっくり。まるでカラオケなんだよね。

 

 

 

『ダウン・ザ・ロード』ヴァージョンの「ペンザミエント」はこれ。

 

 

 

どう聴いても前者は後者のカラオケだよねえ。そう思って曲解説を読むと、やはりそう書いてある。正確には、結果的に「ペンザミエント」になった歌詞のないインストルメンタル・ジャム、だそうだ。ってことはあのカッコいいサルサ・ナンバーは、最初、歌詞なしで遊びみたいにしてやっていたものだったのか。

 

 

『ピーシズ』十曲目の「ハイ・アンド・ドライ」。これはかなりレイジーなブルーズ・ジャム。聴くとあれにそっくりなんだよね、ドク・ポーマスの「ロンリー・アヴェニュー」。いろんな人がやっている有名曲だ。オリジナルは1957年のレイ・チャールズのアトランティック録音。レイのそれをちょっとご紹介しよう。

 

 

 

このレイのレコードが発売されたあとからは、本当にいろんな音楽家がカヴァーしているので、知らない人などいないだろうというくらいの(リズム&)ブルーズ・スタンダードになっている。マナサスの『ピーシズ』収録の「ハイ・アンド・ドライ」は、こういう曲名だけど、レイの「ロンリー・アヴェニュー」であることは明白だろう。

 

 

 

かなりレイジーな雰囲気での演奏。途中から急にテンポ・アップして楽器演奏中心のジャムになる。その部分からはオーディエンスの存在が聴こえるのだが、おそらくはオーヴァー・ダビングで演奏後にくわえた擬似ライヴで、マナサスは当時ライヴ公演ではよくやっていた曲らしいのだが、そんな時の収録じゃないんだろう。そんな気がする。

 

 

アルバム『ピーシズ』では、この一番演奏時間も長い「ハイ・アンド・ドライ」をクライマックスにして、その後はカントリー・ロック路線が続く。カントリー・ロックというよりも、ほぼ完全にピュアなカントリーやブルーグラス・サウンドだ。ビル・モンローの「アンクル・ペン」だってやっている。この路線でアルバムの最後まで行くので、マナサスはやはりカントリー・ロック色が一番の本領ではあったんだろうね。

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